5「…にきた」冒険者ギルド、書類記入
〜無事都市入りを果たしたイツキ。
これからどうする?〜
ジェニバスに入り、イツキはとある場所を目指している。
それは。
〜〜〜〜〜
「ああ…そうだ」
「…なんだ」
それは門をくぐってすぐの事。
先ほどとは別の門番が…
「先に、身分証明になる物作っといたほうがいいぜ。今はたまたま水晶があったからいいが、高価なモンだから管理も厳しいし、使わねぇ時は面倒なとこに保管してっから、取りに行くのに時間かかる。んで、中に入るのにかなり時間掛かるんだ」
言葉遣いがかなり崩れているが、助言をしてくれているらしい。
「他にも使う場面は出てくる。だからとっといた方がいいってことよ」
(真っ先に取るつもりはなかったが)
「なら、そうしよう。礼を言う」
「いやいや、役に立てたようで何より。あとは、身分証明書作るなら、自動犯罪記録機能が付いている物にしな。じゃないと、水晶使うことになって意味無ぇからな。じゃ、達者でな」
〜〜〜〜〜
なかなか親切な男であった。
門番(衛兵)の情報には、ジャイには無かった物があった。
やはり、いくら未踏の地を知る末裔でも、全てを知っているわけではない、ということだ。
(これ以上は生活しながら、身につけていくしかないだろう)
と、結論付けて、歩き出した。
冒険者ギルドへ。
身分証明にもなる、冒険者カードを作るために。
〜〜〜〜〜
*門番*
「あっ、身分証明書を作る時は大抵、銀板〜金貸1枚取られるって伝え忘れたな〜。銀貨を簡単に出したし、大丈夫たと思いたいがな…。あの姉《•》ちゃんが持ってたポーチ小さめだったよなぁ。足りりゃいいが」
「世話の焼き過ぎだろう。相変わらず、綺麗な女性を見ると…」
「はいはい、すいませんねぇ〜」
先程のイツキの相手をしていた門番が口を挟む。
しかし、どうやら、どちらの門番もイツキの性別を間違えているようだ。
と、いうより…
男と気づける者がいるのか、かなり不安になってくる。
早く、間違えられることに慣れて、キレないようになって欲しいものだ。
もしくは、そういう容姿だと認識してもらいたいものである。
〜〜〜〜〜
また間違えられているとは、つゆほどにも思っていないイツキだが。
現在、なかなか美味そうな串焼きを買い食いしつつ、ギルドまでの道を聞き、入り口前までやって来た。
ギルドの外観は、思ったよりは割と綺麗…つまり汚くはないが、綺麗とも言えない、といったところ。
3階建ての建物でかなり大きい。
一つの階が高いのだろう、日本のマンションの6〜7階建てほどの高さはある。
軽く建物を眺めた後、扉を押して中に入っていった。
ギルドの中は、話し声はするものの、うるさいという程では無かった。
どうやら、簡単な食事や、依頼達成後に軽く飲めるように酒場が作られているようだ。
今は出払っている時間帯なのだろう。(ちなみに、今は3時半頃である)
4人、3人、3人の3グループが別々に飲み食いしているが、イスは7割残っている。
備え付けの割にはかなり大きい。
その他では、人が少ない時間帯だからか、受付であろうカウンターに、受付嬢が1人いるのみである。
イツキの目的は冒険者登録なので、受付に向かう。
微妙な時間に現れた、ローブを纏いフードを被った女らしき人物の登場に、シン…、と静まり、視線が集まる。
たいした距離があるわけもなく、受付にたどり着く。
受付嬢は、丸腰で、ローブ越しでも分かる華奢な体と、フードとその影に隠れていないところから女性と判断し、依頼の注文に来た方だと当たりをつける。
「ご依頼でしょうか?」
「いや」
イツキの声は、よく通る綺麗な声と称される事多く、受付嬢も漏れずに同じ感想を抱く。
しかし、イツキは登録にきたので放った言葉は否定。
