出発(空を飛ぶ)
「よし。これで警察には連絡した」
俺はセンダイの去った後、すぐさま警察へと移動して、アカガから聞いた内容を伝えた。
もちろん、俺たちがフリョ・リダを助けに行こうとしているという事は伏せてある。
止められたら、警察に不信感を持っているセンダイが爆発しかねないから。
そうなったら、最悪だ。
俺は止められないし、センダイ自身もつっ走って危険だ。
南門の近くのパン屋さん。その店員が怪しい集団を見たというのをアカガに昨夜、世間話としての話題として出したのだ。
そしてその怪しい集団の一人の特徴が、アカガの知るフリョ・リダの特徴とあっていた。
だからアカガは、その集団によってつかまった人間がフリョ・リダだと思ったらしい。
その集団は、南門から出て行ったらしい。
これがアカガが俺に語ったフリョ・リダの目撃証言である。
南門から行けるのは、たった一つ。
廃鉱山だけらしい。
南門から出てすぐに広い草原があるが、そこに隠れられたりひそんだりすることのできる場所はない。
囲むように厳しい高い山が連なって、そこを超えるためには準備が必要だそうで、店員が証言するような服装では超えられないらしい。
だから目的地は、廃鉱山に違いないということだ。
センダイはその廃鉱山に犯人が立てこもっていると踏んでいる。
そこを俺たちで襲撃してやろうという事だ。
街はまだ朝早く通学通勤している人が多い。
俺もその中の一人だが、残念ながら学校にはいかない。
これから魔法道具屋にでも行って、火の魔石とかその他もろもろを買って準備をしなければならないのだから。
その後は、南門に行って、廃鉱山へ特攻か。
なんとまあ、無謀な役回りを受けてしまったものだ。
フリョ・リダと言う一方的に敵意を向けてきた相手を命がけで助けに行くなんて、本当にふざけている。
正直な話、センダイの約束を破って逃げても誰も文句は言わないだろう。
だけど逃げない。
ただ自分の知っている範囲内で、これ以上人死にを増やしたくない。
人がただ無慈悲に死んでいくのに、俺は耐えられないから。
そして俺は魔法道具屋で準備を整えて、南門へと向かう。
南門はその先に廃鉱しかないから、ここは閑散としている。
魔法学校のある北側の部分と比べると、人数は天と地の差だ。
全く人がいなくて、見つからないように動くのは楽だけれど、少し不気味に感じる。
もしかしたらフリョ・リダをこっち側へ移動させたのは、誰かが俺たちを誘い込むための罠かもしれないという不安が頭によぎる。
だけどその考えは否定できる。
だって誰が俺たちがフリョ・リダを取り戻しに行こうと考えるだろうか。
センダイはフリョ・リダのグループだから分かる。
だが俺やアカガが行くとは思わないだろう。
特にこの情報を持ってきたのは、アカガだ。
アカガは特にフリョ・リダのグループと関係はない。
センダイとアカガが南門の前で微妙な距離感を保って、立っているのが見えた。
アカガは俺に気付いて、「やっと来たんやな!待ってたんやで!」と手を挙げて、ぶんぶんと振ってくる。
とてもうれしそうだ。
センダイと二人っきりがそんなに嫌だったのか。
「ふん。よく逃げなかったな」とセンダイが言ってくる。
その口角が上がっていることから、そういいながらも嬉しがっているようだ。
センダイはちゃんと準備してきたようで、さっきまではなかった袋を腰につけている。
「何を準備してきたんだ?」
戦力確認のために、センダイに尋ねたが、「そんなのは廃鉱山へ向かいながらでも良いだろう!早く行こうぜ」と急かされる。
そして杖にせかせかとまたがり始めた。
「そうやな。早く行こうや」とアカガもセンダイと一緒になって、杖にまたがる。
急ぎ過ぎているような気もするが、それも仕方ないか。
向かいながらでも話ができるのは、確かだ。
アカガとセンダイが杖にまたがったのを見て、俺は一つ失敗したことに気付いた。
俺は魔力がないから、杖で飛べないのだ。
「アカガ、すまん、一緒に乗せてくれないか?」とアカガに頼むと、「なんや、何でその杖に乗らないんや?」と疑問の声を掛けられる。
不思議に思うのは当然だろう。
魔力がないなんて、この世界の人間からしたら信じられない事だろうから。
何を言っているのか分からないというように、アカガは眉をひそめる。
魔法の知識はないにしろ、魔力があれば飛べるという事だろう。
「何ふざけているのか分からねぇが、早くしろ。自分の杖に乗りたくないんなら、俺の杖に乗れ!」
俺がふざけていると思われているが、センダイの一言で何とかこの場を乗り越えることができた。
「じゃあ、お願いします」と言いながら、センダイのまたがる杖に乗る。
「行くぜ!」とセンダイが掛け声をかけ、センダイの杖は空へと浮かび上がっていく。
ぐいっと重力と杖が反発して、股の間に杖が食い込んでいった。
「おほっ」と食い込んでいく感覚に変な声が出てしまう。
