No.2 神の創りしカードゲーム
俺はカードゲームは好きだ。高校時代、よく教室で友人達とやっていた。まぁ、今は地元から離れたし、友人達とも疎遠になってしまったからやる機会はない。最近では、スマホアプリのカードゲームを少しやっていたくらいだな。半年前に引退したが。
だからカードゲームをやるのは吝かではない。ただ、「異世界に来てまで……?」とは思わざるを得ない。
『カードゲームがない世界から来た人も多いからね。簡単に概要を説明しておくよ』
『君たちには、こんなカードをたくさん使って勝負してもらうんだ』
神がそう言うと、俺の目の前には1枚のカードが現れていた。
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【見習い剣士】No.1 ★ キャラクターカード
コスト:2 HP:105 ATK:20 AGI:15 DEF:0 配置:前衛 射程:1
属性:無 種族:人間 所属:冒険者ギルド
スキル:敵1体を選択し、《ATK×1.8》のダメージを与える。
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カード自体には、初心者っぽい剣士の絵のみが描かれている。かなり上手い。テキストはというと、俺がカードを手に取った瞬間、ほのかに蒼く光るステータス画面的なものが空中に出現し、そこに表示されている。
皆がカードを眺める中、神の説明は続く。
『勝負に勝ったらGが貰えるんだけど、これは色んなものと交換できるんだ。勿論食べ物にも交換できるし、生活に必要なものは全て揃うよ』
マジか。ゲームに勝てば金が貰えるってことと同義だよなそれ。
『ゲームのコンセプトは運要素の撤廃かな。確率や統計を駆使しての戦略も嫌いではないけど、このゲームでは極力排除して、純粋に実力の勝負になるようにしてるよ。それに、特定の人だけが手に入れられるユニークカードみたいなものも全くなし。全てのカードは誰もが平等に買うことができるよ』
ほう……運要素の撤廃ねぇ。それじゃ、ピンチになったら神ドローするありがちな展開はないと思っていいのかな? そして、カードは全員が平等に手に入れられると。
『僕はこの世界の各地に10億人の人を転移させた。君たちには上位を目指して切磋琢磨してほしいな』
10億人!? はは、スケールが半端ないなオイ。流石神ってとこか。カードゲームのために10億人って、最早アホの所業じゃねぇのか。
『この世界は元々何にもない世界だったんだけど、君たちが馴染みやすいように海やら山やら色んな地形を創ったんだ。君たち以外の人も動物もモンスターも居ない。完全にカードゲームのためだけの世界だよ』
運要素の撤廃といい、世界を用意したことといい、勝利で金が貰えるあたりからしても、神様は本気で俺たちにカードゲームさせようとしてるなこれ……。つーか異世界に住む住人もモンスターもなんも居ないのかよ! カードゲームって聞いた時からそんな気はしたけど、完全にテンプレ終了のお知らせだわ!
『まぁ地形を再現するために植物だけは居るけどね。あとは人工物も皆無。まぁ、でもGを使えば動物でもモンスターでもいくらでも交換できるからね。君たちの好きなように世界をカスタマイズして貰って構わないよ』
『それと、カードゲームをやる上で言葉が通じないと不便だろうから、皆同じ言語が使えるようにしてあるよ』
なるほど、今聞こえる言葉といい、さっき俺が口にした言葉といい、神様が使えるようにしたのか。カードゲームに関しては至れり尽せりだな。
『最後に注意事項かな。ゲームでわざと負けるとペナルティがあるからオススメしないよ。あとはこの世界では暴力は効かないからね。僕の攻撃遮断結界によって攻撃は全て阻まれます』
カードゲームのために攻撃遮断結界なんていう大層なものを持ち出してくんのかい。暴力は通用しないから勝負するならカードゲームでやれってことね、この神様は。
『あっ! ゲームは創ったけど、肝心のゲーム名を考えてなかったなぁ』
『うーむ……神の創りしゲームだからクリエイト……いや、なんか違うな……うーん……』
『そうだな……君たちから見ると、神である僕から与えられるカードだから、Given the Cards……『ギブン・ザ・カード』なんていいかもね。これでいこう!』
おそらくゲームシステムと対戦環境優先でタイトル忘れてたんですね。理解しました。
『さて、ここまでの説明を聞いても、元の世界に帰りたいっていう人は帰してあげるよ』
『元の世界にあんまり未練が無さそうな人を選んだつもりではあるんだけど、それでも帰りたい人は居るだろうからね。帰りたい人は、「帰りたい」と念じてくれるかな』
おぉ、ホントに帰すのか。召喚した奴がすぐに元の世界に帰してくれる異世界転移なんて初めて聞いたかもしれん。さて、俺は――
『それじゃあ帰します』
『……うん、帰りたい人は帰したよ。帰った人は大体7千万人か』
――俺はこの世界に残った。なんでだろうな。神様が本気っぽいから、ちょっと付き合ってやろうかと思ったのかもしれない。神様の言う通り、両親も居ない元の世界にあんまり未練もないしな。
俺の周りでは、数人が転移していくのが見えた。それと、いつの間にか手に持っていたカードは消えていた。
『残ってくれた、約9億3千万人の人たち、ありがとう。『ギブン・ザ・カード』をプレイしてくれる君たちに最大の感謝を』
『じゃあ、まずメニュー画面を開いてごらん。念じるだけで開くから』
神に感謝される日が来るとは思わなかった。それにしてもメニュー画面ね。なんかいかにもって感じのヤツがきたな。
俺は念じる。メニューオープン!
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【水谷嶺】
レート:0
通算戦績:0勝 0敗
CP:0
G:0
-インフォメーション-
[!]チュートリアルをプレイできます
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先程のカードのテキストと同様の、ほのかに蒼く光る画面が表示された。水谷嶺というのは俺の名前だ。他はまだ何も始まってないから全部0だな。そしてインフォメーションにあるチュートリアル。ここからルールなりなんなりを覚えるんだろう。これらの情報が表示されている左側には、まさにメニューらしく色んな項目が並んでいた。
『さて、まずはチュートリアルをプレイして、『ギブン・ザ・カード』のルールを覚えるといいよ。まぁテキストのルールもあるから、そっちを読んで覚えてくれてもいいんだけど』
『とにかく、『ギブン・ザ・カード』を楽しんでくれたら嬉しいな』
『じゃあ僕はそろそろ去るよ。ちなみに、僕も一介のプレイヤーとしてプレイするから、よろしくね。では』
そうして神の声は消えた。
つーか、自分の創ったゲームに自分で参戦するのかよ。しかも神様が。ふははっ。
絶対あの神様、対戦相手が欲しかっただけだろ。そう考えると、なんだか可笑しくなってきた。
カードゲームのために世界を創って10億人も呼ぶ? 神様が。大真面目に。
カードゲームだぞ? いわゆるただの遊びだ。それをここまで大真面目に……ふはははっ。
「ふはははははっ」
いつしか俺は笑っていた。さっきまで将来への不安に頭を悩ませていたのに。
なんで笑ってるんだろうな。神様とかいう最上級のものであるはずの存在が、ただの遊びであるカードゲームに真剣だったからだろうか。いや、カードゲームで金が手に入るなら最早遊びではないのか。
カードゲームを最早遊びではない領域まで、大真面目に昇華させてしまった神様を思うと、俺がうじうじ悩んでいたのが馬鹿らしくなってしまった。
あぁ分かったよ神様、遊んでやるよ。
あんたの創ったカードゲーム、『ギブン・ザ・カード』をな。