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Lv1の剣  作者: 豚野朗
王都
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新たな出会い(ドワーフ)

 カエデと一緒に城の中を歩き、広い倉庫のような場所を訪れた。

 ここがこれからアリスが行く『大侵攻』の物資を集めている場所である。武器に食料、鎧、魔道具などありとあらゆるものが置かれている。

 かなり広い空間なのに、所狭しとものが置かれ、それを積み込む荷馬車まであるため、窮屈な印象を受けた。

 きっと多くの人が巨大な木箱を担ぎ、右に左にと駆け回っている。


 その中を邪魔にならないように端の方を歩き、奥の方へと進んで行く。

 俺の視界に小さな身体が見えた。

 詰みあがっている荷物の影に、いくつもの小さな人が歩き回っている。そして巨大な剣や鎧を担いでいるのが遠くからでも分かった。

 近くにある荷物と比較しても、俺の腰のあたりまでしか身長がなく、子供も手伝っているのかと思ったが、その小さな影がもさりとしたひげを蓄えているのが見えて驚いてしまう。

 子供ではなく、あれは立派な大人だ。しかも結構年の行ったおっさんである。


「か、カエデさん、小さなおっさんがいるんだけど……」

 前を歩くカエデさんに、こっそりと伝えると、「ああ、ドワーフの皆さんですよ。ご覧になるのは初めてですか?彼らは職人肌で、あまり外に出る事のないので仕方ないですね。剣や物を作るのが得意で、工房に閉じこもりがちですから」と言った。

 エルフがいるからには、他の種族もいるとは思っていたけど、こんなにもあっさりと見つかるとは。

 倉庫の中を見渡すと、ドワーフがかなりいるように見えた。

 最低でも十数人はいそうだ。


「ここにある武器のほとんどをドワーフが作っているんです。ドワーフ製の武器は、品質が良くてとても高価なんですよ。ここにある武器一つ売れば、一年は遊んで暮らせますよ」と言って、近くの木箱に収められている剣を一つ取り、鞘から少しだけ刃を出して見せてくれた。

