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Lv1の剣  作者: 豚野朗
魔法都市
50/206

レベル1の戦い(大爆発)

 俺は魔法訓練場へ入った。


 先ほどのアカガとハクの戦い後のため、土が隆起したり少し濡れていたりしている。

 この広い空間に先生と俺、そして今入ってこようとしているフリョ・リダだけだ。

 そしてコロシアムのように、上から観客の生徒たちが見ている。

 観客席にゴジョ―先生がいるのが見えた。

 そうか、やはり昨日言ったように、俺の実力を見ようって腹だろう。


 フリョ・リダと戦い、生き残る。

 それが、この戦いの目的だ。

 例え、みっともない戦いだとしても、生き残れば俺の勝ちだ。


 フリョ・リダは指定位置につくと、にやにやと馬鹿にするような笑みを浮かべる。

 俺なんか簡単にひねりつぶせると、嘲り切った顔だ。

 おそらくどんな風にいたぶってやろうかと考えているのだろう。


 だけどすんなりと行くとは思わないでもらいたい。

 俺にだって、秘策があるんだから。


 先生が「始め」と掛け声とともに、フリョ・リダが掌をこちらに見せる。

『ファイア・ボール』

 掌に巨大な火の玉が現れる。

 ニヤリとフリョ・リダが笑い、火の玉は俺に向かって放たれた。

 空気を焼きながら、火の玉は俺に向かって飛んでくる。


 命中すればレベル1の俺だったら、即死する魔法だろう。

 だから素直に当たってやるつもりはない。

 袋の中から火の魔石を握り、襲い来る火の玉に向かって投げつける。

 火の玉と火の魔石は重なり合い、火の玉の中に呑まれてしまう。


 俺は近くの隆起した岩に隠れる。

 ズドン。

 火の玉は俺にぶつかる前、火の魔石を取り込んだ瞬間に爆発した。

 爆風と爆炎がまき散らされる。

 岩の影に隠れたおかげで、俺は巻き込まれずに済んだが、フリョ・リダは「うわぁ!」と悲鳴を上げる声が聞こえた。

 フリョ・リダは油断してくれていたおかげで、もろに食らってくれたようだ。

 ありがたい、連続で出されたら、俺もかなり苦しい事になっただろうから。


 火の魔石は火の魔法を発動するために必要なんだが、火の魔石を既に発動した魔法に当てると、火の魔石に含まれた魔力で暴走する。

 この方法なら、俺に実力がなくても防ぐことができる。

 これが俺の秘策。

 火の魔法を自慢げに見せてきたことが、フリョ・リダのミスだ。


「くそっ、どこ行きやがった!」

 しかも俺を見失ったようだ。

 これは都合がいい。

 俺は奴から距離を取りたいから、この間に外周の方まで逃げてしまおう。


 見つからないように岩の影に隠れながら、こそこそと移動していると、「めんどくせえ!『ファイア・アローレイン』」とまだ一分もたっていないのにフリョ・リダはしびれを切らしてしまった。

