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78「元々、この刀は…」龍、奥の手(嘘)

〜作ること自体はできると分かったが、そのために必要な素材は、龍などの最高位魔物の素材だという〜

「龍だと?」

「そうだぁ…かなり厳しいが、素材としては最高だからなっ」


 イツキが求める武器を作るには、最上級クラスの魔物の素材が必要だと説明された。

 シュエンが例えに上げた魔物は、龍。

 冒険者に限らず、武具を必要とする者なら大抵は憧れ、その性能に魅せられ、一つの目的地とする者までいる、最高の素材。

 しかし、龍の素材を手に入れる事のできるものは、極々僅かである。

 討伐の難しさ…ではない。


 その龍は、恐ろしいほどの戦闘力を持つ割に、この世界にはかなり多く生息している。

 何故なら、自然界で負けることなどまず無く、人と敵対する事もあまりない、基本的に穏やかな種族な為、数が減る事が少ないから。

 また、かなり賢い龍は、脆く弱い生物である人でも、時に自分()達を軽く屠る猛者がいると知っている。

 なので、暴れようものなら、最終的には討伐されると理解しており、理由もなく人を襲うことはなく、普段は自分の住処で眠っている。


 その代わり、理由があればためらいなく襲う。

 縄張りを荒らされたり、仲間を傷つけられると激昂し、暴虐の限りを尽くす。

 その被害は馬鹿にならず、勝手な龍の討伐は国やギルドから厳しい罰が課せられる。


 また、龍の中には人を虫ケラと侮り、見つけるたびに襲い掛かる馬鹿な龍も存在している。

 しかし、この様に自分から暴れている龍については、討伐してもどの龍も仕返しに来ることはないので、討伐は許可されており、大抵は国から依頼が出される。

 むしろ、他の龍達が暴れている龍を止める、もしくは殺しに集まることもある。

 実は、自分達が排除の対象にされない為に、龍の間では人は襲わないというルールが存在する。

 それを破ったものへ、制裁…というわけである。


 他の龍達が来る前に討伐できた場合、稀に龍の素材が出回る。

 といっても、龍は全身が素材として使え、全てが最上級の素材になる為、討伐したものが占領する事が大半で、出回ったとしても法外な値が付く。

 そうそう手に入るものではないのだ。

 ここまで長々と説明し、何が言いたいのかといえば…


「まあまず無理だと思うがなっ。扱ったことはあるがぁ…片手の指で数えられる程度の回数で、それもメインじゃ無かったぁ。鱗数枚だったり、髭一本とかなっ」

「それでも効果はあると…」

「そうだなっ。龍の素材が持っている魔力だけで、性能を大幅に引き上げるから、僅かでも問題ないんだぁ」


 提案しておいて何だが、手に入れるのは不可能に近く、素材にするには無理だろうという話だ。

 シュエンでさえ、ほとんど扱った事がなく、その数も少ない。


 しかし、骨や血、鱗や体表などの比較的量が取れるものから、牙や爪などの貴重素材、心臓・魔石に目玉など超貴重なものまで、全てを扱った鍛治師などそうはいない。

 1位2位を争う様な伝説レベルの鍛治師なら、それらを使い、龍がメインの武具も作ったことはあるだろう。

 だがそれは、世界でトップに立てる様なレベルでないと扱う事がない、というほど貴重な素材になる。

 やはり、そうそう手に入れられるものではない、ということだ。


「だが、お前のカタナはぁ、鱗を混ぜた程度の武器など軽く凌駕しているっ…やはりメインにできるくらい、しっかりした素材じゃないと、それは超えられないなぁ…」

「そうか」

(まあ、可能性があると分かれば、問題ないな)


 そんなレアすぎる素材を、メインに使わなくては超えるものは造れないなら、もう不可能と言っても過言ではないだろう。

 つまり、作ることは出来ない、という事になる。

 いや、龍でなくとも最上級クラスの素材さえ手に入れば、造ることは出来るとのことなので、『今は』という事になるが。

 まあ何にせよ、少なくとも今は造ることは不可能なので、一つ目の目的は達成できなかったことになる。

 しかしイツキは、全く問題などないらしく、それどころか可能性がある事に、満足していた。


「なあ、聞いていいかぁ?」


 少し申し訳なさそうにしていたシュエン。

 しかし、不満もなさそうなイツキを見て、刀を見せられたときからずっと思っていた疑問を、ぶつける事にした。


「…ああ」

「そのカタナだけでも、十分すぎるほど優れた武器だっ。魔力を感じないから、特殊能力なんかは無いんだろうが、あんたの腕ならその性能だけで十分だろぉ?何でそれ以上を求めるんだぁ?」


