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Lv1の剣  作者: 豚野朗
魔法都市
74/206

キメラ(重い一撃)

 魔物はまるでごりらのように、毛むくじゃらの腕で自分の胸を叩き、ドラミングをする。

 ドドドドドと激しいドラミングが聞こえる。

 それは勝利を確信したからなのか。それともさっきのセンダイの攻撃が当たったことに対する牽制なんだろうか。


 なんにせよ、そのドラミングさえ、俺たちに威圧感を与える行動だ。

 攻撃も通じず、防御も破れない。

 そんな敵にどう対処すればいいのだろうか。

 俺がもっている物も、現状を改善する方法はない。

 魔石を投げつけたとしても、キメラは魔法を使わない。つまりフリョ・リダ戦の時のような爆発は望めないのだ。

 今回ばかりは、俺は役立たずだ。

 いや、今までもアリスに任せていたので、俺が役に立ったためしはないけれど……。


 前に立つの生徒会長を見ると、少しだけ震えているのが見えた。

 リーダーシップを発揮して指揮を執っているが、生徒会長だってしっかりしていると言ったって俺と同じ年齢の人間だ。

 突然こんな化け物と戦うのは恐ろしいに決まっている。

 みんな、このおそろしさと戦いながら、キメラと相対しているのだ。

 俺だけが、感じているわけではない。


 みんなと無事に帰るためには、自分も頑張らなければ……。

 しかしセンダイの決めにいった魔法が顔面という身体の弱い部分に当たっても、キメラはまったく傷付かなかった。

 他の弱点を探すしかないか。

 いや、でもキメラは生徒会長の言う通りなら、複数の魔物の身体をつぎはぎにしている。

 一つの魔物でない寄せ集めの身体なのに、どれか一つが弱点なんてことがあるのだろうか。強い魔物が寄せ集めて作られたものなら、弱点をわざわざ作りにいく必要はないだろう。

