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聖なる魔王  作者: et cetera
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「それで?エブルは何か言いたい事でもあるの?」


何も言わずムスビを連れてクレランティアの定宿の食堂に顔を出したエブルを見た3人は一瞬エブルを咎める視線を送るが繋がれた手を見てため息をつきとりあえず2人にテーブルに着くように促す。


「ムスビ君何が食べたい?この宿はご飯美味しいよ。僕のお勧めはこの魚かな」


座るなりメニューも広げずいくつかの自分のお勧めを挙げてムスビに話しかけ始めるエブルと相変わらずどうしていいのかわからず所在なさげなムスビの様子を見て


「エブル、今日はお前お気に入りの妙な魚はもう無いみたいだぞ。」


詳細を聞くのも怒るのも後にするべきだと察したようでいつもの調子でスビグスと呼ばれていた男性が話しに入る


「え、僕のクレランティアでの一番の楽しみが無いなんて・・・」


「最後の1つはさっきスビグスが食べてたやつだったみたいだね」


更に追い打ちをかけるかのようなもう1人の男性オレウムの言葉に素早く反応してどうして残してくれなかったんだなどと騒ぐ彼らで一気にテーブルが賑やかになる。


そんな光景を所在なさげに見ていたムスビだが周囲に見知らぬ人が溢れている状況にどんどん挙動不審になっていく。

さらに言うならついさっき岬で飲み食いしたばかりで何も食べれるはずがない、どうすればいいのかわからずおろおろしていると黙っていた女性がムスビを手招きしている。


挙動不審気味に恐る恐る傍に行くと


「あんたお腹すいてるかい?」


黙って首を横に振るムスビを見て苦笑いを浮かべムスビの手に鍵を握らせ


「別にとって食いやしないから安心しな。お腹空いてないならもう部屋に行って寝るといいよ。」


「ありがとうございます。」


女の人にお礼を言って鍵を受け取ったものの部屋に行く前にエブルにもお礼を言わなければと思って視線を送るが、騒いでいるエブルにどう声をかけるか、そもそも掛けていいのか考え込んで動けなくなったムスビの目に女の人が階段を指さし行って良いとサインを送っているのが見えてムスビは頭を下げて部屋に向かったのだった


階段を上ってムスビの姿が見えなくなったのを確認したイェーユーニウムは前置きもなくエブルに問いかける。


その問いかけにくだらないやり取りで騒いでいた男たちはそろって真面目な顔になる。


「何も言わず連れてきちゃって悪かったよ。あの子ずっと会いたかった子なんだけど・・・」


「前からの知り合いだったのか?」


「そうとは思えないくらいよそよそしくみえるんだけど?とりあえず、軽く調べた限りじゃここ4日ほどの間に自由都市群の中で壊滅した村は無いそうだよ」


お説教コースかとも思ったのだが実際大して怒ってはいなかったようで謝罪を受け流し、明日にでも調べようと思っていた事をサラッと伝えるイェーユニウム

4日より以前まで調べていないのはやせ細ってもおらず何よりあの大荷物を抱えて子供の足で移動できる範囲の情報と考えた時に必要が無いからだ。


「イェーユーニウム!調べてくれてたの?」


「あんな大荷物背負って街道を子供が歩いてるなんて気になるからねぇ、ましてやあんなオドオドとしてると来たら最悪の事態があったのかと思ってね」


「あの子の父親は野党や魔物が来たとしても平気な人だから出かけてる間に怖い目にあったかとも思ったんだけど・・・うーん・・・」


帰り道で考えていた野盗に村が襲われそのごたごたの中何らかの事情で父親とはぐれた可能性も無くなって、余計にムスビの態度と1人で居る理由がわからなくなっていく。


「散々連れまわしてたけど、何も聞き出せなかったのか?」


「なぁ、人が怖いって思うのはどんな時だと思う?」


スビグスの言葉に情けなく天井を見上げて唸り声をあげ続けるのをやめて3人に対して聞いてからずっと気になっていたムスビの言葉の意味を聞いてみた。


結局その後あれやこれや4人で色々と考えてはみたものの大人になって色々な人間関係を経てるわけでもない子供のうちからそんな事を思う理由も、大荷物で子供が1人で街道を歩く理由も思いつかず朝にでも本人に聞くしかないという結論に落ちついて


「じゃぁ、私はそろそろ寝るけど、エブル、あんたの部屋は無いから2人が酔いつぶれる前にどっちと寝るか決める事をお勧めしとくよ」


席を立ちながら残した一言に焦るエブルを見てイェーユーニウムはしてやったりという笑顔でさっさと階段を昇っていく。


その後ろ姿を見送って振り返ったエブルの目にはかなり出来上がっているスビグスとまだ多少冷静そうなオレウム


「あー、まぁ、あとは頑張ってくれ」


救いを求めるエブルの視線から目をそらしつつオレウムは立ち去り


エブルはスビグスが完全に潰れるまで付き合い、自分より体の大きな男を抱えて階段を昇り明け方近くにようやく休めるのだった。


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