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Lv1の剣  作者: 豚野朗
王都
114/206

反論(魔王の作戦)

 考えろ。

 今までの旅の中にあった出来事を、すべて思い出せ。

 例え間接的であろうと、アリスが何かをしたという出来事は無かっただろうか。

 魔王の幹部を倒したという手柄じゃない何か。

 王様に話したときに、旅の内容は復讐しているんだから詳細に思い出せるはずだ。

 始まりの町、エルフの隠れ里、魔法都市。

 この三つの町を通って、魔王の幹部を倒したんだから、何かあるはずだ。

 気付いていないのなら、思い出の中に違和感がある場所を探せ。そこにきっと鍵があるはずだ。

 これだけ派手に活躍してきたのに、何もないなんてことはないだろう。


 思い出の中での違和感……。

 そもそも魔界と人間界の結界から侵入してきた魔王の幹部が、それぞれ単独で行動していたのがおかしいのではないか?

 始まりの町を襲ったロックジャイアント。

 エルフの隠れ里を襲ったダークナイト・グランド。

 魔法都市に潜んでいたリッチ。

 それぞれの都市で、それぞれの魔王の幹部と戦ってきた。

 何故、一体一体で来たのだろうか。


 いや、リッチに関しては違う。

 アカガの話では、数年前、既に人間界へ来ていたという話だった。それからアカガの父親と会って、研究を続けていたという。

 だからリッチは別件だ。

 しかし他の2体はほとんど同じタイミングで別の町に現れた。

 しかも距離的にはかなり近い。

 始まりの町とエルフの隠れ里は、馬車で1日くらいである。

 だからロックジャイアントとダークナイト・グランドは一緒に来ていたと考えられる。最前線では魔物を引き連れて戦っていたというのに、仲間を一人も連れていなかった。


 何故だろうか。


 あそこでたった一人で暴れるより、仲間を連れて暴れていた方が被害は大きくなっていたはずだ。そうすれば、仲間にアリスを相手させて町をもっと簡単に破壊できたのに。

 そうしなかったのは、何故か。

 アリスがいないと思っていた?

 しかし人間界の情勢など結界の先の魔王軍には分かりようがないだろう。

 もし知っていたとしても、王都からはそこそこ離れているとはいえ、王様が言っていたように王都に連絡すれば応援は来るはずだ。応援が来たら、魔王の幹部と言えど人間界で孤立して囲まれながら攻撃されれば厳しいはずだ。

 なのに、魔王の幹部2体はそれぞれ一体ずつで別の町に現れた。

 そしてアリスに討伐された。

 それは魔王軍にとっては痛手のハズ。

 魔王の幹部と呼ばれている存在なんだ。痛手でないはずがない。


 だけど、魔王軍は『大侵攻』を行っている。

 それは矛盾していないか。

 本来なら、自軍の幹部が減ったら守りに入るのではないだろうか。しかし魔王の幹部を2体も倒せれているのに、結界を超え大軍勢を送り込んできている。

 さらにダークナイト・グランドを倒されてから、一週間くらいで『大侵攻』が始まった。

 具体的な日数は分からないが、新聞でアリスが知っていたことを見るとリッチとの戦いよりも前のはずだろう。

 そうだとするなら、時期的にはほとんど同じだと考えてもいい。


 あれ?

 そうだとすると、魔王の幹部が侵入してから間もなく、『大侵攻』が始まったと言ってもいいのでは?

 むしろ魔王の幹部の侵入と『大侵攻』が同時に起こっていた?

 そもそも魔王の幹部の目的は何なんだろうか。

 いや、それは知っているはずだ。

 エルフの隠れ里に封印されていた邪悪龍ディアボロ。

 あれの封印が解かれた。

 封印の木に刺さっていた杖。そのせいで封印が解かれてしまったのだ。

 だから杖をさして、封印を解くことがダークナイト・グランドの目的だった。

 そして邪悪龍ディアボロはアリスとミコが倒した。だけどもし二人がいなかったら、どうなっていただろうか。

 アリスですら苦戦を強いられていた相手なんだから、もしロックジャイアントの時点で王都からの応援が来ていたとしても、倒せるかどうかも怪しい。

 千年前に邪悪龍ディアボロを倒すために、エルフ族がほぼ全滅させられたという存在だ。しかも完全に殺せず、封印するだけにとどまっている。そんな相手と戦えば、最前線で苦戦している人間界は壊滅していたのかもしれない。


