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「それにしてもあの時感じた魔力はなんだったんだろう・・・」
ドアを直し終えてテーブルに乗せられた軽食を摘まみながら首を傾げるエブル。
「そんな慌てるほどの大きさの魔力だったのかい?」
「少なくとも僕が今まで感じた事無いような強さだったよ。」
外の天気が大荒れだという事で船は出港する事は出来ないからと聞かされ変な夢と目が覚めた原因の音が海が荒れる音だったのかと外の様子を眺めていたムスビだが視線を向けられて首を傾げる。
「そういえば昨日はエブルのやつがずっと騒いでたせいでお互い自己紹介もしてなかったね。私はイェーユーニウムでこっちのでかいのがスビグス。今出かけてていないけど昨日いたもう1人がオレウムって言うんだよ。」
「ムスビです。・・・その昨日はありがとうございました。あと、部屋のドアも助かりました。」
「ドアに関してはエブルが全部悪いからお前が謝る必要はない。」
頭を下げるムスビにスビグスは優しくそう言いエブルを見るが、エブルは特に気にした様子も見ずに考え込んでいる。
そんな2人のやり取りにため息をつきながらイェーユーニウムは窓の外を気にしながらも昨日より随分と会話を交わせるようになっているムスビを観察する。
エブルの知り合いの子供だって話だけど、この子昨日はオドオドとした態度でわからなかったが、その辺の子供にしては言葉使いや仕草が洗練され過ぎている。
着ているものや持っているものも妙な作りだけど町人が着るにはいい生地を使っているように見えるけど・・・
エブルは誰にでも気さくに話しかける性格をしてはいるけど、商人の子としての教育はしっかり受けているからこの子の親が貴族だった場合こうして話しかけるだろうか?
チラリとエブルの方に視線をやるとまだ納得いっていないようで部屋の中を見ながら考え込んでいる。
てっきりこの街にこの子供の縁者でも居てエブルはそれを知っていて連れてきて送り届けるために街に着いたらさっさと連れ立って出掛けたかと思い込んでいたけど
宿まで連れてくるもんだから問い詰めようと思ったけど昨夜エブルは意図的に親の話を軽く流していた。
という事はエブルの判断で簡単に出自を言えないという事になる。
下級貴族程度の家であれば彼が言えないはずがない。
となるとそれなり以上の貴族かそれに並ぶ位力のある様な良いとこの子供の可能性が高い。
家督争いでもあって親がどうにか逃がしたとかか?
それならばまだ救いようはあるけど、もし違った場合は・・・いやいやこの子の親に限って魔物でも野盗でも問題が無いと言ってなかったか?
それなら単純にはぐれただけの子を連れて移動してしまったか?護衛からもはぐれるなんて事は腑に落ちないけどもそこは今重要じゃない、これは下手したら誘拐と言われても仕方ない状況でしかないじゃないか?
視線をムスビに戻すといつの間にかこちらをジッと見ていたようで視線がぶつかる。
「ハァー、まいったな、ムスビあんた親はどこだい?なんであんなとこ1人で歩いてたんだ?」
「イェーユーニウムもう少し遠回しに聞いたらどうだ?」
「遠回しも何も切り出し方を考えて観察してたらバレてるみたいだし、私はオレウムみたいに腹芸は得意じゃないんだよ。」
唐突にムスビに問いかけたイェーユーニウムに注意を促すスビグスの言葉を軽く流して再びムスビに話しかける。
「あんたの素性と昨日あんなとこに1人でいた理由によっては私たちはあんたなるべく早く親元に連れて行かないと犯罪者にされちまう可能性だってあるんだ。それはわかるね?」
犯罪という言葉に眉を寄せて俯いてしまうムスビだが構わず言葉を続ける。
「あんたが親の事も何も言えないというのなら、この嵐が収まったらギルドにあんたの事を話してギルドに預けるか、知り合いだって話だしエブルの実家まで連れてってそこからあんたの親に連絡を取ってもらう。」
「父さまに連絡・・・」
ムスビがはじかれた様に顔を上げて期待を込めた目でエブルの方を見る
「そうだ、父さまかはわからないけどあんたの保護者に連絡を取って迎えに来てもらうようにするんだ。」
「あー、申し訳ない。多分だけど連絡は無理だ。兄さんでも多分すぐには無理だと思う。」
再び項垂れるムスビに申し訳なさそうにするエブル、そんな2人を見て若干の罪悪感を感じつつも自分達が犯罪者になってしまうわけにはいかないとイェーユーニウムは心を鬼にして続ける
「まぁ、とりあえず今日はこの天気で身動き取れないから、私たちに話す気になったらいつでもいいから声を掛けてくれれば良いよ。」
鬼になり切れなかったイェーユーニウムはそういうと苦笑いを浮かべて自分の部屋に戻っていき、それを見たスビグスも何かあったら声を掛けろと言い残して部屋に戻っていった。