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オオカミ少年は赤ずきんちゃんを食べる

作者: 鈴木 淳

とある村で、嘘をつく10歳の少年がいました。

その少年は退屈しのぎと気晴らしに嘘を言います。


「オオカミが来たぞ!」


すると、村は大慌てで大人たちが、武器を取ってオオカミを退治するために出て来ました。

ですが、どこを見渡してもオオカミはいません。


「一体なぜ来ないんだ?」

「逃げ出したのか?」

「どこにいったんだ?」


家畜を守る為に大人達は必死になって駆けつけるのですが、オオカミはいません。

大人達は困惑しながら村に帰って来ました。


「こんな嘘で大事になるなんて。凄い楽しいな!」


ですが、何回も何十回もそんな嘘を吐いたせいで、その少年は信用されなくなってしまいました。

今では「オオカミが来たぞ!」と、言っても村の大人は誰も駆けつけてきません。


とある日の事、村の外で遊んでいた少年はオオカミを見ました。


「オオカミだ! 本当のオオカミが出た!」


少年は、自分が食べられるかもしれない。

という恐怖に襲われながらも、必死になって村に戻って叫びました。


「オオカミが来たぞ!」


ですが、誰も大人は家から出てきません。

大人達は家の中で、


「また、あの少年が嘘をついているんだな」

「全く、何が楽しいんだか……」

「もう聞き飽きたぞ」


と、聞く耳を持ちません。


そして、本当にオオカミは10匹以上の群れで現れて、家畜を襲い始めました。

大事に飼われていた牛、豚、羊が襲われる様を見て、少年は唖然とした表情でその光景を見ていました。

牛、豚、羊の悲鳴が多くシンとした村に響き渡ります。

ここで大人達は、本当にオオカミが来たのかもしれない。

と、聞こえてくる家畜の悲鳴から、腰を上げました。


ですが、時はもう遅く、大事にされていた家畜は15匹はその爪で裂かれ、牙で食べられてしまいました。


その光景に村の人々は呆然とします。

そして、少年の言っていた事が本当だという事に気付かされました。


「本当にオオカミが来ていたのか」

「あの少年の言う事が本当だったのか……」

「ああ、俺達の大事な家畜が!」


村の大人達は大騒ぎです。

そして、その嘘つき少年を罵倒し始めました。


「お前が頻繁に嘘をつくからだ!」

「大事な家畜が死んでしまったじゃないか!」

「どう、落とし前をつけるつもりだ!」


少年を多くの大人達が囲い込んで罵倒の嵐を浴びせかけます。

しまいには大人達が少年に武器を突き付けて、殺そうとしました。


「これこれ、待ちなさい」


そこに、村の老婆が現れました。


「流石に、その少年を殺すのはやり過ぎだよ」

「ですが、大事な家畜が殺されてしまいました」

「そうです! これでは今年の冬を超えるのは難しい!」

「これは制裁だ! 嘘をつき続けた少年が悪いんだ!」


村の老婆は溜め息を吐き、大声で言います。


「じゃあ! あたしが魔法で罰をかけて、村から追放する! それで良いね?」


老婆は村で有名な魔女でした。それ老婆が、魔法で罰を与え、村から追放すると言ったことに、大人達は渋々と納得しました。


「魔女様が言うなら……」

「そうだな。それで良いだろう」

「殺すのはやり過ぎか……」


少年は殺されるかもしれない。という恐怖から、解放されてほっと一息吐きました。

ですが、これからどんな魔法をかけられるのか。

村から追放されてどう生きていけば良いのか。

その事が頭から離れません。

老婆が前に進み出て言います。


「じゃあ、魔法をかけるよ。少年」

「はい、分かりました」


本当は絶対に嫌ですが、しょうがありません。

杖を振ると光が出て、少年を取り囲みました。

そして、白煙が包み込みます。


「ケホッケホ!」


咳込み、白煙が消えるのを待つとそこには少年を見る多くの驚いた顔です。


「オオカミだ人狼だ……」

「少年がオオカミに」

「オオカミ少年だ!」


水溜まりを見ると、そこには全身に毛が生えて爪は伸び、頭には耳が、口はオオカミのようになっていました。


「これで、懲りたかい。少年はこれからその姿で一生を過ごす事になり、そして追放する。これで良いかい皆」


魔女の言い分に村の誰もが呆然としながらも納得しました。

そうして、本当のオオカミ少年となった少年は、村を追放されました。


村を出て、他の町に行きますが、誰もがこの姿を見て驚き、恐怖して受け入れてくれません。

色々な村を巡って行きますが、結局誰もがこの姿を忌み嫌います。

だけど、受け入れた村がありました。その村は人口がそこまで多くないので、村の人は嫌がりながらも、オオカミ少年の。


「どんな仕事でもやります!」


という言葉に渋々ですが、受け入れました。

任された仕事は家畜の屠殺と木の伐採です。誰もやりたがらない仕事。

以前の村で、家畜を無残にもオオカミに食べられてしまった少年は、皮肉にも屠殺の仕事を任されてしまいました。



それから6年。オオカミ少年も大きくなりました。

不満はありますが屠殺と伐採の仕事を真面目にやります。

それもこの村から追放されないためにでしたが、一生懸命に仕事をしました。


