通信魔法(ギルドへ)
エリザベスさんの手配した馬車に送られて、宿屋に戻ってきた。
そしてフロントを見回して見たところ、壁際にいくつか見慣れないものが並んでいて、数字が並んでいることから護衛の人から教わった通信魔法の魔具だと当たりをつけた。それに数字を打ち込むと、ほんのりと光って動き始めた。
通信魔法の端末を使うと電話のように呼出音がしばらくなった後、「新川さん?本当に?」と懐かし声が聞こえた。
「はい。新川修平です。アハトさん、お久しぶりです」
エリザベスさんの護衛から受け取った通信魔法の番号は、始まりの町のギルド宛てであった。そしてそこで通信魔法を受けるのは、アハトさんだ。
彼女は始まりの町で、ギルドの受付をしていた女性だ。
この世界に来て、右も左も分からない自分のために色々と便宜を図ってくれた恩人だ。彼女がいなければ、俺は生きていけなかっただろう。
アリスに会えたのもアハトさんのおかげとも言える。
魔王の幹部のロックジャイアントとの戦いでも、助けを呼ぶことができたのはアハトさんがいたおかげだった。
ロックジャイアント戦以降はアリスに誘拐まがいの事をされて、挨拶できずじまいだった。
始まりの町から離れて、まだ1ヶ月も経っていないのに懐かしく感じてしまう。
「良かった。心配していたのよ。あの後すぐに姿が見えなくなって、探したけどどこにもいなくて。すぐに商人の女性が来て君は他の町に行ったと聞いたけど、連絡がぜんぜんなかったから。本当に心配していたんだから」
「すみません。自分でもどうしようもない事が色々と起こって、連絡するのが遅れてしまったんです」
「それで、今はどこにいるの?ちゃんとご飯食べているの?」
「王都にいます。食事は食べられています」
「王都!?」とアハトさんが大声を上げた。
「王都周辺の魔物のレベルは3桁よ。大丈夫なの?あっ、そうよ。そうよね。新川さんもレベルが上がるようになったのね」
俺を心配してくれると同時に、早合点をしてしまう。
もし本当にレベルが上がっているのなら良かったが、そうは問屋が卸してはくれない。
未だにレベル1から変化していないのだから。
「いえ、レベルは1のままです。ここまでこれたのは……」
備え付きの木製の無骨な椅子に座り、アハトさんに始まりの町を出てからの話をした。
首都に着いてから、何度目だろうか。
だけど一番心を落ち着く。
今までが説明しなければいけなかったり説得しなくちゃいけなかったりしたから、聞いてもらえるだけというのが、これほど心安らぐのだろうか。
背もたれに寄りかかりながら、ゆったりとした心地でアハトさんに語る。
彼女の方も無理に突っ込むこともなく、静かに相槌を打ち続けてくれたので、ただスムーズに話すことができた。
穏やかな時間だった。
今まで過ごしてきた怒涛の時間と今だけ切り離されたかのようだ。
アリスに振り回されてきたから、こういうゆったりとした時間を過ごすことはなかった。
比較的アリスと離れていた魔法都市でも、訪れてすぐに殺人なんかが起こっていたから気が休まる時間もあまりなかったので、実際は落ち着ける時間はほぼない。
だからこんな時間は、元の世界以来だ。
目を閉じて、濃厚な思い出に浸りながら、思いつつままに口にする。
そして今まで客観的にしか語ってこなかったから、次第と感情が籠っていく。
楽しかったことや怖かったこと、そして悲しかったこと。
そんな感情が溢れてきて、景色がにじむ。
目元を指で拭くと、いつの間にか、涙が出ていたことに気付いた。
「大丈夫?泣いているの?」とアハトさんが通信魔法越しに言った。
知らず知らずのうちに、声にも出ていたようだ。
「思い出してしまって……。自然と……」
服の袖で拭う。それでも涙は止まらなかった。
「無理もないわ。聞いているだけでも、苦しい旅だったのでしょう。アリス姫様と一緒だったと言っても、レベル1で魔王の幹部と戦うなんてとても大変だったんじゃないですか?」
優しい声で、アハトさんはねぎらってくれる。
「そうです。何度も死にかけました。それに何人も死ぬのを見ました。俺がレベル1なばかりに、何もできなくて、守れなかったことが多くて……」
「そう……」
「俺が強くなれれば、守れたかもしれないのに……」
アリスくらい強くなれれば、もっと被害を小さくできたはずなのに。
「新川さんは頑張っているわ。とても、とても……」
「でも俺がもっと……」
「強くあればと思うのは、世界中の人が当然思う事よ。ギルドの受付をしていればよくあるのよ。魔物に唐突に襲われ、命を落とすことなど日常茶飯事なの」
「それは……」
「それに新川さんは守れなかったと言いますが、新川さんのおかげで守られた命だってあると思いますよ。それは誇るべきことだと思いますよ」
「俺が守った命……」
「はい。アリス様が倒したと言えど、新川さんがいたからこそ、ロックジャイアントを倒すことができました。ロックジャイアントは比較的新参の魔王の幹部ですけど、与えられてきました。その被害は計り知れません。新川さんが秘密を見抜いたことで、倒すことでこれからの被害も防いだのです。新川さんの頑張りは無駄ではありませんよ」
アハトさんの声に励まされる。
「ありがとうございます」
少し涙声になっているのを自覚する。
「どういたしまして。もっと聞かせてくれない?新川さんが旅したときの事を……」
「はい」
俺はアハトさんに夜遅くまでアリスとの旅を語り尽くした。
そして俺は改めて決意する。
まだ俺はここでアリスに言われるがままリタイアしたくないと。
そのために、まずは明日のアリスとの決闘だ。




