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Lv1の剣  作者: 豚野朗
王都
108/206

加護(女神の祝福)

「残念ながら、女神のかけた祝福をこの世界の一種族である私がとくことはできません」

 妖精族の王女は首を振って言った。

「女神は世界の外にいる上位存在です。この世界の枠組みにいる私ごときがどうこうできる物ではありません。私はただの妖精族の王女に過ぎないのですから」

 そしてリリンはウインクをしながら、「私はちょっと強いだけの妖精族ですよ」とおちゃめに言う。


「なるほど。妖精族でも無理でしたか……」とアリシアさんが肩を落とした。

 俺も同じように肩を落としているだろう。

 女神の剣の祝福を解除できない限り、俺は強くなれない。

 つまりリリンに祝福の解除してもらえないなら、強くなってアリスの条件をクリアするという方法がなくなったという事だ。

 早々と一つ目の案が消滅してしまった。


「妖精は自然の力を武器や防具に与えることができますから、女神の祝福と同じかと勘違いするのも仕方がありません。しかし残念ながら、質の面では比べるべくもないでしょう」

「リリン様が加護をかけられた鎧は、魔物の魔法を防ぎ、刃をはじき、矢を避けると言われている最高の装備なのに。今回の戦いでも、多くの優れた鎧を女神の祝福は、リリン様も敵わないのですか」とアリシアさんが残念そうに言った。

 リリンは「その通りです」とあっけらかんと言う。

「妖精の加護は、自然の力を込めて力を与える能力です。祝福はそれを上回る概念の付与と言ってもいいでしょう」

「概念の付与?」

「そうです。自然の加護よりも強力で、単純な強化といえるでしょう。見る限り、この祝福は別の意図で付与されていそうですが。それに加護は時間が経つにつれ、加護の力は薄れていきますが祝福は永続します。千年前の勇者の剣が未だに国宝として、勇者が使っているのを見れば明らかですよね」

 レッドローズだったか。その剣があるから、俺はお払い箱となったのだ。

 アリスはその剣を持って、最前線へと行こうとしている。


「なので、この剣に関しては私はお役に立てそうにありません。祝福に干渉できるとすれば、あなた方人間の聖職者と呼ばれる者たちでしょう」

「聖職者ですか……」とアリシアさんが繰り返し、「ですが、それは確か最初にやってみましたよね」と俺に確認する。

「それはもちろん確認しました。でも祝福を解けないと言われました」

 始まりの町で、そこにいた修道女に祝福を解いてもらえないかとお願いしたけれど、無理だと言われたのだ。

「はい。もちろん。ただの聖職者では無理です」とリリンは俺たちの反応を予想していたように言った。

「その中でも女神との繋がりのある最高位の存在でなければならないと思います。ただの聖職者では不可能です」

「教会のトップ層という事ですね。……王都に支部はありますが、教会のそう言った者たちは教会都市にそろっています。王都と教会都市は二、三日の距離がありますから、流石に明日までとなると物理的に無理ですね」

「なら、教会都市に行けば、女神の祝福を解除できる……」

 希望が見えてきた。


「あくまで、可能性の話ですけどね」とリリンは注釈を入れる。

「この世界に生きている生物で女神の力に干渉できるのは、女神に近しい者というだけです。もちろん、力及ばずという可能性も十分に考えられます」

「そうですか……」

「女神の祝福という物の前例が、そもそもないですから。かくいう私も200年生きていますが、女神の祝福のかかったものは千年前の勇者の剣とあなたの剣のみです。前者の女神の祝福に干渉しようとする者はいませんでしたので、初めての試みです」

 しかしすぐに希望が薄れていく。

 200年も生きているリリンにも女神の祝福がとかれたという前例はないようだ。そうだとしたら、かなり可能性は低い。

 女神の祝福という物を、俺たちは甘く見ていたのかもしれない。

 勇者に与えられる女神の祝福は、この世界全体でもかなり希少らしい。


「じゃあ、かなり成功率は引くそうですね」

「ええ。私も思いついたことを言っているだけなので、しかし同じ祝福を掛けられる聖職者ならばなんとかできるかもしれないのは確かです。無駄ではないと思いますよ」

 落ち込んでいる俺を慰めるようにリリンは、優しく言った。

「そうですね。機会があれば、頼んでみることにします」

 今回の件では、時間がないから教会に頼めない。もし最前線で生き残って、時間があれば行ってみるのもいいだろう。

 望み薄のようだけど。


「正直、女神の祝福がここまで手ごわいとは思いませんでした。リリン様なら女神の祝福を解き、新川さんの力になれると思っていました」とアリシアさんはため息をつく。

 それは俺も同じ気持ちだ。

 まさかこの世界の王様や実力者をもってしても、無理だと断られるなんて。しかも現在、女神の祝福を解けそうな人が教会の限られた存在だけだ。

 しかも前例もない。

 なんともか細い希望だ。


「私を買いかぶりですよ。私はちょっと強くて、綺麗なだけの妖精族の王女ですよ。くすくす。それとお役に立てませんでしたので、もしよろしければあなたのその服に加護を与えましょうか」