 岩の影からフリョ・リダを見ると、上に手を掲げている。

 そしてその手から炎が細い矢となって空に発射されていた。


 それは放物線を描き、フリョ・リダの360度全方向へと巻き散らかされた。

 くそと心の中で悪態をつきながら岩に背中でぴったりとくっついて、火矢の雨に当たらないようにする。

 こんな広範囲の魔法があったなんて、一発でも当たったら大惨事だ。

 まだ十分に距離が取れていないのに、こんな所で足止めを食うなんて。


 いや、これだけ火矢が降っていれば。

 火の魔石を一つ取り出して、岩の影から思いっきり遠くへ投げる。

 びっとまっすぐに横へ飛び、ころころと転がっていく。

 そして火矢の一本に当たり、ドカンと大きな音を立てて爆発した。


「そこかっ」

 フリョ・リダは爆発につられて、そちらに注意が良く。

 それと同時に火矢の雨の魔法が止まる。

 よしと小さくガッツポーズをした。


 どんどんと魔石を転がしたあたりで爆発音がするが、それを無視してフリョ・リダのいる魔法訓練場の中央から離れていく。

『ファイア・ボール』『ファイア・ボール』『ファイア・ボール』『ファイア・ボール』

 フリョ・リダが魔法を何度も放つ。そのたびに激しい爆発音がする。

 それにしても魔法を連打しすぎだろ。

 隠れられたのは、運がよかった。

 正面から連射されていたら、火の魔石が足りなくなるところだ。


 フリョ・リダの気がこちらに向いていない内に、移動し続ける。

 岩の影から影へと、ばれないようにこそこそと動いていく。

 このママ距離を取ってしまえばと考え、腰につけた二つの紙袋を見る。

 これを使えば、フリョ・リダに……。


 その時、ズドンとすぐ近くで爆発が起こった。

 すぐに岩の影に隠れる。

 フリョ・リダが『ファイア・ボール』を撃ってきたのだ。

 岩の影に隠れて動いていたのに、何故と思ったが、すぐに分かった。

 観客席の方で、不良生徒たちが俺の方に回り込んで俺を指さしている。


 俺の隠れている岩に『ファイア・ボール』が命中する。

 背中からの衝撃で息が止まりそうになった。

 せき込みながら、これは当たる訳にはいかないと思った。

 こんなのに当たったら、一撃で死んでしまう。


 俺の周囲に何発も火の玉が撃ち込まれる。

 右から左から、爆風が俺を襲ってきた。

 これは動けない。

 岩の影から狙えば、一発くらいは火の魔石で防げるかもしれないが、こう何発も撃ち込まれては動くこともできない。


 ここでやるしかない。

 距離が取れているか分からないが、フリョ・リダは魔法訓練場の中央にいるのを確認して、この場所で実行することに決めた。

 大体100mくらい俺とフリョ・リダとの距離は取れている。

 これなら大丈夫……かもしれない。

 やるしかない。


 フリョ・リダの火の魔法が頭の上を通り過ぎるのを確認した。

 その瞬間に立ち上がって、腰に下げた紙袋を思い切りぶん投げる。

 次の火の魔法が俺のすぐ近くまで迫っていて、岩の影に隠れた。

 すぐ上を、その魔法が通り過ぎていく。


「なんだ、コレ……。ぺっ、ぺっ。くそっ、見えねえ。毒か!?」

 毒ではない。

 ただケーキを作った時に出た余りの小麦粉だ。

 すぐに起爆するかと思ったけど、これなら逃げる時間くらいは確保できる。


「こっちだ!一発も当てられないのか、ノーコン!」と叫んで、フリョ・リダを煽る。

「何だと、ごらぁ!」

 フリョ・リダは煽りに乗ってくれる。

 全く煽りに抵抗力がない。


『ファイア・グレネード』

 フリョ・リダが唱えた瞬間、魔法訓練場が光ったように感じた。

 よくある粉塵爆発だ。

 粉塵が待っている中で、火をつけると燃焼速度が加速して、爆発するという。

 フリョ・リダの火の魔法なら、その効果を何倍にでも引き上げられる。

 もちろん、それは火の魔法を使った本人へと向かう。