「なにか、面白い事はないかな」


オオカミ少年は考えます。


「そうだ、この村で一番可愛いあの少女を驚かしてやろう!」


この村には誰からも認められる程、可愛い14歳の少女がいました。

赤ずきんを被っていたので、村の皆からは赤ずきんちゃん。と、呼ばれていました。

頻繁に外に出て、少し離れのおばあちゃんの家にお見舞いに行く赤ずきんちゃん。

それを驚かす。そうすれば、気が晴れるかもしれない。

オオカミ少年は作戦を立てます。



そうして、実行する日が訪れました。

赤ずきんちゃんのおばあちゃんと、同じ服装を着て、おばあちゃんの家の扉の前で待ちました。


すると、赤ずきんちゃんがなにも知らずに暢気に現れました。

下を向いてなるべく顔を見られないように気を付けます。


「あれ、おばあちゃん。今日は元気だね」

「ああ、今日は元気だからお前を待っていたんだよ」

「そうなんだ。でも、なんでおばあちゃんはずっと下を向いているの?」


赤ずきんちゃんは小首を傾げて、聞いてきました。


「それはね――」

「それは?」

「お前を食べる為だよ!」


服装をビリビリと破りながら、大きな両手と口を広げて赤ずきんちゃんを驚かしました。


「くすくすっ」


ですが、思った反応ではありません。

寧ろ、笑われてしまいました。


「そんな事、一目見た時から分かっていたわ」

「そ、そんな……」


オオカミ少年は折角、気晴らしになると思っていた作戦が失敗したことに落胆しました。


「ね、オオカミさん。あなた面白い人ね」

「そ、そうか? 赤ずきんは俺を怖いとは思わないのか?」

「私は別に怖いとは思わないわ」

「こんなに、爪も牙も耳も生えているし、毛もオオカミの様なのにか?」

「爪と牙は置いておいても耳は可愛いし、毛はふさふさで気持ち良さそうよ」

「そ、それに! 俺は屠殺もしているんだぞ!」

「それは村の為にでしょ? それにあなたは6年も文句を言わずにやり続けていたじゃない」


オオカミ少年は赤ずきんちゃんの言う事に呆然としました。

ぽたぽたと雫が零れ落ちました。瞳からどんどん雫が溢れ出ます。

嘘を吐き続けて、認められなくなったオオカミ少年が、赤ずきんちゃんに認められた事。

それがどれよりも嬉しかったからです。


「オオカミさん泣かないで」

「うぅ……」


オオカミ少年は蹲り、顔を覆います。その頭を赤ずきんちゃんが撫でてくれます。

赤ずきんちゃんの優しさに胸が温かくなりました。

そして、赤ずきんちゃんの心配そうな顔に胸が高鳴りました。

赤ずきんちゃんを見ていると顔が熱くなってきました。

そうです。オオカミ少年は赤ずきんちゃんに恋をしてしまったのです。


「赤ずきんちゃん!」

「なあに? オオカミさん」

「好きです! 付き合ってください!」


その言葉に赤ずきんちゃんは驚きました。

ですが、顔を赤くしながら、ふっと笑みを浮かべて言います。


「はい、良いですよ。オオカミさん」

「ほ、本当か!?」

「なに? 嘘なんか吐かないわよ。オオカミさん」

「そうか……そうか!」


オオカミ少年は嬉しそうに喜んで、飛び跳ねます。

そんな姿を見て赤ずきんちゃんはくすくすと笑います。



ある日、オオカミ少年は赤ずきんちゃんを誘って、デートに行きます。

オオカミ少年は何故かビクビクしていて、赤ずきんちゃんと繋いだ手にも汗がにじみ出ていました。

赤ずきんちゃんはそんなオオカミ少年の挙動に不審に思いながらも付いて行きます。

そして、着いた先は一面、黄色や赤の咲き乱れる場所。


「うわぁ……とっても綺麗ね」

「喜んでくれて良かった」


赤ずきんちゃんはオオカミ少年が怪しい態度だった事に、ここを見せて喜んでくれるかと、思っていたのかと考えました。

ですが、まだオオカミ少年は挙動不審です。


オオカミ少年はそこで花を積み、それを輪のようにして花輪にしました。

それを赤ずきんちゃんの頭に乗せて言います。


「赤ずきんちゃんこれ。どうぞ」

「ありがとう。オオカミさん!」


赤ずきんちゃんはそんなオオカミ少年に嬉しさが溢れ出ました。


「それと、もう一つ。言いたい事があるんだ」

「なあに?」

「け、結婚を前提に付き合ってください!」

「え!? け、結婚!?」


その言葉に赤ずきんちゃんは驚きました。

そして、オオカミ少年が挙動不審だったのに確信を得ます。

顔が熱い。赤ずきんちゃんの顔はリンゴのように真っ赤になっているのでしょう。

でも、胸が温かくなるのも感じました。


「はい。良いですよ。オオカミさん」


顔を真っ赤にして赤ずきんちゃんは答えました。

オオカミ少年は大はしゃぎで喜びのたうち回ります。

そんな姿にくすくすと笑みが零れ、自分の目から涙が一滴零れ落ちました。


「あれ、私……」

「どうしたの? 赤ずきんちゃん!」

「ううん。なんでもない。ただ、嬉しくて涙が止まらないの」


繋いだ手に雫が零れます。

赤ずきんちゃんとオオカミ少年はにっこりと笑い合う。




こうして、オオカミ少年は――赤ずきんちゃんの――人生を食べたのでした。

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