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Lv1の剣  作者: 豚野朗
魔法都市
57/206

初めての休日(映画)

「時間通りやな。遅刻してきたら、面白かったんやけどな」

 俺が約束の場所に着くなり、アカガはそんなひどい事を言った。

「また生徒会長を待たせるわけにはいかないだろう。すみません、俺が最後でしたか?」

 待ち合わせは大通りにある大昔の勇者一行一人である魔法使いの像の前だった。

 そこでアカガと生徒会長とユキ先輩の三人は既に来ていて、立ち話を始めていた。

「いやいや、まだ全員ついたばかりだよ。さぁ、行こうか」

「せや。行こう行こう!まずは流行りの映画やで。主演はシュエン・ヒーローで、異世界に転生するんやって。面白そうやろ」

 アカガは俺たちを先導し、歩き始める。


「知っているわ。友達が見たって言っていたけど、私はまだ見ていなかったのよ。楽しみだわ」とユキ先輩が言った。

「僕も知っているよ。今、有名だよね。その映画、なんていう名前だったかな」

 生徒会長もこの映画を知っているみたいだ。

 それにしても、この世界でも映画があるとは。

 この世界に来てから、戦いに巻き込まれ続けていたせいで全然娯楽をする余裕がなかった。

 そもそも一文無しだったから、何もすることができなかった。

 しかし今はピョイ教授からお金をもらっているので、こうやって遊ぶことができる。

 本当にピョイ教授には感謝したい。


 *


「面白かったな。まさか最後にあんなどんでん返しがあるなんてな」

「ええ、異世界だと思っていたのが、未来の同じ世界だったとはね。あの最初の妙に長いプロローグが見事に伏線になっていたわね」

「しかも敵が主人公の元の、いや、過去に残してきた恋人だったなんてね。長い間一人で、孤独に戦ってきた姿には泣きそうになったよ」

「せやろ、せやろ。滅茶苦茶感動するやろ」

 映画を見た後、俺たちは喫茶店に入り、お互いに感想を言い合う。

 簡単に言えば、大絶賛だった。


 それは生徒会長やユキ先輩も同じ感想のようで、頼んだコーヒーが冷えてしまうほど、映画の話は尽きなかった。

 主人公のアクションも魔法がある世界だけあって、激しくてかっこよかった。

 演出も魔法を使っているのか、爆発も登場人物を飲み込みそうなほど大きいし、街を壊したりトンネルを埋めたりというような事もふんだんに使っていて、まったく飽きなかった。

 魔法で空を飛びながらのチェイスやCGではない現実の魔法を使っていて、魔法で本当に戦っているらしく迫真の演技だった。

 この魔法の世界では、映画も魔法を使った演出をしているようだ。

 魔法世界独自の進化を見ているようで、面白かった。


 それに主人公も俺と同じ境遇だったので、凄く共感してしまった。

 異世界に突然飛ばされお金も全く持っていない中で何とか生活しようと四苦八苦する姿や自分の知らない常識に戸惑う姿が自分と重なる。

 生徒会長たちと違う意味で、この映画に感動してしまった。

 ただ異世界から来た人間でレベル1だという事はピョイ教授との約束で秘密にしなければいけないので、生徒会長に共感してもらえないのが残念だ。


「例えば、生徒会長が異世界に飛ばされたらどうするんや?誰も知っている人がいなくて、お金もなかったらどうするん?」

 アカガが生徒会長にそんな質問をする。

 まさに自分のことのようで、心臓がどきりと飛び跳ねた。

 俺のことを知っている人なんて、ピョイ教授とアリス以外にはいないし、アカガがまさか知っているはずがない。


「うーん、どうだろう。映画の中だから都合よく助けてもらえていたけど、実際は一人でお金を稼がないといけないだろうね。他の世界の常識に合わせて、金銭を稼ぐのは大変だよ。それに親や友人がいない世界なんて、寂し過ぎると思うよ」

