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Lv1の剣  作者: 豚野朗
魔法都市
51/206

カノンの願い(心臓)

「おかえり。無事乗り越えたみたいだね」

 ピョイ教授が出迎えてくれた。


「はい。何とかなりました。小麦粉ありがとうございました。それとお金も。おかげで助かりました。それと余ったので返します」

 余った小麦粉を机の上に置く。

「私は君ならなんとかできると思っていたよ。でもよくもまあレベル1で、魔力量3位に勝てたものだね。しかも魔法なしで、小麦粉と火の魔石だけで」

「そうでもないですよ。ピョイ教授のおかげですよ。小麦粉もお金も頂いちゃって」

「ふっ、それでも実際に戦ったのは、君だろう。私がした事なんて、しょうもない手伝いでしかないよ。どちらも私にはどう使うかなんて、分からなかったからね。まぁ、それでも私に感謝してくれるというのなら、昨日から落ち着きのないメイドの相手をしてほしい」

 ピョイ教授が言うと同時に、カノンが隣の部屋からバンと扉を勢いよく開けて出てくる。

 やはりメイドの恰好だった。


「修平、良カッタ。どうヤッテ、死ななカッタ?修平の相手、凄く強いハズ、修平はイチコロ。消し炭にナル。ドウシテ、生きてイルノ?」

 カノンはピョイ教授から話を聞いているらしく、俺が生きて帰ってきたことがとても不可解に感じているそうだ。

「昨日から君のことを心配していたんだよ。私が君の今置かれている状況を説明したら、修平を戦わせたら死んじゃうだの、今すぐ講義を止めさせろだの、もう昨日からずっとだよ。もう仕事も手に突かないったら、ありゃしない」

 ピョイ教授がやれやれと肩をすくめる。


「心配してくれて、ありがとう。大丈夫だよ。ピョイ教授が手伝ってくれたし、友達も協力してもらったんだ。だから勝てたんだよ」

「一人で戦ったノデはないデスカ?」

「一人で戦ったけど、助けてもらったんだよ。ピョイ教授とかアカガとか生徒会長とかにね」

「ピョイ教授はずっとここにいマシタ。どうして手伝えるのデスカ?」

 カノンはまだぴんと来ていないようだ。


「それに、カノンのおかげでもあるんだからな。一昨日、ケーキを作りたいって言ってくれなければ、小麦粉は簡単に手に入らなかったんだから。カノンもありがとう」

「私が?」

「そう。カノンがケーキを作ってくれたからだよ」

「本当?私が、修平の命を救ッタ?」

「うんうん」

「なら、私は修平の命の恩人?」

「うん。そうだね。カノンは俺の命の恩人だよ」


 簡単に肯定すると、カノンは「ナラ、修平は私のお願いをカナエてクレル?」と言った。

 何だろうか。

 命を助けたお礼に助けてもらえるみたいな話を参考にして、言っているのだろうか。

 鶴の恩返しみたいな話が、この世界にもあるのかもしれない。


「どうですカ」

 カノンがぐいと顔をキスができそうなほど近くに寄せてきた。

「うん。もちろんいいよ」

 綺麗な顔が、目の前に迫られて思わずうなずいてしまう。


「私を外に連れ出シテ」


 その願いは、ピョイ教授の願いと同じだ。

「私は外のセカイを見てミタイです。本の中デハ、美シイ城や荒々シイ海、色トリドリノ花畑、そんなものが外のセカイにあると書いてアリマス。ソレを私はこの眼で見てミタイ。ソノタメニハ、ここから出なケレバ、イケマセン」

