王様の判決(旅の評価)
「これが俺とアリスのこれまでです」
どれくらい話しただろうか。
俺がこの世界に来たときの事から魔王の幹部との戦い、そして王都に来た時の事までを衆人環視の中で赤裸々に話した。
王都に来てから、何度これまでの旅を話しただろうか。
おかげで口がなれて、こんな人目のある場所でもスムーズに話せた。王都で色々な人と会話してきたおかげだ。お役所仕事のようにたらい回しにされてきたような気がしていたが、役に立つことがあるもんだなと思った。
しんと水を撃ったような静けさに、落ち着かなさを感じる。
早く良いのか悪いのか言って欲しい。
まるで眠っているかのように、王様は肘をつき目を閉じていた。そして何を考えているのか、その表情からは何も読み取れない。怒っているのか、それとも喜んでいるのか。眉一つ動かさない彫像のような姿が恐ろしい。
この後、どのような判断を下すのかがまったく判断がつかない。
魔王の幹部を倒すという貢献は、プラスに間違いなく働くに違いない。でも元々アリスは魔王の幹部を倒したけど軍規に反して勝手な行動をしたせいで、始まりの町に隠居させられていたのだ。魔王の幹部を倒したからと言って、それで許可が下りるとは言えない。
それに魔王の幹部討伐くらいは既に聞いているに違いない。
そうだとしたら、王様は何を聞きたかったのだろうか。
考えないであるがままに話してしまったが、もしかしてそのまましゃべってはいけなかっただろうか。
俺が逃げたり泣いたりしている所を省いたり、魔王の幹部を強く見せることで苦労して倒した感を出したりしてあげた方が良かったのでは、と今更後悔した。
緊張して口から出るままに任せていたから、そんな小賢しい真似はできそうにもなかったが。
「お主の旅は良く分かった。魔王の幹部の討伐感謝する。」
王様がやっと口を開いた。
ぴりっとした緊張が謁見の間全体に走り、かちかちと金属が当たる音が聞こえた。どんな言葉が飛び出すのか、まだ誰にも分からない。
次の言葉を、再び静まり返った広い謁見の間で待つ。
その言葉が、これからの俺の運命を左右する。
肯定ならば、アリスと共に最前線へと行くという道がある。
しかし否定ならば、アリスは始まりの町に逆戻りになるだろう。そうなれば、俺の最前線行きはなくなる。俺のようなレベル1の弱者を守れるほどの存在が、彼女以外にいないから。
「だが……」と固く閉じられた王様の唇が開いた。
「やはり、規律を守れぬようだな」と続けた。「馬車を奪い、民を誘拐するなど言語道断だ」
始まりの町の話だ。
「王!今は規律などよりも……」と宰相が言うも、「くどい!」と王様は一喝する。
「王族とは、民の前に立ち魔王に挑む希望でなければならぬ。規律を守れぬような者は国民の前に立つべきではない。未曽有の危機が迫っているとしても、そんな者を戦場に立たせる必要はない。むしろ崩壊が早まるだけだ。アリス、お前は引き続き、始まりの町に戻ることを命じる」
王様は淡々とアリスへと残酷な言葉を伝えた。
それはアリスに向けた実質的な戦力外通告であり、俺の最前線へと行くという目標が打ち砕かれる言葉であった。
背後で並んでいるアリスが、小さく声を漏らした声が聞こえた。
自分の行動を悔やんでいるのだろうか。
王様の言った被害者が自分だから、否定することもできない。あの時の恐怖は酷いものだったし、話の通じなさには絶望した。レベル1から上がらないのに周りのレベルが恐ろしい魔物ばかりで、もういつ死んでしまうかと生きている心地がしなかった。
その時はアリスを頭のおかしい戦闘狂としか思わなかったけど、旅をしながら魔王の幹部と戦っていくにつれて、それだけじゃないことも分かってきた。
俺を強引に旅に引きずり込んだアリスが罰を受けるのは当然だと思う。だけど魔王の幹部と命がけで戦ってきたのも、俺が見たアリスの側面だ。魔王の幹部の前に立ちはだかり、まともな剣がない不利な状況でも戦い続けていたのは、まぎれもなくアリス自身だ。
アリスがいなければ、俺は何度も死んでいただろう。そしてたくさんの人が助けられている。それだけ魔王の幹部の脅威は大きかった。
そしてこれからの戦いだって、アリスは必要だ。
王様の言葉は間違っていない。
犯罪をするような人間が戦いの場に出るべきではないという論理は正しい。
けれどアリスは強引な人ではあるが、極悪人ではない。アリスにもアリスの理論があるのは、たった数週間の旅で分かっている。
俺を誘拐したことは悪い事だとは思うし、許してはならないものかもしれない。それにもともと軟禁されていて戦いの場から外されていて戦う義務もなく、戦う武器も鎧もない中で魔王の幹部という強敵と戦い続けた。
それは自己犠牲の精神であって、王様の言う人柄と少し違っていると思う。
アリスには最前線に行って、魔王の幹部と戦う資格があるはずだ。




