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Lv1の剣  作者: 豚野朗
エルフの隠れ里
20/206

倉庫作業(カエデとガリア)

 翌日、俺とミコは一緒に神社の倉庫にいた。

 もちろん、カエデというエルフもいる。

 もし二人っきりだったら、昨日の件もありどうすればいいか分からなかったかもしれなかった。


「カエデさん、これで大丈夫ですか?箱の横に『旗A』とありますけど……」

「それです。外に持っていけますか」

 棚から箱を引き出して、ある程度出したら下から押し上げてみる。

 何とか持てそうな重さだ。

「大丈夫そうです」

 そう言いながら、箱を抱えて外に出す。


「カエデ、見て、前にアリスからもらった服がこんな所に入っていたわ」

「本当ですね。覚えていますよ、ペアルックとやらをしようとしていたんですよね」

「そうなのよ。ちょっと子供っぽいのよね」

「今でもお似合いですよ」

「やめて。もう着れないわよ。アリスの方も着ないだろうし」

 カエデさんとミコさんが会話する声が聞こえた。


 倉庫の外に置いて、中に戻るときに奥の方で物を探しているミコと一瞬目が合う。

 そして昨日のことが思い出されて、ボッと身体が熱くなった。

 同時に目を逸らす。

 言葉もうまく交わせず、さっきからカエデとしか会話できていない。

 カエデは手に持っている紙を見ながら、「次は『旗B』をお願いします」と俺に支持をする。

「了解」

 倉庫の中に入って、少し埃っぽい箱の山から目的の物を探し始める。


 二日後の祭りの準備をエルフ総出で始めていた。

 もちろん、俺とアリスもお手伝いに駆り出されている。

 ダークナイト・グランドについても気になるが、そちらは捜索に当たっているエルフたちに任せるしかない。

 ダークナイト・グランドを発見したら、俺とアリス、ミコはそちらに駆けつけることになるだろう。


 俺も最初はアリスと同じように、力仕事の方の手伝いに参加しようとしたが、家ほどもある丸太を運ぶような人外の力仕事を要求されたので事故で死ぬ前に、神社のお手伝いに派遣された。

 力仕事は男の仕事というのは、時代遅れかもしれない。

 アリスが片手で巨大な丸太をひょいと軽々と担いで、両手で合計2本を運び始めた時には目を疑った。

 そして神社の方では、祭りの飾りつけの道具を倉庫から運び出す作業をカエデとミコで行っていたので、俺も参加することになったのだ。


「カエデさん」と俺は話しかける。

「はい。何でしょう。『箱B』を見つけましたか?」

「いえ、ガリアさんについてです。具合はどうだったんですか。治療は昨日済んだと聞いていますが」

 ガリアはダークナイト・グランドの攻撃で、俺たちをかばって負傷したのだ。

 肩に当たっていたので、命は助かっているはずだけど、今日見当たらなかったので気になっていた。


「ガリア様なら、禁書庫でダークナイト・グランドの対抗策を探すと仰っていました。治療はしましたが、一週間は安静が必要と言われたそうで、戦いに出られない代わりに何か力になりたいと」

