ケーキ(いっぱい食べてほしいから)
「ピョイ教授の調査は、進んでいるんですか」
「うん。進んでないよ」
「なんでそんなに自信満々で、いっているんですか。いいんですか、昨日は格好いい事言っていたのに」
ピョイ教授は肩をすくめる。
「そうは言っても、動きがないとやりようがねぇ。まぁ、今日の所はカノンと遊んでいなよ」
「そのつもりで来ましたけど、カノンは今どこに?」
いつもは部屋の中でメイド服でいるが、今は見当たらない。
「隣の部屋だよ。今日は料理をしてみたいってさ」
「料理ですか?」
「そうそう。ケーキを作ってみたいって話さ」
「だれかの誕生日でもあるんですか?」
「ないはずだよ。私も違うし、君だって違うだろう」
「そうですけど……。また絵本でも読んだのでしょうか」
「そうかもね」
ピョイ教授は軽い調子で言った。
その時、隣の部屋とをつなぐ扉が開いた。
「修平、お帰りナサイ。ゴ主人様」
メイド服姿のカノンが入ってくる。
まだメイド服姿だ。
昨日もなんやかんやで、メイド服好きだという誤解を解けずじまいだった。
そして変わらず、大きな胸が見えていて、目のやり場に困る。
カノンは手に、ホールケーキを持っていた。
白いクリームとイチゴみたいな果物が乗っているショートケーキだ。
見た目はちゃんとしているように見えた。
ただその量が3人分ではないのが、少し怪しい。
そしてカノンは俺たちの前にケーキを置いて、ナイフで切り分け始める。
断面は3層になっていて、スポンジケーキやクリームの層があって、美味しそうだ。
棚からお皿を出して、そこへ丁寧に切り分けたケーキをのせる。
「ドウゾ、ピョイ教授」
「おお、美味しそうだね!流石、カノンだ」と目の前に置かれたケーキを見て、ピョイ教授はもろ手を挙げて喜んだ。
「ありがとうございます」とカノンが平たんで無機質な声で喜ぶようなしぐさをする。
ピョイ教授はさっそく、フォークでケーキを一口文取って、大口にその一切れを食べた。
「うん、うん、うん……、ううん……、うんうん……。うん」
ピョイ教授は何度もうなずきながら、無言でケーキをすべてパクパクと食べて行く。
すべてを一気に食べて、唐突に立ち上がる。
「カノン!最高のケーキだったよ」
「ソウデスカ。だったら、もっと……」
「私は少し用事を思い出した。多分定時まで戻らないと思うから、君たちは遊んでいなさい」
早口で言うと、まるで風のように部屋の外に出て行ってしまった。
「行ってシマイマシタ」
「急にピョイ教授どうしたんだろうな」
カノンは特に気にした様子もなく、俺の分を切り分けて、俺の前に置く。
「いただきます」
フォークで一口分取り分けて、口の中に入れる。
そして理解した。
何故、ピョイ教授がケーキを食べた後、すぐに逃げるように部屋から去ったのかを。
凄くしょっぱい。
吐き出したい衝動を懸命に押さえて、ケーキを飲み込む。
これは砂糖と塩を間違えて作っているに違いない。
一口を食べるだけでも、かなりのエネルギーを消費した。
皿にあるケーキはまだ5,6口分はある。
カノン自身は間違えたことに気付いていないのか、俺をじっと見つめて感想を待っている。
ピョイ教授は、カノンを傷つけないようにしていたが、俺ははっきりとこれをまずいと言ってしまって良いのだろうか。
初めて作った料理が、失敗だったと知ったら、どうなってしまうのか。
だから「お、美味しいぞ。カノンは料理の天才だな」とピョイ教授と同じ道をたどる。
「本当ですカ」
「ほ、本当だよ。ほら、こんなにおいしい。うん、うん」
ピョイ教授にならって、適当にうなずきながら、口の中に放り込む。
そして感情を殺して、ただ機械的にケーキの形をした塩の塊を消化していく。
カノンに見つめられながら、すべてを食べきる。
「美味しかったよ。じゃあ、次は何をしようか」
そう言っている間に、コトンと目の前に塩塊ケーキがおかれた。
「カノン……さん……?」
「ハイ。ドウゾ。まだマダたくさん、アリマスよ」
「はは、ありがとう。でも俺は今、お腹いっぱいだな……」
何とか塩塊ケーキを食べずにすまそうと、言い訳をする。
しかし「昼食カラ何もタベテいませんヨネ。どこでタベタのデスカ」とカノンに指摘される。
「授業を受けてイタのではナイデスカ。何故、食事を食べレルのデスカ」
鋭い指摘にこたえられず、「い、いや、勘違いだった。実はお腹が凄くすいているんだ」と言ってしまった。
「ヤッパリ、お腹スイてマシタ」
カノンはそういいながら、俺がケーキを食べるのを待っている。
仕方ない腹をくくろう。
ホールケーキを一個くらい食べきってやる。
たとえそれが、塩の塊だったとしても。
「良かったデス。甘いモノは太るノデ、控エナイとイケないとアリマシタが、同じ白い塩にしたノデたくさん食べてモラエマス」
塩と砂糖を変更したのは、わざとだった。
そして俺はスプーンを置き、カノンに砂糖を塩に変えてはいけないと、その後ずっと説教をした。