 窓から入ってくる陽光を反射して、きらりと刃が輝く。

 素人目では、剣の良しあしなど分からないけれど、濁りなく光を反射する刃を美しいとは思えた。


「ごらぁ!勝手にいじるでないわ!」

 まるで雷のような凄まじい大声が轟いた。

 唐突な轟音に、飛び上がって驚いてしまう。

 それはカエデさんも同じようで、まるで近くに雷が落ちたかのように身体を小さくして驚いていた。

「それはお前らの手で触れて良いもんではないぞ!少しでも刃に触れてみろ、指がチーズのように切れちまう。さっさと戻さんか!」

 怒鳴りつけながら、のしのしと小走りで俺たちの元に近付いてくるドワーフ。


 カエデさんが剣を鞘に戻し、元の木箱に入れる。

「すみません。案内をしていたもので、『大侵攻』に使われる武器を見せて差し上げていたのです」

「そうか。だが、その箱の中身はすべて儂らの作品だ。一般人が手を滑らせたら、命を落としかねん逸品だ。別の物を見せてやるんだな」

 ドワーフはカエデさんが元に戻した剣を確かめるように手に取って、厳しい目つきで顔を剣で切りそうな距離まで近づけて見つめている。

 そして確認が終わると、木箱に戻した。


「それでエルフ族の娘が案内しているその男は誰だ?見るからに貧相で、弱そうだが……」

 今度は俺の品定めに入る。

 ドワーフの歯に衣着せぬ言い方に、いっそ清々しさを感じる。

「カージ様、この方こそ、アリス様と一緒に魔王の幹部を3人倒した新川修平さんです」

「ほう!」

 ドワーフは俺の襟首を、目にもとまらぬスピードでつかみ引っ張る。その素早い動作に、抵抗もできず前かがみになる。

 そしてカージというドワーフと同じ目線になる。


 ギラギラとしたドワーフの好奇の視線と見つめ合う形になった。

「こんな貧弱なやつが……。あのアリス姫と……な……」

「はい。『大侵攻』に使われる品物を見学したいとの事でしたので、私が案内しています」

「それが、アリス姫のレッドローズの代わりか。見せてみろ!」

 見せてみろと言うが、ほぼ俺から奪い取るような形で女神の剣を引き抜いた。


 そしてドワーフは女神の剣をさっきの剣以上に顔を近づけて品定めをしている。

 ふむぅとかほぅとか呟きながら、熱心に剣を見つめていて、話しかけられるような様子ではない。

 もう何も声が届かないくらい真剣で厳しい表情をしているので、俺は唐突に襟を引っ張られて少し痛む首を撫でながら、適当に倉庫の中に視線をさまよわせるしかなかった。

 すると女神の剣の制限時間が来て、手の中に剣が戻ってきた。


「なるほどな。確かに信じられないほどよくできた剣だ。レッドローズと同じか、それ以上。今世界にある武器で性能だけなら、最強だな。アリス姫の言っていた通りだな。それと時間が経つと、そいつの手に戻っちまうってのも本当らしいな。難儀な武器だ。しかもこの剣の持ち主はレベルが上げられないと来ている。こりゃ、武器としては、三流よ」と言って失笑する。

 一応、女神からもらった剣なのに、ドワーフはばっさりと三流だと言い捨ててしまう。

「カージ様なら、この剣にかかっている物を解くことができるのではありませんか?」とカエデさんが目の前のドワーフに尋ねる。


「残念だが、完全に畑違いだ。儂は武器の事しか分からん。女神とか神とかの話は、小奇麗な奴らの領分だろ」

「そうですか。もしかしたら、と思いましたがカージ様でも無理ですか」と残念そうに、肩を落とした。

 カエデさんはこのドワーフならこの剣をどうにかできると思ったという事か。


「あの、カエデさん、このドワーフはどういう人なんですか」

「ああ、申し訳ありません。まだご紹介していなかったですね。こちら、カージ様、ドワーフの王様ですよ」

 さらっと衝撃の紹介を受ける。

「この人が、ドワーフの王様!?ど、どうしよう、俺、失礼な事してないですか」と王様と聞いて、慌ててしまう。

 イメージ的に、王様に失礼を働いたら処刑されてしまいそうだったから。


 しかしカージ様はがははと豪快に笑った。

「構わん。構わん。そもそも儂はそんな事に興味なんかない。ただ武器が作れればいい」

「こんな方なので、武器作りの邪魔さえしなければ、大抵の事は笑い飛ばしてくれますよ。ドワーフの種族は職人気質ばかりなので、最も優れた武器を作り上げた者を王様にしているんですよ。ここにある武器の内でも、一番の物はこの方が作ったものなんです」

「そうだ。そんな訳だから、王様なんて適当な飾りみたいなもんだ。仲良くしようじゃねえか」

 フレンドリーに差し出された手を握り返す。

 王様と握手をする。元の世界にいたころには考えられない経験だ。

 しかし王様というには、あまりにも固く汚れ、しわくちゃな掌だった。そして温かく、力強い。


「何かあったら、頼ってくれ。魔法も神も知らんが、武器や道具だけはくわしい。金さえあれば、どんな武器でも作ってやるよ」

 ぐぅと万力のような握力で締め付けられ、クレーン車のようにぶんぶんと振り回される。

 加減を知らない豪快な悪手に、俺の身体が悲鳴を上げた。

「カージさ、腕が……手が……」と声も出ない。

 もう悲鳴も出ない。腕が取れて行ってしまいそうだ。

 圧倒的な力の差で振りほどけないし、腕が上下に振られて、骨と筋肉が変な音を立てているような気がする。

 もしかしたら、腕が粉々になってぐにゃぐにゃになるのかもしれないと頭の中で思ってしまう。


「カージ様、新川さんが死にそうですので、そこら辺で」

 カエデさんがカージ様を止めてくれて、「すまんすまん」と謝られながら、瀕死の腕を解放される。

 地面に崩れ落ちながら、腕を抱えた。

 今回は本当に死ぬかと思った。

「じゃあ、儂は仕事があるから、これで。何でも言ってくれ。魔王の幹部を倒した貢献者だ。悪いようにはしない」

 そう言い残して、カージ様はスタスタと歩いて行ってしまった。

 本当に悪気もないし、ただ歓迎してくれたのだろう。でもそれで俺は腕が飛びかけた。


「大丈夫ですか」

「カエデさん、俺、腕ありますよね」

「はい。しっかりとついていますよ」

 カージ様は悪い人ではないが、豪快過ぎる。

 次に会った時には、不意な行動で死んでしまうかもしれない。

 できるだけあの人には近寄らないようにしようと、心に決めた。

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