先代勇者(王様)
帰りも宰相に案内されていたのだが、途中からエリザベスさんの護衛の男が迎えに来た。
何でも昼に引き続き、夕食を一緒にしようというお誘いだった。断る理由もないので、食事を一緒にさせてもらう事にした。
「それでどこに向かっているんですか?」
「エリザベス様の部屋です。大食堂で王族の方々全員で食事をすることもありますが、それぞれ公務があるので自身の部屋で取ることが多いんです。それに今日は明日『大侵攻』に向かう者たちが使っておりますので、大食堂は使えません」
淡々と俺の質問に答えてくれた。
「そうなんですね。アリスもそれに出ているんですかね?」
「はい。アリス様と王様が出席して、兵たちを鼓舞しています」
「アリスも『大侵攻』に出るのに……」
「それが王族の務めという物だそうです。それに兵と交流するのも、軍を動かすうえで重要な仕事です。信頼関係を築けなければ、軍の運用に支障が生じてしまいます。それを王様と言いあっていたのでしょう?」
アリスの罪の件だ。
言い合っていたと言うほどではなかったけど、何とか王様を説得できたのだ。
「はい。でもそれは何とかなって、アリスは最前線に行くことができるようになりました。王様の目つきには肝を冷やされましたけど……」
「その件は、本当に感謝しています。アリス様が最前線に行けば、この世界の強力な力になります。王様の目つきが鋭いのは、そもそもがアリス様と同じように最前線で戦う武人として育てられていたからです。王様もまた勇者として期待されていたほどの腕前だったそうです」
アリスと同じように王様も勇者として期待されていた。
それはまだ聞いた事のない話だ。
「そうだったんですね。しりませんでした」
「結局、王様もまた勇者のスキルは出ませんでした。そして勇者のスキルは、王様の兄の長男に現れました。この国を継ぐのは、王族の長男と決まっていますが勇者のスキルを手に入れた場合は別です。長男が勇者のスキルを手に入れた場合は、次の年齢の高い男性が継ぐことになります。それが現在の王様です」
「だからあんなに厳しい感じだったんですね。なんか納得しました。じゃあ、今の勇者のスキルって、その王様のお兄さんが持っているんですか」
「いいえ。既に殉死なさっています。『大侵攻』よりも前、ダークナイト・グランドが率いる軍勢が攻めて来た時にダークナイト・グランドと戦い、その際に命を落としました」
聞き覚えのある名前に、はっとする。
「もともと身体の強い方ではなかったので、ダークナイト・グランドとの戦いに耐えきれなかったのでしょう。しかし誰よりも優しく人徳のあった方でした。彼が討ち死にしたと聞いて、私も本当に悲しかったです」
「そうだったんですね」
ダークナイト・グランドが進行してきたという事はアリスが言っていたが、そこで勇者が討ち死にしていたとは。
「もしかしてアリスも勇者の人と一緒にいたんですか?」
「はい。当時はアリス様も勇者候補として、ほとんど一緒に戦っていました」
「なるほど」
アリスが勇者のスキルを取りに焦って暴走したのは、一緒にいた勇者がなくなったことも起因しているのかもしれない。
「アリスは言っていなかったけど、ダークナイト・グランドを倒してかたき討ちを果たした事になるのか。だからあんなにダークナイト・グランドのことを詳しく知っていたんだな。戦っているときにも、ダークナイト・グランドの行動を予測していたり、戦いを有利に進めたりしていたけど、それは一回、勇者とダークナイト・グランドとの戦いを見ていたからなんだろうな」
「そうかもしれません。ダークナイト・グランドはおとぎ話に出てくるような大昔からいる存在なので、その時からのデータが積みあがっていたこともあると思いますが」
「おとぎ話って、千年前とか?」
「そうですね。千年前の勇者と戦い、引き分けたという話です」
「引き分けた……」
千年前の勇者って、今のアリスよりも凄いという話じゃなかったっけ?
もし本当に勇者と引き分けたというのが本当なら、アリスが倒したのはとんでもない事なのではないか。
「おとぎ話では最初に戦った魔王の幹部です。魔王の幹部であるダークナイト・グランドと戦い、勇者は瀕死の重傷を負いながらも引き分けに持ち込み、ダークナイト・グランドを撤退させた。そして勇者はその勇気を讃えられて、妖精族のティターニアに認められた。妖精族の力によって、勇者は一命をとりとめ、妖精族の力を手に入れた。これがダークナイト・グランドの現れるおとぎ話の内容です。その後は、ダークナイト・グランドは登場しません」
「ダークナイト・グランド……。予想以上に勇者と因縁が深い存在だったのか。その後の事が印象に残っていましたけど、ダークナイト・グランドとアリスにはそんなものがあったんだな。何も言ってくれなかったけど、それも仕方ないか。俺は何も知らない訳だし」
隠していたという訳ではないと思うけれど、アリスもすべてを俺にはさらけ出していないという事だろうか。
「そうですね。アリス姫は明朗快活な方ではありますが、あまり胸中の思いを口にすることは少ないと聞いています。先代の勇者が亡くなられた時にも、涙すら見せなかったという噂です」
「涙すら……」
そういえば、ミコが亡くなった時もアリスは泣いていなかった。
俺が泣いてばかりで、アリスが鳴いている所を見たことはなかったはずだ。
アリスにとって、ミコの死はどういう物だったのだろうか。




