鉱山内(罠)
「出てくるのは、魔物ばかりね。その怪しい人たちっていうのが、出てくる気配はないわね」とユキ先輩が呟く。
「そうだな。おかしいな、ここに来たのは間違いないと思ったのに」
俺も頷いて、眉をひそめた。
南門から出た先には、ここしか行くところがない。
他の方向は高く険しい山々が連なっていて、超えることが難しいと聞いている。
フリョ・リダと言うさらった人間がいる場合、不可能だろう。
だからこの廃鉱山の中にしか行き場所はない。
しかし廃鉱山に6人で侵入してみたものの出てくるのは、魔物ばかり。
誘拐した人間たちが、いる気配はまったくない。
それどころか、人がここを通っていたような形跡すらなさそうだ。
苔なども生えているが、その上を最近通った人の足跡はないと生徒会長は言っていた。
擦れている跡には一緒に爪や肉球のようなもので擦れた後が見えていて、靴でこの上を通った跡はないらしい。
それにフリョ・リダを担いだり、一緒に歩いたりしていたりすれば、その後は色濃くこの坑道内にでるはずだ。
しかしまるで人間らしい痕跡はない。
痕跡を隠すのが相当にうまい相手なのか。それとも最初からフリョ・リダを誘拐したという人たちはいないのだろうか。
いや、いないというのはあり得ないだろう。
フリョ・リダがいないのは確かだし、フリョ・リダが誘拐されたというのもアカガが持ってきた情報が間違っている理由がない。
見間違いと言う事もあるだろうが、怪しい人たちがいたというのは間違いない。
ここに誰かが潜んでいるはずだ。
しかしこんなにも証拠を残さないなんて、俺たちが追っている奴らは、誘拐を専門としている人たちだろうか。
このまま追って、大丈夫だろうか。
ふとこみあげてきた不安を、頭を振って振り払う。
こんなにも魔法学校の優秀な生徒がそろっているんだ。
どんな奴だって、乗り越える事ができるはずだ。
そう話しながら2時間ほど坑道を進んでいるが、戦闘になるのはやはり魔物ばかりだ。
段々とここに誘拐犯がいるのか自分でも怪しく思えてきてしまう。
でもここにいるに違いないんだ。
フリョ・リダをここへ誘拐して、潜伏している誰かがいるはずなんだ。
「本当にここにいるのかしら?」とユキ先輩が困ったような声色で、後ろで並びながら進む俺たちに言ってきた。
「いるはずだよ。だって、目撃証言があるし、ここ以外行く場所はないんだから」と俺はユキ先輩に言った。
「だけどここまで、ずっといないわよ。魔物の巣になっていて、全然人がひそめるような環境ではないようにみえるわ」
「それは……」
ユキ先輩の返事に俺ははっきりと答えられなかった。
それは俺も段々と感じ始めている事であったから。
「うん。流石に手掛かりがない状態で、これ以上潜っていくのは、危険だと思う。だから今日の所は、一旦仕切りなおすべきだと思うよ。このまま行っても、坑道内で迷子になるか魔物との戦いで消耗していくだけだ。ここで区切って、警察や先生に連絡するべきだよ」
生徒会長が賢い選択肢を提示する。
それは傍から見れば正しい選択だろう。
でも俺はその選択肢を取りたくなかった。
フリョ・リダがいなくなってから既に何日も経っている。
時間がたてば経つほど、フリョ・リダの身に危険が及ぶ可能性が高くなってしまう。
しかしそれを自分から言うのは、はばかられる。
代わりに生徒会長やアカガ達を危険にさらしてしまうのかもしれないから。
「おい、逃げるのかよ!」とセンダイが生徒会長につっかかる。
「逃げる訳ではないよ。俺たちがここまで探しに入ったことを警察に伝えれば、警察は効率よく捜索できる。それは十分な成果になると思うよ」
「今、見つけないと、あいつがどうなるかっ!」
さらにセンダイは生徒会長に迫るが、生徒会長はまったく退かない。
「分かっている。だけどこのままだと、俺たちが危険だ。ここで捜索は打ち切って、また準備をするべきだ。これで終わりだ」
強引に生徒会長は捜索の打ち切りを宣言した。
「くそっ!」とセンダイが近くの壁を殴る。
ここで捜索を打ち切ることになったのが、悔しいのだろう。
だけど生徒会長の言う事が正し過ぎて、俺たちには反論する隙もない。
生徒会長の言う通りに、俺たちは鉱山の捜索をあきらめることになった。
ドゴッ。
そして俺たちが反転しようとしたその瞬間、まるで図っていたかのように壁から腕が生えてきた。
「何だこれ!」とセンダイは飛びのきながら、その巨大な毛深い腕の感想を言う。
壁の裏から腕が生えてきて、それは俺たちがここにいることを知っているかのように、腕だけでこちらを探るようにドンドンとむやみやたらに振り回して襲ってくる。
腕が地面や壁に当たると、地面がクレーター上にへこみ、ヒビが入る。
恐ろしいほどの力だ。
生徒会長に引っ張られながら、俺も危険な場所から連れ出される。
助かった。俺だけでは逃げられなかったかもしれない。
「ありがとうございます」
「当然のことをしたまでだよ」と生徒会長はさらりと何でもない事のように言った。
もしもアカガとセンダイだけで来ていたら、レベル1であることが知られていないから、放置されて死んでいた。
生徒会長がどうして俺をレベル1だと知っていたかは知らないが、おかげで助かった。
腕は腕の周りの壁をごりごりと割って、徐々にその姿を俺たちの姿をさらす。
そして俺はその魔物を知っていた。
「強い魔物……」
アリスと一緒に下水道に入った時に、アリスが倒した様々な部位を組み合わせたキメラのような魔物。
やはりあの一体だけではなかったのだ。
「何よ、あの気持ち悪い魔物は」とユキ先輩は嫌悪感をあらわにする。
あの生き物をちぐはぐに集めて作り上げたような姿は、人に不快感を与える。
結局、この強い魔物の正体も、どうしてこんな魔物が現れるようになったのか分からないままだった。
この強い魔物は飛び道具はなく近接攻撃ばかりだから、俺は完全に役に立てない。
準備してきたものも、奴にはまったく役には立たない。
相手が誘拐犯という事でフリョ・リダ戦をなぞって、相手の魔法をいなすような魔石とかしか持ってきていなかった。
俺は邪魔にならないように、後ろへ下がっていよう。
「みんな、慌てずに相手を見よう!落ち着いて対応すれば、僕たちなら倒せるはずだ。さっきまでの隊列と同じように集まろう。前列のユキとハカナイさんは、俺たちを結界で守ってくれ。それ以下は、状況に適した攻撃を行ってほしい」
「はい!」とユキ先輩とハカナイさんは結界を俺たちと魔物との間に結界を張った。
そしてセンダイとアカガは杖を、強い魔物へと向ける。
生徒会長は俺の肩を掴んで、さりげなく一番後方へと配置してくれた。
強い魔物は、俺たちを見ると飛び掛かってきた。
アリスによって簡単に討伐されたが、それはあくまでアリスという飛び切りの戦力がいたからこそできた事だ。
「戦闘開始だ!」と生徒会長の掛け声と同時に、強い魔物がとんでもなく大きな咆哮を上げた。
まるで吹き飛ばされてしまいそうなほどだ。
どんと地面をたたき、飛び上がってこちらへと飛び掛かってきた。




