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聖なる魔王  作者: et cetera
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呟いた後さっきまで被せるようにどんどん話してきていたエブルが黙ってしまったのでムスビ失敗したと思った。

きっと今の自分の発言は今日一日良くしてくれていた人に対してしてはいけない言葉できっと彼の気分をひどく害してしまったのだと・・・


父さまならば何がいけなかったのか、どうすれば良かったのかきっと教えてくれるのだろうが、今ここに父さまは居ない。

気分を害した彼が昔ムスビを連れだして閉じ込めようとした大人たちのように怒りのままにムスビを傷つけたとしても守ってくれる人は居ない。


先ほどから自分たちの髪を乱している強い潮風の音で自分の呟きが聞こえていなかったのではなどと考えてもみたものの、それならさっきまであんなに喋っていた彼が突然黙り込むはずもない。


俯いたまま目線だけで隣に座っているエブルを確認してみると戸惑っているような悲しんでいるような何とも言えない表情で海の方を見ていた。


「ごめんなさい。」


喋らない彼に不安になってきて謝る。


「え?なんで謝るの?」


返事なんて来ないだろうと思っていた謝罪に彼が驚いた様な声で聞き返して来たことに驚いて何と答えれば良いかわからなくなってしまう。


「急に、黙ってしまったから、僕のせいで・・・ごめんなさい」


何故返事をしてくれたのかとか、怒っていないのかとか、色々考えているのに出てきた言葉はそんな中途半端なものだけで、これでは黙った彼が悪いみたいではないか。


「ああ、ごめんね、少しビックリしただけだよ」


焦って次の言葉を探そうとしていたのだが彼のそんな言葉に驚いて顔を上げる。


「人が怖いなんて僕が君くらいの頃には考えもしなかったし、今でも多分、人が怖いと実感としては解って無い気がする。」


潮風が彼の髪を乱しているせいで良く見えない彼の今の表情がムスビには一瞬父の申し訳なさそうな表情に重なって見えた気がした。


「君と同じくらいの年の子も結構知ってるけどみんなそんな事思ったことも無いと思う。」


漸くこちらを向いたエブルはムスビを見ていつもの人懐っこそうな笑顔を浮かべて頭を撫でる。


「まぁ、なんにしてもそれなら今日は頑張ったんだね」


思いもよらない言葉に驚くムスビを見て笑みを深めたエブルはわざと乱暴にムスビの頭を搔き乱して立ち上がると手を差し出す。


「真っ暗になっちゃったね。そろそろ戻らないとみんな心配するから戻ろうか?」


今日一日そうであったように不安気な顔で少しの間その手を見て考え込むそぶりを見せた後そっと手を伸ばしてムスビはその手を取る。


不安気な様子で繋いだ手を見ながら歩いているムスビをチラリと見てエブルは考えを巡らせる。


自分がまだ学院に入る前に兄の縁で初めて知り合ってから憧れて続けていた勇者ナギ様、博識で沢山の面白い話や不思議な話しをしてくれた彼に子供が居ると知った時エブル少なからず羨ましいと思った。


きっと勇者様は自分に話した以上に沢山の不思議な話しをするだろうと。


それだけじゃなく勇者様の子供ならきっと色んな人が色んな話しを聞かせてくれて、普通に生きている自分たちでは一生知ることのない景色が見れるんだろうと。


驚くほど精緻な姿絵を勇者様が持ってきて兄にムスビの事を自慢していた時も、あの勇者様に一心に愛情を注がれる子はなんて幸せなんだろうと思っていた。


ナギ様と初めて知り合った頃はまだ学院に上がっていない年齢だったため周囲から聞こえる見知った人を称える華々しい言葉のいい面だけを見ては憧憬を抱き

学院に入り様々な事を学ぶにつれ言葉にされない苦労が合ったのかもしれないと思うようになっていたが、自分が知っている明るく優しい勇者様の姿にその意味を理解は出来ていなかったのかもしれない。


今日偶然見かけた時は勇者様が一緒に居なくて遠目には確信が持てなかったけど近づいてみればあの姿絵の子に間違いないと確信できた。


少なからぬ嫉妬心は持っていたけどそれ以上にずっと仲良くなりたいと思っていたから1人だと聞いてチャンスだと思い半ば強引に荷物を預かって一緒にクレメンティアまで移動したが


街に着くころにはにはナギ様の話してたのとずいぶんとイメージが違って大人しい子だと不思議に思い始めた。


緊張しているだけかとも思い街に着いてからは色んなものを見せて反応を見ていたけどムスビが不安そうな顔以外の表情を見せたのは、最後の驚いた顔だけでエブルは何とも言えない気持ちになってしまう。


聞いていたムスビと今のムスビの印象が違いすぎる理由は今1人だという事が関わっているのだろうか?


そもそも不思議なのは何故この子が1人であんな大荷物を抱えて歩いていたのか


聞いてる限りの話しではナギ様はムスビを1人で出かけさせる事を良しとするとは思えない。


じゃぁ家出かとも考えるが今日一日見ていた限りでは外に憧れる気持ちよりも他人への苦手意識や恐怖心の方が強くてそういう事を考えそうにもない。


何よりナギ様と一緒に居ない事を本人が一番恐れているように見える。


今無理に次々浮かんでくる疑問の答えを求めてしまったならムスビは漸く取ってくれたこの手を振り切って逃げてしまうだろう。


(これは僕だけで考えても無駄かな、みんなに相談してみよう)


色々聞いてしまいたい気持ちを抑え込んで、エブルは仲間たちが待っている宿までの道をムスビの手を引いてゆっくり歩いていく


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