 ころころと楽しそうに笑いながら、俺の服を指さして、加護をかけようかと提案してくれる。

 俺がこの世界に来た時から何となく着続けている元の世界の学生服。

 今までお金がない上に時間がなくて、服を買えなかったからそのままになっていた。

 これまでの戦いでも、いろいろとあったがこれまで良く破れたり穴が空いたりしなかったものだ。

 そういえば、明日のアリスとの一騎打ちで着る防具について、全然考えられていなかったように思う。


「防具か……。アリスの剣を防げる鎧はあるのか?」

「ありません」「ないです」と二人でほぼ同時に否定された。

「アリス姫ならば、どんな鎧を着ていようと真っ二つに両断できるはずです」

「私がどれほど強力な加護を与えようと、あなたのレベルですと何の役にも立たず切り捨てられるでしょう。あまり私の加護に期待しないでくださいね。炎や魔法への耐性や矢避けのような気休めのようなものでしかないのですからね」

「そうですか。鎧を着ていても無駄なら、これからもこの服で良いかな。新しく買うよりも安上がりだし」

 なんだかんだずっと着ているから、これで戦うのに慣れてしまった。

 今更鎧なんか来ても、動きにくくなるだけで邪魔になるだけだろう。

 今でもギリギリの中戦っているのに、レベル1のステータスで金属の鎧を着たら動けない置物になって、袋叩きに会うだけだ。


「ええ……。私が見繕いますから、新しい服を買いましょうよ。お金も今なら十分にあるでしょう。そんな貧乏くさい事を言わないでください」とアリシアさんが言った。

「いや、普通に明日まで間に合わないだろうし、加護をかけてもらえるならもらった方が良いんじゃないか。気休めだろうけど、アリスとの戦いで少しでも有利でいたい」

 妖精族の王女の加護なんて、とても貴重そうだ。

 このチャンスを逃す手はない。

「そうですか、残念です。でも加護の力については、リリン様はああ言っておられましたが、実際にはたとえどんな薄い布切れでも最上級の防具になると言われるほどなんです。そこら辺の防具より、よっぽど優れた物になるはずですよ」

「そんなにほめたたえないでください。恥ずかしいです」といやんいやんと顔を手で隠しながら、リリンは大仰に照れている。


 そしてすぐに気を取り直し、「では、こちらに来てください」と俺を手招きする。

 リリンの前に俺は進み出ると、細い掌が俺の胸元にピタリと触れた。ちょうど心臓の鼓動を確認するかのように。

「加護はどのようなものが欲しいですか。この服なら、いくつかかけられますよ。それに金属でないので、制限はありません」

「制限?金属だと何かあるのか」

「金属は自然の力を拒絶するのです。妖精族の力は、自然の力を籠める物。だから金属に加護を込める時には、制限がかかってしまいます。加護が薄れたり、加護の掛けられる個数が少なくなったりします」

「はぁ、加護にも色々と不便なところがあるんですね」

「そうなんですよ。多くの人間は鎧を着たがるので、なかなか良い加護を掛けられないのが辛い所です」とため息をつく。


「確かに、鎧はよく売れますね。全身を金属で守られているという安心感があるんだと思います。よほど実力を確信していないと、加護がかかっていると言えども薄着で戦いに出向きたいと思えないのではないでしょうか」とアリシアさんが見解を述べる。

「妖精族の私には、あまり理解できない感覚ですね。私の着ている服は、加護が10種類もかかっているのです。これがおそらく最も加護の強い服でしょう」

 話の流れで、リリンの服を見降ろす。

 とても軽く柔らかい薄絹だ。

「それならば、その服はそこらの鎧よりもよっぽど頑丈ですね。下手したら、城塞並み……」

「いえいえ、そこまでではありませんよ。アリス姫ならば、簡単に斬り裂ける程度の物です」

 リリンは謙遜しているが、もしかしたらそれ以上の堅牢さなのかもしれない。


「ふふ、服の構造は大体分かりました。なかなか良い仕立てですね。これならば、5,6個はかけられます。防護に、矢避け、耐火、対魔法……。他にどんな加護をかけましょうか」

