朝(訪問者)
目覚まし時計の音で起こされる。
また新しい朝が始まる。
しかし少し気分が重い。目覚まし時計を止めて、ゆっくりとベットの上で起き上がって、目を閉じる。
昨日、カノンに魔力を渡されて、魔力酔いになってしまい、不可抗力でカノンに抱き着いてしまう。
それをアリスに見られて、変態呼ばわりされてしまった。
昨日はそのまま分かれてしまったので、変態という汚名を返上することはできなかったのだ。
だからできるだけ早くアリスと会って、あれは不可抗力だったのだと伝えないといけない。
このまま誤解されたままだと、俺が殺されてしまうかもしれない。
早い内に、誤解は解かないと。
だけど会えるとしても、魔法学校の放課後以降だ。
アリスは俺と別で調査しているから、俺から会う事はできない。
放課後まで待たないといけないのは、気が休まらなそうだ。
でもその前にカノンにも、俺は怒っていないと伝えないといけないな。
どこかいつもと違って、感情的になっていたような気もする。
普段はあんなに怒られることに怖がっていただろうか。
どういうことだろうか。
カノンが怖がるなんて、ありえるのだろうか。
考えてみても、良く分からない。
とりあえずカノンには放課後に会っておかないとな。
不可抗力とはいえ、カノンに抱き着いてしまったのは事実だから、何かをお詫びの品を用意する必要があるな。
何がいいだろうか。
放課後になったら、カノンの所に行く前にお店によって何か買ってから行こう。
そんな風に、今日の予定を立てていたら、唐突に扉がどんどんとノックする音が聞こえる。
俺の思考を邪魔するその音に苛立ちを覚える。しかもこんな朝早くに、まるでドアを壊しかねないようなノックの仕方をするなんて非常識すぎる。
しかし「修平、いるんか?」というアカガの声で、その苛立ちは吹き飛ぶ。
「すぐ開ける!」とドア越しに声を掛けながら、扉の鍵を開けた。
冷たい朝の風が入り込んでくる。
それは俺の身体から体温を一気に奪い、くしゃみをしてしまった。
「おいおい、風邪なんか?熱はないか?」とアカガは真っ先に俺の体調の心配をした。
「いや、大丈夫だよ。最近は朝から寒いな」
「せやな。これから冬になっていくんや。どんどん寒くなっていくで」
「これ以上寒くなるのは、嫌だな」
「魔法都市製のストーブは優秀やで、使えばいつでもあったかや」
俺とアカガでそんな世間話を始めると、「おい!そんな呑気に話している時間はないんだぞ!」とアカガの背後から焦るような声が聞こえてきた。
見るとアカガの後ろには、センダイが立っている。
アカガの真っ赤な髪の色に意識がいって、その後ろに人がいるなんて思わなかった。
「不思議な取り合わせだな。何かあったのか?」
アカガとセンダイには、何も共通項は無かったはずだ。
アカガにいたっては前回フリョ・リダの捜索を警察に頼もうと言ったら、それを嫌がっていた素振りまで見せていたのに。
「フリョ・リダが怪しい二人組に連れて行かれるのを見たってやつを見つけたって言うんだよ。このアカガって奴が!」
センダイが早口で言う。
「それは本当か?」
「そうや。オレの行き付けの店で見たって言う奴がいたんや」
しかし昨日は全く進展のなかったフリョ・リダの捜索が、捜索を嫌がっていたアカガによって進むなんて、不思議なものだ。
「じゃあ、すぐに警察に……」
「いや、早くしないと、連れていかれちまうかもしれない!俺たちで助けに行こう」と顔を真っ赤にしたセンダイが言う。
興奮している様子で、ふぅふぅと息を荒げている。
フリョ・リダが見つかったことで、気が急いているんだろう。
だけど今、俺たちだけで行っても何の役にも立たない。
「センダイ、気持ちは分かるけど、警察に届けた方が……」
俺はセンダイにそういうと、センダイはドンと扉を叩いた。
「フリョ・リダは、もう四日も行方不明なんだぞ!何があったのか分からねぇが、今ここで捕まえねぇと次いつ見つかるかどうか!ここで何とかするしかねぇんだ。俺たちでフリョ・リダを連れ戻すしかねぇんだよ!」
まるで俺を食い殺さんばかりに、勢いよく叫んだ。
おそらくフリョ・リダがいなくなってから、人一倍気をもんでいたのであろう。
それがフリョ・リダの目撃証言が出たから、爆発してしまった。
このまま俺が否定し続けていたら、彼一人で飛び出して行ってしまいそうだ。
センダイの隣に立つアカガに目配せをするが、アカガは首を振る。
きっとアカガがフリョ・リダの件を伝えた時からこうなっているのだろう。
それでまさか俺のところに来たのか?
