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Lv1の剣  作者: 豚野朗
魔法都市
63/206

魔力酔い(魔法発動)

 カノンと遊び終わったとき、「君は、貴族がくるという事を聞いたか?」とピョイ教授が言った。

「そのことなら、授業で先生が仰っていました。クラスメイトがみんな、喜んでいましたよ」

「あぁ、そうだろうね。貴族と言えば、魔法使いにとっては有利な職場だからね。と、そんなことよりも、この貴族っていうのが昨日突然、訪問を決めて連絡したっていうのは、どうかな?聞いているかい」

「それも生徒会長が言っていた気がします。それで忙しくなってしまったとか」

「なるほど。そこまで知っているという事か。その後に、事件に会ったっていう事かな」

 ピョイ教授の言葉で、昼に会った砂化事件の事を思い出す。


 俺の目の前で再び起こった惨劇。

 悲鳴を上げながら砂になっていく姿を思い出し、それを引き起こす犯人に怒りを感じる。

 人を立て続けに砂にして殺していくその残虐性と全くその尻尾を見せない卑怯な態度が、腹立たしい。

 必ず犯人を捕まえてみせる。


「痛っ」と手に痛みを感じる。

 見てみると、爪が手に食い込んでいた。

 怒りで手を握り締め過ぎて、爪で掌が裂けてしまったようだ。

 傷を見ていると、裂けた傷から血が溢れて、傷の上で血の球体が見る見るうちに出来上がっていく。


「大丈夫ですカ」

 その血の塊をじっと見つめていたら、カノンが俺の手を握って、傷を診ている。

 俺の手を取るカノンの手は冷たい。

 当然だ。カノンは人形で、人間とは違うのだから。

 しかしそのカノンの目から感じる視線は、俺を心配し、傷をいたわっているように感じるのは、カノンと遊んでいる内に感情移入しているからだろうか。


「大丈夫だよ。ちょっと力を籠めすぎちゃっただけだから」

「ソウデスカ?血が出ルノハ、危険デス」

「これ位なら、なんてことはないよ。この後、保健室にでも行けば、すぐに回復魔法で直してもらえるからさ」

「分かりマシタ。応急処置ダケします」

「応急処置?」

 ばんそうこうでも貼ったり消毒したりしてくれるのかと思っていたら、俺の傷にカノンの薄い唇をつけた。


 そしてぺろぺろとなめ始める。

 敏感な傷口に柔らかい素材でできた舌が動き回り、くすぐったさで身体がビクンと跳ねてしまった。

「お、応急処置って、それぇ!?」

 驚いて、変な声が出る。

「ハイ。本の中で、応急処置は、舐める事ダトありまシタ。だから舐めマス」

「これも応急処置と言えば、応急処置だけど……」

「なぜ、修平は紅くナッテいるのですカ。傷から菌が入って、病気になりましたカ」

 上目遣いのように、手をぺろぺろとなめながら、こちらを見上げてくる。


 カノンの距離感のなさには、何度も驚かされてきた。

 少しでも察してほしいんだけど、そういった事は全然成長してくれない。


