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Lv1の剣  作者: 豚野朗
王都
117/206

食事会(恋する乙女)

「失礼します」

 エリザベスさんの部屋に1時間ぶりに戻ってきた。

 昨日から何度も出入りしているので真新しさはなくなってしまった。お姫様の部屋で城の一室という馴染みのない空間にも、もう慣れてきてしまっていた。

 先にエリザベスさんがテーブルに向かって、姿勢よく静かに座っている。

「ただいま。なんか疲れたよ。今日は色々あって」と言いながら、エリザベスさんの座るテーブルの辺の反対側に座った。

「アリシアさんはまだ戻って来ていないんですか?」と聞くが、何故か返事をしてくれない。

 椅子に座って、うつむいたままで目を合わせない。

 黒くつややかな髪が前の方に垂れ下がって、顔を隠してしまい、彼女の表情を読み取ることは難しい。


「エリザベスさん?」と声を掛けると「は、ひゃい……」と上ずった声でエリザベスさんは返事をした。

「どうしたんですか。ずっとだまったままで……」

「い、いえ、何でもありませんわ。な、何かしら?」

 明らかに動揺した口調をして、エリザベスさんはききかえしてきた。

「アリシアさんは今、どこにいるのかなって……。もしかして、エリザベスさん、寝ていました?」

「いいえ!寝てなんかいないですわ!」

「そ、そうか。分かったから、落ち着いて」

 恥ずかしさからかエリザベスさんは唐突に怒りだしてしまった。

 仮にも王女様だし、そういう事は恥ずかしいのだろう。


「彼女はまだ戻って来ていませんわ。きっとまだ作っている最中ですわ」

「なら、俺も手伝いに行った方が良いかな……」

「この分野は商人の十八番ですわ。新川さんが行くまでもなく、滞りなく進んでいることでしょう。むしろこの場は任せて、明日の決闘に向けて休むべきだと思いますわ」

「そうですかね……」

「そうですわ。適材適所ですわ。得意な方に得意なことを任せるのも大切なことです。アリシアさんにすべてを任せましょう」

「はい」

 エリザベスさんにたしなめられて、手伝いに行くのを諦める。


「明日、アリスお姉さまに戦うためには、まず体調を万全に整えないといけませんわ。武器が出来上がっても、新川さんが寝不足だと勝てるものも勝てませんわ」

「万全でも勝てるかどうかは分からないけどな……。まあ、準備しておくに越したことはないか……」

「ええ。それが新川さんのお仕事ですわ。お腹いっぱいに食べて、ゆっくり寝て、英気を養って、明日に備えるのですわ」

「はい。そうしようと思いま……。でもなんかこのままアリシアさんに任せるのも……。やっぱり少し見に行って……」

 自分が行った所で、何を手伝えるのかという話だが、何もしないで待つというのはどこか不安になってくる。


「ダメですわ。そこをぐっとこらえて、信じて待つのです。アリシアさんなら、やり遂げてくれるはずですわ」

「うう、はい」

 心配になる気持ちを押さえて、再度頷いた。

 これも明日のアリスとの決闘のためなのだと飲み込む。

 俺が不安に思っても、何も進まないだろうし、エリザベスさんの言う通りにするのが一番良いのだろう。


「そ、それにしても、暑いですわね」とエリザベスさんは顔を手で仰いでいた。

「そうかな。むしろちょっと寒いくらいだと思うけど……」

「そ、そうかしら……。そうかもしれないですわね……」

 やはり部屋に入った時から、エリザベスさんの様子がおかしい。

 そわそわと部屋のあちこちへ視線を散らし、視線をあわせてくれないのだ。

「エリザベスさん、何かありましたか。落ち着かない様子ですけど」

「いえ、何でもありませんわ……」

 すると視線を動かすのをやめたが、俺と視線を合った途端、すぐにそっぽを向いてしまった。

 そしてその後も、視線を逸らしたままだった。

「あの……、エリザベスさん、俺、何かしちゃいましたか?」

 自分が顔を合わせたくなくなるほど不快にさせてしまったのかと、エリザベスさんに尋ねるも、返事が来る前に料理をメイドさんが持ってきてしまった。


 ごまかすように、エリザベスさんは配膳された料理の話をし始めてしまって、追及できなかった。

 さらに料理を食べている間も、一度も視線が合わない。

 俺がしゃべる隙も与えず立て板に水のようにぺらぺらと料理の逸話や食材の産地についてしゃべり続け、俺は相槌を打つだけの食事だった。話は弾んでいるように感じるのに、なんとも居辛く感じる。

