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Lv1の剣  作者: 豚野朗
王都
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千年前の勇者(今の勇者)

「ガリアさん、お久しぶりです」

 カージ様の暴虐によって少し違和感の残る腕をさすりながらしばらく歩き、目的のガリアさんの下にたどり着いた。

 まるで百科事典のような熱い紙束を持って、倉庫で働いている人が持ってくる木箱の中身を確認していた。そして紙束にチェックを入れて、木箱を持ってきた人に指示をしている。指示を受けた人は、それを持って並べられている荷馬車の一つへ積み込んだ。

 最前線へと届けられる物資の管理を行っているようだ。

 次々と訪れる人たちに対して、間髪を入れずにガリアさんは指示をしていく。流石、エルフの隠れ里を取り仕切っていただけある。


 そしてガリアさんはカエデさんの父親である。

 見た目は同い年の20代の大人の男女ではあるが、それはエルフは長寿であるから若い時代が長いからだ。俺と同じような10代後半では子供のような姿をしていて、100歳以上でも20代の若者に見える。老人の姿はかなり珍しいらしい。

 エルフの外見から、年齢を推し量るのは難しい。


「お久しぶりです。新川さん、エリザベス様からお話は伺っています。どうぞ、見学なさってください」

 ガリアさんは確認する手を止めずに、俺に見学の許可を出してくれた。

「ありがとうございます。忙しそうですね」

「はい。もう明後日には出発してしまいますからね。それまでにこの荷物をすべて、積み込んでしまわないといけませんので、休む暇がないほどです」

「荷物というと、剣とか食料とかですよね。さっきドワーフの王様と会いました、握手で死にかけましたけど……」

「カージ様ですね。あの人と会えるとは、珍しいですね、なかなか人と会わない方ですので。あの方の作る武器はとても質が良く、王族や将軍が使っています。女神の剣についても、何か知っているかもしれません」

 ガリアさんもカージ様に女神の剣について、期待していたところがあったみたいだ。


「聞いてみましたけど、女神の祝福については畑違いだって言われて、何も分からなかった」と俺は正直に答えた。

「そうですか。やはり、無理でしたか。もし新川さんがレベルを上げられるようになれば、アリス姫と共に『大侵攻』を乗り越えられると思いましたが、残念です」

「俺がレベル上がっても、大した戦力にならないと思いますよ。俺なんてぼろぼろですし、役になんて立ちませんよ」

「まさか」と言って、ガリアさんは笑った。


「あなたも十分に我々の戦力ですよ」

「そうなんだろうか」

「『大侵攻』に間に合ってくれれば良かったんですけど……」とガリアさんが残念な声を出す。

「『大侵攻』は勝てそうなんですか」

 俺の質問に、ガリアさんは黙った。

 木箱の中身を確認し、紙にチェックを入れていく。周囲は人が多く、騒がしいのに何とも居心地の悪い沈黙が俺とガリアさんの間に訪れていた。


「難しいでしょう」

「アリスがいるのに、ですか?」

 アリスは魔王の幹部を何回も倒しているというのに、それでも足りないのだろうか。

「はい。魔王の幹部と同等の力をもつとはいえ、それは一対一で戦えていたからの事。『大侵攻』では3体の魔王の幹部とその配下が多数入り込んでいます。勇者ではないアリス姫では、彼らと戦えども、倒しきることはできないでしょう。良くて維持、悪ければ……。いえ、やめておきましょう」

「勇者のスキルはそんなに強いんですか、アリス以上に」

「はい。勇者のスキル特有のステータス超強化と特殊な魔法。魔王の幹部と戦うには、必須です。それが今ないのは致命的です。かつての勇者はそのスキルを元に魔王からこの土地を奪い取ったのです」

「奪い取った?」

「新川さんがアリス姫と共に倒した邪悪龍ディアボロが暴れていた千年前の戦いの事ですよ。ご存じありませんよね。当時の記憶を持つ者も少なくなっていますから」

 ガリアさんは千年前の記憶を持つエルフだ。エルフは亡くなった者を身体に取り込むとその記憶とスキルを手に入れることができる。


「千年前、この世界のほとんどは魔王によって支配されていました。この世界を守るあの結界も当時はありませんでしたから。私達のようなエルフや人間は、魔王に従う魔物たちにおびえ、隠れ住んでいました。エルフは森の中に、人は小さな村で、ドワーフは洞窟の奥に。そして何事もない事を祈りながら、生きていました」

「それを救ったのが、勇者……」

「そうです。勇者は突然現れ、圧倒的な力で敵をなぎ倒し、魔物に見つかり窮地に陥った我々を助けてくれました。彼はまるで風のように戦場を駆け回り、凄まじい力で敵の猛攻をはねのけました。勇者の魔法は、あまたの魔物を一撃で消し飛ばすほど輝かしい一撃でした。彼は我々を救うと、力を合わせて、魔王を倒そうと言ってきました」