 それにその前哨戦であった、ダークナイトグランド。

 その戦いは少し変だった。

 ダークナイト・グランドは、戦い慣れしていて経験豊富なアリスの予想と異なっていた。アリスは傷付いたダークナイト・グランドは、傷が治るまで潜むだろうと言っていたのに、何故か傷付いたままで何度もアリスの前に現れた。

 まるで時間に焦っていたかのように。

 ダークナイト・グランドは何の時間に焦っていたんだ。


 何の時間に焦っていたのか。

 俺の頭で考えられるのは、たった一つだった。


『大侵攻』だ。

『大侵攻』と邪悪龍ディアボロの復活を合わせようと焦っていたのではないだろうか。

 もし邪悪龍ディアボロの復活と『大侵攻』が重なっていたら、人間界はどうなっていただろうか

 結界の向こうから『大侵攻』が進み、邪悪龍ディアボロによってエルフの隠れ里と始まりの町が壊滅する。そして魔王の幹部2体と一緒に人間界を暴れまわる。

 そうなったら、『大侵攻』で頭を悩ませているというのに邪悪龍ディアボロまで加わり、アリスがいてもどうにもならない状況になっていたはずだ。

 それが魔王側の作戦だったとしたら?

『大侵攻』と邪悪龍ディアボロを利用した人間界全体の挟み撃ち。

 もしそれが成功していたとしたら、それは素人の俺から見ても、大変な事態になっていたと考えられないだろうか。


「王様、もう一度、俺の話を聞いてもらえないでしょうか」

 アリスの説教が佳境に差し掛かっていたが、俺は勇気を出して口をはさんだ。

 饒舌だった王様は口をつぐみ、口をはさんだ俺の方を見た。再び王様の鋭い視線が、俺を貫く。そしてぐっとその視線に耐える。

 ここで口を挟まないと、二度とチャンスはないだろうと予感したから。

「新川さん、も、もう大丈夫ですの。アリスお姉さまの事は、私達の方で……」とエリザエスが俺の手を取り背後から蚊の鳴くような声で言ってくるが、その手を握り返して「大丈夫だ」とエリザベスに囁く。

 きっと成功するはずだ。

 エリザベスの答えを聞く前に、「まだ何かあるのか」と王様が少し苛立ちを含んだ声で言った。

 さっきよりも恐ろしく感じるが、その恐怖を押し込めて口を開く。

「はい。まだあります。俺の話を聞いてください」

 そして思いついたことをまだまとまり切れていない状況だが、必死で王様に伝えた。


 話を進めるうちに、徐々に謁見の間に満ちていたとげとげとした雰囲気が緩んでいくのを感じた。

 それは俺の言葉が正しい事だという事の証明だった。

 最初のアリスへ怒っていた王様の表情も、徐々に緩和し、最期には目を閉じ深く考えるようになっていった。

 そして話し終わった時には、謁見の間はざわざわと騒がしくなった。

 背後の衛兵や偉い人たちが、俺の言葉を聞いて小さく話し合っているようだ。それが幾重にも重なって、大きな音になっていた。


「静まれ」と王様が発すると、ぴたりと静かになった。

「言いたいことは、それだけか?」

「はい。俺たちの旅の間に起きたことは、すべて魔王の作戦でした。もし成功していたら、『大侵攻』と一緒に挟み撃ちになっていました。それを知らない間に防いで、作戦自体を失敗させたのはアリスの功績だと思います」

 最後に俺は一番言いたいことを言って終わらせた。

 魔王による人間界の挟み撃ち作戦は実行されたが、それをアリスは各個撃破し、その作戦を失敗させた。

 それは魔王の幹部を倒したという手柄ではない。

 これならば、アリスは自分の罪を償ったと言えるのでは。


「まずは正しいかどうか確認するとしよう。まず魔王の幹部2体が侵入し、邪悪龍ディアボロの復活をもくろんだ時期と、『大侵攻』の起こった時期は同じか?」

 王様が言うと、宰相がすぐさま「王都に来たエルフ族の話を聞いて知っております。確かに時期的には近い。もし邪悪龍ディアボロの復活と合わせていたとしたなら、ほとんど同時期と言えます」と答えた。

「この二つの件を挟み撃ちであると言っていたが、それは正しいか?」

「はい。大きく見れば、そのようにいう事もできるでしょう」

「ならば、この挟撃が成功していた場合は、どれほどの被害を考えられる?」

「邪悪龍ディアボロは太古の昔に存在していたという制御不能の暴竜と言われた恐ろしい魔物と、エルフ族から聞き及んでいます。それが暴れていたなら、最前線の維持も不可能となり、考えるも恐ろしいほどの甚大な被害が出ていたでしょう。封印され千年もの空腹で弱っている内に倒し、エルフ族の村だけで済んだだけでも幸運でした」

