武器の再選考(知識)
「なるほど銃というのは、そういう武器なんですね」
「火薬で金属の弾を射出する。弓の弦を引く力を、代わりに火薬という物で代用するとは考えましたね。新川さんの非力を補って、アリスお姉さまに届くかもしれない」
銃について知っていることを話し終わると、二人はそんな感想を漏らした。
「これなら、アリスに弾丸を打ち込めそうか」
「パッと出された時に、対応に困るのは間違いないでしょう。当てられるかどうかは新川さん次第ですが……」とアリシアさんに一応は認めてもらった。
エリザベスさんは難しい顔をして、「ただ……」と口を開く。
「金属の弾はともかく、火薬についての知見は私たちにありません。それを作り出せるかどうかにかかっていますね。火の魔法はありますが、それを新川さんは使えませんよね。罠魔法なら、踏んだだけで発動できますけど、それだと新川さんに命中してしまう。それに銃の形状も、あやふやで作るのに時間がかかりそう。これを明日の朝まで……」
銃の構造を一般人が、しかも一度も使ったことのないのに、知る訳がない。知っていたら、逆におかしいだろう。
紙の上に書いた銃の形も、L字に引き金と撃鉄を付け足しただけのシンプルなものでしかない。これで銃の構造を全部書ききれたかと言われれば、誰しもが絶対にノーと言うだろう。
頭をひねってもこれ以上出てこないし、スマホも元の世界の本もないから確認しようもない。
それに銃弾がどういう仕組みで飛ぶのかもわかっていない。火薬で射出するとしても、引き金を引いた後にどうやって弾が飛び出すのかの仕組みすらも分からない。
さらに時間も重くのしかかってくる。
話している間忘れていたが、それで明日の朝なのだ。銃の形を説明するだけで、時間が終わってしまうのかもしれない。
作ることさえ難しいかもしれない。
冷静に考えてみたら、武器を今から作るなんて無謀なのでは……。
女神の祝福を解除する方を、突き詰めるべきだろうか。
「鉄は前線から回収した破損した武器が余っていますし、銃というものの形と仕組みさえ分かれば、急ぎで作ってもらう事も可能かと思いますが……」とアリシアさんは渋い顔をする。
「でもなぁ、もうこれ以上頭を振り絞っても出てこないんだよ。もっと勉強しておけば良かった」
今更、後悔しても遅いし、そもそも銃の勉強ってなんなんだ。そもそもそんな授業なんてなかったわ。
でも少しぐらい調べておけばよかったな。
それならこんな所で頭が痛くなるほど考える必要はなかったのに。
「そうなると、銃もダメか。ちくしょう、せっかくアリスに届きそうな案が思いついたのに、頭がよくないと実現できないのか」
ため息が出る。
今日は何度ため息をついただろうか。
いろいろな場所に行って、様々な人に会った。そのたびに希望を持ったが、すべて期待を裏切られてしまった。
それだけアリスの強さと女神の祝福が強大という事だろう。
銃を作るのは、俺の知識不足により不可能そうだ。
だけどこのまま明日になってしまえば、完全に丸腰のままアリスとタイマンをすることになりかねない。
せめて、防御だけでも固めるべきか。レベル差でどうにもならないけど、商人のアリシアさんに頼んで鎧を着こんで行くか。
それよりも弓でも買って、早打ち勝負でも仕掛けようか。
いや、使ったことない武器を使っても、アリスに傷一つつけることはできないだろう。むしろ、自分に当たって死ぬかける可能性を危惧した方が良いのかもしれない。
「アリシアさん、銃が無理なら、何かいい装備を買わせてもらえないか?アリスが相手だし、正直あまり期待できないけど」
「諦めるのですか?銃というものを作るのを」
「ううん。でも作れそうになさそうだし……」
構造も作り方も曖昧で、これを明日までに作るなんて不可能なんじゃないかと思っている。
「銃そのものを作ることは無理でも、似たようなものを作れないのでしょうか……」
「似たようなものか……。でもな……」
「作れないでしょうか?今あるものだけで……、私の持っている商材をすべて紹介します」
「うーん、今あるものだけ……」
脳裏に思い浮かぶのは、今日行った場所と人。
でもそれだけで銃を作るなんて……。
今日だけで、いろいろな知識を手に入れられた。
知識不足で銃が作れないという事を反省するべきだ。だから今ある物がどう使えるか考えれば、もしかしたら何かの役に立てるかもしれない。
はたと今日一日を思い出していて、思いつく。
もしかしたら。
「聞いてくれ!」と俺は思いついたことを二人に説明する。
*
語り終わった後、しばらく沈黙が落ちた。
誰もしゃべりださないから、何か見当違いなことを言ってしまったのかと心配したが、その後「なるほど」と二人が頷いたのでほっとした。
「それなら、問題なさそうですね。ただ今からその人たちから協力を得られるかという事です」
「私も同意するわ。これなら銃と同じように、アリスお姉さまに届き得るでしょう。構造も、私達が理解できる程度の物……」
アリシアとエリザベスに絶賛してもらえて、やっと希望が確信できた。
「よし。じゃあ、すぐにでも……」
俺が立ち上がって、この武器を作りに行こうとすると、ノックの音がした。
「王命があり、参上いたしました」とドアの外から声がして、「入りなさい」とエリザベスが許可を出す。
「失礼します。新川修平という人間がいらっしゃるとお聞きしましたが、その者は……」
明らかにいい装備を付けた兵士が入ってきた。
「ええ、こちらです」とエリザベスが俺を指さす。
「えっと、こんにちは」
適当な挨拶が思い浮かばず、普通の挨拶をしてしまった。
兜の下で相手の顔色が分からないのが、恐ろしい。
「王からの伝言です。一時間以内に、謁見の間に参上するように、と」
「一時間以内?急すぎないか?」とエリザベスに目配せすると、「確かに、いささか急な召喚です。何があったのですか?」と兵士にエリザベスが尋ねた。
やっぱりおかしいよな。
突然呼び出されるなんて。
褒美とか云々はアリスから聞いているけど、それだったら正式にいつどこでとかを決めて、呼ばれそうなものだけど。
「王がアリス姫の出陣を許可されず、家臣一同で説得を試みているのですがどうにも首を縦に振って頂けない状況です。そこでアリス姫と一緒に魔王の幹部を倒したという新川様の話を聞こうという事になりました」
「父上が……、それならば私も参ります」とエリザベスさんが言ってくれた。
良かった。一人では心細いと思っていたけれど、エリザベスさんがいるならと内心ほっとする。
「でも、明日のアリスとの決闘用の……」
時間がないというのに、今から変なことに巻き込まれるなんて。
「それは私の方で、進めておきます」とアリシアさんが言ってくれた。
「大体先ほどの説明で把握していますので、問題ありません。きっと新川さんの名前を出せば、私が行っても協力してくれるでしょう」
「ごめん。肝心なところで任せちゃって」
「いえいえ。これも恩返しの一部です。それにまた恩が増えてしまいそうですね」
「いや、本当に助かるよ。じゃあ、行ってくる」
武器の件はアリシアさんに任せて、俺とエリザベスさんは一緒に兵士の後について、謁見の間に向かう。




