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Lv1の剣  作者: 豚野朗
王都
113/206

罪の償い(手柄)

「お父様、アリスお姉さまをどうか許してあげてください。私も一緒に行って、アリスお姉さまを見張りますから……」

 エリザベスが王様に提案するも、「ならぬ」とにべもない。

「これはアリスのしでかした事、アリス自身が取らねばならぬ責任だ。例え妹のお前であろうと、その無責任の肩代わりをすることは禁ずる」

「で、ですけど……」

 負けじと言葉を続けようとするが、王様の射殺すような目にエリザベスの声はしりすぼみになっていった。

 王様のアリスを最前線へ向かわせないという確固たる意志を感じる。

 例えこの場の全員を敵にしても、決して王様は意志を曲げないという意志が、王様からオーラのようにびしびしと伝わってくる。

 独断で勝手に動いたアリスを憎んでいるのではなく、ただ冷静に問い質しているからこそ説得のし辛い所だ。

 アリスの独断専行な動きを知っているからこそ、誰も王様に言い返せないのだろう。

 圧倒的な王様の圧力に静まり返る。誰も文句の言えない

 背後のエリザベスのさらに後ろのアリスをチラリと見る。

 これまでの奔放な姿はどこへ行ったのやら、明らかに落ち込んでいた。肩を落として、床を見つめている。


「お、王様、俺からも言わせてもらっても良いですか」

 じゃっかん噛みつつ、俺は勇気を出して言葉を紡いだ。

 じろりとエリザベスに向かっていた視線が、俺へと向けられる。まるで矢が身体に突き刺さるような鋭い視線。アリスとの隊の話をしていた時にもその目が俺に向けられていたが、本当に恐ろしく感じる。

 それだけ王様もぴりぴりとしているという事だろう。

 その視線に打ち勝たないと、俺はきっとこの世界でやっていけない。それに元の世界では考えられなかった生死のかかった戦場に出たのだから、視線ごときで負けている場合ではない。

「お前の役割はもう終わった。下がっておれ」と宰相が言うが、「良い。アリスの被害者だ。彼の言い分も聞かねばならない」と意外にも王様が助けてくれた。

「ありがとうございます」

 黙れと一喝されて何も言えないかもと思っていたが、まずは一つ目の障害を乗り越えられた。

 王様は視線と表情が怖いだけで、悪い人ではないのだろう。

 揚げ足取りのような事を言ってしまう事が申し訳ない。


「では、言わせてもらいますが、先ほど王様はこういいましたよね。『これはアリスのしでかした事、アリス自身が取らねばならぬ責任だ』と」

「確かに言った。アリスが行った独断専行および犯罪行為は許されるものではない。それは共に戦う民衆に疑念を生じさせる。その疑念は致命的な戦意の喪失を生む。そうなれば、多民族で構成される軍は崩壊するだろう」と厳かな口調で、淡々と告げる。

「罪を償わなければ、民の間で不和が起こる。士気が下がる。その危険があるならば、どんなに強かろうと連れていくわけにはいかない。それに独断専行の前科持ちだ。その時も崩壊寸前だった」

 王様の目は俺ではなく、俺の後ろ、アリスへと向かっていた。そしてその言葉はアリスへの断罪の言葉だ。

 ただ今は俺の時間だ。

 どんなに王様がアリスへ怒っていようと構わないが、俺の復讐にはアリスがいないといけない。俺を守って戦ってくれるアリスがいないと、魔王軍との戦いができない。

 俺を誘拐して連れ出したのだから、最期まで付き合ってもらわないと割に合わない。


「アリスが独断専行をした事や俺を誘拐した事。それが罪で、その罪を償わなければならないというのであれば、もう償っているのではありませんか」

 アリスが罪を償わなければならないというのであれば、もう償っているとすればいい。

 王様の視線が、俺の背後から俺の元に戻ってくる。

「ふむ。アリスが既に罪を償っているというのか。どういう意味だ、言ってみよ」

 俺はゆっくりと大きく深呼吸する。

 身体が緊張で震えるが、それを吐き出す息とともにゆっくりと追い出す。


「アリスはここに来るまでに、魔王の幹部を3体倒しています。それはアリスの罪の償いには充分ではないでしょうか。」

 アリスはもう人類の敵ともいえる存在を何体も倒しているんだ。それを罪の償いとしてしまえばいい。

「しかもアリスは十分な装備もない中で、魔王の幹部と戦いました。それは評価できませんか。アリスのおかげで3つの町が救われたんです。きっとアリスがいなければ、もっと大きな被害になっていたと思います」

 アリスが戦っていなければ、どれほど大きな被害になっていただろうか。

 それはアリスの貢献だ。

 王様だって、この貢献を無視することなんてできないはず。


「魔王の幹部と戦い、町を救った。それは素晴らしい働きだ」と王様は否定せず、俺の言葉を受け入れた。

 アリスを出陣させないなら、否定するだろうと思ったのに。

「だが」と王様は続けた。

「それは王族として、当然しなければならない義務だ。もしこの王都に魔王の幹部が現れたなら、もちろん儂が王として指揮を執り戦う。そして民を守るために、全ての我が兵士は命をかけて戦う。当然儂も民を守るために、命尽きるまで戦う。『大侵攻』がこの王都まで伸びてくれば、そうなるだろう。違うか?」

 再びアリスへと王様の視線が向かってしまう。

「違いません」とアリスは覇気のない声で答えた。


「お主の世界が平和だったのかもしれないが、この世界では戦いとは当然ある物なのだ。手柄で罪を相殺するわけにはいかない。そうなったら、法が崩壊する。強い者が身勝手にふるまい、ならず者が跋扈する世界になる。だからこそ民の上に立つ儂ら王族は、決して法に反してはならぬのだ」

「でもアリスは、町を守りました」

「当然だ。アリスは王族の義務を守らねばならない。町を守るのも、また義務。そしてアリスはここでもミスを犯している」

「ミス?」

「何故、儂らに報告しなかった?魔王の幹部が入り込んでいるなど、最も危険視しなければならないことだ。しかも3体もいた。そのすべてが発見時ではなく、倒した後に儂らの所に報告が来た。本来であれば、発見した、兆候を感じた、その時点に王都への報告を優先しなければならない。例え戦っている最中であれ、誰かに通信魔法で伝えねばならぬ。だがアリスはそれを自分の私欲を優先にして、怠ったのだ」

 王様の口調は落ち着いているが、その視線にはアリスへの怒りが籠っていた。


 助けるつもりが、下手な話のせいでいらない蛇を出してしまった。

「申し訳ありません。お父様」と蚊の鳴くような声でアリスは返事をする。

「もしお前が倒せないほどの相手だったら、どうするつもりだったのだ。運よく武器が近くにあったが、本来まともに剣が振れないのだぞ」

 怒りのままに王様による説教が始まってしまう。


 このままではアリスの説教で、この場がぐちゃぐちゃになって俺の言葉が流れてしまう。

 そうなったら、もう二度とアリスにも会えないだろうし、王様と謁見する機会なんて一生に一度しかないだろう。

 この時間、この場所しかないんだ。

 考えろ。何かないのか、魔王の幹部を倒したという手柄ではなく何か罪を減らすという事ができる物は。

 罪を償えるような何か。

 魔王の幹部を倒したという物ではない別の事。

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