2つの作戦(妖精族)
アリシアさんと共に、城の廊下を歩く。
「アリシアさんの方で、仕事もあるのに付き合ってもらってすみません」
「いえいえ。あの時のお礼ができるなら、いくらでも手をお貸ししますよ」
すぐに城の中にある庭園へと出る。
色とりどりの花が咲く庭園は、石造りで無機質的な城の中とは一変した空気を感じる。巨大な噴水を中央に左右対称にきれいに整えられ、剪定された整然と立ち並ぶ木々や芳醇な香りを放つ花々が目に鮮やかだ。
放射状に延びる白い石が敷き詰められた道は、太陽光を反射して眩しいくらいだ。
俺たちはこの庭園を横切っていく。
庭園には俺たち以外の人はほとんどいない。庭園を忙しそうに横切っていくばかりだ。
もちろん、俺たちもその一員である。
「この先に妖精族がいるんだよな」
庭園の先にいる庵に用がある。
「はい。そこに妖精族の者がいるという話です」
俺とアリシアさんは一緒に、ポンポ商会会長の話を聞いて、妖精族へと会いに行こうとしているのだった。
ついさっきの会話を思い出す。
*
「アリスの意表をつけるっていうのは、どういう事ですか。俺にそんな事ができるはずがない」
俺はただの雑魚だ。
「そのままの意味だよ。アリスの意表をついて、一撃を与えられるのは君だけだ。彼女の『知らないもの』を持っているのは君しかいないわけだからね」
「俺しか知らないもの?」
「そう。君は本来『勇者』と呼ばれる外界から現れる存在じゃないのかな?」とポンポ商会会長が言った。
「それは……そうだと思います。確証はないですけど」
これまでの『勇者』の話を聞く限り、『勇者』というのは最初の突然現れた最強の『勇者』とスキルを受け継いだ王族の『勇者』の二通りがいる。
突然現れた『勇者』が俺の出会った女神によってこの世界に飛ばされた人間だったというのであれば、確かに俺がその『勇者』の条件に合致している。
そしてアリスは『勇者』というスキルを持てなかった王族である。
「だとしたら、過去の伝説が本当であれば、アリスに一撃を与える可能性があるのは確かだろう」
本当に聞いた通りなら、アリスと戦うなんて簡単だ。
「でも、今の俺はただのレベル1ですよ」
悔しいが、この女神からもらった剣のせいでレベルが上げられない。そのせいで、スキルも全然ないから本当にただの素の人間なのだ。
「聞いています。その剣にかかった祝福なのでしょう。だとしたら、その祝福を解除できる者を探せばよい」
「そんな人がいるんですか」
「人ではありません。可能性があるというしかありません」
「それはドワーフのカージさんですか。カージさんには無理だと断られました」
ポンポ商会会長は目を見開いて驚いた顔をした。
「おや。もうドワーフ王にお会いしていましたか。残念です、そちらにも期待していたのですが……」
「そちらにも?」
「ええ、もう一人いらっしゃるのです。人間と別の力を持つ存在が」
「その人なら、祝福を解除できるのですか?」
「あくまで可能性です。ドワーフ王にも期待を持っていたのですが、そちらは既に確認済みでしたのなら、仕方がありませんね。剣に精通しているドワーフならば、祝福を解除できると思いましたが……。それがダメであったなら、妖精族に頼んでみるのがよいでしょう」
「妖精族?妖精っていうのは、あれですか。羽が生えていて、凄く小さい……」
「おお、知っていらっしゃるのですね。まさにそれが妖精族です。妖精族は加護という力を持っていて、大自然の力をまとったり物にかけたりすることができるのです。妖精族たちも今回の『大侵攻』に協力してくれていて、城に来ています」
「どこにいるんですか。妖精族は!」
俺は前のめりになって、ポンポ商会会長に尋ねた。
「まあ、まあ、落ち着いて。妖精族の居場所の前に、もう一つの案をご提案します」
「もう一つの案?」
「ええ。アリス姫の条件を攻略するという方法です。こちらは私の知恵の範囲を超えていますので、アリシアをあなたにお付けしますので、どうぞなんでもお申し付けください」
「はい?どういう事ですか」
「こちらは私には協力という形でしか手助けできません。何らかの方法を考えるのです」
「つまり、アリスと一騎打ちできる方法を自分で考え出せっていう……無茶ぶり?」
「端的に言えば、そうですね」
ポンポ商会会長は事も無げに言う。
「いやいや、それを今まで俺は悩んでいるんですけど」
「しかし今までとは違うでしょう。アリス姫と会話もせず、どうすれば良いのか分からない状況だったはずだったのではないですか」
「そうでしたけど」
「今はアリス姫に条件を出されました。アリス姫が最も自信のある戦いという場で、戦いのスペシャリストであるアリス姫に一撃を入れるという条件を。彼女があなたを行かせたくないと切実に願っているのであれば、このような条件を出すと思っていました」
ポンポ商会会長はネタ晴らしをするように言っているが、あの一瞬でそこまで計算していたのだろうか。
あの時まで俺はポンポ商会会長と会ったことがないし、本当にそうなのかもしれない。
「こちらから条件を出せば、警戒されるでしょうが、アリス姫の得意分野での事ならば警戒も緩むでしょう。だからこそ、勝機もあるのではないでしょうか。後は、あなたがアリスを説得するしかないのでしょう」
「そこまで考えて……?」
「あの場でできるのは、これ位の事ですから……。さて、妖精族の居場所を教えましょう……」
*
庭園を抜け、木々が生い茂るエルフ族がいた隠れ里のような自然あふれる場所に出た。庭園とは違い、意図的に作られた景色ではない。
日の光が木の葉の間からこぼれるむき出しの土の道を歩き続ける。
そしてポンポ商会会長から教えてもらった庵が目に入った。
質素な木材だけで作り上げられた地味な庵だ。
それを見るとどこかほっとするような既視感が湧く。
やはりエルフの隠れ里のような日本式に近いものを見ると、安心する。
まるで蛍のように庵の周囲を輝くものが飛んでいて、最初は魔法の明かりなのか蛍でもいるのかと思っていたが、実はそれは妖精族の放つ輝きだった。
「おい、そこの人間、何者だ!ここは妖精族の王女がお休みになっている」と光りの一つがしゃべった。
庵の周囲を漂っていた光も俺の所に向かって飛んでくる。
そして光、妖精族の護衛に囲まれた。
「私はポンポ商会のアリシアと申します。お休みの所、申し訳ありませんが、王女とお話をさせていただけないでしょうか」
「お休みだと言っているだろう。アポも取っていないだろう!」
「火急の要件なのです。こちらの剣について……」とアリシアさんが俺の剣を彼らに見せようとした時、「構わん。入れ」と庵の中から声がした。
まるで美しい鐘のような涼やかな声色だ。
「はっ!」と妖精族の護衛はすぐに俺たちの周囲から離れ、まるで庵へ続く街灯のように並んだ。
「王女の許可が下りた。入ってよし。だが、王女に指一本でも触れるでないぞ!」と明らかにまだ警戒しているような厳しい口調で言った。
「はい。もちろんです。では行きましょう。新川さん」
アリシアさんに手を引かれ、妖精族の王女の待つ庵の中へと向かう。
何ていうか、ここ今日は凄い偉い人たちと会うなぁと心の中で思った。