 だとしたら、あの頑丈な肉体を突破できる強い魔法を使うしかない。


 だけどそんな魔法は無さそうだ。

 センダイの魔法を見たみんなの雰囲気を見ると、あの魔法でキメラを倒せなかったのは結構な衝撃を受けていた。

 あの魔法は、それだけ強力な魔法だったのではないだろうか。

 アリスを見ていると勘違いしてしまうが、あれは本当に高レベルの人間の戦いなのだ。

 アリスがあっさりと倒したキメラも、俺たち6人にとっては、負けイベレベルの敵なのだ。


 俺だって仮にもアリスの戦いを間近で見ていたんだ。

 これ位の敵を、何度もやっつけて来たじゃないか。

 ロックジャイアントほどのパワーもないし、ダークナイト・グランドほど戦略を立ててこないし、邪悪龍ディアボロほど圧倒的な魔法を使ってこない。

 ただ硬くて力の強い魔物だ。


 そしてここにいるのは、魔法学校のトップレベルの人間だ。

 なんとかなる。

 そう思おう。

 どんな敵であろうと、乗り越えられるだろう。


「よぉし!」と自分の頬をビンタする。

 ぱぁんと良い音がした。

 加減もせずに叩いたから痛みがすごいが、お陰でさっきまでの弱気が吹き飛んだ。

「どうしたんや?大丈夫なんか?」とアカガが頬を引きつらせながら俺に聞いてきた。


「俺たちであいつを倒そう」

 みんなの顔を見ながら、大声で言う。


「でも、硬いんやで、あいつ。センダイの魔法をものともしてないんやで」

 アカガが俺に言う。

「でも、なんとかなる」

「なんとかって……」とアカガが困った顔をする。


「そうだ。新川くんの言う通り、何とかなる。何とかしましょう」

「だけど、どうするのよ。あれ、多分最前線の魔物の寄せ集めよ。だからあんなに硬いんだわ」

「力も強い。次にやられたら、まずい」

 結界組が、弱音を吐く。


「アカガの土魔法なら、あいつの行動を防げるしバランスも崩せる。風魔法で吹き飛ばすより、効果的だ」

 吹き飛ばして距離を取るよりは、土魔法で周囲から柱を出して動きを止めた方がよっぽど良い。

 幸いな事に、ここは360度土ばかりだ。

 これほど良い地形はないだろう。

「できるかい?アカガ?」と生徒会長が尋ねる。

 即答してくれると思ったのに、何故かアカガは黙り込んだ。

 俺と生徒会長の顔を見つめてくる。


 何かよく分からない沈黙の後、「もちろんやで」と快諾した。

 沈黙があったせいで、何か変な感じだ。


 その時、グオオ!とキメラが雄叫びを上げて突っ込んできた。

「アカガ!」と呼びかけると、『ロック・ウォール』と呪文と共に土の壁が走るキメラを真横から突き、吹き飛ばした。

 全く予想外の方向から、衝撃を受けたキメラはバランスを崩し、ゴロゴロと地面を転がる。

「よし。後はダメージを与えるには、俺たちには力が足りないけど、それを補填できる物をセンダイは持っているよな」

 俺はセンダイに尋ねた。


「あれは、フリョ・リダを助けるために必要な……」

 俺の言いたい事を察したセンダイは、それを出し渋る。

「あのキメラを倒さないと、どっちにしろ使えない。今が、使い時だよ。それにセンダイだって、あれが相当強い魔物だって分かっただろう。ここで使わなきゃ、俺たちは全員死ぬ」

 俺は奥で起き上がるキメラを見ながら、センダイを説得する。


「分かったよ」

 一瞬の逡巡の後、センダイはポケットから魔石を取り出した。

「これでいいんだろ」

「お願いするよ」

 少し不満そうな顔をしているが、それでも協力してくれるのだからありがたい。


「生徒会長、倒さなくても良いんだけど、風の魔法であいつの肌に傷をつけたりできませんか。センダイの魔法をもっとダメージを与えられるようにできたらいいんだけど」

「なるほどね。分かった。試してみるよ。攻撃を防ぐのは、アカガに任せるよ」

「任せるんやで」とアカガはぐっと親指を立てる。

「任せるよ」

 なんだかんだとアカガは頼りになるな。


 キメラの目の前に何本もの土の柱が立ち上がり、キメラの動きを翻弄する。

 そしてキメラは地面から立ち上ってくる土の柱を警戒して、こちらをにらみながら吠えていた。

 これで奴が猪突猛進してくるような事はないだろう。

 後は、生徒会長に頼んだキメラを傷つけてくれれば、センダイの魔法がより聞いてくれることだろう。


「狙いを定めたい。動きを止めて欲しい」と生徒会長が言う。

 生徒会長が持つ杖が、ピカピカと光っていて、何かを充填しているようだ。

「アカガ、一瞬でもいいから、止める事ってできるか」

「まったく注文が多すぎやで!ちょっと待っとれ!」

 アカガは文句を言いながらも、俺の注文に答えてくれる。


 アカガはキメラの周囲でさらに激しく土の柱が立ち始めた。

 そしてまるで檻のようにキメラを囲んだ。

 狭苦しそうにキメラはその土の檻の中で暴れる。

 しかしこれでキメラの動きは止められた。


「生徒会長、お願いします」

 生徒会長に声を掛けた。

「ありがとう。これなら、行けるよ」

『エアロ・スラスター・セイバー』

 生徒会長は眩しく光る杖から、魔法がほとばしる。

 杖の先をキメラに向けて、そこから風が放たれた。


 その風の魔法は、一直線にキメラへと向かって直進する。

 間にある土の柱が、その風の魔法に触れるとまるで張りぼてだったかのように、ぱかぱかと切り裂かれていく。

 凄まじく切れ味が高い。

 土の柱をものともせずに、風の魔法はキメラが閉じ込められている土の柱でできた檻に命中した。

 檻となっていた土の柱も切り裂いて、吸い込まれるように風の魔法はキメラの顔面を切り裂く。


 ぐぉぉぉおおおおおおおお!

