62「だから褒めた」2度と会えぬ、羞恥
〜褒められた理由を説明されるも、ピンとこないミエリアに、イツキは詳細を話す〜
イツキの言う仲間とは、何度も言う通り『何でも屋』をやっていた、その時の仲間のことである。
そして、イツキが育て上げた仲間は、全員が銃弾を避けれる程度には人外レベルの実力を備なえている。
その中で、最低レベルの3人でもこちらに来ても十分通用するほどの実力はある。
その3人がギリギリ見えるかどうかの速度であったと言う。
それをミエリアはブレても見る事ができたということは、一部とはいえミエリアは優っている、ということであり、素の状態でいきなり仲間に超えられた事に、よくやったと褒めたのだ。
まあ、行動ではなく体のスペックの話なので、『よくやった』というのはまた違うが。
ちなみに、地球でも、仲間たちが良い動きをした時などにはしっかり褒めて、場合によっては何か望む事をしていた。
要は飴と鞭の、飴の部分である。
鞭の部分は、イツキが仲間に課す過酷な訓練修練である。
どれくらい過酷かといえば、どこぞの国の軍事訓練が児戯に見える程であり、仲間の1人が『最早、拷問超えてね?…死刑?』と漏らすほどである。
…まあ、その鞭に対し飴が弱すぎるかに思えるが、イツキは十分だと考えていた。
しかしそんなわけもなく、もしそのままだったら死ぬ気で反旗を翻したかもしれない、とは彼ら彼女らの言葉である。
ただ、そうはならなかったのは、イツキへの恩と、日常生活での接し方…無意識の常軌を逸した甘っぷりのお蔭だった。
そうしてイツキ自身も知らぬ間に、うまい具合に釣り合っていた。
むしろ、訓練修練中の厳しさとの差から、敬愛や尊敬などのいい感情ばかりが積み上がっていった為、問題もなく、イツキたちには強い繋がりに結ばれていた。
「仲間、ですか?…あ、昔やってたっていう?」
「ああ。まあ、あいつらの事もいつか話してやる。それで、まだ意味はわからないだろうから、続けるが…」
しかし、この世界で有名でもないイツキが、仲間がどうのと言っても伝わるはずがない。
だがミエリアには、昔何でも屋をやっていたと教えているので、何とか繋ぐ事ができるだろうと考え、話に出した。
するとどうだろうか…予想通り、記憶からイツキの昔のことを引っ張り出し、繋ぐ事ができたようで、正解を口にする。
無事繋ぐ事ができたミエリアに、今度は説明不足という事態は避けられた、と小さく頷くと、自信なさげな疑問形の回答に対し肯定した。
そして何気なく向けた、濁りの無い綺麗な翡翠の目に、イツキの仲間への興味が浮かんでいることを悟り、訓練中にでも発破をかける意味で教えてやろうと決めた。
意外と結構に気にしている、説明不足が起こした事件。
もう起こす事がないように注意するためか、わざわざ口に出して続ける。
「当時の仲間たちは合計で10人。その全員を私が鍛え上げ、数年経つ頃には国一つと渡り合える程度にはなったのだが…」
「ちょっ、ちょっといいですか!?」
「ん?…なんだ」
小さい頃の話しは話しているし、何でも屋をしていた事は話していても、詳細については一切話していない。
なので、褒める原因となった仲間3人を超えた事、その話に入るためにまず、仲間の説明を始めた。
人数から、全員を自分の手で鍛えて、仲間たちのスペックを説明して…そして、最後にミエリアはそれを超えたのだと締めるつもりだったのだが、途中で遮られる。
遮ったのはもちろん、ミエリア。
あまりのツッコミどころの多さに、つい話に割り込んでしまった。
最後まで聞いてから質問に移るのが最適だと思うが、そこまで我慢ができなかったらしい。
遮られた本人は、世界が変わったので当たり前だが、気配を感じる事が一切できなくなってしまった仲間たちを思い出しながら説明していた。
そのせいか、ミエリアを見ていなかったので、まさか遮られるとは思ってもいなく、純粋な疑問の声を上げてしまった。
いくら地球への未練が無いとはいえ、置いてきた仲間たちは、それはそれは大事にした者たちであり、まだまだ未熟な頃は何時でも気配を追っていた。
何時でも助けられるように…それほど、大事にしていたつもりである。
しかし、今では2度と会うことのできない者たちである。
比喩でも何でもなく、住む世界が違うのだから…気配だって感じる事ができるわけがない。
そのことを、仲間たちを思い出すうちに改めて実感し、イツキ自身も気づくことなく、寂寥感を感じていた。
その為、珍しく声を上げてしまった。
その後に少し空いた間は、自身の中に現れた初めての感情に気づき、何かもわからずに整理した間と、完全に油断していた自分への叱咤である。
「国一つと渡り合うって…え、そのままの意味でですか!?」
「それ以外何がある。それで、続けるが…」
