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7「そう言え」外道、想像以上のバカ

〜やけに表現豊かだったイツキ。一体どうしたのだろうか?〜

軽い性的表現?があります。

 イツキが別人の様に、表情豊かだった。

 その理由なのだが…


(このギルド、というより冒険者ギルド自体が怪しい。この受付嬢も多少なりとも裏事情を知っている様子だった。嘘をつくことは無かったが、隠し事は多そうだ。1人くらい情報源がいても良かろう)


 この受付嬢を情報源とする為の演技だった様だ。

 向こうの仕事でも、男版の色仕掛けをすることは何度もあった。

 顔の表情などμ単位で動かせる。

 この程度は余裕なのだ。


(情報源とするなら惚れさせるのが一番早い。先ずはと、表情を動かしてみたが、まさかこれだけで落ちるとは…)


 なかなか外道な発想である。

 女と男の敵だ!何て言おうものなら、そんなので落ちる女が悪い、作れない男が悪いと、言われるのが落ちなのだろう…

 ああ、悲しい。(…失礼。気にしないで)

 そんなことはともかく。

 イツキが予想より早く落としてしまった事については、イツキの『自分の顔の評価』と、実際の、周りの評価との差による影響が出たものである。


 とりあえず、イツキ自身がつけた顔面通知表を覗いてみよう。


 ***

 先ず、イツキは自分の顔を整っていると認識している。

 しかもかなりのレベル、としっかり。

 では何故、差が出てくるか。

 それは…


『若干中性的な顔づくりをしている』


 である。

 それを聞いた、当時の仲間たちは愕然としたものだ。

 『どこが…?』と。

 怖くて誰も訂正する事ができず、今に至ってしまったが。

 どう見ても女顔だが、本人は至って真面目にそう考えている。

 その為に、予想と良い意味で誤差が起きてしまう。

 考えても見て欲しい。

 最も綺麗といっても過言ではない、イツキの女顔。

 無表情と鋭い目から、冷酷女の様な印象を受ける。

 そんな顔で、急に謝罪と労わりをみせ、今までの悪印象を吹っ飛ばす。

 慌てる相手。

 そこに、僅かな暖かみのある笑み。

 さらに、追い討ちかけるかのように、首を傾げ困り顔。

 これで落ちないものがどれだけいるだろうか?

 …分かりにくかっただろうか。


 大げさに言えば。

 冷酷という印象を受ける超絶美女顔。

 そんな顔の突然の笑み→困り顔plus首傾げ。

 こんなところだが、これで想像つくだろうか?

 ぶっちゃけるなら、惚れるだろ?、というわけである。

 似たような事を地球でもしていた為、相手が予想より早く陥落してしまっていたことがあったのである。


 イツキがつけた成績より、学校での様子を細かく書いてしまって申し訳ない。

 何より長くなって申し訳ないが、そういう事で、差異があるのだ。

 ***


 一連のイツキの行動はすべて計算されたものだった。

 急な謝罪と労わり。

 今までで把握した受付嬢の性格から多少慌てるだろうと踏み、それ以上に慌てた。

 謝ってくるであろう受付嬢に、よく相手の表情を見る受付嬢だからこそ分かる程度に、小さく表情を動かし、笑みを見せる。

 思った以上に固まったが予定通り声をかけて、正気に戻させる。

 慌てながら謝罪するだろうが、先に顔を見るだろうと予想し、庇護欲がそそられるという、困り顔を首を傾げつつ行う。

 もちろん、受付嬢だから分かる程度の小さな動きで。

 …これらすべて、計算通りなのだ。

 すべて、演技。

 嗚呼、恐ろしい…

 …とまぁ無事?受付嬢を落とすのだった。


 因みに、受付嬢にのみ表情が見える様に、さりげなくフードを後ろにずらしていた。


(さて、次は)

「これで終了か?」

「あ、はい!これですべての説明を終了します。お疲れ様でした」ペコ

「ああ」

「冒険者ランクはFから始まりますが、戦闘経験がお有りの方はEランク申請ができますが…カミモト様はどうなされますか?」

「…しよう」

「!…承知しました。Eランク昇格には試験官の方と模擬戦をしていただきます。試験官の方が十分と判断なされると合格となります。なので勝利する必要はございません。また、他のランクアップの際は一定以上の依頼達成、または多大な功績を認められ、試験に合格することで昇格する事ができます。Sランク以上はその限りではないのですが…まあいいですね。では準備をしてまいりますので、お待ちください。酒場で休まれても構いませんので。それでは」

