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63「私が、お前を──」声を張り上げ…、〜ミエリア〜

〜褒める理由から、一転して目的が変わっていく…〜

「何であろうと、既に私が鍛えていた。それをミエリア、お前は今超えたのだ。だから褒めた。私の予想を超えた身体能力を」

「…え」


 初めて見るイツキの目に、まるで魅了されたかの様に意識を持っていかれるミエリア。

 するとイツキは、軽く空気を取り込むと…


「そうそうあることではないのだ。だから、『誇れ!』」

「!?」


 普段からは想像がつかない大声を発した。

 大声と言っても、ミエリアが振りまいていた様な耳障りな大音量ではない。

 確かに普段よりは声は大きいが、それも多少程度であり、大声と形容するほどの音量ではなかった。

 それでも大声と感じてしまうのは、イツキの声に音量ではない別の…意思が、実際に総ての頂点に立った者の、その重みが、言葉に強く乗っていた。


 そして、初めて聞くイツキの大きめの声と、何よりただの声とは思えない強い何かがこもった声に、正気に戻るミエリア。


 そうしてイツキは『場』を作ると、まるで扇動者の様に…いや、人々を導く英雄の様な空気を纏い、ミエリアに語り掛ける。


「私の言う3人が何者か分からずとも…胸を張れ!先程のように、自信を持て!」

「っ……」


 先程のいわゆる黒歴史をまたしても蒸し返され、悶えそうに…なる事はない。

 イツキの迫力に飲まれ、羞恥心など感じてはいられなかった。

 ただ、目の前にいる人の強さを…戦闘力ではない、例えば英雄が持つ様な心の強さだろうか、そういったものを感じた。

 もしくは、善悪限らず歴史に名を残す様な偉人、そんな人物たちが持っていそうな何かを。

 もちろん、自分の目で英雄や有名な人物を見た事も、直接会ったことも無いから、ただの想像である。

 しかし、そんな感じのものをミエリアは目の前の『人』から感じ、息を飲んだ。

 そして、思っていたより相当凄い人に出会ったのでは無いかと、心の中で興奮していた。


 …感じ取ったことと心の中での落差が酷いが、これこそがミエリアであろう。

 まあ、それはともかく。


 そんなミエリアの心の動きを見て、イツキはさらに続ける。


「訳がわからずとも自信を持っていい!それが、ミエリアが持って生まれた(身体能力)だ!」

「私が…持って、生まれた…コレを?」


 イツキの自信を持てという言葉に、手を握りしめて開いてを繰り返しその手を見つめ、ミエリアは呟く。

 まるで、考えもしなかった、あり得ないことを聞かされたかの様に、呆然とするミエリアに、手応えを感じたイツキ。

 一体手応えとはなにか、それは…


 ミエリアはどこか、自分の持つ異常な力を、疎ましく思っていた。

 それも、サリーも誰も気づけぬほど…そしてミエリア本人すら気づかぬほど、心の奥底の片隅で小さく、しかししっかり根付いていた。


 それをイツキは感じ取り、その想いはこれから力をつけていく中で枷になると考え、丁度タイミングが良かった今、取り除こうと演説の様なことを始めた。

 そして今、ミエリアの中では、疎ましく思っていたその力を、少しは胸を張っていいのか…疎ましく思う必要などないのかと、イツキの言う通りに傾いていた。


 それでも傾いただけなのは、馬鹿力で助けたよりも迷惑をかけた方が多く、知らぬ間に負い目を溜め込んでいたから。

 普段ずっと明るいものに限って、誰にも相談せずに溜め込んだりするもので、そうして知らぬ間に根強い闇が出来上がる。

 ミエリアも、例外ではなかった。


「何、不安に感じることも、臆すこともない…」

「…」


 しかし、根付くソレもここまで。

 急にイツキの口調が優しいものに変わり、あやすかの様に語り掛ける。

 イツキの口調の変化に伴って、ミエリアの態度もだんまりとしたものに変わるが、その変化は決して悪いものではない。