 キメラは生徒会長の魔法で切り裂かれた顔面を太い手で押さえ、悲鳴のような声を上げた。

 顔を押さえる手の間から、緑色の体液が垂れている。

 だらだらととめどなく流れていく様子から結構な深手を与えられたはずだ。

 この状態なら、センダイの魔法が決め手になりうる。


「後は任せるよ、新川君……。僕の魔力は……今の魔法に全部つぎ込んでしまったから、もう期待は……しないで欲しい」

 がくりと生徒会長は膝をつき、杖を支えにして苦しそうな声で言った。

 さっきの魔法が今までにないほど強力に見えたのは、そういう事だったのか。

「分かりました。任せてください」

 俺は生徒会長から引き継いで、「アカガはあいつをセンダイが狙いやすいように、まっすぐに突っ込んでくるように囲んでくれ」とアカガにお願いをする。


「まったくしょうがないなぁ!」

 アカガはそう言って、再び『ロック・ウォール』と唱えた。

 ドドドと再び地面から土の柱が立ち始める。

 キメラは周囲の音に驚いて後ろへ飛びのく、そしてその背後に土の柱が立ち並び、逃げ道を塞ぐ。

 そしてまるで神殿のように、キメラと俺たちの間に土の柱が並んで、まるで道のように見える。

 顔の中央を真っ二つに切られたキメラは、その道を見て、まるで喜ぶように雄たけびを上げた。

 怒りの目をこちらに向けて、凄まじい形相で地面を叩き、そしてアカガによって用意された道をクラウチングスタートのような体勢からロケットのようなスピードで突き進む。


 本体なら捕らえられないスピードであっても、用意された道の上ならば、当てるのはたやすい。

「センダイ!」

「あいよ!」

 短い言葉のやり取りで、意思の疎通をする。

 センダイは突っ込んでくるキメラに向かって杖を向け、もう片方の手で石を握った。


 杖の先がぴかりと光る。

『ライトニング・ボルテックス』

 手の中の石が一瞬で砂となり、杖の先からは先ほどとは比較にならないほど巨大な雷撃が爆発するように発動した。

 眩しい光と激しい破裂音。

 本物の雷が近くに落ちたかのような光と音。


 そして地獄から響くような苦悶の叫びが聞こえた。

 ずざざざと何かが地面を転がる音が聞こえる。

 キメラに命中して、撃ち落とした音だろう。

 魔法の光によって閉じてしまった瞼を開いて、結果を確認する。


 結界の直前で地面に倒れ伏すキメラ。

 そして地面でバタバタと悶絶し、地震かと思うほどの揺れを引き起こしている。

 心の中でがくりと膝をつく。

 今ので倒せてしまえれば、最善だったのに。

 だがこの悶絶の様子から見て、確実に致命的なダメージを与えられているはずだ。

 もう一度、もう一押しだ。


 俺からは背中しか見えていないが、生徒会長含めてキメラを倒しきれていないことに、隠しきれないほど肩を落としていた。

 いけない。ここで気持ちを切らせてしまったら、次にキメラが立ち上がった時に致命的な隙になってしまうかもしれない。

 ここで気持ちを切らせてはいけない。

 どうにかして、みんなの気持ちを戦いに戻さなければ。

 そう、アリスがいつも戦いの中、俺が不安を感じた時に、笑いかけてくれたように。

 余裕を見せ、まるで楽しむように戦っていたように。

 こんな所で、俺は負けていられない。

 まだミコとカノンの約束を果たせていないのだから。


「みんな、もう一度だ。キメラは確実にダメージを受けている。アカガ、まだ何個かあったはずだよな」

 できるだけ明るい声を意識しながら、声を掛ける。

「あぁ、ほい」とアカガはセンダイへと石を投げた。

「次か……。大丈夫なのか」とセンダイが石をキャッチしながら、俺に少し不安そうな声色で聞いてきた。

「大丈夫だ。キメラがあんなにのたうち回っているのは、センダイの魔法が聞いているからだ」

 俺が行っている間に、キメラは立ち上がり、うろうろとしながらこちらを見ている。

 一撃で倒せなかったから、キメラを慎重にさせてしまった。

 次は簡単には当てさせてくれないかもしれない。


「よし、やってやるぜ」とセンダイが気合を入れる。

 それにつられるように、アカガも「オレもやるんやで」と言った。

 そしてユキ先輩とハカナイさんも笑っている。

 何とか、絶望的な雰囲気だけは突破できたようだ。


 それでどうやって、キメラの顔面にセンダイの魔法を当てるか。

 それが重要だ。

 キメラの動きも普通の魔物よりも速い、だから普通に当てるのは不可能だ。

 生徒会長が前魔力を消費して入れてくれたキメラに与えた深い切り傷。

 そこにセンダイの魔法を当てなければ倒せない。


 だらだらと垂れ流されるキメラの血が、地面を汚す。

 痛みに強いのか、もう傷を押さえたり悶えたりすることはない。

 そういうことをするのは、自然界で致命的な隙を見せる事になってしまう事を事を本能的に知っているからだろうか。

 もう少し作戦を練る時間が、本当は欲しかった。

 だがキメラは既に俺たちの方を見ながら唸り声をあげていて、すぐにでも飛び掛かってきそうだ。


 すぐに考えないといけない。

 生徒会長はダウン中で、アカガの土の柱による動きの抑止も使った。

 後は、自分が考えられるあいつに魔法を確実に当てる方法を生み出さなければ。

 俺が知っている魔法は……。


 前の方で結界を張っているハカナイさんが目に入った。

 ハカナイさんが油断なく、キメラに視線を向けている。

 彼女はアカガと魔法実習で戦っていたはず。

 魔法は、確か……。

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