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Lv1の剣  作者: 豚野朗
魔法都市
41/206

生徒会(不良生徒)

「修平って、ここまで魔法の知識ないって、どういう生き方をしていたわけ?」


 翌日の最初の授業終わりで、隣のアカガにあきれたような口調で聞かれる。

 むしろ憐れみが若干入っているような気がしなくもない。

「普通……かな……」

 正直にいう事も出来ず、適当にはぐらかす。

「ここまで知識ないと、驚くというかビビるというか」

 さっきの授業の質問も、この世界で生きていれば当たり前のように分かることなのか。


「教えようか?」とアカガが言った。

「良いのか?」

「流石にかわいそうになったわ。オレが教えてやらんと、いつまでたっても質問の集中攻撃は終わらん」

「ありがとう……。持つべきものは友達だな」

 アカガの優しさに泣きそうになる。

 実際、質問されて「分かりません」って答えるのは簡単だけど周りの雰囲気とか先生の表情とかがきつい。


「昼になったら、生徒会な」とアカガは笑顔で言った。

 俺は魔法学校の生徒会へ行くことになった。


 *


「失礼します」

 アカガの後ろについて、生徒会室へと入る。

 そこには男女4人がいた。

 部屋のばらばらな位置でくつろいでいるようだった。

 生徒会室は教室よりも一回り大きく、四人だけしかいないと少しだけ寂しい気がする。


 机に座って、書類仕事をしているイケメンが「こんにちは、アカガ。それで、そちらの方は?」と言った。

「こんちはです、会長。こちらは、最近転校してきた新川修平です」

「どうも、新川修平です。すみません、お邪魔します」

「いや、いや。生徒会室は、生徒にも開かれているんだよ。僕たち以外が使おうとしないだけでね。何か飲むかい」

 イケメンは快く迎えてくれた。


「じゃあ、オレはお茶で」

「お、おい……。そんな悪いですよ」

「いや、良いんだよ。同じのでいいかな?」

「そうですか?お言葉に甘えて。お願いします」

 イケメンでおそらく高学年の人間に気を遣わせてしまったようで、申し訳ない。


「修平はここに転校してきたのに、まるで魔法について知らないんすよ。それで教えてやろうってことになって」

「そうなんだ。もし分からないことがあったら、僕にも聞いてくれれば教えられるかもしれないよ」

「あはは、そうですね。お願いするかもしれません」

「その時は気負わずに聞いてね」

 コトンと目の前に紅茶が差し出される。

 良い香りが、鼻をくすぐる。

 隣に座るアカガにも同じものが置かれた。


 イケメン生徒会長は、元の席に戻ってしまう。

「ほら、教科書出せや。時間短いから、さっさとやるで」

「あぁ、よろしく」

 そして教科書を机の上に広げて、始めようとしたとき、扉が勢いよくがらっと開いた。


「生徒会長様ぁ!いるかぁ!」といきなり怒鳴り込んでくる。

 生徒会長はため息をついて、「また君たちか」と言った。

「なんか文句でもあるのか。俺たちだって、生徒会の一員なのによぉ」

 ずかずかと生徒会室に入ってくる。


「自由にしていなさい。ただし静かにね」

「はいはい。生徒会長様」

 どこかあてこすりな言い方をする。

 この声は聞いたことがあった。

 昨日の女の子に絡んでいた不良生徒だ。


 先頭の彼に続くように何人も入ってくる。

 そして部屋の一角を独占して、床や机の上に座ってぺちゃくちゃとしゃべり始めた。

 なんだ、あいつら。

 唐突に入ってきて、部屋の中でしゃべるだけとか邪魔だな。

 別にここじゃなくてもできるだろうに。


「私も見てあげる」

 不良生徒が入ってきたせいで、そこで本を読んでいた女の子が俺の隣に来て、教科書を覗き込んだ。

「ありがとうございます、ユキ先輩。オレだけじゃ、不安だったところですよ」

 ユキと言う名前の女の子は、本当に雪のように肌が白い。

 モデルのように手足が細くて、カノンやアリスとは別の女性らしさがある。


 そしてアカガとユキ先輩に教わるも、基本が分かっていない俺は全然理解ができない。

「ここまでとは手ごわいわね。もう子供用の本から始めないといけないわよ。基本からまったく理解できていないじゃない」とユキ先輩があきれたように言う。

「そうなんすよ。こいつ、まったく魔法の知識がないんすよ。ビビりますよね」とアカガが笑う。


 俺は魔法なんて、呪文唱えたり魔法陣をかいたりすればいいと思っているのに、難しい言葉でああだこうだ書かれても理解できない。

 それに覚えることも多すぎる。

「火の魔法を発動するために必要な事が多すぎるし、複雑すぎないか?一つ一つやり方が違うし」

「普通でしょう。全部同じだったら、どうやって区別するのよ」

 確かに同じだったら、発動する魔法は同じになるとは思うけど。


「汎用魔法だから、難しいのは仕方ないやろ。スキルで覚えるのとは違うんやで」

「その区別も良く分からん。スキルだけで覚えればいいんじゃないか?」

