ピョイ教授たち(校門前)
「おかしい。新川君が来ない。何かあったのか?」
ピョイ教授は校門前に立ちながら、そわそわと手足を組み替えている。
近くにいる門番がピョイ教授を怪しい目で見ているが、ピョイ教授は珍しく慌てていて、門番の事に気付いていない。
「まさか、昨日の今日で病気になったか?いや、それよりも気にするべきは、新川の身に何かあったかという事か……」
ピョイ教授は朝早くに新川と会って、今日来る貴族がゴジョ―先生の手の物だという事を伝える必要があった。
新川がピョイ教授の工作によって転校してきたことを貴族が知っている。
だから貴族から新川へ何かのアクションをする前に、事前に予防しても羅王という事である。
そのためにピョイ教授は、普段はしない早起きをして、新川が魔法学校に登校してくる前に会おうとしていた。
だがピョイ教授は校門前で待ち構えていたが、登校してくる時間となっても新川の姿が見えない。
そのことにピョイ教授の胸の中で黒い不安が広がっていく。
新川が今日に限って現れない事にひどい焦りを感じていた。
まだ貴族は魔法都市に着いていない。
だからこそ新川が現れない理由が、理解できなかった。
「迎えにでも……、いや、ここを離れて入れ違いになったら……。しかし、いや、もし何かあったんだったら……」
ピョイ教授はぶつぶつと呟いて、校門から続く道路を見つめる。
たくさんの生徒や教師が、魔法学校へ登校するために歩いている。その中にいるべき新川は、にらみつけるように見つめても出てこない。
ピョイ教授の鋭い目は、生活指導をしているように見えているのだろう。
しかも今日は貴族が来訪する日である。
先生が目を光らせ続けるのは当然だと考えた。
だから生徒たちはぱたぱたと身なりを整えて、ピョイ教授に近付かないように遠回りの道を取り、標的にならないように距離を取る。
しかしその生徒たちの姿は、考え事をしているピョイ教授の目に入っていない。
ピョイ教授の頭の中で、新川が現れない様々な仮説が立てられ、却下されていく。
「逆……?貴族に会わせたくない理由……がある?いや、魔法都市……」
ぶつぶつと呟きながら、考え続ける。
その不審者のような挙動不審な様子に、更にピョイ教授から生徒たちが遠ざかっていった。
「ピョイ教授」
ピョイ教授は背後から呼びかけられる。
「はい?」
「あの……不審者がいると、連絡があったので来ましたが、何かありましたか?」
生徒会長は言いにくそうに、ピョイ教授へ尋ねた。
生徒会長だけでなく、ユキまで一緒に様子をうかがいに来ていた。
「あぁ、申し訳ないね。もうちょっと待っていても良いかな?」
「大丈夫ですけど、あまり生徒を怖がらせないでくださいね。生徒会室に不審者として連絡が来たんですから。教授は普段の行いが怪しいんですから、あまり変なことをしないでください」
「いやぁ。すまない。そうだ」とぱんと手を叩く。
「ちょっと頼まれてくれないか?」
「はい。何でしょうか?」
「新川君を探してくれないか?困ったことに、待ってても彼が登校してこないんだ」
「それって……」と生徒会長はぐっと唇を引き締めた。
「それって、最近の事件と関係していますか」
周囲に聞こえないような声にひそめて、ピョイ教授に尋ねる。
「あるかは分からない。だけど心配だ。万が一の事があるかもしれない。もうすぐ授業が始まるけど、お願いしてもいいかな?」
「はい。流石に気になりますが、しかし貴族の訪問が……」
生徒会長は申し訳なさそうに、口籠る。
「確かに、生徒会長も貴族の訪問に立ち会うのか……。無理を言ってしまったね。彼なら、きっと大丈夫さ」
気を遣わせないように、ピョイ教授は軽い調子で言った。
「構わないZe!早く探しに行きなYo!」
ピョイ教授と生徒会長の会話に、陽気に口をはさむ。
「が、学長。唐突に登場しないでください。それで本当に探しに行っても大丈夫ですか?学長、一人だけで……?」
文句を言いつつも、学長の心配をする生徒会長。