 それは、続きの言葉を期待する、その沈黙だった。


 イツキは、ミエリアと会ってからまだ1〜2時間しか経っていなくとも、性格や体質、周りの環境などから、何を期待しているのか分かっていた。

 そしてその言葉は、根付く闇を祓う力があるとも分かっていた。

 だから、望む言葉を口にする。


 ついでに、被ったままのフードに手を伸ばし、裾を掴むと後ろへ払って素顔を見せた。


「私が、お前を───…」


 イツキが本心で語った言葉に…


「っ!はいっっ!!」


 強く、強く頷いたミエリア。

 その目にいっぱい溜め込まれていた涙が、とうとう零れ落ちる。

 その涙に負の感情などない。

 喜びと少しの希望に満ちたミエリアの笑顔が、それを表していた。


 *****

 *ミエリア*


 私、メアことミエリアは、何て事ない小さな村で生まれ、変哲も無い両親の元育てられました。

 それにも関わらず私は小さい頃から、明らかにおかしい程力持ちでした。

 私の体重に近い物だって持てました…けど、踏ん張りが利かなかったから、ちゃんと持てたことはないんですよね、当時は。


 今私が覚えている一番昔のことは、4〜5歳の頃に両親と暮らしていた記憶です。

 それ以前はあやふやで、時にこれといった出来事もない…筈です。

 もしかしたら、そのずっと後の出来事が印象深過ぎて、どっかに行っちゃっただけかもしれないんですけど。


 *****


 それは、8歳になって、それなりに時間が過ぎた頃の話です。

 私が、癇癪を起こし、両親を殺しかけました。

 院長には小さい子なら癇癪くらいあって、普通だと言われましたが…

 詳しいことは覚えてないんですけど、思い通りに行かなかったことが余程不快だったのだと思います。

 そこで私は、近くにあったものを2人に手当たり次第に投げつけました。

 それも私の中では本気で。

 8歳の頃には更に力が増していて、私が思いっきり何かで叩きつければ、木だって圧し折ることが出来たくらいです。

 そんな時に、私がもっと幼い頃に使っていた玩具だとか、生活用品など、手に触れたものをとにかく投げつけていました。


 投げるものが無くなって、気がついたら2人とも打撲や切り傷で重症でした。

 まだ、死ぬほどの怪我にならなかったのが、唯一マシだった事です。

 院長曰く、自分の生みの親だから無意識に加減をして、おかけで命は助かったのでしょう、と説明されましたか、当時の私にそれが分かるはずもなく。

 気づいてからしばらくして、 正気に戻ると直ぐに村を出て行く用意を始めました。

 両親が何と言うか考えるだけで怖く、他にも村の人にも弾かれるかと幼いながらに思い、もうここにはいられないと思ったのです。


 ほんの少しだけお金をもらい、誰かに見つかる前に急いで飛び出しました。

 両親の手当てをして欲しくて、家に誰か向かうように仕向けるために、壁を壊し物音を立ててから。



 その後は、院長に拾われて孤児院に入りました。

 村を出てから2年間、ずっと1人で生きていましたが、もちろん普通には生きていませんでした。

 うまく都市に入っても、目を見計らっては盗んで食べての繰り返しで、その頃は冒険者なり働いてどうにかするという選択肢が無かったのです。


 そんな中、私を捕まえようという動きがありました。

 本当に自慢では無いんですが、不思議と盗もうとして失敗したことは少なく、捕まったことは一度もなかったんです。

 だからこそ、逆に大変なことになってしまったのですが…そんな時に現れたのが院長でした。


 いつもは近づかれると、足音とか何かの匂いで分かるんですけど、院長には全然気づけなくて、捕まってしまいました。

 しかもどんなに足掻いても抜け出せなくて、あの時はとっても驚きました。

 そして、『此処で終わりかぁ』と思ったその時、院長は『私の所へ来ませんか?』と誘ってくださいました。