「…待て」

「…はい。何かありましたか?」

「名前でいい」

「…はい、そうですね。承知しました」


 と、一通り説明をしていき、扉を開けていった。

 Eランク昇格試験を受けると言ったイツキに驚いた様子だった。

 一目惚れをしたと理解してからは、それをおくびにも出さず、受付嬢としての仕事をこなした。

 その姿には、流石、とも思える。

 最後の名前でいい、というのは、普段は名前しか表示しないのだから苗字で呼ぶ必要はない、ということだった。


 手持ち無沙汰になったイツキは、近くの柱に背中を預け、寄りかかった。

 それを好機と見たのか、静かにしていたバカトリオが絡む。

 他の冒険者達も実はまだ見ていた。

 受付嬢が固まったり慌てたり、謝ったりとかなり忙しなかったためだ。

 彼女が優秀である事を知っているため、余計に気になっていた。


「おいおい、本当に冒険者やっていくのかよ〜。そんなひょろひょろで〜?」

「ホントだなぁ。ど、う、や、って、戦うんですかぁ〜?」

「Eランク昇格ぅ〜?むりむり!」

「「「ヒャハハハ!!」」」

「…」

「おいぃ、びびってんのかぁあ?黙ってねぇでなんとか言えよぉ」ヒック!


 さらに酔っている、絡みまくるバカトリオ。

 だが無視を決め込むイツキ。

 見かねた他の冒険者の1人が、


「お前らいい加減にしろ。新人をいびって何が楽しい。そんなだからEランクから上がらないんだ」

「ああ!?ンだとコノヤロウ!調子にのりやがって!!」

「テメェDランクだからって舐めんじゃねぇぞ!」


 どうやらバカトリオはE、止めに入った者はDランクらしい。

 他の者はどうかわからないが、ビクついている者もいる事から、トリオと同じEランクがいるのも確かだろう。

 当事者であるイツキを放置して、ヒートアップしていく4人。

 トリオのうちの1人が酒場の木の椅子を振り上げ、投げつける。

 Dランクはうまく避け、他の誰にも被害は出なかったが、床にぶつかり砕け散った破片の一つが、イツキの方へと飛ぶ。

 もちろん首を動かして避けたがフードに引っかかり、フードがとれてしまった。

 破片がイツキに飛んで行った事に気づいたDランクが振り返る。


「大丈夫かい……え?」


 だが戸惑ったような声を上げる。

 そして、恐れていた事態が起きる…


 ──君、女性だったのか。


 誰も気づかない。

 空気が薄くなった気がした事に。

 イツキの小さな小さな異変に。


「「「ぷ、ぷハハハハハハ!!!」」」

「お前女だったのか!」

「なら尚更帰れ!ここは女がくるとこじゃねぇ!」

「金が欲しいならやるぜ?その代わりに今日は一緒に宿まで来てもらうがな!?」

「そりゃいい!貧相だが顔だけは良いからな!」

「しっかりキモチ良くしてやるぜ?金も出すしな!」

「ま、壊れなきゃの話だが!!」

「「「ハハハハハハハ!!」」」


 最早誰が何を言っているかわからない。

 元から区別する気も無かったが。

 そんなゲスな会話にDランクが堪らずにいう。


「お前らどこまでクズなんだ!こんなか弱い女性(・・・・・・・・)にむかって、何て事を!」


 この男も大概イツキを逆撫でしている。

 例え女であっても、冒険者登録をし、Eランク昇格試験をしようとする者に言う事ではない。

 綺麗な女性を庇っているこの状況に酔っているのか、正義ぶっている。


 イツキは街中だからとしていた我慢。

 それをこの4人に対し、やめる事にした。

 制裁を下すために一歩踏み出そうとして──


「お前だってあの女を心の底では抱きたがってんだろ!」

「そ!んなわけないだろ!」


──の会話で、キレた…

 Dランクはバカの言葉に動揺したのだ。

 実際は夜を共にしたいと思っていると、その事実に完全にキレた。

 丁度我慢を止めたところだったため、ジャイの時と同じくらいキレた。

 そして安定の…


 ズズン!


