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Lv1の剣  作者: 豚野朗
魔法都市
61/206

黒幕たち(アカガ)

「ただいまやで」

 アカガは階段を下りた先の扉を開き、そう言いながら入っていく。

 返事はないがアカガは気にせず、すたすたと奥へ進む。

 そこにあるのは、まっすぐ伸びる廊下。

 魔法の火の明かりが並ぶ金属質な光沢をもつ廊下を、慣れた様子で歩いていく。

 火の明かりの届かない場所は、火の揺らめきによって、まるでその陰の中に恐ろしい生き物がいるかのように影が揺らぐ。

 アカガはまっすぐに廊下の先の明かりのない闇を見つめ、まっすぐに廊下を歩き続ける。

 廊下の右左に現れる扉には目もくれず、


 そして廊下の先に現れた金属質の銀色の扉の前で立ち止まる。

 立ち止まって、髪や服についた埃をぱっぱと払う。

 銀色の扉の表面にはノブはなく、ただのっぺりとした銀色の金属の壁のようにも見える。


 アカガはその扉の表面に指を走らせて、そこに模様を描いていく。

 指が通った場所は、茶色に光る。

 そして一分もしない内に、銀色の扉に大きな人型が浮かび上がる。


 書き上げたアカガは、一歩後ろへ下がった。

 扉の表面の強大な人型は一瞬強く光り、扉にその茶色が広がっていく。

 そして扉はまるで砂になるように、銀色の扉はさらさらと崩れて、そこに人が通れる空間ができる。


 アカガはその現れた空間に、「戻ったやで」と言って入る。

「やっと帰ってきたか。早く手伝え。私だけでは手が足りない」

「はいはい」

「はいは一回で良い」

 アカガは適当な感じで受け答え、カバンを隅の机の上に放り投げる。

 ばしゃっと音がして、留め金が外れ中から教科書が飛び出たが、アカガはそちらに視線を向けない。


 アカガの目線の先には、手術台のようなものがある。

 そしてその上に力なく横たわるフリョ・リダの姿があった。

 目を閉じ、身体をピクリとも動かさず、まるで死んでいるかのように眠っている。

「元気か。フリョ・リダ」

 アカガはフリョ・リダへ声を掛ける。

 しかし返事はない。


「元気やったら、おかしいわな。こんな状態でなぁ」と手術台に近付いて、語り掛ける。

「おい。何を遊んでいる」とアカガはたしなめられた。

「はいはい。ちょっと挨拶しているだけやろ。そんなカリカリするなや、親父」

 めんどくさそうに、アカガは父親に言う。

「ふん。早く用意をしろ。ぐだぐだと時間を無駄に使う時間はない」

 父親は白衣を翻して、スタスタと影の深い方へと歩いていき、扉の向こうへと消えていった。


「はぁ、親父はせっかちやなぁ。そう思わんか?」

 フリョ・リダに聞かせるように、アカガは呟いた。

「ここは相変わらず陰気やな」

 アカガは部屋の中を見回す。


 部屋の中にあるのは、いくつもの牢屋だ。

 その中に何匹もの魔物が歩いたり、寝たり、吠えたりと思うままに行動している。

 アカガは感情のない目で、それを見つめていた。

 魔物同士がじゃれ合ったり、食い合ったりしていることにも目を逸らさず、そして全く表情を変えない。

 魔法学校でのアカガと同一人物とは思えないほどの冷酷な表情だった。


 パシュと不審な音が突然聞こえる。


「進んでいますか?」

「ぼちぼちですわ」

 アカガは返事をするが、声のする方へと顔は向けない。

「実験体はどんな様子ですか?」

「見れば分かるやろ」とアカガは冷たい口調で答え、フリョ・リダの肩をつつく。


「私はそちらの分野に明るくないですから、見せられただけでは分かりません」

「順調なんやないか?オレも帰ってきたばかりやから、知らんのや」

「そうですか。ではあなたの父親を待ちましょう」

 アカガはこれ見よがしに、ため息をつく。

 そしてその人物はアカガの態度を全く気にもかけず、近くの椅子に座った。

 冷酷な目で座る人物を見て、「そっちはどうなんや。順調なんか?ゴジョ―先生、いや、魔王の幹部のリッチさん」と言った。

 不気味な雰囲気を漂わせてピョイ教授と新川の前に現れたゴジョ―先生の正体は魔王の幹部リッチである。

「こちらもぼちぼちです。まだ耐えられる素体はできていない。しかし素体は魔力量を上昇させている。一部成功といえるでしょうか」

 リッチは丁寧な口調で答える。


「あっそ、オレは着替えてくるわ。親父を待っていろや」

 アカガはフリョ・リダの横たわる手術台に背を向けて、近くにある扉に向かう。


 そして着替えを完了させて、戻ってきたアカガが部屋に戻ってくると、リッチとアカガの父親が話をしていた。