 美人がこんなに近くで優しくしてくれたら、男は絶対に反応してしまうだろ。

 カノンは自分がとんでもない美人だという事を認識してほしい。


「ありがとう。もう大丈夫だよ。ただ元気になっただけだから、気にしないで」

「しかし病気かもシレマセン。早く直さナイト」

 そんなに大きい傷ではないけれど、傷付いた人を見た事ないのであろうカノンは、俺の言葉だけでは安心できないらしい。

 とはいえ、この程度の傷に包帯を巻くとかは大仰すぎるし、どうすればカノンを安心させられるだろうか。

 回復魔法は使えないし、絆創膏をもらえれば最高なんだけど。


 しかしカノンの行動は俺の想像を超えていた。

「良い事を考えマシタ」

 俺の手を握る。

 冷たい掌に包まれたと思った瞬間、唐突にぐらりと身体が揺れた。

 突然熱病にかかったように、頭がぐわんぐわんと揺れるような感覚に襲われて、俺は膝をついてしまう。

 それでも耐えられず、カノンに寄りかかってしまう。

 顔面に柔らかいものを感じるが、それよりも気分の悪さが勝る。

 吐きそうな気分だ。

 吐いてしまえば気分もよくなるかもしれないが、全然腹の中身がなくてただただ気分が悪さが続く。。


「どうしまシタカ?魔力を使って、回復シテくだサイ」

「魔力?俺は魔力はない……」

 カノンの意味不明な言葉に、気分の悪さに耐えて何とか返事をする。

 俺の魔力はレベル1だからかけらもない。

 それこそ魔力を必要としない『レベルック』くらいしか使えないのに。


「大丈夫かい。魔力をカノンが渡したんだ。その体調の不良は、魔力酔いによるものだよ」

 ピョイ教授の声が近くで聞こえる。

 カノンと一緒になって、俺のすぐそばでしゃがんでいた。

「魔力酔い……」

「そう、君の体の中に、容量以上の魔力が入ってしまったんだ。ほら、君も知っているだろう。ハクっていう子が、魔力が強すぎてって言っていただろう。それと同じさ」

 ハクっていうのは、確かアカガと魔法実習で対戦していた白い髪の女の子だったか。それとフリョ・リダにも絡まれていた。


「どうすれば……、うっ……」

 身体がうまく動かない上に、吐き気が込みあがってくる。

 カノンの胸元に顔をうずめて、吐き気に耐える。

「実に役特だね」とピョイ教授がのんびりとした口調で言う。

「冗談を言っていないで……、何とかしてください。というか、なんで突然……うぷっ……」

 今、ちょっと長くしゃべったら、喉にまで何かが込みあがってきた。

 危うく吐きそうになってしまう。


「ごめんナサイ」と何故かカノンが謝り始めた。

「どうしたんだ。カノン……うぷ……」

「カノンは君に回復魔法を使えるように、魔力を渡したんだよ」

「魔力を渡す?」

「そう、私の作ったカノンの公的な研究目的は持続的な魔力供給にあるんだよ。カノンの魔導心臓から作られた魔力を他人に渡せる。カノンはそれを利用して、君に魔力を渡したってことだね」