 宰相が淡々と答え、王様は再び考え込む。


 たった数秒の沈黙が、とても長く感じた。

 このたった数秒でアリスの運命が決まるのだ。

 そして「分かった。魔王の作戦を失敗させ、人間界の被害を最小限に抑えたと考え、アリスの出陣を許可する」と言った。

「はい。ありがとうございます」とアリスのいつもの元気な声が響いた。


 ほっと胸をなでおろした。

 アリスが最前線に行くのであれば、一緒に行くことができる可能性が出てくる。

 これで明日のアリスとの決闘で、一撃を与えてアリスに認めさせれば、晴れて一緒に行くことができる。

 やっとこれですべての不安な案件を解決できたぞ。

 残りはアリシアさんに任せた武器だけだ。


 そう思っていたが、王様から「新川修平、後で儂の部屋に来い」と言われた。

「え?」

「以上だ。儂は戻るから、後は任せるぞ」と宰相へ行って、さっさとどこかへと行ってしまった。

「え?」

 何故呼ばれたのか分からないが、まだまだ今日は終わりそうになさそうだ。


「あの……」と背後から声が聞こえた。

「なに?」

 頭はまだ混乱していたが、声を掛けてきたエリザベスに振り返った。

 エリザベスを見ると、顔をうつむかせていた。黒い髪が遮って、さらに表情を見辛くしている。

「あの……手を放してもらっても……」

「あっ、ごめん!」

 そういえば、途中でエリザベスに声かけられた時に手を握ったままだった。彼女の小さくて、訓練をしているからか少し硬くなっている手をぱっと放す。

「ごめん。つい話すのに夢中になっていて、不快にしちゃっていたらごめん」

「べ、別に、そういうわけでは、ありませんわ。それに不快じゃ……ないですわ」となんだか様子がおかしい。

「大丈夫か?熱でもあるんじゃないか?」

「いえ、そうではなくて……。……まずは、ありがとうございます。アリスお姉さまを助けて下さって……」

「いや、アリスが最前線にいけないのは、俺にも関わってくるし、お礼なんていいよ」

 俺にとって必要なことをしただけだ。

 エリザベスさんにお礼を言われるまでもない。


「それに、お父様に意見をしている姿が……その……」

「うん。俺の恰好が?何かおかしかったか?そういえば、みんな、甲冑だったりキラキラした服だったりするから、変だったかな。明らかに俺の服は浮いてるし……」

「いえ、そうではなく。むしろ、逆といいますか……。その……」

 なんだかはっきりとしない。

 そしてエリザベスさんは何度か何かを言おうとして、ついに「わ、私、先に戻らせてもらいますわ。授業がまだありますから」と言い、俺に背を向けてパタパタと謁見の間から去って行ってしまった。


 いつものエリザベスさんと様子は違ったけど、何があったのだろうか。

 謁見の間は王様がいなくなってからざわざわと騒がしくなって、次第に人混みが扉に向かって流れていく。

 アリスは近くの人と話していたが、俺の視線に気付いて歩いてきた。

「今回は本当にありがとう。おかげで助かったわ。命拾いしたわ」

「俺にとっても、アリスが最前線に行けないのは困るから、お礼を言われるまでもないよ」

「それで決闘の件だけど、考え直……」

 アリスが言わんことが分かった。

「ああ、明日は絶対に負けないからな。覚悟しておけよ」

 愉快犯だけど、妙に義理堅いアリスの事だ。俺が今回の事で恩を着せようとしているのを先んじて注意しに来たのだろう。だからアリスが言い終わる前に先んじる。

 楽をしようとしていたと思われて、アリスにくぎを刺されたという負い目を感じながら、決闘をするのは嫌だ。

 もちろん、俺も手加減なんかしないし、絶対に負ける気はない。

 先んじて言ったおかげでアリスが驚いたような顔をする。

 よし、まずは明日の決闘前に一勝といったところか。

 アリスから先手を取れたから、明日の決闘も少し気を楽にして挑める。


「新川さん、今から王の部屋に案内しますが、時間はありますか」と宰相がいつの間にか俺の近くに来ていた。

「はい。大丈夫です。アリス、明日はよろしくな」

 宰相に頷いて、アリスに別れを告げた。

 ぽかんとした顔をしたアリスは、小さく笑った後に「いってらっしゃい」と言った。

「こちらへ」という宰相の後ろについていく。

 さて、次は王様と話すのか。

 何を言われるのだろうか。

 今さっきの話で、チクチクと嫌味を言われたり怒られたりしてしまうか。

 ちょっとだけ気が重い。

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