「そんなことになったら、使える魔法によってつけない職業とか出てきちゃうじゃない。特定の人しか就けない仕事とか、不公平だわ」

 ユキ先輩が言う。

 確かに生まれついての魔法しか使えなかったら、不公平だ。


「それにしても、火の魔法とか何十種類あるんだよ。他の魔法と比べても、量が多くないか」

 俺がそう愚痴ると、「火の魔法がどうだって?」と不良学生のリーダーが割り込んできた。

 いつの間にか近づいてきていたらしい。

 ぞろぞろと後ろに不良生徒たちが集まってくる。

「あなた達には関係ない事でしょう。さっさと散りなさい」とユキ先輩は強気に言う。


 囲まれている状況で、そんなにビシッと言えるのは尊敬する。

「俺様が教えてやろうかと思っただけだよ」

 俺の目の前に掌を上に向けて、手を出してくる。

 そして『ファイア・ブレイズ』と唱え、掌から巨大な炎を出した。

 その火は天井まで届くほどの大きさで、一瞬で消えたが、俺は「おぅ」とオットセイみたいな声を上げてしまった。


 ぎゃははははと周りで不良生徒たちが一斉に笑う。

「君たち、不要な魔法の行使は禁止されているよ」と生徒会長がたしなめる。

「はいはい。ごめんなさぁい」

 全く心のこもっていない謝罪をして、生徒会室から出て行ってしまった。


「なんだったんだ、あいつらは」

 思わず声に出して、言ってしまう。

「悪いね。彼らが迷惑かけてしまって」と生徒会長が謝る必要もないのに、申し訳なさそうに言う。

「あの人たちも生徒会何ですか?」

「そうなんだよ。教授からの要望でね。魔力が大きく増えて、成績が上がったから他の生徒の見本に入れてあげてくれってね」

「そんな事で入れるんですね」


「入れないよ?」

「へっ?」

「だって、生徒会長以下副会長までは投票で決まるし、他は希望者を募って、その中で選ぶのが慣例だからね。こんな風に強引に入れられることなんて初めてだよ」


 教授に強引にあんな人たちを入れられたっていう事か?

 それって、凄い怪しいのでは?

 俺が魔法学校に入ることになった目的を思い出す。


 さらに情報を聞き出そうと口を開きかけた時、生徒会室の外から「うわぁぁああ!」と男の悲鳴が上がった。

 そして続いて、女の悲鳴も上がる。

 生徒会室の外で、騒ぎが大きくなっていく。

 何でこうも間が悪いんだろうか。


「確認してみよう」と生徒会長が言って、俺も交じって全員で外の騒ぎを確認しに行く。

 するとそこでは一人の不良生徒が、手を抱えてしゃがみこみ絶望した声を上げている。

 それを囲んで、生徒たちが話したり悲鳴を上げたりしていた。


「何が、あったんだ」

 生徒会長が、不良生徒の一人に話しかける。

 こいつらの事だし、何か報復されたとか廊下ですれ違った生徒に因縁つけてやり返されたとかじゃないのか。

 そう考えていたら、件のしゃがんでいた不良生徒がその抱えていた手を見せてきた。


「なんだよ、それ」

 その手は崩れていた。

 いや、正確に言うと、手は指の先からさらさらと砂となって地面に落ちていく。

 もう指はすべて砂になっていて、今は掌しか残っていない。

 掌の部分も見ている間になくなり、手首の先は砂となって床に落ちていた。


「うわぁ!」

 逆の手も指の先が崩れていた。

 腕の部分も手首の部分からさらさらと崩れていく。

「助けてくれ!」

 周りの生徒に悲鳴のような声を上げて助けを求めている。


 俺はその崩れていく腕を咄嗟に両手で押さえて、崩れないように抱え込む。

「お前……」と砂になっていく男が何か言った。

 しかし聞いている余裕などなかった。


「くそっ、なんでだ……」

 両手で押さえてみてもほとんど意味はないようで、押さえた先から掌をすり抜けるように崩れていく。

 まるで砂で作った人形を手で握り締めるみたいだ。

 自分のローブを脱いで、二の腕しかなくなった腕を巻いてみるが、やっぱり意味などなかった。

 ローブの隙間から、砂が落ちていく。


「俺も手伝う。ユキは先生を呼んできて」

「分かったわ」

 逆の手を生徒会長が押さえるも、やはり変わらないようだ。

『アクア・ドリップ』と生徒会長は砂に魔法で出した水をかけている。

 砂を水で固めてしまおうというのだろう。

 だけどそれも無駄だった。

 ただ固まっただけで、ぼとりと水で固まった部分が落ちた。

「ダメだ。くそっ」と生徒会長らしくもなく悪態をつく。


「いやだ……。イヤだ……死にたくない!嫌だぁ!」

 肩にまで到達すると、そこから円状に崩れていく。

 よく見るとズボンが床にぺちゃんこになっている。既に足も崩れているようだ。


「助けて、助けてぇ!助けて、助けて……たすけ……」

 しかし悲鳴を上げる声も、肺が崩れているのか声が徐々に小さくなっていき、そしてあっという間に身体も顔も砂となって崩れる。


 そして俺と生徒会長の足元には、人間一人分服が埋まったの砂の山が残った。

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