「やっぱり戦いは無理なのか。それで、その禁書庫と言うのは?」

「神社の下にある大昔に書かれた書物です。残念ながら、そのほとんどは失われた文字を使って書かれているので、その時代を知っているものしか読めません」

「それを読めるのが、ガリアさんってことか」

「そうです」

 カエデさんは肯定する。

 失われた文字と言うのが、どういう物か分からないけどそちらの方はガリアさんに任せるしかないんだろうな。

 祭りまで後二日、それまでにダークナイト・グランドに対抗できる何かを探せればいいんだけど、時間が圧倒的に足りない。

 どうにか手伝えればいいんだけど。


「他にその失われた文字を読める人というのはいないんですか」

 カエデさんは手を止めて、「それは……」と呟いた。

「私も読めますよ」

 背後から答える声が聞こえた。

「ミコさんも読めるんだ」

「はい。読めるというより、その文字の知識を知っているというだけです」

「それでも凄いじゃないか。それで禁書庫の本は何が書かれているんですか?」

 禁書庫と言うからには危ない本とかもあるのかもしれない。


 それに何故か気恥ずかしくて、ミコと顔を合わせて会話できない。

 昨日の柔らかい感触を思い出してしまいそうだ。

 見えていないが、ミコも同じだろうと思う。

 背中同士で語り合わなきゃ、爆発しそうだ。

 恋人同士でもないのに、意識しすぎだと自分に心の中で突っ込む。でも仕方ないじゃないか、あんなことをされたの生まれて初めてなんだから。


「禁書庫は大昔の歴史書か、あるいはあの人の研究成果を書き記したものです」

「あの人?」

「そうです。親友だった人、はるか昔の……」

「親友?はるか昔って?」と俺が聞き返すが、「つまりその研究成果からガリアは対抗策を探し出そうとしているわけです」とミコは強引に結論付けてしまった。


 そして「そろそろ昼になりますね。私の方で昼食を頼んできますね。カエデ、後は任せました」とミコは倉庫の外へそそくさと出て行ってしまった。

「カエデさんは知っていますか?」

 箱をごそごそと探っていたカエデは手を止めて、俺の方を見た。

「ミコ様が仰るつもりがないのであれば、私からは何も言えません」

「そうですか」

 後は知っていそうなのは、ガリアだけだけど、ミコの様子だとそちらも難しいのかもしれない。


 *


 気まずい。

 対面にミコが座って、お互い無言で用意された昼食を食べ続ける。

 倉庫の作業で緩衝材となってくれていたカエデさんは今はいない。

 ガリアさんの方に昼食を持っていくと言って、俺たち二人を残してさっさと行ってしまったのだ。

 せめて彼女がいてくれれば、何とか会話をつなげられたのに。


 広い部屋がいっそう広く感じて、お互いに使っている箸の音がやたらと気になってしまう。

 畳の床と座布団も冷たく感じる。

 まるで世界が俺とミコさんだけになった気分だけど、あまり嬉しいと感じない。

 むしろどこかへ行ってしまいたい。


 でもこのまま気まずい雰囲気のままでいるのも、今後の戦いとかに差し障るだろう。

「えっと、ミコさんとカエデさんって、どのような関係なんだ?今日の様子を見た感じ、親しそうだったけど」

「カエデは私がこの神社に努めるようになってからのお付きのような関係です。ガリアと共に私を支えてくれています。気が利いて、私に親身になってくれるエルフなんですよ」

「そうなんですか。優しい人なんですね。カエデさんは美人ですし、気が利く女性ってモテそうですね」

「ふふ、そうですね。私はあまりここを出ないので、そういう事には疎いのですが、きっとそうだと思いますよ」

 カエデさんについて広げていけばと考えていたが、ミコさんが「カエデが気になるんですか?」と唐突に少し声を低くして言った。


「はい?さっきまで一緒にいたから、もう少し良く知りたいなって、思って」

「やはり人間の男性は成熟した姿の女性を気にかけるのでしょうか?」とミコさんが呟く。

 その言い方だと、語弊がある。まるでカエデさんを俺が狙っているみたいじゃないか。

「ち、違います。ただカエデさんとその……友達として、仲良くなりたいのであって!えっと、ほら、ガリアさんだって、いるじゃないですか。カエデさんもガリアさんと付き合いが長そうだし、一日二日あったばかりの俺を好きになる訳ないだろ。むしろ、そっちの方が濃厚っていうか」

 何故言い訳をしなきゃいけないのか分からないが、何かミコさんの気に障ったようなので、全力で否定する。


「カエデとガリアが?」ときょとんとした顔をする。

「そうですよ。何かガリアさんもカエデさんに色々と任せたり親しかったりしているし、カエデさんもガリアさんの事詳しいかなって!」

 ミコさんがクスクスと笑い始めた。

「え?どうした?」

 疑問を抱くが、それよりも笑って機嫌を直したことにほっとする。


「ありえませんよ。カエデとガリアが、クスクス……。あはははは……」

「いや、何を笑っているのか。見えないんだけど……」

 カエデさんとガリアさんが付き合っているかもしれないと考えることがそんなに変かな。

「ごめんなさい。全然、説明できていなかったわね」

 目に浮かんだ涙をぬぐいながら、ミコさんは謝った。


「ガリアとカエデは、父親とその娘ですよ。ガリアはもう200歳超えてますし、カエデは……。そうですね、秘密です」

 ガリアさんはまだ30代くらいに見えていたのに、そんなに年だったのか。

 そういえば、今までエルフを見てきた中で老人は誰一人いなかった。

「人間に比べて、成長するのも老いるのもかなり緩やかなんですよ。人間の老人と呼ばれる姿になるのは、寿命の最期10年程度です。エルフの寿命は300年と言われていますので、そのほとんどを若い姿で生活するんです」

「うわぁ、凄い。高齢化社会とは、縁遠そうだな」

「コーレイカシャカイとは?」

「あっ、ごめん。なんか俺のいた国の話をしちゃった」

 うっかり元の世界の単語を口にしてしまった。

 当然、分からないよな。


「いえ、新川さんの生まれ故郷の話を聞いてみたいです。コーレイカシャカイという物についても」

 すっかりと機嫌が良くなって、食いつくように俺の故郷についてせがまれる。

 機嫌が直ったのは良いけれど、そんなキラキラした目で俺を見つめてくると心臓がどきどきとしてしまうからやめて欲しい。

「わ、分かったよ。話すから、落ち着いてくれ」

「はっ!す、すいません、みっともなくはしゃいでしまって」


 ミコさんは顔を一瞬で真っ赤にして、少し乱れた服をぱっぱと払って整える。

「俺の国は、とても遠くにある人間だけの国で……」

 俺はミコさんに俺の身の上話を話し始める。

 異世界から来たなんて言う話は信じてもらえないだろうし、嘘つきと呼ばれるよりは曖昧にして説明するのが良いだろう。


 俺はこの世界に来るよりも少し前の話をして、それをミコさんがきらきらとした目で熱心に聞く。

 なんの面白味もない自分の人生を語ったのにも関わらず、まるで大長編映画でも堪能したかのように満足そうな吐息をミコさんはこぼした。


「人間もそんなものを作り出せるようになったのですね。見てみたいです」

「えっと、俺の故郷の話だし、こっちではど、どうなんだろうな」

 なんか人間の世界に過度な期待を持たせてしまったような。

 異世界には渡れないだろうし、実際に里の外の人間の都市を見てがっかりしなければいいけど。


「ありがとうございます。こんな凄い話を聞かせていただいて、私はとても感激しています」

 やばい。大興奮している。

 俺の世界は科学としては進歩しているけど、魔法はなかったし、違う世界なんだと説明した方が良いような。


「代わりにエルフの里の秘密について、教えて差し上げますね」とミコさんは言った。

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