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荒れた褐色の大地と豊かな緑の境界を鈍色の波が轟々と音を立てながら迫ってくる。
ふと視線を少し上げて見ると褐色の肌に黒檀の様な髪をした美しい女性が居る。
その女性は淡い金色の瞳を持つ目を細めて鈍色の波をただ見つめている。
「-- 」
その女性に私は何か言ったのだけど地響きのような波の音が大きすぎて自分でも聞き取ることが出来なかった。
突然波の音が変化する、波の音の中に金属の音が混ざって聞こえた気がしてまた視線を波に向けると波の一部が割れて小さな塊がこちらに向かってきた。
アレが何なのか気になって身を乗り出して覗き込もうとしたところで視界が突然動きだす。
また轟々と大きな波の音がなりはじめる・・・今度はその音に混ざって金属の音がはっきりと聞こえる
金属だけじゃなく、人の声の様なものも聞こえ始め、次第に重いものが落ちる様なドーンという大きな音も聞こえ始め私は怖くなって目をギュッと閉じる
それでも追いかけてくる音から逃げようと目をあけると見覚えのない壁が見える。
金属音は止んだけど轟々という音とドーンという音は鳴り止む気配がない。
逃げるために体を動かすと下半身に違和感を感じる。
「良いかい?体に違和感を感じたらこの腕輪を意識するんだよ?」
繰り返し繰り返し父さまに言われて居た言葉を思い出して焦る気持ちを抑えて腕輪に意識を向けていると下半身の違和感が消えてゆくのと共に少し冷静になって夢を見ていたのだと気づく。
部屋に入った後、やっぱり青年に声すら掛けずに部屋に入ってしまったのは良くなかったと思い寝る前に彼に挨拶をしに行こうと考えていたはずなのだが、いつの間にか寝入ってしまっていたようだ。
窓の方を見ると外はまだ暗く見通しが利かないので、目が覚めたはずなのに鳴り止まない轟々という音と何かがぶつかる音の正体を見ることが出来ない。
寝起きのぼんやりした頭で音の正体を考えていると部屋の扉がノックの音と昨日1日で随分と聞きなれた声が聞こえてきた。
「ムスビ君?大丈夫?何かあった?」
昨夜言いそびれたお礼を言うチャンスに焦ってさっきまで違和感のあった自分の体を確認して窓際から離れてドアの方に向かおうとして自分が寝起きに落としたシーツに足を取られ盛大に転んでしまう。
「ムスビ君っ!?」
急いで起き上がってドアを開けようとしていると、大きな声がしてドアがはじけたように開かれ
「え・・・」
勢いよく開かれたドアが足にシーツを絡めたまま何とかドアの前まで辿りついたムスビの顔に飛んできてぶつかった。
「ご、ごめん!ムスビ君大丈夫?」
「あ・・・あの、ありがとうございます。すみませんでした。」
痛みで混乱しながら昨夜から言わなくてはと思っていたお礼と謝罪をするムスビを見て焦るエブル
「ちょっと待ってて。絶対に動いちゃダメだよ?すぐだから動かないでね」
何が何だかわからないまま待っていると3人分の足音と共に昨日一緒に居た大柄な男性がエブルに引っ張られて、その後ろには昨日部屋の鍵を渡してくれた女性が歩いて部屋に入ってきた。
「あっははっはははは・・・エブルあんたっ!」
「お騒がせしてすみませんでした。」
部屋のドアを直している大柄な男性スビグスとエブルを尻目に備え付けの小さなテーブルに座ってお茶を飲みながら大笑いするイェーユーニウム、その横で小さな体をさらに縮めて謝るムスビ。
「ほらほら!悪いのはあんたなのにこの子が謝ってるよ」
「・・・お騒がせしてすみませんでした」
「エブル手を離すな・・・修理代払わされるぞ」
どうやらエブルは魔力感知ができるらしく、ムスビの部屋から魔力を感じて何かあったのではないかと部屋に来てみたら、ムスビの転ぶ音が響いたため
焦って扉を開けたら吹き飛んだムスビが突然お礼を言った事で侵入者が居ただの打ち所が悪かっただの色々とそれはもう色々とあらぬ想像をしてしまったようだ。
「それにしても侵入者を疑ったのにその場にチビさんを置いて俺を呼びに来るのは危ないだろ」
「いや・・・突然ありがとう、ごめんだから・・・変なとこ打った可能性もあるかなって・・・」
「侵入者だったらこの子その隙に連れ去られてたかも知れないね」
「そうだな、呼びに来てる間は・・・」
「とりあえず早く直してくれるかい?私はもうお腹空いたよ。おちびさんもお腹空いてるだろう?」
もくもくとドアを直してたスビグスに注意されシュンとしながら答えるエブルそこに追い打ちをかけて行くイェーユーニウム。
彼らの会話をいたたまれなさそうに聞いていたムスビの体に連れ去らうという言葉が出た瞬間緊張が走ったのをイェーユーニウムは気づき続くスビグスの言葉を遮り話題を変える。
外が暗かったのでまだ朝になっていないと思い込んでいたムスビだが、家を出る前の日から殆ど寝ていなかったのと、移動で予想以上に疲れていたらしいムスビが目を覚ましたのはお昼も近づいた頃だったので宿の人と他の客からの注意は最低限で済んだのだが、イェーユーニウムは容赦なくエブルを笑いものにしている
その騒動の中心に自分がいると思い非常に申し訳ない気持ちでお腹いっぱいのムスビであった