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Lv1の剣  作者: 豚野朗
魔法都市
62/206

貴族(そして第三の……)

「突然だが、明日、貴族が魔法学校を視察に来る。教室の中に入ってくることはないが、行儀よくするようにな」

 先生に唐突に告げられて、教室中がざわめく。

 俺は全くぴんと来ないので、その騒ぎに乗り遅れる。

 何故か同級生は嬉しそうに、隣の人と話していた。


 貴族が来ると何が嬉しいのか全く分からない。

 なんか面倒くさそうだという感覚しかない。

 貴族って言うと、フリョ・リダたちのグループの人たちがそうだった。

 彼らの父親がくるのだろうか。


 教室内では、貴族が来るという話で盛り上がっている。

 しかも嬉しそうに言っていた。


「アカガ、何でこんなに貴族が来るだけで、盛り上がっているんだ?」

 とりあえず隣の席のアカガに聞いてみる。

 次の授業の準備をしていたアカガは手を止めて、「貴族に雇ってもらえれば、将来安泰だからやな。下手な王都の役所とか部隊とかに配属されるよりも待遇は良いんや。待遇は貴族によるんやけどな。大体の貴族は、魔法を使える人間を重用するんや。私兵とか秘書とかにな」と答えてくれた。

 その答えを聞いて、やっとこの盛り上がりに納得がいった。


 大企業の役員が魔法学校に来てくれるみたいな就職活動の一環として、みんなは喜んでいるのか。

 貴族に雇ってもらえれば、将来安泰か。

 俺には全く関係のない話だな。

 魔法を使えない俺が、貴族に雇われるなんて絶対にありえないことだろうから。


 先生の去った教室中で、いくつかのグループに分かれて、貴族の件で楽しそうに会話をしている。

 俺とアカガだけが、その会話の輪に入れていない。


「アカガは、貴族について何も思わないのか。雇われたくないのか。将来安泰っていうけど、アカガは将来は貴族の所に行きたいか?」

「将来なんて、考えられないやろ。今が一番や。そうは思わんか?」

 調子のいいアカガらしいともいえる考え方かもしれない。

「俺もそう思うよ。将来の事なんて、今は全然考えられないよ。今生きるので、精一杯さ」

 この世界に来てから、危機一髪な出来事ばかりで安泰という言葉からかけ離れた生活しか送っていない。

 しかも俺を雇ってくれるような職業もないから、将来も全く予想できない。


 だから俺の女神からもらった剣に価値を見出してくれるアリスに、一生ついていくしかないかもしれないというのが、怖いところだ。

 アリスについて行ったら、怖い魔物とか魔王の幹部とかと戦い続けなければいけないから、できれば遠慮させてほしい。

 何度死ぬ目に会うか分からない。


 貴族に雇われれば、俺も安泰になるのだろうか。

 でも雇ってもらえる要素がなさすぎる。

 俺の女神の剣を手土産にすれば、雇ってもらえるか。

 いや、アリスのように戦闘狂と言うわけではなさそうだし、難しいか。

 ドンドン前線へと向かっていくアリスと違って、貴族はむしろ戦場なんか出て行かなそうだし。


「将来なんて、不確定なものを考えるよりも、今を考えた方が建設的やろう?オレは今が大事やからな」

「その通りだな。何があるか分からないからな」

「せやな。やっぱり修平とは気が合うな」とアカガは笑った。

「そうだな。気が合うな」

 俺とアカガは肩を組み合う。


 貴族で回りが盛り上がる中、俺とアカガは負の方面で気が合ってしまった。

 俺の事情を知らないアカガとは、考えている全く内容は違うが。


 *


 貴族の訪問が決まって、魔法学校中が浮足立っている気がする。

 普段は静かな昼休みには、貴族の訪問があるからか、あちこちで魔法の練習をしている生徒たちが見れた。

 生徒会室に来るまでにも、火の玉や空中に浮く水があちこちで浮かんでいて、それに当たらないかとひやひやしながら歩いていた。

 あれに当たったら、俺がどうなるか分からない。


 本当にやめて欲しい。


 ただその一言が癒えないのが、悲しい。


 生徒会室では、いつも通り生徒会長とユキ先輩がいて、端っこの方にフリョ・リダのグループがいる。

 しかしフリョ・リダの姿は、未だにない。

 まだ行方不明になってから、戻っていないのだろう。

「フリョ・リダの件はどうなったんだ?」と生徒会長に聞いてみるが、生徒会長は首を横に振る。

「まだ見つかっていないらしい。警察の方で聞き込みを昨日からしているが、まだ全く情報は集まっていないらしい。3日前の話だから、記憶も曖昧になっている頃だろうからしょうがない。自分たちでできることは何もないから、警察に任せよう」

