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ポケット・スピリット  作者: 一日一話
14/14

冷たい夏の訪問者[5]

「白い子供? ふーん。チマタではそんなの流行(はや)ってんのね」




「流行ってるというか、伝説です。海外の都市伝説みたいなものというか」




 で、現在。




 私はおめおめと子守の作ったお粥を自分の目の前に出されながら、尾守の都市伝説などを話していた。




「白い子供ねえ。――――あ、それオイラ、見たことあるかも」




「――――――センパイ」




「いや、そんな軽蔑した目でみないでよ。それに、これは本当の話よ? 公園でね、あー根無し草3日目くらいだったかな。オイラがボールの中でさて寝ましょうかって時に、一人子供が歩いていたんですよ。アンちゃんがオイラ見つけた時と同じ、あの時間に」




 その時点で、十分に嘘臭いけど。




「へえ。そう」




「興味なさそーですね」




「どんな子供だったんです? 私がきいた話だと、すげー美少年か美少女だって」




「あー…………」




「違うんすか」




「いや合ってる。合ってるんだけど。いやだなあ。じゃあオイラ死んじゃうじゃないですか」




「どんな、見た目でした?」




「白い髪に、そうだな、真っ黒な着物? 浴衣? みたいのを着てたよ。無地の。肌もなんか白っぽくてね。そのくせ、目の色は青色なの」




「話かけなかったんです?」




「うん。だってそんな姿みたら、ねえ? 夏といえば、ねえ?」





 ビビりめ。





 まあ、そんな場所に真っ白な子供が現れたら、そうなるとは思うんだけど。




 それも、真っ黒な着物姿。




 姿がそうだったのだから、その着物は帯からなにまで真っ黒なのだろう。




「まあ、その話はあとで整理します。センパイ、ごちそうさまでした」




「ん? ああ、てか、白米はきみの部屋のモノだったから、オイラは別になにも」




「そうですね。まあ、これに免じて今までのことは帳消しにしてあげます」




「あい? なにが?」




 真顔である。




 そこは「はい」とか「うん」とか言えよ。




「いいです。あと、センパイのその時計、なんで拾って着たんですか? そんなもの拾わないと思いますけど」




「あ、なんかヤな感じ。何でも拾ってくんなよ、みたいな。うーん、とね。実はオイラも良くわからないのです。でも、なんか持っていかなきゃいけないような気がしたんです」




「…………ちなみに、どこで拾ったんですか?」




「うん? 病院のベッドのなかでだけど?」




 なんだそりゃ。




「それ、拾ったっていうか、誰かに投げ込まれたんじゃ?」




「え? そーかなー。オイラもさ、電子の時計なら病院だから危ないよなーって思って捨てようとしたんだけど、なんでか捨てられなくってね。ま、機械時計だし、他の患者さんに迷惑はかからないかなって思って」




 私の話しから、全く答えに成っていない。




 いや、話しをしているのかどうかすら、わからない。




「そうですか」




 仕方なく、コイツになにを聞いても仕方がないかな、と思い始めて、時計を見ると、すでに4時を回っていた。




 ああ、まずいなあ。今日、9時からバイトなんだけどな。




「ん? アンちゃん、そういえば今日ってバイトは?」




「9時からありますよ」




「え、まずいじゃない。大丈夫?」




「センパイ、他人事ですね。誰の所為でこうなったんでしょう」




 まあ、私の所為でもある。




 コイツを連れてこなければ、こんなことに成っていないんだから。




「そっか。そりゃ。悪かった。んじゃ、アンちゃん」




「はい」




「きみは今から寝てください。オイラ起きてるから。きみがもういいっていう時間に成ったら起こしますよ。適度な朝食もつけますよ」




「却下」




「あらら?」




「センパイが起こすって、信用できると思います? そんなん、徹夜したほうがマシです」




「まあ、あたり前か。そうだよねぇ。わかった。んじゃ、何かしてほしいことが合ったらいってください。アンちゃんの居候というか、迷惑だからオイラは、言われたことは何でもしましょう」




