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66「方法は言わないが…」不気味な刀、端材置き場終了!

〜刀が出てくる瞬間をみられ、説明を求められるイツキ。その沈黙は〜

 ミエリアの疑問に、神妙な様子で黙るイツキ。


 まず、改めて刀の全貌を説明しよう。


 ***

 赤紫黒を混ぜ合わせた色合い…真っ赤・暗い紫・黒の絵の具を軽く適当にかき混ぜた様な、統一性のない色合いである。

 刀には波紋もあり、形状は一般的な刀…打刀である。

 つかと鍔も同じ色合いで、鍔には長方形なのに菊っぽいがらで、柄にはひし形が並んだ模様になっており、その他の装飾はない。

 全体の見た目の評価は、ただただ不気味である。

 刃も鍔も柄も全てが赤紫黒の色合いなので、大抵は気味悪さを感じるだろうし、もはや妖刀の類にしか見えない。

 ***


 どうやって出しているのかと、興味満々ときらきら輝く目を向けて問うミエリア。


「どう、と言われてもな」

「?」

(説明がな…)


 イツキははぐらかすかの様な答え方をするが、何となく、困った風にも見える様子に、少し不思議そうにするミエリア。

 実際、イツキは本当に困っているわけではなく、はぐらかすつもりもない。

 しかし、刀を出している方法は知られたくない事で、説明するかどうかを考えていた。


「…今はまだ、秘密だ」


 結果、今は話さず後に回したが、一応理由はある。


 まず、イツキの刀の出し方とその秘密について、地球の仲間たちは知っている。

 刀が出る瞬間がミエリアに見えて、イツキの仲間に見えないわけもなく、その瞬間を見た者が問い質した。

 地球には魔法はなく、また魔法の様な技能もないので、指から刀が出てくるなどいくらイツキでもあり得ない。

 なので問い質し、見事イツキから真実を知り得た。

 この秘密が割と衝撃の事実で、イツキの人外っぷりを知っている者たちでも、驚きのあまり取り乱して騒動になったほどである。


 そしてこの秘密は、明かすには財力・権力がある程度は無いと躊躇われ、ミエリアにもまだ話したくはない。

 それだけ特異な方法ということになる。

 それが、たとえ過去や計画を話しているミエリアでも話せないのは、テンパってピュッと喋ってしまう可能性のあるからだ。

 そんな可能性がある以上、知られたく無い秘密を教えるわけには行かないのだ。

 これが、もし口の固いミエリアなら何の問題もなかったのだが…。


 ただ、地球ではあり得なくとも、ファンタジーなこの世界ならそこまで問題にはならない可能性もあり、教えてもいいかとも考えた。

 その為に、説明するかどうか考えたのだが…教えなかった。

 やはり、地球であった組織の力は無く、個人の力しかない現状では躊躇われる事、秘密を知っていても知らなくとも特に変わらない事から、後回しにした。


 とまあ、これで大したことのない秘密だと萎えるであろう程勿体ぶって、教えることをやめた。


 ただし、その理由でミエリアが納得するかといえば首を傾げざる負えないし、後回しの理由を説明したところで不満しかないだろう。

 それに、後で教えるとはいえ、不満の状態のまま過ごさせるのはよろしくない。

 なので、後回しにする理由を問われない様に誤魔化すことにしたイツキは、仲間に教わったとある方法を使った。


「っ……、はぃ…」


 効果はてき面で、息を呑み少しぽーっとすると、わずかに顔を赤らめて顔を伏せ、小さく頷いた。


 何をしたかといえば、『秘密だ』と行った際に、悪戯っぽく目を細め微笑んだ。

 足りない可能性もあったので、よくあるポーズ…こぶしを作って人差し指だけを立て口に当てる、『内緒・静かに』のポーズを行なったのだ。

 表情を変えるだけで性別問わず落とせるイツキが行えば、それはもう効果を発揮するだろう。

 そしてミエリアも引っ掛かり、幸いというか、惚れることはなかったが誤魔化されたのだった。


 ちなみに、この方法を教わった際、イツキは効果があるのか半信半疑であった。

 なので、仲間に勧められてイツキに心酔している仲間の女性に試したところ、鼻血でも吹き出すかと思われたが、半周か一周か回ったのか、逆に血は吹かずにただ気絶した。


 *****


 赤みが引いてきたと自覚したミエリアは伏せていた顔を上げる。

 そこには既に笑みを消しているイツキの姿に、ミエリアは元に戻っていることに、ほっと息をつく…綺麗な顔は毒だなー、と初めて思った瞬間であった。

 と、既に後回しについては頭になかったが、ここでわざわざイツキが思い出させる様なことを言う。


「方法は言わないが、一つだけ」

「…はい」

「私は、変わった体質でな」

「変わった、体質ですか…?」


 一瞬の間を置き、結局ミエリアも思い出してしまったが、しかし、あの表情を思い出すと再度尋ねる気は起きなかった。

 それこそがイツキの狙った反応である。

 思い出させたのは、後で誤魔化されたと気づかれるより、今の内カバーした方が良いから…だったらもう教えてしまえと言う話だが、今はダメらしい。


 思い出させたはいいが、結局このままではくすぶりが残るので、その代わりという様に一つだけ教えることにしていた。

 ギルドでルビルスに言った、人間とは思えない体質の事。

 ミエリアは、変わった体質という言葉に、異常な強さを持つ理由かと考えていた。


「ああ。私は、人間が持つにはあり得ないもの(体質)が、いくつもある」

「に、人間が、ですか。…例えば、とか」

「お前が見た刀を出した方法も、そのうちの一つだ」

「!?指先から剣…えっとカタナ?が出てくる体質なんてあるんですか!?」


