表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/88

74「保身か」忠告、その目的

〜いきなり殺人鬼呼ばわりされたイツキ。場は緊張に張り詰め…なかった〜

 いきなりな物言いの男を、改めて観察する。


 ***

 中央の大陸で、五指に入る腕前を持つ、鍛治師…名前は後々。


 男で、年齢は60前後と言われているが、正確には不明。

 見た目は、全体的に茶色く日焼けした、厳つく目の前に立つには度胸がいる獣じみた風。

 筋肉隆々で日焼けした体は、鍛治師や冒険者より、盗賊の親分の方がしっくりくる。

 サングラスが似合いそうな、平時で威圧感を与える恐ろし顔。

 髪は、短く適当に切られた逆立つ白髪で、鼻下の髭も白く、濃ゆい。

 眉毛や足の体毛も白く、老いではなく元から白毛。

 肌が日焼けしている分、白い毛がよく目立ち少々気味が悪い。

 声は太く低く、やはり威圧感を与える。

 話す際、溜めたり語尾を伸ばしたりと面倒な口調。


 この鍛治師は腕の割に、名前や容姿は有名でないため、人目を気にする必要がなく、そのせいかフットワークが軽い。

 流石に鍛治師に携わる者たちには広く伝わっており、見つかり時々騒ぎになることも。

 鍛治師としての腕は本物で、悪評は妬みや僻み以外では一切ない。


 そして、冒険者でいう、BランクどころかAランクでも身の丈に合わない、それほどの武器を扱っているレベルである。

 もちろん、Aランクから依頼を受けることも、Bランクにまで質を落として販売することもある。

 ただし、武器として使用しない、芸術的価値や見栄だけの依頼は一切受けず、王族からの依頼も突っぱねるため、一部の貴族に嫌われている。

 ***


 歓迎すると言いながら、イツキのことを殺人鬼呼ばわりした男。

 それも、数人殺した程度ではなく、何百何千以上も手にかけている、超大量殺人者としての認識で。


 快楽殺人者ほど悪質でなくとも、依頼や報復で数多く人間を殺しているので、実際その通りであり、否定できる要素など全くない。

 しかし、見た目も雰囲気も、全てを偽っているイツキを見抜くというのはかなり難しい。

 それこそ、ギルドマスターで元Sランクである、ルビルスですら全く分からないほどで、そこらの冒険者ではまず不可能と言える。

 それにも関わらず、なんて事もなく見抜き、あまつさえ、恐れる事もなく挑発する様に言う。


 明らかに只者ではない男の、指摘とも言える言葉に、イツキはというと…


「…随分な歓迎だな」

「はあ…そう言われてもなぁ、その通りだろぉ?」

「まあな」


 動揺など全くなく、警戒を強める事もなく、いつもと変わらぬ態度で言葉を返す。

 男が臨戦態勢に入るどころか警戒すらせず、面白そうにイツキのことを見ている為に、相手の出を見ることにしたのだ。


 すると男は、にやけ面に少し面倒さを混じらせた。

 思っていた反応ではなく、様子を見る様な姿勢につまらないとでも思ったのか。

 それでもこのまま拗れることを嫌ったのか、ため息をつき、いい加減認めろとでも言う様にイツキに再度、問いた。


「お前からの死臭、半端ないしなっ。…まあ、隠してるようだし、経験のない若造なら、SSSランクでも分からんだろうよっ」

「そうか…それで、どうする?」


 あっさり認めたイツキに何を思ったか、気づいた理由と、庇うかの様に普通では気づけないことを説明しだした男。

 同業者はその限りではないが、今の言葉は冒険者を念頭にしている為、実力者でも分からないことは多く、間違ってはいない。

 ただ、この世界に来たばかりのイツキには、高ランク冒険者がどの程度なのかを知らない為、判断のしようがない。

 まあ、理論的には間違ってはいないので、納得の声は上げた。


 そしてイツキは、今までの態度とは一変して、脅す様に軽く威圧しながら、正体を暴いてどうするのか短く問う。


「いや?どうもしない。するつもりがないし、出来んだろうよぉ。ただ、忠告みたいなもんだっ」

「忠告、ね」


 本気ではないとはいえ、イツキの実力の一片を窺える威圧に、それでも男は冷や汗一つ流さず、何もしないと悠々に答える。

 何もしないと言うより、しようとしてもイツキに消されて、何もできないだろうと考えているらしい。

 なら何故わざわざ、気づいていることを教えたのか、それが忠告だと言う。


 話の流れから、何について忠告したいのか分かったが、内容まで詳しく分からなかったイツキは、その忠告を聞いて見ることにした。


「おう…お前、あまり強者慣れしてないんだろぉ?」

「何?」

「いや、なっ?お前と同レベルの者が周りにいなかったんだろう、って話だよぉ」

「…」


 唐突に始まった言葉の内容に、イツキは聞き返した。

 苛立った様にも聞こえる声に、男はイツキの勘に触ったと勘違いをしたのか、少しだけ焦った様に説明を付け足し、様子を伺う。

 特に何も言われず、何か行動に移そうともしていない事から、問題ないと結論を出すと、続けて話し出す。


「多分、お前は同レベルとの戦闘は出来るんだろうよぉ。…ただ、強者から自身を隠すことができてない。どんな環境だったかは知らんが、あまり隠す事を行うことが少なかった」