学長はいつも通り奇天烈で派手な格好をして、空を人差し指で突くような恰好を取っている。
魔法学校に通う生徒が一番往来している校門前だというのに、恥ずかしげもなく堂々とポーズを晒していた。
生徒たちはピョイ教授以上の距離を学長に対して取った。
校門の半分ほどが、まるで結界を張っているかのように誰もいない空間ができている。
しかしその空間を作り出した当の本人たちは、それを気にしていない。
「もちろんだZe!まかせろYo!」
胸の前で手を交差させて、薬指と人差し指を立てるポーズを取る。
「あの、全然安心できないんですが。相手は寄付をしてくれている貴族ですよ。下手な事したら、いかに学長でも責任を取らされて首を飛ばされますよ。物理的に」
生徒会長は学長に念を押す。
変なことをしないで、落ち着いた接客をしろと。
「まかせろYo!Yeah!」
生徒会長が何を危惧しているのか、全く理解していない返事をする。
「は、はぁ……。ま、まあ、学長も言っている事ですし、新川を探しに行ってきます。授業には遅れると連絡をお願いします」
「了解だZe!探してくるんだZe!」
「はぁ、じゃあ、行ってきます……」
生徒会長は不安を顔に浮かべながら、新川の捜索に同意した。
「お願いします。新川君の家は、大通りを右に曲がった所にあるから、様子を見に行ってください」
「承知いたしました。新川の家に行って、確認してきます」
杖にまたがり、生徒会長は空へ浮かび上がる。
その後に、ユキが続く。
「ちょっと待つんだZe!」と学長に引き留められる。
「この子も連れて行くんだYo!」
「はい?」
学長が首根っこを掴みながら、生徒会長へ言った。
まるで白猫のように学長によってぶら下げられているのは、ハカナイ・ハクだった。
背の小さい彼女は唐突に学長に引っ張り上げられて、足は地面から離れ、ぷらぷらと揺れながら困惑している。
「あの、学長、その持ち方はやめてあげてください」とユキが学長をたしなめると、「ごめんごめん」と謝りながら、ハカナイを地面に下ろした。
「えっと、何でしょうか?」
「君も新川を探すんだZe!」
「はい?」
説明を無視して、学長はハカナイにぐっとサムズアップしながら言った。
ハカナイは全く理解できないというように、首を傾げる。
ほとんど説明していないのだから、当然である。
学長はチラリと生徒会長へとアイコンタクトをする。
「えっと、新川っていう生徒が、時間になっても登校してこないから迎えに行こうって話していたんだよ。手伝ってもらえると、助かるんだけど、時間大丈夫かな?」
生徒会長が代わりにハカナイへ説明をする。
「た、大変ですね。あの、私、授業が……」
「問題ないZe!」
そわそわとハカナイが時間を気にしながら、断ろうとすると、すぐさま学長が口をはさんだ。
「学長から連絡しておくから問題ないZe!」
「それは、その……」
圧の強い学長に、ハカナイはじりじりと距離を取る。
「できれば、人手が多い方が助かるんだ。手伝ってくれないか?」
生徒会長が再度強く手伝いをお願いする。
ハカナイは身体を少し縮こませながら、「わ、分かりました」とうなずいた。
気の弱さで、強く拒絶できない彼女も新川の捜索に加わる。
杖にまたがって、生徒会長と同じように浮き上がった。
「では行ってきます。学長、失礼のないようにお願いします」
「分かっているZe!」と学長が、ウインクをする。
「はぁ……。ハカナイさん、よろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします」
頷きながらも、背後の学校の側面に取り付けられた時計を気にしていた。
もうそろそろ授業が始まってしまう時間だ。
「よし。行くぞ」と生徒会長が掛け声を上げる。
ぴゅっと生徒会長は大通りをまっすぐ飛び、その後ろをユキ、ハカナイが続く。
そして彼ら3人が飛んでいくのを見ながら、ピョイ教授と学長は厳しい顔をしていた。
授業の開始のベルが鳴る。
時間は淡々と平等に進み、事態は着々とうごめいていた。