「何変な声出してんだよ。気持ち悪い」とセンダイが俺の声を聞きつけて、めんどくさそうに言いながらも心配そうに聞いてきた。
「ごめん。ちょっと股に食い込んで」
「あぁ?ちゃんと魔法で守っとけ」
魔法も使えないのが、俺だ。
「わ、分かったよ」
魔法を使えないことを隠すために、はったりを利かせておく。
ぐっと杖を手でつかんで、食い込まないように尻を浮かせる。
これで食い込みは楽になったが、今度は手に負担がかかってきた。だけど魔法が使えないことを隠すためには、仕方のない負担だ。
「それで、さっきの続きだけど、何を買ったんだ?」
同じ杖に乗って空を飛ぶセンダイへと質問をする。
「あぁん。言う必要があるのかよ」
「戦力の把握だよ。共有しておいた方が良いと思ってさ」
「ふん。単なる魔力増強石だよ。一回だけ魔法を強くしてくれる石だ。貯金を全部使って、5個持ってきた」
「つまり五回だけ魔法を強くできるのか。使い所が大事だな」
5回しかないんだ、大事に使っていかないと。
「使いどころぉ?そんなもん、敵が出てきたらぶっ放すだけだろうが!」
しかしセンダイの考えは違うようだ。
敵に最大火力をぶつけるだけの脳金戦法をするために準備してきたらしい。
「いや、そんなのダメだって、相手が何人いるか分からないのに、できるだけ抑えていかないと……」と俺が言うと、「あぁん!」と大きな声を出す。
「何人いようが、ぶっ放せばいいんだよ。そうすれば終わりだ」
「いや、だから、その敵が5回で終わりだなんて保証は……」
「だったら、その後の奴も全部ぶっ飛ばす」
「そんなやり方でできたら、苦労はしないって。一旦、落ち着いて、作戦を……」
俺の説得も空しく、感情論を振りかざすセンダイの考えを改める事は出来なかった。
青い空を見上げて、現実逃避をする。
白い雲がゆったりと流れ、鳥は気持ちよさそうに飛んでいた。
心地の良い風が頬を撫でる。
日向ぼっこをするにはちょうどいい日だ。
さっきまで全力で話し合っていて、かなり体力を使ってしまった。
感情論の人間に、頑張って論を述べても全く無駄だと理解した。
そもそもこちらの説得を聞く耳がない相手に、何かを言っても無駄なのだ。
力で説得するほかないのだが、それをするだけの力が俺にはない。
力が欲しい……。
「見えてきたぞ」とセンダイが前方を指さした。
南門で遠くに見えていた山々がもう目前に迫り、トロッコっぽいのものや建物があって、かつて鉱山としての面影が見える。
しかしそれらは既に半壊していて、使えそうにない。
やはりあの建物ではなく、廃鉱山の中に潜んでいるのだろう。
「見える範囲には、誰もいないな」
「そりゃ、隠れているんだからそうだろ」
「見張りとかいるかなと思ったんだけど……」
「いないなら、良いじゃねぇか。降りるぞ」とセンダイが下りていく。
「いや、ちょっと待ってって、隠れているかもしれない……おぉ!」
まるで落下するような勢いでセンダイが下りるので、俺はセンダイに抱き着かなくならなくなった。
「うわっ、何すんだ、てめぇ」
センダイは嫌そうな声をしながらも、着地の時はちゃんと衝撃のないようにしてくれたので、俺の股と手は無事だった。
「急に降りるからだろ。何か先に言ってよ」と反論する。
突然男に抱き着くやつに思われたら、社会的に死んでしまう。
『レベルック』
俺は魔法を使って、周囲を探索する。
万が一の場合、周囲に別の存在がいれば分かるはずだ。
しかし出るのはアカガとセンダイのレベルだけで周囲に、不自然に出るレベル表示はなかった。
アカガはレベル769でセンダイは678か。
アリスと比較すると低いが、ここら辺の敵がレベル500程度だと考えると、まぁ妥当な数値だ。
「なんやその魔法、初めて使っている奴みたわ」
「いや、周りに伏兵がいないか見ただけだから。今はいないみたいだけど」
「そうなんや。でももっといい魔法あるやろ。何でそんな魔力を消費しないような魔法なんや。何のために魔法学校に通っているんや」
呆れたようにアカガが言う。
魔力自体をほぼ持っていないので、他の魔法は無理なんですとは、レベル1であることを隠すために言えない。
「周りにいないなら、中にいるんだろ。よっしゃ、行こうぜ!」
センダイはバンと掌を叩いて、気合を入れている。
ちょっと不安だけど、ここまで来たからにはいくしかない。
「あぁ、行こう」
「せやな」
俺たちもうなずいて、さっそく目の前に開く坑道に入ろうとすると、「ちょっと待った!」と背後から声が聞こえた。
聞き覚えのある声だ。
「何であんたらがいるんや……?」とアカガも困惑した声をさせる。
振り向くと、そこに生徒会長がいた。
肩で息を切らしていて、急いで俺たちを追ってきたのかもしれない。
それにユキ先輩とハカナイさんも一緒にいる。
ユキ先輩がいるのは分かるけど、何故ハカナイさんまでいるんだ?