「魔力量の上昇は確実にみられている。しかしこれ以上となると、他の魔物と同じ事になりかねない。人間の素体は貴重です。これ以上、無茶なことはできません」

「しかし研究を進めるためには、犠牲はつきものです。ここでたとえ失敗になるともやってみないといけない!」

「そのせいで大事になってきているではありませんか。今は控えるべきです。何年か公にならないように地道に研究をすれば、時期に落ち着くでしょう」

 バンとアカガの父親は机をたたいた。


「そんなに待てるか!俺はあんたのように、何千年も生きられる存在ではない!一分一秒でも、時間が惜しいんだ。挑戦するしかないだろ!」

「人間と言うのは、本当に愚かしいですね。ここで実験が失敗して表にばれたら、続けられないというのに。そんなことも分かりませんか?」

「俺が何年苦汁を飲まされてきたか分かるか?ピョイに奪われた栄光を取り戻す。それが俺の目的だ。ピョイに泡を吹かせられるなら、どうなろうとも関係ない」

「まったく自分勝手な……」

 リッチはため息をつき、あきれた様子で首を振った。

 アカガの父親は、まだ怒りが収まらないようで、ふうふうと激しい息をついている。

 アカガと同じ赤い髪を、乱雑にだらしなく伸ばしている。

 後ろ髪は腰のあたりまで届くほどで、前髪も顔が半分見えない。

 怒りでその赤い髪が振り乱され、長身で細身の身体がアカガからは髪に隠れてしまっている。


「親父の言う通りかもしれんで」

 アカガはそういいながら、リッチと父親の会話の間に入る。

「どういう事ですか?」

「生徒会長が、フリョ・リダがいなくなったことを通報したらしいで。あんたらが、あーだこーだ言っている内にな。言い合いをしていないで、さっさとどちらの話にしておくべきやったな。進むか維持するかってな」

 リッチは顔を大きくゆがませた。


「なぜ、さっきそれを伝えなかった?」

「今伝えようと後で伝えようと変わらんやろ。フリョ・リダが今すぐ戻せない以上、大事になるで。もう四の五の言っていたら、すぐにここも見つかっちゃうんやないか?」

「生徒会長を止めなかったのですか。知っているという事は、お前もそこにいたのでは?」

「ピョイ教授の連れてきた生徒の監視をしろって、オレに言ったのはそっちやろ。仮にも新川修平の友人なんや。修平が心配だって言った事に、ムキになって反対していたらおかしいやろ?」

「あの人間が、こいつの心配をしていたという事か?」

 信じられないというように、リッチは手術台で眠るフリョ・リダを見下ろす。

「せやで。一方的に敵意を向けられて、死にかけたっていうのに。あいつはフリョ・リダがいなくなったことを心配しおった。本当に善人なんや。呆れるほどにな」


「それで心配をした。新川と言うピョイの連れてきた男が、通報したという事か」

「いや、そこでちょっと通報するかどうか揉めて、最終的に生徒会長が責任を取るという形で収まったんや」

「ちっ、貴族連を使って、事件を隠蔽していたが、ここまでか。あの人間は尽くこちらの予想を飛び越える。フリョ・リダを手の内を全く見せずに、道具を使うだけで倒して、さらには憎いであろうに警察なんぞに通報するとは。あっちの事件については、隠ぺいはできたが、こちらの件になるとフリョ・リダの安否が確認できないと終わらないだろう」

 リッチは苦虫をかみつぶしたような顔をする。

「仕方ない、イルスの案にする他あるまい。ここを破棄するにも、実験は最後までしておかないと損です」

「だから私の案になると言っただろう」とアカガの父親、イルスは笑って言った。


「調子に乗るな。今回はその生徒会長とやらに感謝するように。あいつもピョイ教授の息がかかった人物なのを忘れるな」

 リッチはイルスにくぎを刺す。

 しかしイルスは全く意に介さず、「さぁ、本番だ。これでピョイを超える!」と既に後ろを向いて、実験をするために道具を取りに行っている最中で全然聞いていない。

「実験となると、こいつはいつもこうだ。やるとなれば、こちらも準備をしなければならないな。派手なデモンストレーションにしなければ。もう少し実験を見ていたかったが、こちらも予定ができた。私は戻る」

「了解やで」とアカガが答えると同時に、リッチの姿は闇に消える。


 残ったアカガは、壁際の実験道具を忙しくあさる父親の後ろ姿を見る。

「親父だからな、仕方ないんや」

 イルスの背中を見ながらアカガは、そう呟く。


「親父だからな。俺の親父だから。最後までついていくしかないんや」

 何度も自分に言い聞かせるように、闇に向かって言った。

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