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Lv1の剣  作者: 豚野朗
エルフの隠れ里
26/206

祭り(大食い大会)

 祭り当日は、俺は手伝いから解放されて、騒がしい隠れ里の祭りの中にいた。


 隠れ里に来た時から、ダークナイト・グランドとの戦いや神社の中でのお手伝いに翻弄されていたので、こうしてゆっくりと歩くのは初めてだ。

 里中が飾り付けられて、様々な屋台も出されていて、元の世界の日本と祭りのやり方は変わらないんだなと思う。

 どこからともなく、笛の音や太鼓の音が聞こえてきる。

 祭りっていうのは、どこであっても変わらないのかもしれない。


 しかも今回は祭りに加えて、ダークナイト・グランドの祝勝祭も兼ねている。

 警備として祭りに参加できなかったであろうエルフたちも全員、今は全員武装を解いて、立ち話や食事などをして楽しんでいる。

 今は俺も死ぬような危険を考えずに、のんびりとできて気が楽だ。


「新川、元気かしら!」

 後ろからとんでもない衝撃で何かがぶつかってきて、俺は何メートルか吹っ飛んだ。

 突然過ぎて、受け身も間に合わず顔面から地面を擦ってしまった。

「あっ、ごめんなさい」と謝られる。

「お前、レベル差考えろよ!死ぬかと思ったわ!」

 後ろに立つアリスに文句を言う。


「祭りだからテンション上がっちゃって、手加減できてなかったわ。それより、この後大食い大会があるらしいのよ。一緒に出ましょうよ」

「それよりって、何だよ。大食い大会か、別に俺はそんなに食べる方じゃないんだけど」

「そう言わずに祭りなんだから、いろんなことをやってみましょう」

 アリスに手を差し出され、その手を握り、引き起こされる。


「そうだな。祭りなんだし、出てみるよ」

「やった。エントリーに行きましょう!こっちよ」

 そう言って、里のどこかを指さす。

 どこだろうと目を凝らしてみていたら、次の瞬間には空中にいた。

「うぉおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 思わず叫び声をあげてしまう。

 高レベルのアリスの脚力で、俺は里を横切るような大ジャンプをさせられた。


 そして近づいてくる地面に恐怖して、「ちょ、アリスぅぅぅ!」と情けない声をあげながら腕に抱き着く。

「何よ?」と不機嫌そうな顔をされる。

 着地は意外にも衝撃は少なく、俺はアリスの腕を抱きしめながら女の子座りでへたり込む。

 その姿は大食い大会にエントリーしようとしているエルフたちの注目を集めてしまう。


「お前、本当にお前な。やるなら、やるって……。俺はレベル1でお前とは、違うん……だよ」と心臓がバクバクと鳴って呼吸が苦しい中文句を言う。

 そこでやっとこの移動が普通でないことに気付いたのか、ぽんと手を叩いた。

「またやっちゃった!」

「またやっちゃったじゃないよ。勝手な事、するなよ……」

 地面にまた会えたことを感謝して、地面に倒れこむ。


「だって、こうした方が早いじゃない。疲れないし」

「俺は恐怖と心労で疲れたわ。俺の分のエントリーをしてきて」

「はい。よっ……と」

 米俵のように担がれる。

「何しているんですか?」

「本人がいなきゃ登録できないのよ。だから呼びに行ったんじゃない」

 そりゃそうか。

 もう抵抗をあきらめて、俺はそのまま担がれながらエントリーをした。


 そして少し時間をつぶし昼過ぎになって、大食い大会となった。

 観客席には少なくないエルフたちがいる。そして来賓席にミコさんの姿があった。

 俺は設置されたステージの上で十人くらいのエルフたちとアリスと共に座らされている。

 大食い大会にいがちな巨漢のエルフはいない。

 野菜ばかり食べているし、そもそも食生活的に太りにくいのだろう。

 俺にも勝つ道はあるんじゃないかと最初は思った。

 事前に俺はなんの大食い大会なのか聞いておかなければいけなかったのではないかと後悔していた。


『野菜大食い大会』


 菜食主義なエルフたちなのだから、当たり前だろう。

 しかも条件を同じにするために、果物の果汁を混ぜ合わせたドレッシングしかかけられるものがない。

 せめて、せめて、濃い味の何かならいけるのに。


 目の前に気のボウルによそられた山のような野菜。

 そこに事前にドレッシングを掛けさせてもらう。

 果汁の透き通ったオレンジ色が、緑の山に彩りを与えた。


「よぉい、スタート!」

 ミコさんが合図をして、大食い大会は始まった。

 箸を使って、ドレッシングが大量にかかっている天辺から野菜を掬い取る。

 そして大口で野菜をほおばった。

 シャキシャキと瑞々しい音がする。野菜に関してはとても美味しく、酸っぱいドレッシングもなかなか食欲を煽ってくれる。

 しかし3口目から早くも、飽きてくる。

 シャキシャキシャキシャキシャキ……。