「わ、分かったよ。探しに行こう。でもちゃんと準備を整えてからにしよう」
妥協案を提案する。
「今すぐだよ。一分一秒も、無駄になんてしていられねぇだろ」
センダイに詰め寄られるが、俺も負けじと「フリョ・リダを助けに行って、俺たちまで捕まったら、意味ないだろ!助けようと思うなら、ちゃんと助ける準備をしないと。特にフリョ・リダがやられた奴なんだろ!そんな思い付きで動いて、取り戻せるものなのか?」
「それは……」
俺の剣幕にセンダイは、少し後ろへ退く。
「一時間だ。一時間準備して、準備が整ったら、望み通りフリョ・リダの助けに行こう」と言いながら、センダイの目の前に人差し指を立てる。
この一時間でセンダイの頭が冷めてくれればいいが、冷めないならこの準備に全力で取り組もう。
「一時間やな。分かったやで。準備はきっちりしないとな!」
アカガは緊張感のない明るい調子で言う。
「分かった。一時間後、南門だ。逃げるんじゃないぞ!」
「了解。センダイ、焦るんじゃないぞ」
念を押す。
一時間に耐えられずに、一人で特攻されたら元も子もない。
「あぁ」と短く返事をして、センダイは回れ右をして、俺のアパートの手すりを乗り越える。
そして空を飛んでどこかへ飛んで行ってしまった。
勝手に行ってしまわないか心配だが、センダイと言う人間の辛抱強さにかけるしかない。
一時間と言うのは、センダイの冷却時間と同時に俺の準備期間だ。
敵がどんな奴か、どれだけいるか、どんな武器を持っているかもわからない。
フリョ・リダとの時と違って、全く相手の情報が今の時点でない。
そしてここから一時間で、フリョ・リダを取り戻せるような装備を揃えないといけない。
警察に通報するか。
ピョイ教授に伝えるか。
装備の買い物をするか。
アリスに協力を願うか。
それともセンダイが頭を冷やすのを願うか。
いくつもの選択肢が浮かぶ。
今、この時間の一時間で最善を選ばなければいけない。
ピョイ教授に伝えるのは、難しい。
そもそもまだ魔法学校が始まる前の時間だ。
出てきているのかも怪しい。
こんな事なら、アリスが住んでいる所を教えてもらっておくんだった。
アリスと言う知名度の高い人物が見つからないように、俺にも隠されているのがあだになった。
警察に伝えよう。
それならいずれピョイ教授の耳に入るかもしれない。
その後、装備の買い物をしよう。
まだピョイ教授から支給された余っているお金があるんだそれを全部投資するしかない。
「そんな難しい顔をするなや」
ぽんぽんと俺の肩を叩くアカガ。
ぐっと目の前で親指を立てて、「オレもいるし、センダイもフリョ・リダと同じく魔力量が高くなった組の一人なんやで。魔法学校の生徒に生徒に手を出したことを後悔させてやろうや」と軽い調子で言った。
「しかもフリョ・リダと戦って、勝利した男もいるんや。これは負けなしやで!」
アカガはがははと笑って、俺の肩をバンバンと強くたたく。
それはそうだろう。
アカガも魔法実習での戦いぶりを見る限り弱くないし、フリョ・リダのグループの一人であるセンダイも何かを受けて魔力量を増やしている。
だからよほどの事がなければ、負けることはないだろう。
そのよほどのことがあった時が心配だし、それはフリョ・リダが行方不明だという事が裏付けている。
一番の問題は、そのフリョ・リダと戦った男がレベル1の幼児にも負けるようなステータスしか持っていないという所なんだよな。