 粉塵爆発の熱と風は俺の背中を焼いて、背中から突き飛ばされるように転んでしまう。

 辛うじて顔面だけは腕で守ったが、思い切り転んでひざを地面にぶつけてしまった。

 痛いなどと喚いている暇はない。

 背後を向いて、粉塵爆発の結果を確認する。


「くっ!」

 その光景を見て、歯噛みする。

 小麦粉は爆発ですべて飛んで行ってしまって、はっきりと見えた。

 堂々とその中央に立っているフリョ・リダの姿が。

 さらに最悪なことに、先ほどの爆発で隠れるような近くにあった土や岩の隆起がすべて消え去っていた。

 これでは隠れる場所がない。


 しかも彼の真上には、巨大な炎の塊が浮かんでいる。

 轟轟と激しく燃えている音が聞こえてきた。

 あの邪悪龍ディアブロの出した焔とは比べるべくもないが、この近さでこれだけの大きさがあれば俺は骨も残らないだろう。


「なんだか、良く分からねぇが、あれがお前の作戦か?だとしたら、失敗だったな。俺様のような魔法使いには結界があるんだよ」

 そうなのだが、更に調子に乗らせてしまうので肯定はしない。

 さっきのアカガとハクの戦いでも見ていて悟ってはいたが、結界を張るだけの力量はあったらしい。


 全くうまくいかない。

 紙袋はもう一つ用意していたが、単純な奴だからと言ってまた引っかかるはずがないだろう。

 このままあれが放たれれば、たとえ火の魔石で誘爆させたとしても、あのデカさと威力ならあいつは助かり俺は爆発に巻き込まれ死ぬ。


「さっきの爆発の火は、全て俺様が制御した。見ろよ。こんなデカいのは、俺様でも見た事ねぇぜ。これをお前は耐えられるかな」

 フリョ・リダのあの火は、俺の粉塵爆発によってできた爆発の火だった。

 俺はあいつに最悪の武器を渡してしまったのか。


 だけどまだ放たれていない。

 何とか起死回生の一手は……。


 その時、びきびきと音がした。

「何の音だ?」

 俺はその音にはっとして、フリョ・リダの足元を見る。

 フリョ・リダの周囲の地面にヒビが入っていた。

 そのヒビはフリョ・リダを中央にして、徐々に広がっていく。


「俺は負けない!お前なんかに!」

 俺は咄嗟にフリョ・リダの気を引く。

 絶対に足元と音に気付かれてはいけない。


「何を強がってやがる。これが見えねえのか。それとも、俺様への恐怖で頭がおかしくなったのか?あひゃひゃひゃ」

 フリョ・リダが笑っている内に、ヒビは広がる。

 地面がまるでガラスのようにいくつものヒビが入った。


 そして一気に崩れた。

 フリョ・リダが勝ち誇った笑い声をあげている姿のまままっすぐに下へ落ちていく。

 穴に落ちる瞬間までずっと笑顔で落ちて行って、実にシュールだった。


「いてぇ!何だこりゃ?」

 穴の中からフリョ・リダの戸惑った声が聞こえる。

 戸惑うのも無理はない。

 アカガと俺の作戦で、掘られた穴なんだから。


 アカガの土の魔法が、地面の下の土を操っているという事から俺が頼んで掘ってもらった穴だ。

 ずるいと言われるかもしれないが、こちらも命がかかっているので、そこは目をつぶってもらおう。

 掘ってもらった穴に誘導するのも、その穴をぶちあけるための衝撃を作ったのも自分なのだから。

 あの粉塵爆発は、フリョ・リダを倒すためではなく、この穴をあけるためのものだ。


 そして穴に落ちたフリョ・リダから攻撃を誘って、二つ目の小麦粉と火の魔石で吹き飛ばすのが俺の作戦だった。

 穴の中での爆発ならば、淵の傍に近付かなければ安全なはずだという事も含んでいる。

 流石にここまでやれば、フリョ・リダが戦闘不能まで追い詰められるとアカガに太鼓判を押された。

 さらに酸素をすべて燃やし尽くせれば酸欠も誘えるだろうと踏んだ。

 粉塵爆発をしたのに、すぐに穴が空かなかったのは計算違いだったが、結果的には作戦通りだ。