受付嬢は少し困惑したが、その答えはイツキがが先に答えた。
「冒険者登録にきた」
「え…」
呆けるという、受付嬢に有るまじき失態。
ここに勤めだして数年経つ優秀な受付嬢ではあったが、予想外の言葉にキャパ超えてしまったようだ。
しかし、突如上がった笑い声に気を取り戻した。
その笑い声の主は──
「お前みたいな、ひょろっひょろな奴が?冒険者が務まるわけねぇだろ!?」
「そうだ、帰って鍛え直しな!」
「生まれ直したほうが早ぇんじゃねぇかあ?」
「「確かに!!」」
「「「ハハハハハ!!」」」
酒場に居た、1番うるさく、1番飲んでいた3人グループの男達であった。
最初は体格から女だと思っていたようだが、登録の申請を言い出して男だろう、と考え直したようだ…別に女冒険者がいないわけではない。
他の冒険者達は、迷惑そうにしながらも傍観者に徹している。
そして当人であるイツキは…
「何か問題でも?」
と、無視。
その返しに受付嬢は
「っ、いえ!失礼しました。問題ございません」
「なら、早くしろ」
「はい。ただいまお持ちします」
(書類か?主語が足りん)
慌ただしくも、速やかに冒険者登録の準備を進めた。
その手つきは滑らかで、先ほどとは違い優秀さが垣間見えた。
主語が足りないという文句を受けたが。
ビビらず、なんとも思っていないかのように自分たちを無視し、そのまま申請を進めるローブの男にイラ立つ3人。
「チッ」
「無視しやがって」
と。
だが、聞こえていた他の者達は…
((お前らが勝手に食って掛かって、何言ってやがる…))
と、呆れていた。
全くである。
バカトリオの不満が勝手に溜まっていくなか、準備を終えたらしい受付嬢が、簡単な書類だと思われる紙とペンを持って、カウンターのすぐ後ろにあるドアから現れた。
いつの間にか、別室に移動していたらしい。
もちろんイツキは気づいていた…というより、目の前にいたのだから当然である。
「すみません。お待たせしました。こちらに記入していただけますか?代筆もいたしますが…」
「問題ない」
「失礼しました。どうしても記入したくないものがあれば、飛ばしていただいて結構です。ただ、あまりにも記入が少ないですと、登録ができないことがございますが、ご了承下さい」
「そうか」
「それから、ギルドカード発行に金貨1枚頂戴します。足りなければギルドが利子なしで立て替えますが、いかがしますか?」
「払う」
「承知しました」
そう、簡潔に答え、記入欄を埋めていく。
かなり今更だが、何故この世界で言葉が通じ、文字が書けるのか。
説明しよう。
***
この世界の文字と言葉が、地球と同じ訳ではない。
なら何故わかるのか?というと。
イツキは地球に現存する全ての言語の発声と文字、文法を理解、会得しているからである。
失われた、古代の文字なんかも解読し、会得している。
いくら世界が違えど、人から生まれたものである。
似通った物になるのは当たり前のこと。
よって、地球の近しいものから推測し、言葉は森の中での盗賊と商人、都内の会話で。
文字は都内を歩く中で、多少の修正をしつつ、会得したのだ。
これぞ、人外のなせる技である
***
と、いうわけで書くことが出来るのだ。
では、質問内容と、イツキが記入したものを見ていこう。
・ 氏 名 、年齢、性別、種族、出身地、
カミモト イツキ、不明、 男、 、 不明、
・得意武器、属性、魔力保有量、魔力質、
刀類、不明、 不明、 不明、
・特殊体質、特殊能力
なし、 なし、
となった。
「終えたぞ」
「はい。ありがとうございます。では、確認させていただきます…っ!?」
書類に目を落とし、直ぐに驚愕で固まってしまった。
何故なら…
(苗字持ち…貴族!?)