 俺に押し当てられているリリンの掌が光る。

 加護をかけられているのだろう。

「後、一つ二つか……。でも俺は加護の種類は分からないんだよな……。アリシアさん、何かいいものを知ってるか?」

「そうですね……。私も加護の知識は詳しくないのですが、確か、守るだけでなく、着用者に特殊な効果を与えるものもあるとか……。魔力が自然回復するとか、傷を治せるとか……」

 アリシアさんが探るような言い方をする。

 この良いようだと、善意でかけてくれようとしているのをいい事にかなりレアな加護をリリンにねだっているのではなかろうか。


「確かにできますね。ただそれだと、容量といえばいいのでしょうか。かけられる加護の個数が減ってしまいます。どちらかしかかけられません。それでも良いですか」と釘を刺してくる。

 どちらかしかかけられないのか。

「それでいいですけど、どっちかかぁ……」

「どちらにしますか」

 リリンがきれいな瞳で上目遣いになりながら聞いてくる。

 俺は立っていて、リリンは座っているから自然とそうなってしまうのだが、美人にそんなことをされるとドキドキしてしまう。


 目を背けつつ、ドキドキしていることを隠すために意識して落ち着いた声を出す。

「傷を治せるって言っても、そもそも怪我したら多分死ぬんだよな」

「なら、魔力を回復できるようにしますか」

「そっちもなぁ。魔力が余剰にあると、魔力酔いしちゃうからむしろダメな気がする」

 考えてみたら、どっちもいらないという結論になっていく。

 そもそもレベル1で基礎がボロボロなのに、そんなレアな加護を手に入れることが身の程知らずだったという事だろうか。


「どちらも着用した者の自然回復を手助けするという効果なので、本人の魔力容量よりも上がることはありません。だから魔力酔いになることはありませんよ」

「本当に?それなら……、いや、そもそも魔力がほとんどないんだよなぁ!」

 頭をばりばりとかく。

 つまり今まで魔力を余剰に手に入れて、魔法を使うという事もできない訳だ。

 直近のアリス戦に向けて調整したいが、どちらも望ましい効果は得られなさそうだ。

 俺の魔力も体力もどっちもアリスから見たら、木っ端に過ぎない。それを補強するくらいなら、他の物をかけてもらった方が良いのか?


「新川さん、せっかくなので、どちらかでもかけてもらいましょう」と俺が悩む姿を見ていたアリシアさんが口をはさむ。

「今日明日では無理ですけど、教会都市へ行けば祝福を解除できるかもしれません。その時のために、準備しておくことも手ではないでしょうか」

 それはそうかもしれない。

 今は無駄かもしれないけれど、決して無駄にはならないだろう。

 きっと、おそらく……。


 どちらの方が今後に役立つだろうか。

 怪我を治しつつ戦い続けられるようになったとしたら、便利だろうか。剣を持って、アリスと一緒に戦えるようにするのが良いのだろうか。今まではアリスの鞘扱いだったけど、これからは一緒に戦うようにした方が望ましいか。

 いや、それよりも俺の中にはミコの魔法がある。それを活かせるようにした方が、良いのではないだろうか。

 俺には剣の練習をした事がないし、前線で一緒に戦うよりも魔法を使えるようにした方が良いかもしれない。


「決めた。魔力の回復の方にしてくれ。きっと剣はアリスが使うかもしれないし、それなら魔法を使えるようにした方が良いと思う」

「なるほど。では加護を授けます」とリリンの掌が、再び光る。

 自分では実感がないが、妖精族の王女の手によって今自分の学生服はこの世界でも有数の服になっているのだ。

 そして一分もしない内に手を放し、「加護を授けました。どうでしょうか。勇者様」と言った。


「いや、勇者はアリスの方だろう。加護を下さって、ありがとうございます。これで少しは生き残れる確率があがりました」

「いえ、勇者のお手伝いをするのは、当然です。クスクス。かつて妖精の女王であるティターニアが、一緒に旅をしたのですから」

「恥ずかしいから、勇者というのはやめて欲しいんだけど。そっか、妖精族も千年前に戦っていたんだな」

「ええ。そうです。この魔物との戦いにも、ずっとお手伝いをしているのです。我々に戦闘能力はありませんが、この力で影ながら応援し続けていますよ。新川さん、幸運を祈っています」

 そしてリリンは聖母のように微笑み、俺の手を握る。

 優しく包み込むような掌だった。


 俺とアリシアさんは、リリンに別れを告げ、城の中を歩く。

 祝福を解除できないと知った以上、別の手段を探るしかない。

 アリスにどんな形であれ、一撃を与えられる手段を。

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