 ドレッシングを頼りに食べていくも、次第に食欲が減退していく。


 半分も食べると、もう気力だけで食べていた。

 箸を必死になって動かして、口の中で生野菜特有の苦みが現れる。

 ドレッシングを大量にかけてごまかすが、しかし味のなさが辛くなってきた。

 横にいるアリスを見ると、ボウルを抱えながらかきこむように食べている。

 この野菜をあんなに勢いよく食べられるなんて。

 そして食べきって、ボウルをバンと置く。準備されていた野菜がたっぷり盛られたものと交換されている。

 ドレッシングを握りつぶすようにぶっかけて、ボウルを掴んで大口に食べ始める。


 実況もそんなアリスを興奮した様子で語っていた。

 誘われて参加しているだけだが、何も残さないというのも寂しい。

 アリスの真似をして、ボウルを抱える。

 そして大きく息を吸って、野菜を口の中にかきこむ。

 実況の熱もさらに高くなる。

 口の中に入る野菜を強引にかみ切っていった。


 そして「負けた……」と近くのベンチで横になって、腹を休める。

 アリスが頑張っているせいで、俺も何か熱くなってしまった。

 そのせいで限界を超えて、食べてしまったのだ。


 結局優勝したのは、アリスだった。

 最期まで勢いは衰えず、他のエルフたちも太刀打ちはできなかった。

 俺も頑張ってくらいついてみたものの全く歯が立たない。

 食べる量もレベルとか、関係するのかな。


「新川、湖とやらがあるらしいわ!そこに行ってみましょう。とてもきれいらしいわよ」

 アリスが優勝トロフィーを持って近付いてきた。

「全然観光できていなかったし、それもいいかもな。でもあのジャンプは無しな」

 一応くぎを刺しておく。

「ええ。楽で、すぐに着くのに」

「俺の心臓が持たないんだよ。それなら先に行ってきてくれ、俺はゆっくりと歩いていくからさ」

「しょうがないわね。一緒に行くわ」

「いや、別に一緒じゃなくてもいいんだが」

「いいじゃない。いいじゃない」

 ごまかすように言うアリスに押されつつ、俺はアリスと共に湖に行くことになった。


 途中の屋台で買った果実のジュースや野菜を焼いたものを手に持ちながら、湖のある方角へアリスと一緒に歩く。

 すれ違うエルフたちを観察するが、やはり若い見た目のエルフが多い。

 そしてただミコさんのような子供の見た目のエルフと言うのは、数が少ないように見える。


「アリスは知っているのか?エルフの見た目と年齢が全く合わない事」

「そりゃ知っているわよ。何度もこの里には遊びに来ているから。あのガリアっていうミコのお付きももうかなりの年齢なのよ、知ってる?」

「知ってる」

 やはり知らない方がおかしいよな。


「ただミコはエルフの中でも若い方で、子供の時には同年代と遊べなかったと言っていたわね。まあ、見た目は今でも子供なんだけど」

「そっか、隠れ里自体人数が少ないから、無理ないよな」

 まだ30代とか言っていたし、確かあの立場を手に入れたのも十代の時だと言っていた。

 他のエルフたちと立場と言う壁もできてしまって、さらに寂しさが増したのだろうか。

 そのせいで、俺にあんな感じで手を握るなんてことをしてきたんじゃないか。


「そういえば、ミコとあんたは戦いのときに抱き着かせていたけど、何してたのよ。私が真面目に戦っていたのに、あんたたちはいちゃいちゃして……」

「いちゃいちゃなんてしていないわ!」と慌てて否定する。

「あれは約束だったから、しただけで俺には下心なんて一欠けらもない」

「約束?抱き着くのが?」

「いや、ミコさんが怖いなら、俺が手を握って支えてやるって……」

 自分で口にすると恥ずかしさがこみあげてくる。

 ミコさんと話しているときには、気分が乗ってそんな事を言ってしまったが、今思い直してみるとかなり痛い事を言っていた。


「へぇ、それでずっと手を握っていたのね。私にも言ってくれればよかったのに」

 どこかすねたような口調でアリスが言う。

「そんな事をしたら、お前に俺もミコさんもついていくことになるだろ、俺が死ぬわ。レベル1だぞ、最前線に立たせるな」

「冗談よ。あっ、もうすぐ着きそうね」

 里を囲む柵から外側に出る道の先に、話題の湖は広がっていた。

 美しい湖で、傍に生える森が湖の表面に映っている。太陽の光が、反射してキラキラと光っているようにも見えた。

 湖の傍でも屋台は出され、エルフたちが集まり何かの催し物をやっているようだ。


「楽しそうね。早く行ってみましょう」

 アリスに手を引かれ、少し強引に湖へと降りていく。

「いたっ!おい、そんなに急がなくても、湖は逃げないぞ」

 ダークナイト・グランドのせいで、昨日まではピリピリとしていたが、のんびりとできる。

 このまま平和であればいいのに、そう願ってしまう。

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