名前と苗字があったから。
驚く様なことを書いた覚えはないイツキは、固まる受付嬢に痺れを切らし、尋ねる。
「おい、どうした」
「っ!?申し訳ありません。御貴族様でしたか。何故冒険者登録を?」
「……あぁ。前が苗字、後ろが名前」
「はい?」
「この名前の作りが、私のいたところでは普通だった。貴族ではない」
「!そうでしたか。失礼しました。それでは、ギルドカードにはこのまま記入しますが、普段は名前のみを表示することをお勧めします。似た反応をされる方が大半だと思われますので」
納得し、落ち着きを取り戻した受付嬢は、また書類に目を落とす。
そして、イツキの書いたもの見て少し、いや極僅かに眉を寄せた。
といっても、この受付嬢と相当親しい者か、目がかなり良い者でないと気づけない程度だが。
「幾つか質問してもよろしいでしょうか?」
「ああ」
「では、まず一つ目に、種族が空白なのはなぜでしょうか?」
「人間、と書きたいところだが、信じてもらえなさそうなのでな」
意味深な発言。
人外のイツキは本当に人ではないのか…。
まだまだ謎である。
「…えっと、人間でよろしいのですか?」
「まあ、そうだな」
とりあえず、人間になった。
「でしたらそれで構いません。なので、人間と記入しておきますね。では次ですが…。出身地が不明、というのは?」
「そのままだ」
「育った場所と違うのですか?」
「ああ。育った場所の地名も位置も両親も不明だ」
又しても、新情報。
出生に人外の秘密があるのだろうに、それが分からないとは…
なんと信憑性のないことか。
ブーメランである。(ジャイのこと)
と言いたいところだが…これは異世界産のイツキの出身地をごまかす為の嘘である。
「…そうでしたか。完全に不明なのですね…。恐らく東の陸の方だと思われますが…」
「何故だ」
「はい。東の陸の方の名前も貴族平民かかわらず2つあるのです。名前苗字の順でしたが…」
東の陸…東なだけあって、やはり和の国だったりするのか…いつかイツキが東の陸に行くことを祈ろう。
「次に移りますが、年齢が不明なのもその為ですか?…承知しました。年齢ですが、大体で良いので分かりませんか?」
「…16〜7だな」
年齢も出生が不明な為、詳しくわかるはずがないから。
「それでは、16と記入しますね。最後ですが…魔力関係は全て不明のようですが、これは?」
「それもそのままだ」
「別室で測ることができます。準備もしておきましたが、なされますか?」
「…。その情報は…」
「?…はい」
「外部に漏れるようなことは?」
「決して、ありません」
「………そうか」
「はい。ですのでご安心下さい。それで、どうなされますか?」
(返答の仕方が規則で決まっているような即答ぶりだな。信用ならんな)
怪しむイツキ。
外部に漏れることは?と聞かれ、それに迷わず即答する、受付嬢。
更には安心して良い、と。
まるで、何かから注意を逸らすように…
(確かに外部には《・・》、漏れる心配はないのだろうな)
「いや、いい」
「え、と。しかし、再度測れるのはランクアップの際のみで、それ以外ですと有料になってしま…」
「いいと言っている」
「っ!し、失礼しました。では、これで質問は終了で…」
途中で急に言葉を止めた受付嬢。
偶々目線を下げ、手に持つ書類に目を落とした際に、何かが頭に引っかかったのだ。
よくよく見直してみると…
(お、おとこ!?)
「おい、どうした」
声を掛けても戻らない。
相当な衝撃だったようだ。
面倒になったイツキは軽く威圧をする。
「っっっ!?!?」
…再起動はしたようだか、まだ驚愕の最中であった。
が、すぐに戻ってきた。
「大変失礼しました!え、と、ですね。最後に、記入に不備がないか、氏名、性別、年齢など、基本的なものも全てしっかり確認をお願いします」
頭を深く下げ、謝罪する。
おとこだった件については、書き間違いではないかと判断したらしい。
性別を書き間違えるなど、まずあり得ないだろうに…
わざわざ、違和感の無いように、3つ項目を挙げ、強調する。
しかし、その努力も無駄となる。
イツキの耳は、性別だけ他に比べ強く強調していることに気づいた。
先程固まった際も、性別の欄を見てからだと確認している。
ここで漸く、イツキは受付嬢が自分の性別を間違えている可能性を思い浮かべる。
そして、低く小さな声で
「問題ない…私は、男だ」
「!?」サッ!
受付嬢は何故ばれた、そして本当に男だったのか、と二重に驚き、無言で頭を下げた。
「…。さっさとカードを作りに行け」
「はい…では少々、お待ちください…」
(何を勝手に意気消沈してるのか)
ジャイのように馬鹿な事を言ってきたわけでもないので、怒りがでてくることはなかったようだ。
落ち込み気味の受付嬢が扉の奥へと消えた。