 このまま近付いて、吹き飛ばそうと思っていたが、宙に浮いていたフリョ・リダの作った巨大な火の球がゆっくりと落ちていることに気付いた。

 まるで水平線に沈む夕日のように、地面に落ちていく。

 粉塵爆発の威力を巻き込んだ夕日は、まっすぐにフリョ・リダの落ちた穴へと近づいていく。

 おそらくフリョ・リダが穴へ落ちたことによって、あの火の制御は途切れたのだ。


「くそっ、こんなところ、さっさと出て……」

 フリョ・リダはそれに気付かず、穴の中で俺をまだ倒そうとしているようだ。

 自分に迫っている危機をまだ察知できていない。


 そして気付いて、また制御をされたら面倒だ。

 俺は火の魔石を入れた袋をそのまま手にもって、それを落ちていく夕日へと投擲し、全力で外周まで走る。

 そして外周にだけ残っている土の隆起に滑り込んで、衝撃に備え、頭を抱えた。


「なんだ。こんなの……」

 フリョ・リダが気付いたような声をした。

 しかしもう遅い。

 穴の中で上を火で蓋をされ、逃げ場所もない。

 更に上から迫っているのは、俺の持っていた火の魔石全部を突っ込み、さっきの粉塵爆発をも内包した圧倒的な威力を持つ爆弾だ。


 地面を揺るがす凄まじい衝撃、岩の影に隠れていても感じる熱、そして伏せていないと吹き飛ばされかねない風。

 それらが一瞬で、俺に襲い掛かった。

 耳も肌も目が壊れるかと思うほどの衝撃。


 そして一分もしない内に、それは終わった。

 もう音と衝撃がなくなったことを確認して立ち上がる。

 身体にかかった砂埃を払い落としながら起き上がり見てみると、中央付近がクレーターのようにへこんでいた。

 真っ平の地面だったのに、人間一人分くらいの段差ができている。

 あれがどれほど巨大な爆発だったのか推し量れる。


 真ん中に空いた穴もまだある。

 どれだけ深く掘ったんだ。

 アカガの気前の良さにあきれながら、中央へと向かう。

 まだフリョ・リダが動けないことを確認しなければ、俺の勝ちかどうか分からない。


 膝や転がった時に擦りむいた腕が痛む。

 ギリギリだ。

 これでフリョ・リダが魔法実習を続けたいなんて言ったら、俺にはもう何も手がない。

 火の魔石を袋ごと投げてしまったのは、悪手だっただろうか。

 でもあの時は、これで決めなければいけない気がした。


 腰に下げた剣を鞘ごと持って、それを杖代わりにする。

 まったく役に立たない女神の剣だ。

 こんなことにしか使えないなんて。


 見ると先にフリョ・リダの確認をしていた先生が、穴の中へ声を掛けていた。

 わざわざ俺が近づく必要はなかったかと苦笑する。

 そして先生は「フリョ・リダの意識がないため、勝者、新川修平!」と言った。


 そこでやっと俺は身体に入っていた力を抜く。

 どさっとしりもちをついて、座り込む。

 どっと疲れが出てきた。

 転んだ時に腕や膝だけでなく、身体中に細かい傷や打撲をしているらしく、全身が痛みを訴える。


 膝を見ると、大きく擦りむけて血が出ていた。

 少し痛いなと思っていたが、こんなにも擦りむいていたとは。

 生き残るのに必死だったとはいえ、最期はこんな傷を膝に抱えて走ったのか。

 自分がどれだけ意地汚く生きようとしていたか、これで分かるってもんだ。


「修平!お前は凄い奴やで!」

 アカガが魔法訓練場の入り口から俺に呼びかけてきた。

 わざわざ迎えに来てくれたらしい。

「偶然だよ。それと早く治療してもらいたいから、保健室に連れてって」

「もちろんやで」

 アカガは快諾して、俺に肩を貸してくれた。


 何とか今日、生き残れた。

 たった一人ではなく、たくさんの人に手伝ってもらったが、最大の危機は去ったのだ。

 これで死の危険に頭を悩ますことはないだろう。

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