 しかし、その変わった体質の詳細は語られなかった為、イツキの強さと関係があるのかは分からなかったが、意外なことを聞いた事で彼方へ飛んで行った。

 イツキの口ぶりからして、人間であることは間違いないらしいのに、人間にはないものがあるという。

 これはもう、尋ねずにはいられないと、少し遠慮気味にだが例えを上げてもらおうとする。

 そして、後回しにされた件に繋がった。

 しかし、ミエリアは恐ろしいほど的外れな事を言ってのける。

 そんな訳があるまいに…


「…いや、そういうわけではないが。まあ、詳しいことは今度な」

「……で、ですよね〜!あは、あはは…」


 イツキが若干呆れ気味に否定すれば、何故呆れ気味なのかと考え発言を振り返るミエリア。

 あまりに的外れな事を言ったと気がつけたのか、誤魔化すかの様に乾いた笑い声発するのだった。


「さて」

「っ!」

「…まあいい。もう部屋を出る。他にも聞きたいことがある様だが、明日も明後日も、いくらでもある。悪いが、今度にしてくれ」


 ミエリアの笑い声が途切れたところで、話を切り替えるために前置きを置いたのだが…呆れられた直前で、何か言われるのかとビクつくミエリア。

 ただ2文字発しただけで怯えたミエリアに目を細めるも、怯えた理由は分かるので流して、質問終了の旨を伝える。

 もともと木の板を切りに来ていただけであり、ここまで色々な事態が起こると予想していなかった。

 つまり、完全に予定外のことであり、時間的な問題はないのだが予定が狂っており、そろそろ元の道筋に戻ろうとしているのだ。


 予定外でもイラつかないのは、必要な事であったのとミエリアだったからだろう。

 これが、キースやニーシャ辺りなら間違いなく不機嫌さが滲み出ていただろうし、赤の他人なら殺していた可能性すらある。

 イツキの仲間判定は、それを受けた者に驚く程寛容になる、小さな例である。


「あ、はい。そうですね…いやいや、全然大丈夫です!イツキさんは悪くないですよっ!」

「そうか…」

「はいっ!」


 ミエリアも、部屋を出る事も、聞きたい事を今度にする事も良いらしく、素直に頷いた。

 ビクついたことへ何の反応もなかったことに、1人で逆に気まずさを感じていたが、ふと答えた自分の言い方に、発言してからある事に気づき慌てて否定する。

 何のことかといえば、イツキが質問は今度にさせた事への謝罪を、そのまま認めた…イツキが悪いと認めた事。


 イツキ自身、悪いとは本当に思っている為、ミエリアの肯定は全く気にしていなかった。

 しかし、ミエリアはイツキが悪いなど全く思っておらず、むしろ気遣わせた事に申し訳ないと思っていた程で、わたわたと慌てて否定していた。


 慌てていると言っても、パニックという程の混乱ではないので直ぐに元に戻り、落ち着いたあたりでイツキがドアノブに手を掛ける。

 あとはもう、引っ張るだけなのだが…何かに気づいたかの様に動きを止め、振り返った。


「ここを出る前に一つ」

「何ですか?」

「木版の表面を均す瞬間を見せた理由だが…」


 何かと思えば、端材置き場に来た理由を話し切っていないことを、思い出したのだ。

 ミエリアが見当外れなことを言い、イツキがキレたかと思えば謝り出した件である…つまり、脱線させた者はイツキ本人である。

 だからこそ、今の今まで思い出さずやり残しはないか記憶を辿ったところで、やっと気づいたのだが。

 そして、今伝えようとしているのだ。


 さて、目的を伝えるのは別に部屋を出てからでも良い気もするが、わざわざ今言う理由はしっかりあるが、それは後々…いや、直ぐにわかることなので割愛する。


「ああっ!そういえば途中でしたか!思い出すと気になりますね!…何なんですかっ?」

「ああ、それはな…」


 イツキの言葉で、ミエリアも目的を聞いていないことを思い出せた。

 当たり前だが忘れていると気にならず、しかし、ふと思い出すと物凄く気になることがある思うが、まさにミエリアがその状態となった。

 改めて考えてみると、木の板の表面を刃物で斬り落とす瞬間を見させられた理由…そんなものはまず思いつかないし、本人からすればかなり気になるだろう。

 ミエリアは、その理由をほんの少しだけ自分で考えようとし、またバカみたいな理由しか思いつかないかと直ぐに諦め尋ねる。

 しかしほんの少しだけでも、頭に浮かぶだけなら事足りる時間であり、一つ思いついてしまった…『自慢?』と。

 やっぱ、バカだなーと自嘲しつつ、言葉を待つ。


「ミエリアの訓練の、目標の一つだ」

「………へっ?」


 イツキはドアを開けつつパパッと理由を話すと、ミエリアを待たずにドアを閉めた。

 しかしミエリアは言葉を聞き間違えていないか、間違った受け取り方をしていないか、何度も頭の中でリピートしていた為、追っては来なかった。

 だとしても閉めるなんて酷いと思うが…実はこれが、部屋の中に止まって目的を話した理由である。

 つまりどういうことかと言うと──


『ええぇぇぇえええっっっ!!!」


 言葉の意味を理解し、その難度の高さを認識したその瞬間、今日イチの叫び声を発した。


──ミエリアが驚きの雄叫びをあげると予想し、広間で騒音を響かせない様にする為、であった。


 そしてイツキの行動は無駄にならず、壁に隔てられた騒音はかなり小さくなり…


「あら?今…気の所為ね」


「ねぇ、いまメアさんの声しなかった?」

「ん?さぁ、気の所為じゃね?」


「こえした?」「してないわよ」


 気の所為と片付けられた。

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