「突然現れた勇者……」

 もしかしたら、それは俺と同じ境遇の人間だったのかもしれない。俺と同じように神様に武器を与えられて、この世界に来た人間。


「はい。彼は魔物に苦しめられて、隠れ住んでいる他の種族。人間、エルフ、ドワーフ、妖精、魚人……。多くの種族を助け、同じようなことを言って、仲間を集めて生きました。今の魔王の幹部と同じレベルの魔物を何体も倒して見せました。そして彼の強さやカリスマに当てられて、ほとんどの種族が彼と共に戦い始めました。それが今の軍の最初です。残念ながらエルフは邪悪龍ディアボロと痛み分けとなり、戦線離脱を余儀なくされましたが……」

「それでエルフは隠れ里に引きこもって、邪悪龍ディアボロの封印を守り続けていたという訳か」

「はい。千年前の私だったエルフも、最期まで戦えなかったことを悔しがっていました。しかしエルフという種族が絶滅しそうだったので、泣く泣く受け入れたそうです」

 エルフは千年前の戦いで、途中離脱した。


「それで勇者は魔王を倒せたんですか。そんなに力があったのなら、当然魔王を倒せていますよね。だとしたら、今いる魔王は何なんですか」

 一人で魔王の幹部を倒してのけているんだ。それに千年前の窮地に陥っていたエルフを救ったと言っていた。

 そしてガリアさんがいう事には、アリスよりも強い力をもっているはずだ。勇者というスキルを持って、多くの種族の人間の協力を得た勇者。彼が魔王を倒せなかったわけがない。


 そうじゃないと、俺たちの戦いは……。


「いいえ、彼は魔王を倒せませんでした」

 ガリアさんは初めて手を止めた。

 確認の手が止まり、木箱の中に収められている武器がかちゃりと小さな空しい音を立てる。ガリアさんが手を止めたことで、木箱を持ってきていた人が何事かと俺たちを見ていた。

 しかしそれよりも大きな衝撃に俺は襲われていた。


 ガリアさんの言葉は、聞きたくなかった言葉だった。

 かつて万全の状態でこの世界に来た勇者が、魔王を倒せなかった。それは今、勇者というスキルが居ない俺たちには致命的な事実だ。

 つまりそれは俺達では魔王を倒せないという事実。


「彼は魔王と戦い、命を落としました」

「魔王はそんなに強いのか、勇者が倒せないほど」

「私たちは途中離脱したので、口伝でしか聞いていませんが強いです。そして……。いえ、やめておきましょう。しかし確実に勇者は負けました」

 ガリアさんは確かな口調で言った。

 それは間違いないのだと。


「でもそんなに強かった勇者が負けたのなら、どうやって魔王と戦うんですか」

「……それを、我々は千年前から考えているのですよ。王城に何度も訪れた事はありますが、未だ千年前の勇者以上の勇者にはお目にかかったことはありません。アリス姫でさえ、あの勇者には及びません。彼ならばあの封印から解放され弱っていた邪悪龍ディアボロを、一方的に倒しきれたでしょう。その後に現れる勇者は、ほとんどが軍と共に戦って魔王軍の幹部一人と互角かどうかといったところです」

「そんな、強いのに魔王は倒せないのか。だったら、もう『大侵攻』なんて無理じゃないか」

 ガリアさんと話してみて、今の状況の深刻さが理解できていく。

 勇者の居ない世界の危うさが。


「だから新川さんには期待しています。あなたがアリス姫と共に肩を並べ戦えば、魔王すらも倒せるのではないかと。レベルが上がらないという宿命から解き放たれた時、真に魔王を倒すことができる力が手に入るはずです」

「俺が?いや、無理ですよ」

「無理ではありません。私は信じています」

 ガリアさんは振り向いて、俺をまっすぐに見た。

 その真剣なまなざしに、さらに弱気な事を言おうとしていた口が強制的に閉じさせられる。

 千年前の勇者の強さを知っているガリアさんの方が、この状況の深刻さを分かっているはずなのだ。それを分かったうえで、何の役にも立てていないような俺に期待をして信じてくれている。


「信じるって……。なんか、恥ずかしいですけど……」

 そのまなざしから逃れるように視線を外し、頭をかく。

「ガリアさんがそういうなら、頑張ってみます。頑張っても、お役に立てないかもしれないですけど、とりあえずやってみようと思います。まずは、アリスの軍について行けるように説得できる方法を探さないといけませんけど……」

「その調子です。ここにあるものは全部見て行って構いませんよ。しかしそこまで珍しいものは無いと思われます。もしもっと貴重なものを見たければ、この城に来ている商人へ話をするのが良いかと思います。エリザベス様に紹介してもらえば、融通してもらえるかもしれませんよ」

 ガリアさんの言葉に従って、木箱の中身を見せてもらったが、ピンとくるものはなかった。

 そして時間が経ち、昼頃になったので、カエデさんと一緒にエリザベスの元へ戻ることになった。


 未だに何も見つかっていないが、残り時間は迫ってくる。

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