 行く気は無かったのですが、結局私が根負けしそこで暮らすことになりました。

 そしてある程度一緒に暮らして時間が経った頃、私は既に院長に心を許していて、何故盗み食いをしていたかなど、村であったことを話すことにしました。

 そして、私の話を聞いた院長は、破ってはいけない決め事を作ったり、私が普通に生活できるように計らってくれました。


 その後、いろいろ大変なこともありましたが、楽しく幸せに過ごせていました。

 実は私が拾われた頃はまだ、この孤児院は…これはいいですよね。

 とにかく、これといって大きな事件もなく、私より下の子が増えていって大変ながらも賑わう良い場所になりました。


 そして私は…相変わらず、この異常な怪力に頭を悩ませていました。

 すぐに何かを握りつぶしてしまったり、吹き飛ばしてしまったりと、お金はあんまり無いのに無駄に使わせてしまいました。

 院長がやりくりしたり、優しい方からの寄付で生活できていましたが、本当にこのままでいいのかと、本当に悩みました。

 一時は出ていった方が、と考えたりもしましたが、その考えを読んだかのように院長が目の前に現れました。

 思わず身構えた私を、抱き締めながら大丈夫と言ってもらったのは、今でも鮮明に思い出せます。

 なので、出て行くのではなく、別の方法で助けになれたらと思っています。

 ですがやはり、私の異常な力では手伝いになることが少なく、やはりこのままでいいのかと悩んでしまいます。


 何が言いたいかといえば…

 私は、慰めも、この力はきっと役に立つという励ましも、純粋な『凄い』という褒め言葉も、今まで色々な言葉を掛けてもらっていました。

 両親を傷つけただけでなく、その後を恐れて逃げ出したような私を。

 そして、その言葉のおかげで救われたことも何度もあります。


 だけど、普通の人よりかけ離れた力を持っているから、唯一掛けて欲しいと思った言葉を、言ってもらえたことがありませんでした。

 こんな私が望むには過ぎた事だとは思っても、最近ふとその言葉を望んでしまいます。

 院長は何となく気づいてい気がしますが、理解してあげられないと遠慮しているみたいで。

 だから、突如私たちの前に現れた1人の冒険者さん…イツキさんなら、きっと私が知らぬ間に望んでいた言葉を、掛けてくれるのではと思った。


 全然力持ちに見えないのに軽々とキース君持ち上げたあの時、私と同じなのかなという期待と、ちゃんとコントロールが出来ている姿に少し尊敬をしました。

 だって、少なくとも見た目以上の力を持っているのに、落ち着いていて、私みたいにバカをやらかすこともなさそうだったから。

 そして次に、シンヤ君を追いかけて人攫いの人達に会って、イツキさんが助けてくれた時、初めて速過ぎる動きを見ました。

 その動きに、なにか…こう、心の中がざわざわして。

 他にも、イツキさんの昔の事とかこれから考えている事を聞いて、結局その時には確信も何もなかったけど。


 急に木の板とかを置いている部屋に呼ばれて、またちょこっと騒ぎがあって…と思ったら急に褒められて。

 そしたらなんか、重み?があるって言うのでしょうか…絶対に無視できないような声で、雰囲気で、私を励ますような言葉をくれました。

 そして締めるように、


『私が、お前を──


 そう続けた時に何となく、望んでいた言葉を掛けてくれる、そんな予感がして…そしたら涙がすっごい出てきちゃったんです。

 それでも何とか目に留めていたんですけど…


──導いてやる』


『っ!はいっっ!!』


 その一言で、溢れ出ちゃいました。

 だけど、精いっっぱい感謝とか気持ちを込めて、返事だけはすることができました!

 今思えば、もし予感が違った時かなり恥ずかしいな、って思いますけど…合っていたから問題なしですよね!


 …ただ、何で、どっからこんな流れなったんでしょう?



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