 なんてことを言っているけれど、別に要望はない。




 強いて言うなら、この三日くらいの間にバイトをはじめてほしいくらい。




 日雇いでも、そこそこは稼げるだろう。




「そんじゃ、ここにいてください」




 で、まあ。




 そう口にした時に、私がまったくの失言をしていることに気がついた。




 はじめは目を丸くしていた子守も、じょじょに私の失敗であることにきがついて来たようで、顔をにやけさせる。




「ははあ。ああ、そう。へえ?」




 テメエ、ぶち殺すぞ。本気で。




「今のは失言です。っていうか、どんな意味にとらえたんです? ばかでしょうセンパイ」




「ま、バカなのは認めましょう。お留守番ですか? どこに行くのこんな時間に」




「ちょっとそこのコンビニまで。お金をおろしてくるだけです」




 本当はバイトの後におろそうと思っていたのだが、この男によって事態がくるってしまった。




「ふーん。そう。オイラ行こうか? きみじゃ危ないでしょう」




「ばか? いや、ばかですか? なんで私の銀行の番号をセンパイに教えるんですか?」




「ああ、そういうこと。でも、大丈夫? ホントに?」




 心配しているのはおちょくられているのかが分からないところが、コイツの悪いところだ。




「大丈夫です。いざとなったら蹴って逃げてきます」




「それ、逃げるって言わないヨ」




「首の骨くらいならやれると思うので」




「意外と怖いっていうか、うーん、やっぱアニキだよなあ、きみ」








▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲








 空がまだ暗い中、コンビニのATMでお金を引き出して、私は近くの道に出る。




 まだ街頭はついているが、人はまばら。またに犬の散歩をしている人物に出会うくらい。




 五月にしては、夜が深い、というのだろうか。





「アイツ、おとなしくしてるかな」





 部屋の中とか物色されたら厭だな。




 とか、明らかに余所から犬猫を拾ってきたことと同じ心配をしていることに、私は驚いた。




 まあ、犬か猫かと言われたら、子守はどっちも、という感じか。




 このままあの男が働き口を見つからないということになったらどうしよう、とか。面倒なことに巻き込まれることだけは、私だけは避けたいとか。





 不安しか持ち込んできていない子守に、正直腹が立っているんだけど。




 道は暗い。周りに警官らしき人物はなし。




 つまらないことをやって、補導などされると今の私の生活が極端に危なくなる。




 いつも通り、そこだけは気をつけなくては。




 昨日、子守が餓死していた公園にさしかかる。







「………………」 





 子守が入っていた遊具は、公園の少し手前側にある。




 あそこから白い子供をみたとすれば、それは、今渡しが立っている位置になる。




 確かに、私が立っている場所からは子守のいた場所はよく見えなかった。




「………………」




 まさかね。




 きっとあのばかの見間違えだろう。




 それとも、あの男特有の嘘なのだ。いつもの。




 そう思い、目線を戻す。








「ふむ」







 そこに。




 真っ白な髪に、白い肌。真っ黒な着物をまとった、息を飲むほど美しい子供が立っていた。




 髪は長く、後ろで一つに束ねている。



 その両目には、青色の宝石のような瞳が、二つ私の姿を反射させていた。




「………………あ」




 一瞬で分かる。




 コイツは。




 明らかに、昼間にはいてはいけない存在なのだと。




 日の元には出てこれない怪物。




 そんな、どこかの化け物みたいなモノが、そこにいた。




「…………あ、う」




 言葉を失うしかなかった。




 本当に人間か、と、疑うくらいの蠱惑的なその姿。




 十歳ほどの子供だが、男女の区別はつかない。




 両性的な容姿。




 その子供の、カタチのいい顎があがって。




 私の目に、その青い目を向けた。







「一つ、いいかな」







 高い、まだ変声期も経ていない声。




 だが、言葉そのものは、落ち着いた大人そのものの空気があった。








「このあたりで、家もなく生活をしている人物がいたはずなのだが」







「………………」




 ああ、まずい。




 なにも言えなくなってる。




 声から、わずかに少年と分かるその人物の、あまりの存在感に圧倒されている。






「ああ、怖がらなくてもいい。私は、貴女になにをしようというのではないのだ。ただ、お尋ねしたい。ここで、一人の男を見なかったかな。特徴は、そうだな。時計を持った男なのだが」







「………………」




 ああ、アイツ。




 やっぱほっときゃ良かったかなあ。




 でも、ここで反応しないと。





「いいえ。知りません」




 今は、これで精一杯。




 大の男に何人からまれても何とも思わない私が、こんな子供一人にここまでの危機感を感じるというは、明らかに異質。




 それほど、この子供が異様なのか。




 というか、




 なんでアイツのこと助けてんだろう、私。 




 面倒なんだから、さっさと追い出せばいいのになあ。




 じっと、少年は私のことを見る。




 青い瞳が、私の目を凝視している。




 ああ。




 なんだろう。




 ここまで美しいものを目の前にすると、自分の現実性を見失う。




 ふわふわとして、足が立たない。




 目の前がわからなくなる。




 貧血のように、くらくらとする。




 ただ、一言二言話しただけで、これだけのプレッシャーがかかる。 




 子供であるなら、本来、私が聞くことが別にあるはずなんだ。




 大丈夫?



 どうしたの?



 家はどこなの?



 お父さんとお母さんは?




 でも、目の前の対象に、目の前の少年にそんなものを言う気には、微塵にもなれなかった。




 この人は私より圧倒的だと、本能で気づかされた。




「………………」




 美しい少年は、私の顔を凝視し続け、






 にこりと突如、心臓を掴むように笑い、









「そうか。優しい嘘だね」








 一言、そう言われた。




「………………っっ」




 ああ、だめだ。




 この人は、だめだ。



 私がなにを言ってもなにをやっても、悟られる。





「この地域の人間に会うのは、きみで何人目になるか。今までにも会ってきていてね。あれは失敗だった」






「しっ――――ぱい?」






「ああ、死なせてしまったから」





 その一瞬で、私の全身は硬直する。 




 もう、一歩も歩けない。




 加えて、彼の放った次の一言で、私は本当になにも見えなくなった。







「だが、貴女の場合はどうだろうな。安西杏里さん。ここまで言って、狙いを言わないことは失礼だな。正直に言おう。私は、きみに会うために、ここに来た」


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