洞窟(黒騎士翁)
ガチャンガチャン。
暗い洞窟の中に金属の音が、反響していく。
しかしその音は一定ではなく、僅かに重いものを引きずる音もする。
身にまとっている黒い鎧の一部は掛け、あるいはひしゃげていた。
そして左足を引きずり、洞窟の奥へと進んでいく。
「何だったんだ……、あれは……。ここは弱い人間しかいないんじゃなかったのか。苦労して、結界の隙間を抜けてきたというのに。ぐっ……」
よろよろと歩き、ついに痛みに耐えられなくなったのか、洞窟の壁に寄りかかった。
「完全に油断した。ここまで俺がやられるとは、予想していなかった。ばれないように魔力を抑えていたせいか。それにしても凄まじい威力の魔法だった」
悔しそうにつぶやき、そして足を引きずりながらさらに奥へと進む。
洞窟の最奥には、小さな空間がある。
土でできたテーブルといすだけしかない簡素な空間。そして壁に掛けられた紫色の宝玉が頭に付いた杖だけだ。
またそのテーブルの上には薄汚い紙が広げられている。
コーヒーをこぼしたような黒い染みがその紙の上に描かれていた。
よろよろとそこへと向かい、椅子にどかりと座り込んだ。
「こんな地図で、分かるわけがない」
テーブルの上の地図を覗き込むように見る。
「魔王様も無茶をおっしゃる。こんな古い地図で、人間領の小さな場所を探せなどと……。土地の形も大きく変わっていた」
疲れたとばかりに椅子の背もたれに寄りかかる。
そして一瞬、わずかに身をよじる。
「ぐっ、まだ痛むか。不意打ちを受けるとは、一生の不覚」
ドンとテーブルを殴る。わずかに、テーブルにヒビが入る。
「時間もないというのに……。しかし次に会う時には、本気で戦わせてもらう」
ふぅと息をはく。
「ロックジャイアントの帰りを待つか。さて、俺は回復に専念するとしよう」
鎧が僅かに黒く光る。
「あちらの方が当たりである可能性の方が高いからな」
そしてぴたりと動かなくなる。
立てかけられた杖の宝玉が妖しく光った。