 カノンの外の世界の景色は、本の中の物語の中にしかない。

 その物語の中の景色を見てみたいという事だろう。


「もちろんだよ。カノン、外の世界を見に行こう」

 俺は言ってみて、懐かしさがよみがえる。

 こんなような言葉を俺は前にも言ったことがある。

 ミコ・テンプル。

 エルフの里にいたエルフの少女。

 そして自分の初めての恋人だった人。


 彼女も邪悪龍ディアブロを封じたユグドラシルを守るために、エルフの隠れ里の里長として囚われてきた。

 そして彼女ともし役目が終わったら、一緒に旅をしようと約束した。

 だけどそれはかなわなかった。

 邪悪龍ディアブロを倒すために、その身を犠牲にしたのだ。

 俺は何もできなかった。

 ただレベル差という暴力になされるがままだった。

 自分の無力さに打ちひしがれた瞬間だった。


 救えなかった人と同じ願い。

 だったら、それはかなえたい。

 カノンに迫られてあまり考えずに頷いてしまったけれど、その願いを叶えよう。


「ピョイ教授、カノンの外出ってどうやればできるんですか?」

「うん?カノンの外出許可かい?」

「はい。俺にできることなら、なんでもやります」

「なんでもと来るのかい。んー、まぁ、君にはこのままカノンのお世話をやってもらえればいいかな」

「それでいいんですか」

 俺が確認すると、ピョイ教授は頷いた。


「カノンの外出許可を得るためには、カノンが安全であると教授連に証明しなければいけないんだ。証明出来たら、学長の承認を得て、それで外出許可が下りる」

「安全っていうのは、暴力をしないっていう事ですか?」

「もちろん。それも含むけど、もっと単純なところで言うと、カノンに取り付けている魔導心臓が事故を起こさないかっていうのもあるね。町の中で本当に爆発しないのかってね。これは私の仕事だから君には君の言った通り、カノンに様々なことを教えて、人間の社会や付き合い方を教えてあげて欲しい。それこそ暴力を振るわないだとか、勝手に人の者を盗んだりしないとか。そんな事をね」

 ピョイ教授はつらつらと滑らかに説明する。


「俺はカノンに犯罪をしないようにっていうのを教えればいいんですか。それと魔導心臓っていうのは?」

「そうそう。簡単なもので良いからね。それで教授連に報告書をまとめて持って行って、安全だよねって言ってもらえれば許可が出る」

 そこでいったんピョイ教授は言葉を区切り、紅茶を飲んだ。

「それと魔導心臓っていうのは、人間の心臓と同じ位置に収めているカノンを動かしている魔法道具さ。君に渡した杖に付いている宝石のようなものだよ。無限に魔力を発生させる装置さ。もっと複雑で強いものだけどね。カノンはこれで命を得ているのだよ。身体を動かしたり、考えたりするのもね」

「その魔導心臓っていうのは、危ないんですか?」

 ピョイ教授は首を横に振る。

「全然危なくないよ。だって魔力を発生させるだけの道具だよ。何が起こるっていうんだ。魔力を使って作動する装置なら、魔力があらぬところで作用して動いてしまうっていう事もあるかもしれないけど、これは発生させるだけだよ。魔力がいつどれだけどこで発生しようと、動作には何も変わりようがない。その魔力はカノンの人格が完全に制御している。問題なしさ。カノンを作ってから何年たっているというんだ。もうそこら辺のデータは完璧さ」


 そしてピョイ教授は深いため息をつく。

「だけどカノン自身の安全性の保障ができないっていうんだよ、頭の固い教授連がね。私のひいき目でみて安全って言っているんじゃないかって。だから第三者である君の出番って訳さ。明日、学長の所に行って、カノンの状況について説明してきてね」

「はい。はいぃ?学長ですか、聞いてないんですけど。明日?」

「今言っただろう。それにカノンの事を正直に言ってくれれば構わないよ。君の思ったことを言えばいい」

 簡単に言うけど、その思ったことを言うっていうのが一番難しいんじゃないか。

 でも「分かりました」と受け入れる。

 カノンを外に連れ出してあげられるなら、自分ができることをやっていかないと。


「学長にでも話しますよ。カノンが外出できるなら」

「おお、その意気だ」

「修平、頑張ッテ」

 ピョイ教授とカノンが応援してくれる。

 よしと心の中で気合を入れた。

 カノンの願いをかなえてあげなければ。


 そして俺とカノンはこの後、めちゃくちゃ遊んだ。

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