「…」


 未だに沈黙を守るイツキは、少なくとも否定する気は無いらしい。


「そのせいで隠すことが不得意…いや、経験が不足し下手になってんじゃないかっ、と思ってなぁ」


 纏めると、男がイツキは大量に人を殺していると気づけたのは、イツキの隠し方に問題があったから。

 その問題とは、イツキと比べられるだけの実力を持つ強者に、染み付いた死の匂いを隠すことができていないこと。

 何故、隠せていないか、それは男の睨んだ通り経験が少ない為。


 地球では、そもそもイツキレベルの者がおらず、せいぜい仲間2人とその他の人間が数人と、圧倒的に少なかった。

 更にイツキは有名過ぎて隠す意味がなく、殆ど強者へ自身が纏う死の匂いを隠す事をしていなかった。

 他にも、同業者には特にバレやすいので、余計隠すという事を行わなかった。

 そのツケ…というわけである。


 ちなみに、気配を隠す事や一般市民として偽る事は問題なく行えており、実は男も一瞬は市民と間違えた。

 だからこそイツキの気配を読み間違え、振り向きざまに襲いかかって来たわけである。

 しかし、余裕を持って躱して見せたこと、そして尋常では無い死の匂い…死の気配に、その雰囲気は偽られたものだと確信した。


「成る程。何が言いたいのかは分かった」

「…含みがあんなぁ。文句でもあるかぁ?」

「いや、お前が言った事は間違っていない。だが、何故私に教えた?」


 話の途中で言いたい事は十分伝わっていたが、わざわざ説明している事を止める必要もないだろうと、最後まで聞き切ったイツキ。

 すると、特に険が籠っていたわけでも、逆に感謝が籠っていたわけでもないが、男が指摘した様に含みのある言い方で、言葉を返した。


 またも、回りくどい話し方に、男はめんどくさそうに顔をしかめる。

 いいからさっさと言え、なんて本音がよく分かる調子の男へ、お節介の様に指摘して来た事を問うイツキ。


「まあ、疑うよなぁ…ただ、これといって目的があったわけじゃない」

「嘘をつくな」

「……間も開けず、躊躇もなく、嘘って言ってくれるなぁ。…何だっ、能力持ちか何かかぁ?」


 イツキの疑問に、最もだと理解を示した男は、答えになっていない答えを口にする。

 理由が全くないというわけではなく、あるにはあるが無いも同然、といったニュアンスで、どっちにせよ答えにはなっていない。

 その点に突っ込むかと思いきや、イツキは男が嘘をついていると断定し、間を開けずに本当のことを言うよう少し声に力を入れた。


 嘘では無く本当だった場合、かなり失礼な反応をしたイツキ。

 しかし男は、間を開けずに嘘だと断言したイツキに、少し唖然とするも憤ることはなく、否定もしなかった。

 そして、言外に嘘であると認め、自信満々に、なんてこともなく嘘を見抜いたことから、イツキは何らかの能力を持っているのかとあたりをつける。


「まあ、いい。その通りだ、目的はあるさぁ」

「保身か」

「くっくっ、間違っちゃいないねぇ。ただし、俺1人だけじゃないっ、世界中の生き物…それにお前のためにもなるさぁ」


 どんな能力を持っているにしろ、舌戦では全く叶わないと理解した男は、能力の種類を聞くことは無かった…まあ、イツキは能力など持っていないが。

 流石に、身体的変化から読み取っているとは思いもしない男は、言葉で嘘を撤回、目的がある事を認めた。


 男が能力と勘違いした、身体的変化…瞳孔の収縮や脈の変化などから、抱く感情や一部の思考を読み取る方法で、また内心を読む。

 すると、保身に似た、しかし決定的にどこか違うものが浮かんでいる事を読み取った。

 少なくとも地球では見たことのないタイプの感情に、目的が断定できず、とりあえず似ていた保身を例に挙げた。


 イツキが保身かと口にした時、男は可笑しそうに笑を溢すと、本来の目的を包み隠さず話す事にし、前置いた。


「何かって言ったらよぉ、お前がうまく自分を強者から隠せる様になればなっ?死ななくていい命が救われるって事さぁ」

「…言いたい事は理解した。一つ言うが、私は理由なく周りを殺して歩く、異常者ではない」

「そうじゃないっそうじゃないんだよぉ」


 男は、死ななくていい命が救われるなどと、側から聞いていたら、かなり大げさに聞こえる事を言ってのける。

 もし、イツキが死の気配をもっと上手く消せる様になり、それだけで命が救われるなら是非ともそうしてもらいたい話だが、正直意味がわからない。

 しかし、イツキには伝わったらしく、不機嫌に、不服そうに否定する。


 イツキの否定に、言いたかった事がしっかり伝わっていないとわかった男は、焦ったげに、違う違うと繰り返す。


「確かに、理由なく殺す事はしないだろう。だが、理由さえあればためらいなく殺すだろぉ?」

「まあな」

「……。それでだっ。お前の纏う死の匂いや気配は、一片でも感じ取られれば、間違いなく排除対象にされる、それだけヤバイものをお前は纏っているんだよぉ」


 イツキの本質を見抜いた男の言葉に対し、平然と肯定したイツキに、今度は呆れを混ぜて唖然とする。

 今はそれどころではないと正気に戻ると、話を再開した。


「その気配を、お前は肝心の強者に上手く隠せていないっ。そして見つかれば戦闘になる。お前とソレに気づける誰かとの戦闘だぞぉ?間違いなく大規模な戦闘になる。周りのものを巻き込み死者すら出るだろうよぉ」

「だから隠せ…と?」

「理解できた様で何よりだが、お前はわかってないっ。この世にはなぁ、お前が考えているより遥かにたくさん、強者は存在するんだ!」


 …詳しい説明は次で。



中途半端に区切ってしまい申し訳無いです。長すぎるのもどうかと思ったので…すいません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