すごろく(運)
「なるほど。学長とそんな話をしたのか。なんとも皮肉な話だね。フリョ・リダ君たちを守るために、君が監視することになるなんて」
「そうなんですよ。うけたもののどうしたものかと……」
学長と会話した後、ピョイ教授の部屋へと戻ってきた。
そしてカノンと双六を遊びながら、ピョイ教授に学長との会話を説明する。
「やるしかないんだろう。もちろん、君が嫌だと言えば、学長も無理強いはしないさ。特にフリョ・リダ君は君に敵意を持っているわけだからね」
フリョ・リダの敵意は自分には、理解できないものだから。
確かフリョ・リダのグループの一人が砂化していく時に、その人を助けようとした俺が邪魔だと言ってけんかを売ってきたんだった。
俺の行動の何が、フリョ・リダの逆鱗に触れたのだろうか。
そのまま売り言葉に買い言葉で、魔法実習の戦いになってしまったから何が何だか分かっていない。
フリョ・リダがどういう意志で俺を敵視していたか分からない。
でもそうであっても、俺はそれよりも嫌なことがある。
「受けることにします。目の前で死ぬ人が増えるのは、俺は嫌ですから。例え、イヤな奴でも俺は助けたいと思います。誰にフリョ・リダたちは狙われているのか分かりませんけど、死んでしまうのは悲しいから」
「優しいねぇ。それが君の魅力かもしれないけれど」
ピョイ教授はため息交じりに言った。
さいころを床に振って、六の目が出る。
駒を進めて、そこに書かれている文字を読む。
「一回休みだ。カノンは順調だな」
カノンの駒は10マス以上も先を進んでいた。
そして次に振ったサイコロで、またも1マス進むのマスについた。
カノンは運がいいのか、毎回良い効果のマスにつくから、俺の駒とカノンの駒で差がついてしまった。
一回休みとか戻る系のマスに止まるのは俺ばかりだ。
「カノンって運がいいんですね。ピョイ教授、魔導心臓を持っていると運がよくなったりするんですか?」
適当にピョイ教授と会話を続けるために、そんな風に話を振る。
ピョイ教授は、「そんな事はないよ」と魔導心臓と運の関係性を否定した。
俺もそれが本当に関係していると思っていないし、当然の返事だ。
「そうだったら、こんなに外出許可が取れないなんてことはないだろう」
「それもそうですね」
「ま、カノンが良いマスに泊まっているのは、狙って出しているからだよ」
「はい?今、なんて言いました?」
聞き捨てならない言葉が、聞こえた気がした。
「だからカノンはサイコロを狙って出しているんだよ。だから運がよく見えるだけ」
「マジですか?えっと、カノン、六を出してみて」
目の前で相も変わらずメイド服のカノンに、確認のためサイコロを振って六を出すように言ってみる。
「ハイ」とカノンはサイコロを転がして、見事六を引き当てた。
「ダメじゃん!すごろくは運のゲームなのに、狙って出せたら、ゲームにならなくなっちゃう」
「ダメなのですカ?」
カノンは罪悪感もなく、不思議そうに首を傾げた。
「ダメではないよ。カノン、ぼこぼこにしてあげなさい」
「ぼこぼこに?修平は殴らレタラ死んでシマイマス」
「比喩だよ。比喩。すごろくで完璧に勝ってみなさい」
「ちょっと……。俺だけ運ゲーは、おかし……」
「ハイ」
カノンが返事をして、そのまま続けることになった。
そしてピョイ教授の指示通り、俺はカノンに大差をつけられてゴールされてしまった。
レベル1の俺でもいい勝負ができるかと思って、俺から双六を選んで遊んだのに、むしろ加減のない一方的なゲームとなった。
「モウ一度、ヤリマショウ」
「待って。えっと……、ピョイ教授、コップってありませんか?」
「コップ?ああ、なるほどね。そこの棚に入っているよ」
ピョイ教授が指さした棚を開けて、中からできるだけ汚れていそうなコップを取り出す。
ちょうどいいコップを取る。
中にいくつもあったし、このコップなら壊れても構わないだろう。
「カノン、次からのすごろくは、サイコロをこの中に入れて、振ってから伏せるんだ。こんな風に……」
手本を見せる。
そしてコップを持ち上げると、サイコロが出てくる。
これなら、きっとカノンであってもランダムにできるはずだ。
俺は駒を進めて、コップをカノンに渡す。
カノンも真似をして、サイコロを振り、1の目が出た。
そのマス目は一回休みだ。
よし、これで証明できたぞ。カノンもこのやり方なら、サイコロの目を狙って出せない。
これからはこれでサイコロを振らせよう。