 威圧の音ではない。

 一瞬で計8回蹴り、4人が壁に当たった壁に当たった…めり込んだ音だ。

 1人2回づつ、高速移動した勢いそのままに蹴りを入れ、さらにその勢い使い回し蹴りを打ち込み、吹き飛ばす。

 それを3回繰り返した。

 1秒未満で起きたため、何が起こったか理解している者はいない。

 周りで見ていた者も、気がついたら、女が4人がいた真中におり、4人は壁にめり込んでいた、という認識になっている。

 そして殺気を放つ。

 街には影響がないように多少の配慮をしつつ、ギルドを囲むようにして放った。

 そのせいか、イツキのプレッシャーはまるで降ってきたかのように…


 ズン!


 と、叩きつけられたような衝撃がくる。

 それと共に、体が重くなったかの様に、地に伏せる。

 ここにいる者は高くてDランク。

 殺気に慣れている者などおらず、恐怖に怯え、しかし歯を鳴らす小さな動きすらできない。

 だが、あまりの恐怖に気絶もできず、ただイツキ達を眺める事しかできない。


 一方、壁にめり込んだ4人だが、突如降ってきた殺気に目を覚まし、全身を蝕む痛みを覚える。

 何があったか思い出そうとするが、急に何かが横から激しくぶつかったような衝撃と共に壁にぶつかった、としかわからない。

 トリオは衝撃があった事にすら、気づかなかったが。

 4人は、体がうまく正面を向いてめり込んでいるため、顔が真正面を向いている。

 そうなる様狙って蹴ったのであろう謎の女性(イツキ)が、再びフードを被る姿が見える。

 この場で唯一立っている、恐ろしい威圧を放出している女性が、自分たちを壁にやった原因だと、4人は理解していた…させられていた。

 そんな中、イツキは口を開く…


「そんなに死にたいなら、そう言え…。殺してやるから」


 と。

 ゾッとするような声でそう言うイツキ。

 実際にゾッとした4人は、本気で殺すつもりだと察し、このままでは殺されてしまうと思い、声を上げようとする。

 しかしうまく声を発せず、Dランクが唯一、発する事ができた。

 その言葉は…


「な…ぜ…」


 と、問うこと。

 Dランクとしては庇ったつもりなのだから、自分もこうなっている事に疑問を持っていた。


「何故?…私は、男だ。貴様ら…揃いも揃って、女女女と。女性に向かって何だかんだと…」

『『!?!?』』

「…何、貴様らまで驚いている?」


 ズズッ!!


 さらに威圧が強くなる。

 心なしか、周りがミシミシと軋んでいる。

 驚愕してしまった、傍観していた他の者への圧力も増える。

 恐怖に耐え兼ね、失禁、脱糞しだす者も。

 しかし、さらに増えた恐怖は気絶という楽をする事を許さない。

 顔は汗と涙と鼻水と涎で、もはやみるにたえないことになっている。

 辺りに悪臭が立ち込める。


「そうか…。貴様らも、死にたいのか…。死にたがりが多いのだな…。冒険者は…」


 そう呟くと、いつの間にか手にしていた、赤、紫、黒が乱雑に混ぜ合わせた様な色合いをした刀を、軽く1回、無人の椅子テーブルに向け素振りした。


 …サンッ


 限りなく無音に近かったが、僅かに聞こえた音。

 素振りをした先に有った椅子と机が綺麗に割れている。

 どういった原理で切れたのかは謎だが、イツキの持つ刀が相当鋭いのは確かの様だ。

 そして、ゆっくり、4人に向けて歩き出す。


 コツン…コツン…コツン…


 4人は、命を刈り取る武器こそ違えど、死神を幻想した。

 ゆっくりと近づいてくる足音は、死神の足音、自分達の生命いのちのカウントダウン。

 実は、わざと足音を立てて歩いていたイツキ。

 そして4人まですぐの所までたどり着いたイツキは、刀を見せつける様に振り上げ──

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