 何を言っているのかほとんど分からないけど、カノンが俺に魔力を渡したという事は分かった。


「魔力を……、どうすればいいんですか?」

 とにかくまずは、この状態を解決したい。

「簡単さ。魔力があるなら、することなんてひとつだろう」

「一つ……、あぁ、魔法か……」

「そう。君にも使える魔法があるんじゃないか?」

 言われて、ステータスカードに表示されているものを思い出した。


『プラント・ウォール』

 俺は初めて魔法を唱えた。

 床に触れていた手から、何かが流れていく。

 そして手に初めて何かが触れ、それは大きくなっていく。

 大きくなっていくにつれて、気分の悪さも解消されていった。

 しばらくそのままでいると、完全回復できた。


 手の中を見てみると、一本の花が咲いている。

 細くて小さいが、しっかりと床に根を張った花だ。

 初めて使った魔法。

 それがこんな予想もできない形でできるとは思わなかった。

 ミコが使った植物魔法が、ちゃんと俺に宿っている。

 それを確認できただけでも、結果オーライなのかもしれない。


「修平。大丈夫ですカ?ごめんナサイ」

 カノンが謝りながら、俺を抱きしめる。

「カノン、分かったから、離し……、むぐぅ……」

「ごめんナサイ。ごめんナサイ。ごめんナサイ」

 俺の言葉は届いていないようだ。

 何度も謝罪の言葉を繰り返し、ますます力を強くしていく。

 力が強くなっても俺が無事なのは、俺の顔面に押し当てられるクッションがあるからだ。


 人間と変わらない柔らかさを持つクッションは、顔面に密着して俺から酸素を奪っていく。

「カノン……。聞こえ……もごっ……離し……て……」

「ごめんナサイ。ごめんナサイ。ごめんナサイ」

 機械のように繰り返すばかりで、カノンは力を緩めてくれない。


「何度見ても役得だねぇ……」

 ピョイ教授は呑気にそんな冗談を言っている。

 俺はカノンの腕の中で窒息死と言う窮地に立っているというのに。

 カノンの背中をタップし続けているが、それにも気づいていない。


「カノン、離してあげなさい」とピョイ教授が言うが、カノンはなぜか離してくれない。

「どうしたんだい。カノン、どうして離してあげないんだい?」

 ピョイ教授も不審に思ったのか、カノンに聞き直す。


「修平が怒ってイルかもシレナイ……」

 カノンの答えに驚いた。

 俺が怒っているから、離したくないなんて、そんな事を心配したことがあっただろうか。

 むしろ今まで、そんな事を気にせずやりたいことをやっていたような気がする。

 ケーキの件でも、怒っても次の日にはけろりとしていた。


 今回はカノンにとって、何か違うのだろうか。

 分かりやすい不調で、カノンのどこかが反応してしまったのだろうか。


「怒っていないよね、新川君」

「ふぁい、もちろ……もごぉ……」

 ピョイ教授に怒っていないか聞かれて、頷くとさらにきつく締められた。

「良かったデス。良かったデス」

 さっき謝罪連呼の時と全く変わっていない。


 このまま巨乳メイドに抱き絞められて死ぬのは、男にとっては幸せなのかもしれないが、こんな死に方は嫌だ。

 抱きしめられ過ぎて、ついに呼吸ができる空間もなくなってしまった。

 このままだと本当に窒息してしまう。


「よいしょ」

 首根っこを掴まれて、カノンの手を払って助け出してくれる手があった。

「何やっているのよ。カノンちゃんの胸に顔をうずめるなんて、変態にでもなったの?」

 助けてはくれたが、流れるように罵倒される。

 軽蔑するようなアリスの視線に、これまで生きてきて最大の危機を感じた。

「いや、パッと見はそうかもしれないけど、これには理由が……」

 俺が言い訳をしようとすると、「私が悪いンデス」とカノンが横入りしてきた。

「カノンちゃんが?」

「違うから、俺がけがをして、カノンが直してくれようとしただけなんだよ」

 俺が起きた出来事を簡潔に言うと、アリスは小首をかしげる。


「それで何で、カノンちゃんの胸に顔をうずめる必要があるのよ」

「確かに……」

 思わず肯定してしまった。

 自分の言葉を心の中で復唱して、そのおかしさに気付く。

 何でけがをしたら、カノンの胸に押し付けられたんだろうか。

「そ、その後が、重要なんだ。それでカノンが俺に魔力を……」

「私が悪いンデス。修平を怒らナイデ」とカノンが俺をかばってくれるが、今はアリスの誤解を解く方が優先だから、今だけは口を挟まないでいただきたい。


「良く分からないけど、カノンちゃんは悪くないわよ。一旦、こっちで落ち着きましょう。私と遊びましょう」とアリスはカノンの手を引いて、俺から離れていく。

 カノンがしようとしたことは、正しいから間違いではないのだが、俺の言い分も聞いてほしい。

「ちょっと待ってくれ」

 しかし隣の部屋にアリスとカノンは行ってしまい、俺の言い分を説明する機会は失われてしまう。


 このまま追いかけても、余計にアリスの警戒を高めるだけだ。

 明日には、アリスを捕まえて説明しないと。

 俺の今後の人生に差し支えるかもしれない。

 そして俺はカノンに抱きしめられ、アリスに罵倒されたことにより、身体的・精神的にダメージを追ってしまった。

 カノンとの遊びも終わったことだし、俺は一旦帰らせてもらう事にしよう。


「ピョイ教授、今日、自分は帰りますね」

「はいはーい」とピョイ教授から返答があったので、俺はダメージを負った体を動かして、扉を開けて帰路に就く。


 今日は早めに寝て、また明日、頑張れるように。

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