 まだ進捗はないようだ。


「警察の奴は、当てになるのか。本当にあいつを探さしているんだよな。もしかして、あいつが色々としていたから、探していないなんてことはないよな」

 センダイが俺と生徒会長に話しかけてきた。

 興奮しているのか、息が荒い。

 きっと昨日からフリョ・リダが心配で仕方なかったんだろう。

「行方不明者の捜索は警察の仕事だよ。仕事に私情を持ち込まないよ。大丈夫だ、安心して待っていなさい」と生徒会長がセンダイを落ち着かせる。


「本当かよ。俺たちで探したほうが、良いんじゃないか?早く探さないとヤバいんじゃ……」

「落ち着けよ。まだ一日もたっていないじゃないか。警察もちゃんと探しているよ」

 俺も生徒会長と一緒になって、センダイを安心させるように言う。

 センダイは顔をしかめて、「分かった」と言った。

「警察も頑張っているはずだよ。フリョ・リダが見つかった時に、安心させられるように、落ち着いて待っているようにするのが君の役割じゃないかな」

「分かったよ。もし警察から連絡が来たら、俺に一番に教えてくれよ」

「あぁ、分かっているよ。だから安心して待っていてくれ」

 センダイはそう言って、俺が最初に来た時と同じようにフリョ・リダのグループの中に戻っていった。


「センダイ達も限界にきているみたいだね」

「早く解決してほしいものですね」

「そうだね。僕も色々と調べたいんだけど、昨日唐突に貴族の訪問の予定が入ってね。その件で資料を作ったりハンコを押したりしなくちゃいけなくてね」

「お疲れ様です。大丈夫ですよ、俺の方でも調べておきますから。フリョ・リダも警察に完全に任せてしまえばいいですよ」

 フリョ・リダはこの事件のカギを握っていそうなのに、このタイミングで消えてしまうなんて。

 砂化事件の事も気になる。

 まだそちらの方は、何も分かっていないのに時間だけは過ぎていく。

 フリョ・リダが砂化事件に巻き込まれていないかも心配になる。


 そしてまるで俺が今考えていることが分かったかのように、フリョ・リダのグループの中で悲鳴が上がる。

「オレの手がぁ!」

 急いでそちらをみると、フリョ・リダのグループの中の一人の手が砂になっていくのが見えた。

「またか!」と言いながら生徒会長と俺は、その被害者に駆け寄って、その砂になっていく身体を診る。

 俺の手では、どうにもならない。


 生徒会長がその砂になっていく身体へ様々な治療魔法や水・土魔法をかけていくが、全く効果がない。

 俺は周囲を見回して、この魔法をかけている術者を探す。

 窓の外を見ても、そこには誰もいない庭が広がるだけ。

 どこにも人や誰かが隠れて良そうな場所もない。

 扉を開けて廊下に飛び出してみてみるも、そこにはただ生徒たちが魔法を練習している姿が見えるだけだった。

 逃げていく後ろ姿は見えないし、学校指定のローブを着ている人たちばかりで外部から入ってきたような人はいない。


「誰か、怪しい人を見なかったか。知らない魔法を使っている人がここにいなかったか」

 大声を上げて、そこにいる生徒たちに聞いてみるも、誰も分からないようだった。

「くそっ」

「私、先生に伝えてくるわ」とユキ先輩が廊下に飛び出していった。

「お願いします」


 すると「ぐぁあ、イヤだぁ。イヤだ!」と中からの悲鳴が大きくなっていた。

「大丈夫か」

 生徒会室に戻って、砂化していく被害者を見るも、もう胴体しか残っていないように見える。

 悲鳴を上げながら、身をよじり、徐々に末端から消えていく姿は見るに堪えない。

 生徒会長も色々な魔法を試しているが、それも結局なんの役に立っていないようだ。


「おい。おい。しっかりしろ!」

 センダイが悲痛な声で、呼びかけているが、それをあざ笑うかのように砂化は進んで行く。

 そして最後には悲鳴を上げるための肺も砂となり、恐怖の表情を浮かべたまま砂となっていった。


 先生が入ってきたときのは、生徒会室には悲痛なほど重い沈黙が下りていた。

 誰も声を出せない。

 こんなにも近くでまた砂化事件の被害者を出してしまった。

 学長に言われて、俺も気をかけていたというのに、まさかこんな俺の身近でまた起こってしまうなんて。

 いつも騒がしいフリョ・リダのグループも全員、黙り込んでしまったのにはとても胸が痛む。


「君たちは教室に戻りなさい。話はあとで聞くから」と先生が言って、俺たちは生徒会室から離れた。

 教室に戻っても、俺は後悔していた。

 もっと早く犯人捜しを始めれば。

 もっと目を離さずに置いておけば。

 もっと魔法を使えれば。


 そして湧き上がる怒り。

 この砂化事件を起こしている犯人を、許さない。

 何としてでも捕まえてその罪を償わせて見せる。

 例え、何日かかろうと犯人を追い詰めてやろう。

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