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Lv1の剣  作者: 豚野朗
エルフの隠れ里
27/206

宴会(ミコの心)

 夜になると、エルフたちは神社に集まって、宴会となった。


 神社のふすまをすべて取り外して、大きな一部屋にしてある。そしてそこに机が並べられて、そこにエルフたちがそろって座っていた。

 俺とアリスもその中の一員として、交じって座っている。

 ミコさんは一番前の席で、こちら側を向いて座っていた。

 その隣ではガリアさんがいて手に持った紙をミコさんに見せながら、何かを会話している。

 宴会の段取りとかだろう。

 隠れ里の長という立場も大変なんだな。


 俺はただこうして座って、近くに座るアリスと目の前の食事が何の野菜で作られているかというどうでも良い会話をしているだけだし。

 ここで色々な野菜を食べている内に、野菜や果実の種類を覚えてしまった。

 それにエルフたちが作る野菜は美味しく、苦みは少なく、甘みがあるものが多い。

 大食い大会みたいな大量に食べろっていうのは、さすがにもう勘弁だけど、こんな野菜ならば毎日食べていたいと思う。


「では、みなさん、時間になりました」とガリアさんが前の方で立っている。

「まずは、里長であるミコさんからのお言葉をいただきます」

 ガリアさんの代わりにミコさんが立ち、そしてすらすらと挨拶を始めた。

 手慣れた様子で、小難しい言葉を話すミコさんに尊敬の念を抱く。

 自分だったら、前に出てしゃべれなんて言われたら、下手な操り人形のようにあわあわと慌てふためていてしまうだろう。


 そして挨拶が終わると、宴会が始まる。

 食事を楽しみながら、ダークナイト・グランドとの戦いについて聞いてくるエルフたちと軽く会話しながら過ごしていた。

 ちらりとミコさんを見ると、挨拶をしに来るエルフたちと会話をしている。

 お皿の上の食べ物はあまり減っていないように見えた。

 始まってからミコさんの近くには代わり替わり、エルフがいて全然食べられていないのかもしれない。


「楽しんでいますか?」

 横からカエデさんが声を掛けてきた。

「はい。美味しいです」

「それはよかった」

「カエデさんは忙しそうですね」

「はい。仕方ない事なんですが」

「ガリアさんのけがの様子はどうですか?」

 カエデさんは接待をしているガリアさんをちらっと見た。


「違和感はあるそうですけど、元気ですよ。ただ禁書庫で探し当てた本が役に立たなくなったと残念がっていましたが」

「禁書庫で探してもらっていたんですよね。何か見つかったんですか?」

「ええ、古い研究書を見つけたとか言っていました。結局使わず仕舞いでしたけど」

「どんな内容なんでしょうか」

「さぁ、私も詳しくは聞いていません」

 禁書庫の中の書物か、気になるし時間が空いたら聞いてみようか。


「すみません、私もすぐに行かなくてはいけません。こちら、ミコ様から手紙を預かっています」

 カエデさんが胸元から紙を取り出して、俺に手渡してきた。

 ミコさんからとは、どういう事だろうか。

 こんな近くにいるのだから、声を掛けてくれればいいのに。

 今からでも声を掛けようか、いや、手紙を読んでからでいいか。


 手紙を開いてみると、立った一文だけ書いてあった。

「この後、10時に里の見える展望台へいらっしゃってください」

 10時に展望台に来いとの手紙のようだ。

「カエデさん、今何時ころですか?」

「今は、9時です。私はもう行きますね、楽しんでくださいね」と言い残し、カエデさんは部屋の外へと言ってしまった。


 後一時間くらいか。

 もう少し宴会を愉しんでから、この手紙の通り行ってみよう。

 ミコさんは俺を呼び出して、何をするつもりなのだろうか。


 *


 隠れ里はまだ祭りの火は消えておらず、この前眺めた時と比べ明るい。

 そして徐々にその火が消えていく。

 祭りも終わりだ。


 ダークナイト・グランドとの戦いと並行して、色々とお手伝いしていたので、祭りに愛着が湧いてどこか寂しく感じる。

 欄干に肘をついて、終わっていく祭りを眺めた。

 ミコさんと一緒に頑張ったなぁと感慨にふける。

 長かったように感じるけど、まだ一週間もいないのだ。ダークナイト・グランドで、騒がしかったから長く感じるのだろう。


「待ちましたか」

 背後から、ミコさんが声を掛けてきた。

「すみません。少し待たせてしまったようです」

 振り返ると、ミコさんが綺麗な着物を着てゆっくりと歩いてくる。

「冷めてしまっていますが、こちらをどうぞ。カエデに買ってきてもらったんですよ」

 手に持った串にさして焼いた野菜を、俺に渡してきた。


「ごめんなさい。ダークナイト・グランドの討伐の功労者なら、私が案内すべきかと思いましたが、全然時間が取れなくて」

「十分に楽しませてもらいましたから、気にしないでください」

「そうですか。良かったです。楽しんでもらえたようで」

「でも、ミコさんも一緒にいれば、もっと楽しかったですけど」

「ふふ、そうですね。私も……」

 俺の隣に並んで、ミコさんも欄干に寄りかかる。


「祭りを純粋に楽しんだのは、里長になる前だけです。今ではもう仕事の一つ、それに悲惨な記憶も蘇ってしまいます」

「悲惨な記憶?」

「いえ、気にしないでください」とミコさんは口を押さえながら言った。

 貰った串焼の野菜を口にする。

 言っていた通り、冷めてしまっていた。でも美味しいのは変わらない。


「祭りをこの頃は楽しんだことはないという事です。それで、新川さんに来年も来ていただければいいなと思いまして」

「もちろん、来れたら来たいよ。エルフの皆さんは優しいし、楽しませてもらったから。また手伝いからさせてほしい」

「またお願いするかもしれませんね。その時には、可能なら私も一緒に回りたいものです」

「良いよ。回ろう、時間を作って」

 ミコさんはクスリと笑った。


「本当に新川さんは、私の心を乱してくださるんですね」

「乱す?何を言っているんですか」

「私は単純な女性だと言っているんです。自分でもあきれるほど、単純で簡単な……」

 ミコさんはそう呟いて、パクパクと串焼きを食べていく。


「本当は新川さんと少しでも時間を作りたくて頑張っていたのですが、こんな時間になってしまいました。この串焼きもカエデに任せるのではなく、新川さんと買ってみたかったんです」

