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Lv1の剣  作者: 豚野朗
魔法都市
42/206

事件(砂)

「大変だったようだね」とピョイ教授が、机の上でぐったりと伏せる俺に声を掛ける。


 不良生徒が砂になった後、先生やこの世界の警察にいろいろと聞かれて疲れてしまった。

 同じ話をするのも、骨が折れる。

 それにこの短い間に、人が間近で死ぬのを見るのは心に来るものがある。

 ミコに名前も知らない不良生徒。

 元の世界では、全く死とは無関係だったのに。


「それであの身体が砂になる現象は、ピョイ教授がいっていた魔法都市で起きている不可解な現象でしょうか。なんか今まで起きている事と若干違うような気がするんですが……」

「そうだねぇ……」

 ピョイ教授が腕組みをして考える。


「オ待ちシマシタ」

 お茶を持ってきたカノンは、まだメイド服を着ていた。

 ピョイ教授の話が終わったら、メイド服が気に入った訳ではないと説明しないと。


「君たちがここに来る前に戦った名前も分からない魔物。巨大なネズミを筆頭とする狂暴化や巨大化をする魔物の発生。すべての異常は魔物に関わりがあったはずなんだけど……」

「魔物だけじゃなかったってことですか?」

「そうだとは、思いたくないね。でも実際に不可解な現象が起きているわけだから、考慮しないわけにはいかないな」

 そう言って、ピョイ教授はため息をつく。


「魔物だけなら、アリスに任せればよかったんだけどね」

 難しい顔をして呟く。

「人間も何かしら影響を受けるのだとしたら、早急に対策を練らなければならない。これ以上被害を拡大させるわけにもいかない」

「ピョイ教授も調査するっていう事ですか」

「そうだ。それにこれで、こそこそとこの魔法都市で動いていた何かが、動くだろうね。何しろ人が一人死んだんだ。気のせいだとか突然変異だとかで、ごまかせるレベルを超えている。これで私の動きを邪魔していた誰かさんの妨害も、なくなるだろう」

「誰かさんっていうのは、心当たりはあるんですか?」

「どうだろうねぇ」

 何故か、そこだけはぐらかす。


「それでどうするんですか。俺は何か手伝った方が良いんですか?」

「大丈夫だよ。だから普通に友達と仲良くして、不審なことがあったら報告してくれればいい」

「そうですか。不審な事ですか」

 そういえばと思い出す。


「あの不良生徒たちが、生徒会に入っていたことをピョイ教授は知っていますか。先生から生徒会に紹介されて、入れさせられていたみたいですけど」

「不良生徒たちが?いや、知らなかった。私はいつもここに引きこもっているからね」

 自信満々に寂しい事を言っていた。


「確かに変だな。不良生徒たちを生徒会に入れる必要とはなんだ?生徒会を乗っ取るつもりだとか」

「そんなようには見えませんでした。生徒会に来て、ただしゃべっているだけのように見えました。何かを企んでいるようにも見えませんでした」

 生徒会室にわざわざ来て、そこでしゃべっているだけだったんだよな。

 生徒会長に絡んで行ってはいたけど、それで何かをしようとしていないように見えなかった。


「なるほど。不良生徒たちが、生徒会に入って、その一人が砂になって死んだ?どういう意味だろうか。この一連の流れに意味があるのか?新川はどう思う?」

「いえ、むしろ矛盾しているように見えます。生徒会に入って何かをしたいなら、騒ぎを起こす必要はないと思います。逆に砂にして殺すのが目的なら、生徒会に入れたら目立ってしまいそうに感じます」

「そもそもこの二つの出来事、いや、魔物の活性化も含めれば三つの出来事がつながっているように見えないんだよ。魔物の活性化は、下水道へどこかの誰かさんが怪しい薬品を流したことによるものだと思っていたんだけどね」