そしてカノンとすごろくでいい勝負を続けながら、ピョイ教授に話しかける。
「ピョイ教授はゴジョ―先生に恨まれているように見えると、学長から聞きましたけど、何か心当たりってあるんですか?学長自身は、ピョイ教授がゴジョ―先生に恨まれるような関係ではなかったと聞きましたけど」
「ゴジョ―先生?うん、ないね。私はこの通り、部屋に引きこもってる人間だからね。ゴジョ―先生のようにアクティブな研究者ではないんだよ。研究発表の場に居合わせて、軽い挨拶をするような関係でしかないよ」
「そうですか。でもカノンの外出許可を否定続けるほどですよね」
「そうなんだよ。もしかしたら、カノンを作ったという研究に嫉妬されているだけかもしれないけれどね」
「嫉妬ですか……」
嫉妬っていうならありそうだけど、それでも学長の権力をはねのけてまで、頑固になるようなものではないように思う。
「そうだねぇ。私を目の敵にしてそうな人ね……」
ピョイ教授の方を見ると、目をつぶっていた。
まるで何かを思い出しているかのように。
「誰か心当たりはありますか?」
サイコロを振りながら、ピョイ教授に確認する。
ピョイ教授に敵意を抱いている人がいるというのであれば、その人を説き伏せれば、カノンの外出許可をもらえるかもしれない。
しばらくピョイ教授は黙っていた。
俺とカノンの間で5巡くらいした時、ピョイ教授は重々しく口を開いた。
「特にいないね」
特にいないのかよと心の中で突っ込む。
そして俺はまたしてもカノンにすごろくで負けてしまった。
カノンの運がいいのではなくて、俺の運が悪いのかもしれない。
*
「新川、久しぶり。元気だった?」
アリスがひょっこりと部屋に入ってきた。
カノンとのすごろくが3戦目のゴール目前になってきたときだった。
最初に出会った時のように、深くローブを被ってまるで不審者のようないでたちだ。
彼女は王女だから仕方ないけれど。
ローブを取ると、キラキラと輝くような金髪と透き通った瞳が現れる。
「ふぅ、もう暑いのよね、これ」
「お疲れ様。逆にこんな姿で歩いていたら、不審がられないのか?」
「大丈夫よ。基本的に人が通らない路地裏を歩いているんだから」
「路地裏を女子が一人で歩いて、危なくないのか?」
「私が女子に狼藉を働こうとする腰抜けに負けるとでも?」
ぽんぽんと腰に差した剣を叩いて、自信満々に言う。
それもそうか、魔王の幹部と邪悪龍ディアブロとタイマンを張っていた王女様なんだから。
ここ最近、アリスと離れている時間が多くて、アリスがとんでもない化け物だという事を忘れていた。
外見は本当にカノンと負けず劣らずの美女だから困る。
「それでアリスは今日は下水道の調査はなかったんだ」
いつも下水道から出てくるときは、女性がさせてはいけない匂いをさせて出てきたけれど、今日はそんなにおいはない。
それに下水道から帰ってくる時と全く違って、普通に廊下側から入ってきた。
「そうよ。今日はお休み。それと修平は明日から休みらしいけど、時間は空いてる?」
「えっと、明日は生徒会長とアカガ達と一緒に買い物に出かけて、その次の日は……」
「私と修平の遊ぶ日デス」
カノンが俺の言葉に継いで、アリスに伝えた。
すごろくをしながら、そんな約束をちょうどしていたのだ。
「明日は午後からだから、午前中なら空いている。それでなんかあるのか?」
「ええ。私とデートしましょう」
「ええ!な、ななななに言っているんだ!?と、と突然!」
突然のデートのお誘いに、俺はびっくりして口がうまく回らない。
「下水道に強そうな魔物がいるから、それを討伐に行きましょう」
続けて言ったアリスの言葉に、安心する。
「良かった。冗談はやめろよ。びっくりするだろう。って、ええ!魔物?」
「魔物よ。ちょうどここに来る時に出会った魔物が出たのよ。あの魔物だったら、普通の剣だとてこずるからあなたに来てほしいの。お願い、来てくれないかしら?」
アリスがてこずるような魔物をそのまま放置しておけない。
俺はアリスのお願いに頷いた。
「よし。明日の朝、貴方の部屋に迎えに行くわ。臭くなってもいい服を着てくるようにね。選択しても取れなくなっちゃうんだから……」
アリスは少し悲しそうな声で言う。
おそらく何枚か服をダメにしたのだろう。
明日は魔物退治。
フリョ・リダとの戦いがあって、また戦いに引きずり込まれてしまった。
俺の安息の日はまだ訪れないようだ。
そしてカノンと遊び終わった後は、普通に魔法道具店へ買い物に行き、何事もなく帰路についた。