 エリザベスさんって、こんなにしゃべる人だっただろうか。

 無口ではないが、饒舌な人柄ではなかったように思う。

 エリザベスさんの調子がおかしい上に、周りで食事の手伝いをしてくれるメイドさんがにやにやと俺たちを見ているのも居心地の悪さに拍車をかける。


 デザートが出てきた頃、周りで俺たちを見守っていたメイドの一人が俺の見ている前でエリザベスさんに耳打ちをする。

 するとエリザベスさんの顔があからさまに赤くなった。小さく横に首を振るが、メイドが再びこそっと何かを囁き、一礼をして離れていく。

 目の前で行われた内緒話の内容をあからさまに聞くのははばかられてしまい、黙り込んでしまったエリザベスさんにどう話しかけようかと困ってしまう。

 俺もエリザベスさんも話し出せないもどかしい時間が数秒流れた。

「あの……」とエリザベスさんが普段とは比べ物にならないほど小さな声で言った。空気の音が聞こえそうなほど静かでなければ、聞き逃していたかもしれない。

「はい。何でしょう」

 どこか緊張してしまい、かしこまった言い方になってしまった。

「その……あの……ですね……」ともにょもにょと口の中で、言葉を繰り返す。

 そして意を決したように、今まで逸らし続けてきた俺の目をまっすぐに見つめてきた。

「新川さんの……好きな女性のタイプって、どんな風でしょうか」

「はい?」

 飛び出してきた質問が予想外の物でびっくりしてしまう。

「好きな女性のタイプ……です……」

 なぜ唐突な合コンでよくあるような定番の質問が出てきたのだろうか。

 もう話す内容がなくなったというのだろうか。

 あの耳打ちの内容が、俺に知られたくなくてごまかすためにこんな質問をしたのかもしれない。


 そうだとしたら、エリザベスさんには気を遣わせてしまったのだろう。

 好きな人というと俺の唯一の恋人はミコだったのだから、そう答えるべきだが、タイプとなるとどうだろうか。

 自分の好きなタイプ。

 俺はミコのどういう所にひかれたのだろうか。

 少し考えてみて、「苦しい時でも折れない人がタイプなのかなぁ」という答えを伝えた。

 ミコは自分が苦しい役目を負っていて、自分の運命がどういう物か分かっていたけれど、それを投げ出さず真摯に受け止めて役目を成し遂げようと努力していた。

 俺は彼女のそういう所に惹かれたのかもしれないと思った。


「エリザベスさんも『大侵攻』のために、辛いのに勉強や訓練を頑張っていますよね。しかも時間もないのに俺の手伝いまでしてもらって……。だからエリザベスさんも同じですね。俺のタイプかもしれないです」

 エリザベスさんが顔を真っ赤にした時に、俺は自分の失言に気付いた。

「す、すみません。俺は王族の人に失礼なことを言いました」

「いいえ、嬉しいです。……あ、あの……次の講義があるので、失礼します!」

 エリザベスさんは急に立ち上がったかと思うと、扉から飛び出して行ってしまった。


「エリザベス様!?」

 メイドたちが唐突に走り去ったエリザベスさんの後を追いかけた。

 エリザベスさんが唐突に出て行ってしまったのには驚いたが、忙しい事は分かっているので攻めることなどできない。まだデザートも出て来たばかりなのに、それを食べ終えてそうそうに次の予定が入っているとはかなり忙しそうだ。

 今日も何度も時間を作ってもらってあっていたが、すぐに次の予定が入っている様子だから慣れてしまった。


「初々しいことですね……」と背後から護衛の男が呟いた。

「初々しいって何のことですか?」

「いえ、こちらの話です。エリザベス様が行ってしまわれたので、勝手ですが私の方からお渡しします。アリシア様からお預かりした物です」

 彼の手には一切れの小さな紙があった。

 それを受け取ると、そこには数字が書かれていた。

「何ですか、これ。電話番号?」

「デンワバンゴウというのは分かりませんが、それは通信魔法の宛先です。宿泊施設には有料の通信魔法の魔具が置かれています。そこにその番号を打ち込めば、新川さんのような魔力のない人でも通信ができるはずです。子供でもできるような簡単な操作なので、安心してください」

「ありがとうございます。それで、これはどこの番号何ですか?」

「私は伺っていませんが、『心配しているから、声だけでも伝えてあげて。誘拐まがいの事をしてしまったから、何も話せなかったでしょう。積もる話もあるでしょうし、私につけて置いても大丈夫よ』と新川さんに伝えるようにと仰っていました」

「ああ、そうか」

 誘拐まがいという事で思い出した。

 そういえば、何も言わずに出て来たな。いや、出されたというのが正しいけど。

 話すことはあまりにも多い。

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