 それは、イツキの持つ刀を見れば誰もが思う事だった。

 確かに、龍などの素材をフルに使えれば超えるモノが造れるとはいえ、斬れ味などその性能は、正直大きく変わらないだろう。

 大きな違いといえば、武具自体に付与される能力であり、目の前にいる人物にその能力が必要かと聞かれれば、無くても全く問題ないと言える。


 そもそもの話、最上級魔物の素材を混ぜた武具だけでも、鍛治師の腕にもよるがかなり優秀なモノが出来上がる。

 イツキの刀は、その武具を軽く超えている性能を誇るのだ。

 新しいものが必要になる、その理由など予備くらいしか思いつかない。


「…元々、この刀は奥の手だ」

「そうだったのかぁ…」

「ああ。普段は別のものを使っていた。今はそれが無くてな、仕方なくこれを使っているが…」


 イツキは、答える意味があると思ったのか、ゆっくりと話し出した。

 奥の手、と聞いたときシュエンはただ納得した。

 唐突に現れる、強力すぎるその武器は、確かに奥の手になりうるもので、普段から使用するには異質すぎるから。

 そして、どういう理由かは分からないが、使っていた別の武器を失い、当てがなかったのか奥の手である筈の、刀を使っていた。

 新たな武器を欲しがったのは、失った武器の代わり…というわけだと、解釈したシュエン。

 ただ、その前提だと、気になることがあった。


「だから、普通…っつうのもおかしいがぁ、他に武器を探していたのかっ。…しかし、それにしちゃあ、要求する性能が高すぎないかぁ?」


 他の武器を探していた理由は納得したが、なぜ刀を超えるほどのモノを求めていたのか。

 代わりを探すにしては効率が悪すぎるし、イツキがそこまで高い性能にこだわる様には見えず、どの様な理由があるのか気になったのだ。


 意外と重要な点をついたシュエンの問いに、イツキはなんて事もなく答えた。


「一つは、私が使用してもビクともしない、これと同等のモノを必要としていたからだ」

「その言い方は、つまりそれ以下の性能だとっ、使ってるうちに折れるとぉ?」

「耐えきれずにな。本気で振ってもある程度は持つだろうが、やはり…な」


 イツキがこの世界に降り立ってすぐ、盗賊の剣を奪い首を切り落とすことがあったが、その際も8回斬っただけで根元から折れた。

 あの武器自体安物で、手入れもされていないものだったため、強者ならあり得ないことではない。

 しかし、あの時イツキは本気など全く出しておらず、さらに折れない様に注意も払っていたにもかかわらず、8回で折れてしまった。

 これは、たとえ安物だったという前提があっても、短い。


 もしこれが、武器に気を配る余裕があまりなく、かつ本気で使った場合、相当耐久性がなくては数合で壊れてしまうだろう。

 というわけなのだ。


 とはいえ、側からするとかなり自意識過剰に聞こえる理由で、訝し気に聞き返したシュエン。

 イツキの持つ刀よりワンランク下でも、最高品質なのは間違いなく、その武器ですら耐えきれないというのは、些か…いや、全く信じられるものではない。


 だが、イツキの答えは肯定。

 質があればすぐには壊れないだろうが、それでも戦闘中に使えなくなる可能性は十分にあると。

 過去にその経験があるのか、やけに実感のこもっていたイツキに、シュエンは嘘ではなさそうだと判断し、唖然としていた。


 実際のところ、嘘が混じっており、刀が奥の手だというのは正しくない。

 普段は別の武器を使っているというのは本当なのだが、謎の刀については基本、使用することはなかった。

 いくら規格外で人外なイツキでも、不気味な刀をどこからともなく取り出し、何でもかんでもスパスパ切り裂いていたら、間違いなく大騒ぎになる。

 なので使用するのは仲間以外の目がない時か、本当に非常事態の時だけで、基本普通の武器を使用していて、銃火器も普通に使っていた。


「二つ目だが…」

「…ああ、そうかっ、まだあったなっ」


 イツキが理由の説明を再開し、ハッと正気に戻るシュエン。

 理由が複数あることをすっかり忘れていたらしい。


「反応を見る為だ」

「反応だぁ?…つまりアレかっ?俺の腕がどんなもんか、試されたってことかぁ」


 反応を見る…上から目線の様な物言いで、目的を躊躇うことなく言い切ったイツキ。

 その意味は、シュエンが推測した通りであり、あの刀の性能が見極められるか、どれだけの評価を下すか、刀以上のモノを作れる腕を持つかどうか。

 そして、この世界の住人からしてどの様に目に映るか、試していたのだ。


 しかし、シュエンもその理由には流石にイラっときたらしく、こめかみがヒクついていた。

 誇りやプライドを持つであろう、凄腕のプロ職人に対し試す行為をしたのだから、当たり前の反応である。

 悪びれもせず、頷いて肯定したイツキがおかしいのだが…


「………はああぁぁぁ…まあいい。お前と付き合っていくなら、この程度当たり前になりそうだぁ。いちいちキレていられんなっ」


 シュエンは長い溜め息を吐き見事耐え切り、イツキの性格だと割り切り、長い付き合いになるのではという予感による諦めから、なんとか怒りを飲み込んだ。

 素晴らしき、大人の対応である。

 そんな、器の大きい人物へ、イツキはわざと煽る。


「分かってるじゃないか」

「っ、このっ!」


 表情も声音も、全く変わらないというのに、さも楽しそうにシュエンをからかうイツキ。

 流石に頭にきたのか、息を飲むと出会い頭の時の様に、どこからかハンマーを取り出すと、思い切り図頭上に振りかぶると、躊躇なく振り落とし…


「…はあ、煽るなよぉ…」

「善処しよう」


 微動だにもしないイツキの頭ギリギリで止め、殴るフリすら通用しないことに、思いっ切り頭を垂れた。

 そしてシュエンが文句を呟くと、笑っていないことがいっそ不気味なくらい可笑しそうに、頷く。

 間違いなく、守る気ゼロな言い方に、さらに気疲れが増したシュエンであった。


 …イツキが誰かを面白半分でからかう事が、どれだけ珍しいことかも知らずに。


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