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Lv1の剣  作者: 豚野朗
王都
115/206

王様の苦悩(勇者の訪れ)

 宰相に連れられて、メイド達が多く通る廊下を歩いて、城の奥の方へ進んでいく。

 そして一つの扉へとたどり着く。

「こちらが、王の寝所だ。くれぐれも失礼のないようにな」

 失礼のないようにと言われても、そもそも何が失礼な行為に当たるのかさっぱりなんだが……。

 もし入った瞬間にノックをしなかったとか言う理由で、処刑されてしまったらどうしようか。

 今さら不安になる俺の心を察しもせずに、宰相はガチャとドアノブを捻った。


 それにしても変な扉だ。

 なんか変な凸凹がたくさんあるし、王様のいるところにしてはどこか質素過ぎるような気がする。

 火の鳥みたいな絵が描かれているから、豪華なんだけどどこかアンバランスだ。

 有体に言えばボロボロというか、まるで表面にあった何かを強引に剥いだような感じだ。

 よく見たら、ちょっとヒビまで入っちゃっているし……。

 だからツギハギに見えてしまう。

 まさか襲われでもしたのだろうか。

 王様の居る所だし、襲われることもあるかも。まさか魔王の幹部が俺たちのところ以外にも来ていたのかもしれない。

 でも扉以外には全くそんな気配がないのが気になる。

 ここまでくる廊下にも壁にも、傷はない。それどころか丁寧に掃除がされていて、新品同様にキラキラと輝いている。

 何かおかしいなという感情と共に、開いた扉の隙間に身体を滑り込ませた。


「失礼します」と言って、中に入ると予想と違って地味な景色に驚いた。

 王様だから金ぴかの豪華な部屋かと思ったら違った。

 しかも扉と同じようにボロボロになっている。せっかく表面には緻密な絵が描かれているのに、所々が剥げていて残念に思える。

 そのせいで王様の部屋なのに、殺風景に見えてしまう。

 そして窓際に置かれたテーブルにさっき玉座に座っていた王様が座っている。

 さっきまで着ていた豪奢なマントは脱いでいて、その下に隠されていた年に似合わない胸板の厚い身体が服の上から見える。


「ようこそ。みすぼらしい場所だが、どうかご容赦を。それと勇者殿、先ほどは見事な弁明術だった」

 謁見の間での高圧的な雰囲気とは打って変わって、かなり軟化していた。

 しかも俺を勇者と呼び、褒めてくれさえした。

「いや、俺は勇者ではないですよ」

 まさか王様にさえ勇者と呼ばれるとは。

 やっぱり俺は勇者としてこの世界に呼ばれたのだろうか。

 だけど何故か、その呼び込んだ女神が渡してきた剣によって、レベル1から成長できずにいる。


「いいや、確かに勇者だろう。魔王の幹部を3人も倒した。その成果は確かに太古の勇者に通じるものがある」

「さっきも言いましたけど、俺じゃなくてアリスが倒したんですよ」

「娘だけでは無理だっただろう。あれでも娘は勇者と呼ばれた身。ただの装備では、満足に戦う事ができない。お主がいたから、娘も存分に戦えた。もしもいなかったら、どこかで命を落としていた事だろう。本当に感謝している。この通りだ」

 そう言って、王様は座ったままだが俺に向かって深く頭を下げた。

「そ、そんな、頭を上げて下さい」

 こんな俺みたいな人間に王様が頭を下げているなんて、誰かに見られたら俺の実が危険かもしれない。


「あの……それで、俺が呼ばれた理由というのは……」

 このままでは話が進まないので、強引に元に戻した。

「儂がお主を呼んだのは、アリスと共に戦ってくれたお礼をいうためでもあるのだ。勝手な行動をしたアリスを咎める手前、安易に儂が人前でお礼をいう訳にはいかないのでな。後は、お主に勇者の事について聞きたかったのだ」

「勇者の事ですか?」

「ああ。儂らは魔王と戦っておる。しかし戦いは現状維持が限界。魔王を倒すには勇者の存在が不可欠。千年前、そして今代、どちらもどこからともなく現れた勇者によって、魔王の幹部を撃破しておる。信じられないかもしれぬが、この千年間、ほとんど魔王の幹部さえも倒すことができていなかったのだ。アリスが倒したダークエルフさえも、大戦果だった。だがエルフたちの話を聞く限りでは、魔王の幹部ではなく死体を操られていたという事のようだが……」