 生徒会長の言葉が俺の心にドンと重くのしかかる。


 親や友人のいない世界。

 色々なことに巻き込まれて、忙し過ぎて忘れていた。

 俺にいつも美味しいご飯を作ってくれた母親も厳しい事を言いながらも最終的に俺のしたいようにしてくれた父親ももういない。

 俺と一緒に楽しく遊んだ友人たちも、この世界にはいない。

 忘れていた孤独感がいきなり心に押し寄せてきた。


 周囲が突然暗くなって、心の中から寂しさが洪水のようにあふれ出してきた。

 親や友人との思い出が、頭の中でフラッシュバックする。

 親と一緒に夕食を食べた時の思い出や友人と遊びに行った時の記憶。

 そんな俺が元の世界で生きてきた記憶が、まるでホースの出口を塞いでいたものがなくなって水が勢いよく噴き出すかのようにあふれ出してくる。

 何故こんなタイミングでと、愚痴る余裕もなかった。

 勝手にあふれ出して、脳内にあふれ出す記憶達は、津波のように俺をさらって、寂寥と孤独の感情に溺れさせた。


「ど、どうしたんや、修平!なんや、腹でも壊したんか?何で泣いているんや」

 アカガの慌てた声が聞こえた。

 言われて初めて、自分が鳴いていることに気付いた。

 目を拭うと、ぐっしょりと袖が濡れる。

 滝のようにという表現がぴったりなほどだった。


「いや、何でも、ないよ」

「何でもなくはないやろ。なんかあったんか?」

 アカガは俺の肩をぽんぽんと叩きながら、話を聞いてくる。

 元の世界に残してきた親や友人たちを思って泣いていたなんて、異世界から来たことを言えないから説明できない。

 でも生徒会長やユキ先輩まで、心配そうにしてきて、「ココアでも頼んでおこう。飲むと落ち着くよ」と追加の注文までさせてしまった。

 ここで何にもないと言い続けても、しょうがないだろう。


「さっきの映画を思い出して、実家に残してきた親の事を考えていたら、ね」

 この言い訳なら、異世界から来たという事をぼかしつつ、本当のことを混ぜているのでごまかせるだろう。

 俺の言葉を聞いて、3人はあからさまにほっと安心したような表情をした。

 嘘が混ざった言葉なので、少しだけ罪悪感を抱く。


「良かったよ。体調が悪くなったとかなくて」

「そうやで、急に泣き出してびっくりしたで。ほんと、心臓止まるかと思ったんやで」

「ごめん。話聞いていたら、突然来てさ」

「ホームシックね。新川くんの親御さんって、どういう人たちなの?」

 俺の親かと、頭をひねる。


「普通のどこにでもいる親かな」

 ひねり出した答えが、そんな答えだった。

「どこにでもいる親?抽象的な答えだな」と生徒会長はイメージがわかないようで、少し戸惑った表情をする。

「でもそれ以上になくて、何と言うかこう、特筆するようなこともないっていうか。どこか凄いっていう事もないし、俺をぶん殴るみたいなDVをしてくるような人ではなかった。だから普通の親だよ」

「そういうものか。だとしたら、僕の親も普通の親かな」

「それはないやろ。生徒会長の親は、筆頭魔法使い夫婦やないか。あれが普通とかありえへんで」

 生徒会長の親は、アカガの言い方からすると、とても凄い人らしい。


「そんな事はないよ。僕から見たら、普通の親だよ」

 生徒会長は少し照れながら、アカガの言葉を否定する。

「そうよ。あなたの親が、普通とかありえないわよ。だったら、私の親はなんなのよ。ただの王都の魔法使いよ」とユキ先輩が笑いながら言う。

「それも凄いやろ。王都で働いているとか、勝ち組やで」

 ユキ先輩の親も凄い魔法使いみたいだ。


「アカガの親はどんな人なんだ」

 流れで俺はアカガにアカガの親について尋ねた。

 単純に俺から生徒会長、ユキ先輩と順番に軽く語ったから、何気なくアカガに聞いただけだ。

 しかしアカガは先ほどまで流ちょうだったのに、唐突に口を閉ざしてしまった。

 眉間にしわを寄せて、何かを考えているようだ。


 何か変な地雷でも踏んだのかと、心の中で焦り始めたとき、「オレの親は、普通じゃないかもしれんな」と言った。

「ふ、普通じゃない?」

 唐突なアカガの告白に、俺は少し動揺する。

「せや。オレの父親は、変わり者でな。時間があれば、研究ばっかりしているんやで、変わっているやろ?」

「それは、まあ、変わっているかな?」

 俺に振られて、あまり考えずに頷いてしまう。


「せやろ。研究ばかりしている、研究バカや。食べることよりも好きなんやで、ありえへんやろ?」

「アカガも大変だな」

「分かってくれるんか、修平。本当に修平は心の友やで」

 アカガは俺の肩をバンバンと力強くたたく。

 ふざけているんだろうけど、その叩く威力が強すぎて、俺はぐわんぐわんと揺らされる。

「ちょ、やめて。叩くのは、痛いから」

「おっと、すまんすまん。興奮してしまったんや。修平は意外に弱いんやな。フリョ・リダにも勝ったのにな」

「それは、まぁ、適材適所って奴だよ。俺は身体が弱いんだよ」

 レベル1だから、身体が弱いとかそれ以前の問題だけど。


「オレの親はこんな感じや。ちょっとおもしろかったやろ」

「あぁ、アカガの父親は意外だったな。研究者だったんだ」

「ふふふ、そうやで、何を研究しているかは企業秘密やで」と笑いながら、アカガは言った。


 そして俺たちは軽く食事をして、次のアカガおすすめスポットへと向かった。

 その日一日、さんざん遊び倒したおかげで、俺の唐突なホームシックは治ったようだ。

 生徒会長にお礼の品を渡し、フリョ・リダの件のお礼をすることができた。

 それから夕食をみんなで食べた後、解散した。


 アカガや生徒会長、ユキ先輩と楽しい一日を過ごすことができて、とても満足した。

 そしてアカガの意外な家族関係を知ることができた。

 アカガの研究バカな父親にあってみたいものだなぁ。

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