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◇第1話「召還とドワーフの従者」


自分がファンタジーやSF世界の物語の主人公になるってことを夢見ない者はいないだろう。

この物語の主人公も様々なラノベを読んでいたが、せっかく異世界に召還されて、特別な能力や親身な仲間|(特に可愛い女の子!)を得たにも関わらず、ただ「帰りたい」という目的のためだけに行動する主人公というのが理解できなかった。


そう、自分が同じ目に遭うまでは・・・


大辻 雅久はその日、初めて提出するレポートを書き上げ小休止していた。

大学に入学して一人暮らしを始めて3ヶ月。ようやく新しい生活にも慣れてきたところだ。

読みかけのラノベを手に取り、ベッドに横になりながら続きを読み始める。


「いいよな。異世界・・・俺も召還とかされてみてーなあ。」


何気なくそう呟くと自分を取り巻くように魔法陣が展開された。


「ははっ、やっぱりあるんだ。こういうの。さあ、俺も異世界生活の始まりだ。」


魔法陣の放つ光が強くなるに連れて、自分の身体も輝き出した。


「あっ、そうだ。せめてスマホを・・・」


ラノベの中では異世界で現代知識が役に立つことが往々にしてよくある。現代知識の結晶であるスマホを持ち込めれば、必ず有利に事が運ぶはずだ。だがしかし、雅久のスマホはベッドから少し離れた本棚の上で充電中だった。


「もう、少し・・・」


スマホ目掛けて急いで手を伸ばす。あと少しで手が届く・・・という所で、目が眩むほどの光につつまれ、咄嗟に顔を覆った。


ー・-・-・-・-・-ー・-・-・-・-・-ー・-・-・-・-・-


光が消え、顔を覆っていた両腕の隙間から周囲を伺う。

目の眩みがおさまり見えるようになると、そこは魔法陣の光の残滓がただよう薄暗い森の中だった。

木々はまるで、北欧の湖畔にあるような樹齢何百年かは経っているというような大木で、一目でここが元居た日本ではないことがわかる。


(ふつう召還というと、城とか神殿とかに呼ばれるもんだよな。こんな所に出たって事は座標みたいなものがずれたのか?召還した相手もいないみたいだが・・・っ!?)


目の前にいる背の低い屈強な髭面の男と目があった。身長は雅久の腹くらいまでしかなく、身体は横に広いが太っているわけでもない、よく鍛えられている感じがする。


(知ってる。これはドワーフだ。俺は本当に異世界に来たのか!)


そのドワーフは感嘆したそぶりを見せつつ雅久を暫く見つめていると、突然向こう側に向かってに走り出した。


(あのドワーフが俺を召還したのか?しかし、何も持って来れなかったが大丈夫なのかなあ。)


ドワーフは少し離れた大木の一つの根元に向かってかがみ込んだ。今まで気づかなかったが、そこにも誰かが居るようだ。ドワーフより長身で黒っぽいローブをまとい、大木に寄りかかりながら杖を構えていた。状況から見ると彼|(彼女?)が雅久を召還した張本人らしい。


ドワーフとその人物は何か短い会話をいくつか交わした後、ドワーフがこっちに走ってきた。


「#$#%$%&」


「えっ?」


ドワーフが何かを言っているが、雅久には何を言っているのかわからない。


「#$#%$%&」


ドワーフは同じ言葉を繰り返したが、言葉が通じていないとわかったのか雅久の腕を掴むと大木の根元の人物のところまで連れて行こうとした。


「ちょ、ちょっと・・・」


ドワーフの力は想像以上に強く、半分引きずられる形で大木の根元まで連れてこられた。

そこにいた人物はうつむいていたが雅久が近くにくると、ゆっくりと顔を上げた。


「と、父さん・・・!?」


その顔は雅久が良く見知った人物に良く似ていた。だが、ここが異世界であろうとなかろうと、雅久の父本人ではないということは直感でわかった。しいていうならば、年の離れた兄や叔父が存在したらこんな感じだろうというところだろうか。もちろん雅久には元の世界に兄も叔父もいない。