 アリスが勇者のスキルを取るために焦って、先走ってダークエルフに特攻した話だ。


「はい。あれはエルフの秘術で亡くなった千年前のエルフをリッチが使役していたそうです。でも本当なんですか、一度も魔王の幹部を倒せていないなんて。アリスは普通に倒していたので、そこまでとは思っていなかったです」

 魔王の幹部も代替わりとかしているのかと思っていたけど、まさか千年前から倒せていなくて、変わっていなかったなんて思いもよらなかった。

「その、そんなに強いんですか?自分はレベル1で、強さの違いが分からないんですが」

 俺が尋ねると、王様は深くうなずいた。

「はっきり言うと強い。勇者のスキルを持ったものがいて、やっとギリギリ守れているというのが現状じゃ。単純な強さをもつ魔王の幹部とそれに連なる大量の魔物。それが波のように押し寄せてくる。地の利を得て、罠にはめ、勇者が魔王の幹部を押さえ、魔物を屠る。そうしてやっと戦えている。こちらから結界の外へと攻め込んだことなど、記録では千年前の勇者以外にない」

「それで勇者の事を知りたいという事ですか?」

「ああ、もしお主以外にまた勇者が訪れる可能性があるのならば教えて欲しい。欲を言えば、もっと勇者が訪れるようになってほしいのだ。勇者に頼るような事を本来はしたくはないが、現在の戦いの状況では頼る他ない。魔王の幹部も百年単位で増えていて、勇者が何人いても足りないくらいなのだ」

 深刻な表情で語る王様の言葉には、疲れが見えた。


「『大侵攻』が始まって、もう数日経つが予想よりも進行が速い。王家の宝を売り払って、金策を練っているがそれでも足りない。扉や家具に収められている宝石を抜き取っても、まだ足りぬ」

 そうか。扉の抜けた穴やヒビはその時の名残か。

 王様は額に手を当てて、ため息をついていた。

「もしお主の他に勇者を呼ぶ方法を知っていたら、教えて欲しい。手が足りないのだ。勇者が後一人二人は欲しい」

 その縋り付くような王様の言葉に俺は「すいません。知りません」と答えなければならないことが辛かった。

「俺は神様の力でこの世界に連れてこられて来たみたいなものなんです。勇者の増援を頼む方法もこの世界に入る方法も出る方法も知らないんです」

 嘘をついたって解決しないから、正直に答える。

「そうか」と王様は答え、残念そうに首を振ってうなだれた。

「残念だが、仕方ない事だ。これはきっと神の気まぐれなのだろう」

 確かにそうかもしれないな。

 俺にこの剣を渡して、この世界に送り付けてきた神の顔を思い浮かべながら心の中で呟いた。

 あの神は俺に何を期待して、この世界に飛ばしたのだろうか。

 今となっては、連絡を取る手段もないしな。


「それでお主はどうするのだろう。アリスと決闘をするという話は、儂の耳にも届いている。儂からアリスを説得してもよい」

 王様から願ってもないような提案がされた。

「俺を最前線へ連れて行ってくれるように頼んでくれるんですか」

「もちろんだ。儂の言葉ならば、アリスも聞くだろう。それに儂の息子も幾人か最前線にいて、指揮を執っているのだ。アリスが首を縦に振らぬなら、そちらに回しても良いと考えておる。あるいはいずれ儂も剣を取ってここを守るために立たねばならぬ時のために、王都の衛兵に雇用してもよい。それもお主の望み次第だが」

 それは本当に願ってもない提案だ。


 でも。

「俺は、俺自身の力でアリスを納得させないといけないと思っています。アリスが俺に力がないから、連れていけないと思っているのなら、ちゃんと証明しなければならない。『大侵攻』という舞台にいても問題ないと思われないといけないのだと思います」

 これは俺とアリスの意地の張り合いだ。

 アリスに俺を認めさせないと意味がない。

 上から命令をして強引について行ったとしても、アリスは俺を信じてくれないだろう。

「そうか。魔王の幹部と戦い、生き残ってきただけはある。お主は強い男だ」と王様が言った。

 俺はその言葉に、首を横に振る。

「俺は弱いです。俺は大切なものを守り切れないんですから」

 守り切れなかったもののために、復讐を誓っている弱い人間なのだ。


「そうか。そこまで意志が固いのであるならば、儂が横やりを入れるものではなかったな。健闘を祈っておる。どうか、お主の望む結果となるように」

「ありがとうございます」

 王様に背を向けて、俺は元来たように扉を出た。

 次は明日のアリスとの決闘だ。

 何としてでも、決闘に打ち勝たないといけない。

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