 少し声が震えていた。

 そんなに忙しかったのか。

「俺も手伝えればよかったな。祭りの日だからお手伝いは良いっていう言葉に甘えてしまっていた」

「そういう事ではないのですが……。はあ、あなたは本当に鈍感のようですね」

「いや、そんな怒らなくても……」

 手伝ってあげられなかったことを、こんなに怒られるとは。


「はっきりと言わなければ、分からないようですので、お伝えしますね」

 ミコさんは寄りかかっていた欄干からきちんと立って、着物のよれを直した。

 どこか幼さを残した表情が、掲げられた明かりの火で少し大人っぽく感じる。


「私、ミコ・テンプルは、新川さんをお慕いしております」


 一瞬何を言われているのか分からなかった。

 頭の中で何回もリフレインされて、やっと理解した時、「えええええ!」と驚きの声を上げてしまう。

「お慕いって、そういう意味ですよね。その……好き……とか」

「その通りです。好きな人とお祭りを回れなかったと、言っているんですよ」

 ミコさんはまったく隠さずいう物だから、言葉に詰まってしまう。


「手をつないだり、気にしたりしてくれるものだから、少しは気付いてくれているものだと思っていたら、そんな事は全然ありませんでしたね」

「それは、そのぉ、女子と話すのが俺の人生で中々なくて、それに緊張していたというか」

「その割には、アリスとは普通に話しているように見えましたけど」

 ミコさんが当て擦るように言ってくる。

「それは見た目以外は、何か活発な男子みたいな感じだから、引っ張られて」

 強いし、ぐいぐい来るから、何かアリスは女性って感じがしないんだよな。それに罠にはめられて、こんな所まで来させられた感もあるから、そこまで親しくはない。


「私もあんな感じなら、もっと普通になってくれますか」

「ど、どうだろう。ミコさんが、アリスみたいなのはちょっと嫌ですけど」

「ふふ。なら、このままにしましょうか」

 楽しそうにミコさんが笑う。

 俺もつられて笑う。


 笑いあった後に、「それで、お答えはいかがでしょうか」と聞いてきた。

 何のことだと思ったけど、これは告白に対する返事を要求されているんだと気付く。

「いや、その……」

 初めての告白にその返事。

 全く準備をしていなかったから、どう応えるのが正解なのか分からない。


「私のような女性はダメですか。やはり、成熟した女性の身体が好みでしょうか」

 ペタペタと胸元を触り、後半はぼそりと呟いていた。

「そんな事はないです!ただ、告白とかは自分とは今まで縁遠かったから、どういえばいいか分からなくて」

 早く答えてあげないと、ミコさんを不安にさせてしまう。


「はい。俺で良かったら、付き合ってください」

「はぅ」と短い呼吸をして、ミコさんは床に崩れ落ちた。

「どうしたんですか」

 近寄って、突然座り込んだミコさんに尋ねる。

「緊張の糸が切れました。私も初めての告白でしたので、凄く不安だったんですよ」

「ごめん、気付かなくて……」

「そんな事より、恋人同士になれたんですよね」

「え、うん。そうだけど」

「なら、キス、してくれませんか」とミコさんが小さな唇を動かして言った。


 ドキッと心臓が跳ね上がる。

 恋人なら、きっとするだろう。もちろんするに決まってる。

 でもキスのやり方なんて、告白の返事以上に初めてで分からない。


 ミコさんは目をまっすぐに見つめてきて、俺を待っている。

 もうどうなったっていい。

 ミコさんの肩に腕を回して、ゆっくりと近づけていく。

 直前に串焼きの野菜を食べたせいか、その唇は少し濡れて、つややかな光沢を放っている。

 いつの間にか、ミコさんは目を閉じて、少しだけ唇を突き出していた。


 これで正しいのか、こんな事なら身支度をちゃんとしてくれば良かったなどと余計な事が頭の中を回る。

 そしてほのかに香る彼女の匂い。

 その匂いは、俺の本能と言うべき場所を刺激する。

 俺は覚悟を決めて、その唇に優しく唇で触れた。


 ぷにっと柔らかい感触。

「んっ……」とミコさんの少し熱い吐息が漏れた。

 そして唇同士を重ね合わせたまま、時間は過ぎていく。

 一秒か、それとも一分か、もしかしたらもっと時間は過ぎたかもしれない。

 時間の感覚は無かった。

 ただミコさんとの心地よい接触に、身を任せる。


 何が合図だったかは分からないが、唇同士は自然と離れた

「新川さん、お慕いしています」

 ミコさんのキスをした唇が放った第一声は、それだった。

「俺も、好きです」

 俺もならって言ってみるが、言った後に爆発しそうなほどの恥ずかしさが頭を沸騰させる。

「新川さん、顔が真っ赤ですよ」

「ミコさんこそ……」

 お互いに真っ赤な顔を笑いあう。


 異世界に来て、これまでたくさん理不尽な事や危険なことに巻き込まれて大変だった。

 だけど今、この瞬間は、異世界に来て本当に良かったと思える。

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