父に似たその人物は軽く苦笑いをしたかと思うと、手に持った杖で雅久の肩を軽く叩く。すると淡い光が杖の先から立ち登った。そしてその男は語り出した。


『よく応えてくれた。”異なる世界の私”よ。』


「”異なる世界の私”?てことは、あんたは俺なのか?」


『そうだ。異なる世界で異なる親から生まれ、異なる生活をしてきたが、君は私だ。』


「なぜ俺を?」


『いくつかの世界の自分に向けて召還魔法を放った所、応じてくれたのが君だったのだ。』


雅久は召還される直前”召還されてみたい”と口に出していたことを思い出した。


(そんな簡単なことで召還できるのか・・・)


『いや、本来は簡単な事ではない。召還魔法が可能な魔力と実力を持った魔導師が異なる世界に向けて召還魔法を放ち、相手が応じなくてはいけない。君は、私の全魔力と命をかけた召還魔法に応じてくれたのだ。』


心に思っただけで声に出さなかった事に相手が反応したことより、”命をかけた”というキーワードにハッとする。よく見ると、この男の後ろには血溜りができている。医学に詳しくなくても、かなり危険な出血量だとわかる。


『フフッ。今の君と私は精神リンクで会話している。さっきから私の口は動いていないだろう?もう声を出すのも辛くてね。本来他人と精神を繋げるのは難しいんだが、君と私は世界は違っても同じ人間だからね。こうやって些細な意思疎通も可能なのだよ。』


「そ、その怪我は・・・?」


『これかい?ちょっとヘマをしちゃってね。もう助かりそうも無いのさ、だから君を召還した。頼む。私の代わりに、この書簡を王都へ届けてくれないか?人づてじゃダメなんだ。私自身が届けないと・・・私はもうすぐ死ぬが、私が死んだことをあいつらに知られちゃいけない。君には”私”として、この書簡を王都の・・・レイグラッド王に直接渡してくれ。それが終わったら君の世界に帰るといい。』


「あいつらって誰だ?それと元の世界に帰るってどうやるんだ?」


『カリスター伯爵家とその取り巻きだ。やつらはラヴァルーン帝国と内通して国家転覆を企んでいる。この書簡と私の・・証言が証拠となるのだ。君に私の全ての知識と記憶を与えよう。私の記憶の中に元の世界に帰る方法がある。』


「え?でもそれは・・・」


『安心しろ。意識は今の君のままだ・・・』


そう言うと彼の持っていた杖が光り出す。それと同時に大量の情報が雅久の頭の中に流れ込んでくる、この世界の全てを理解した気がした。そして全てを忘れた・・・


杖が光を失うと、男は今度はドワーフの方を向いた。


「”鉄の砦鋼の刃”ウェドグ・・・げほっ」


「おう・・・”紫焔の魔導師”セフィーロよ。」


「ぐっ、こ・・・この者に、私の・・・全ての知識と記憶を与えた・・・わかるな?この者と共に王都へ・・・」


「うむ、わかっている。」


すこし前まではドワーフの言葉はわからなかったが、今はドワーフの言っていることがわかる。

どうやら知識と記憶はちゃんと受け継がれたらしい。


この世界の雅久・・・セフィーロはよろよろと雅久の左手を取り、その上にドワーフの右手を乗せると自分の左手を乗せた。


「・・・ウェドグル、この者を助けてやってくれ。ぐふっ。」


「我が一族の炉の炎にかけて・・・約束を果たすことを誓おう。」


ドワーフ・・・ウェドグルが感極まったのか、雅久の左手の甲を強く握ったので痛みがあったが我慢した。ドワーフの握力で本気で握ったならば、雅久の手くらい簡単に砕けてしまうことがわかっていたからだ。かなり痛みがあったが、これでも手加減しているのだろう。


「頼んだ・・・ぞ・・・」


セフィーロは力尽きたのか手を離し、ダランとうつむき倒れ掛かった。


「ああっ!」


雅久はドワーフ・・・ウェドグルがこの世界の雅久・・・セフィーロの亡骸の肩を支え、真剣な眼差しで見つめているのを少し離れたところから見ていた。泣いたり悲しんでいる様子はないが、ドワーフなりの今生の別れをしているようだというのはなんとなくわかった。


そして雅久は異世界に召還され、魔導師の知識と記憶を得て、ドワーフの従者を仲間にした。



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