「それをアリスが調査しているんですよね」

「そういう事だね。僕が直接調査すると、すぐにばれちゃうからね。だからアリスに行ってもらったって訳さ。彼女自身、戦闘とか潜入とかに精通しているから、ぴったりだろ。安全かつ誰にも動きを悟られない最善策さ」


 アリスの強さについては折り紙付きだ。

 俺の女神の剣『一太刀』を使わなくても、魔王の幹部以外には後れを取ったりはしないだろう。


「たっだいまぁ」

 話をしていると、ちょうどアリスが帰ってきた。

 またぬれねずみのように、どよんとした空気と湿った服を着て、部屋の中に入ってくる。


「ちょうど話をしていたところだよ。それで何か収穫はあったかね?」

 ピョイ教授がさっそく話しかける。

「これくらいね。まだ変な魔獣とか隠し部屋とかは見つかっていないわ」

 懐から袋を取り出して、ピョイ教授に渡した。

「ほぅ、どれどれ……。うーん、へぇ、なるほど、これは?」

「下水道の所で砂が所々落ちていたのよ。不思議でしょう。下水道に砂が固まって、落ちているなんて。砂なんて入り込みそうな構造していないのに」


「そうだね。アリス、ナイスだ。これで、決まりだね。魔物の活性化と砂は何か関係がある」と断言する。

「なになに、何かあったの?」とアリスは察しが良い。

「これで証拠が一つ手に入ったって訳さ。新川とアリスを雇っておいてよかったよ」

 ピョイ教授は不敵に笑った。


 *


「だーるまさんが、ころーんーだー」

 ばっと振り向く。

 カノンが直立不動でマネキンのように、立ったままピタリと固まり動かない。

 一ミリたりとも全く動かないのは、元が人形であるからか。


 大体今の距離は、10mくらいだろうか。

 ずっと見ていてもカノンはバランスを崩すような体制ではないので、目を隠し「だるま……」と早口で言うも、「タッチ」とカノンが俺の肩を叩く。


「うん、向いていないわ、これ。全然運動能力が違い過ぎる」

 動きが早過ぎて、こんな距離この政界の住人は一瞬で移動できるんだもん。

 俺にはとらえることなんてできないわ。

 ただ他の身体を動かす遊びは、だるまさんがころんだ以上に俺の圧倒的不利にしかならない。


「コレは何を鍛エル遊びデスカ?」

「え、何だろう。バランス感覚とか、相手の考えを読むとか?」

「考えを読むのデスカ。ドウスレバ読めマスか?」

「どう読むと言っても、難しいな。声の大きさとか速さで、どうやって罠にはめようとしているのか考えると、分かるんじゃないかな?」

「声デスカ」

「そうそう、早口で言ったり、わざと遅く言ったりして、揺さぶりをかけてバランスを崩すんだよ」

「揺サブリ」

「最初早口で後半遅くしたり、その逆に最初遅く言って油断させて後半で一気にまくしたてたりとか。そうやって、遊ぶものなんだよ」


 動きが早すぎて、全然使えなかったけどね。

「次は私が鬼をヤリマス」

「了解。さっきも説明したけど、次はカノンが壁で目を隠して、『だるまさんが転んだ』って言い終わったら、振り向いて動いていたら捕まえられるんだ」

 そして俺とカノンは初期地点に移動して、だるまさんがころんだを始める。


「だーるーまーさーんーが……」

 カノンがゆっくりと前半を言い始める。

 汚い部屋の中を、転ばないように進む。

 先ほど言った通りにカノンが言うとしたら、ここら辺か。

「コロンだ!」

 最期は早口で言って、振り向いた。


 しかし俺は事前にしっかりと止まっている。

 これで一回目に仕留められるという情けない事にはならない。

 分かりやすくて助かる。

 次くらいに、わざとつかまってやろう。


 しかし「今、動きました」とカノンの指摘が入る。

「嘘、どこが!」

 驚いて、声が大きくなってしまう。

「肩が少し動きました、一ミリほど」


「それくらいは見逃して!」

 カノンに忖度とかを教えてあげなければ。

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