「え、ええ〜…私がおかしいんですかぁ…?」
ミエリアが我慢できなかった事は、国と渡り合えるほど力をつけた、ということ。
ミエリアの中では、イツキが10人を鍛え上げ数年後には、11人だけで国一つと同等になった、という図になっている。
イツキは仲間のスペックを説明したいだけなので、他はかなり端折っており、そのせいで勘違いが起きていた。
ただし、勘違いといえば勘違いだが、ミエリアの解釈は間違ってもいない。
何故なら、イツキと仲間の合計11人でも、国一つくらい余裕で制圧できてしまうから。
実際はイツキの仲間10人の下に、イツキは一切関与していない部下が多数存在しており、それら含めて国一つになったのだが…
イツキがミエリアの解釈を読んだところ、間違った所がなかった為、訂正も何もなく流したのだ。
流されたミエリアは、普通に流され愕然とすると、不貞腐れた様子で…しかし、どこか情けない声で愚痴る。
「…いいか?」
「……はい…お願いします…」
「…それで、渡り合えるようになった頃、私の仲間たちは戦場に於いて、1人で最低でも兵士数百分の戦力になった」
「…はあ〜、10人で…………数千?ですか…それは国一つになりますよねー。あははー…」
様子がおかしいミエリアに、数秒待ち落ち着いた頃に続きを始める。
そして語られた事は、イツキの仲間は最低でも、たった1人で兵士数百人分になるという、バカらしい話であった。
しかしミエリアは、もういいやと投げやりになり、疑うことをやめて鵜呑みにすることにした。
そして計算…といっても、数百に0を一つ足しただけで、イツキに説明されながら…だが、答えを出した。
そして出た答えは数千であり、ミエリアの中では国一つに足りるものだと判断され、乾いた笑いがこみ上げた。
実際は数千で勝てる程度の規模の戦争はあまりしないし、それで勝てる国などたかが知れている。
実際は、一度ではないとはいえ合計で万が戦争に出る、そんな大国と渡り合えるという意味なのだが、国も戦争も詳しく知らないミエリアにはわからぬ事であった。
いや、分かったとしても、もどちらも変わらないかもしれないが。
「笑っているが、お前はそのうち3人に優った部分を持っているのだが、分かっているか?」
「はい?……そういえば、そんなことを…。……え、ええ〜〜!?ま、ま、マジですか!?」
褒めて理由を話しているのだが、既に忘れているようにも思えるミエリアに、重要な点を指摘する。
すると、もうどうにでもなれ…そんな雰囲気を発していたミエリアは、イツキの言葉に人生でも10位内に入りそうな衝撃を受ける。
何せ、戦場で数百人分の者に勝っているのだ…それはもう、凄まじい驚きと衝撃であろう。
しかし、その事実を認識したミエリアは、ふふん、と鼻を鳴らすと自慢げに胸を張った。
先ほどの様子は微塵も見られない、早変わりであった。
「何胸を張っているか知らないが、お前では、戦っても3秒と持たない」
「…ま、まあ、そうですよね!分かっています、よ?」
「そうか。まあ、当たり前だな。他の技術が違いすぎる。何より、数年前の話だからな」
しかし、イツキの言葉によりすべて砕かれる。
ただまあ、当たり前である。
確かに、目で追うことに関して…動体視力が優っていても、それを避ける術も防ぐ術もなくては、何の意味もない。
それに比べ、ミエリアに少し負けた3人を含む全員は、守りも逃げも…そして生き物を殺す術も、いくらでも持ち合わせている。
どう足掻いても無理な話で、例えミエリアが逃げに徹しても、あっという間にご臨終となるだろう。
火を見るよりも明らかな事でも、頭が回らないと辿り着けないようで、ミエリアは見事に勘違いしていた。
慌てて取り繕うもバレバレの態度に、イツキはさらに追い討ちをかける。
昔の3人の事であり、今ではブレる事なく見れるだろうと。
そう、イツキは何でも屋をはじめてから数年と表しており、今現在だとは一言も言っていなかった。
その事実にミエリアは…
「うぅ…」
早とちりにより勘違いに恥ずかしさを覚え、赤くなった顔を両手で隠し、呻きながら崩れ落ちた。
*****
「すいません、失礼しましたぁ…」
「ずいぶん気にしているようだが……」
少し待つと、赤みがだいぶ引いてきたミエリアがやっと立ち上がり、謝る。
まだ少し羞恥が残っているらしく、顔が伏せ気味だが。
そこに少し呆れを覚えつつ、本題へ戻そうとするが…
「いやあ〜!!すいませんすいませんもうやめて〜」
「そうではない。落ち着け」
「あうっ…うぅ〜」
イツキの言い回しから、まだ引っ張るのかと思い羞恥がまた込み上げ、いやいやと首を振りながら叫ぶ。
そして、勘弁してくださいという心の内を表すようにまくし立てる。
全く蒸し返すつもりがなかったイツキは、否定しつつ鬱陶しくなってきたミエリアに、ただのデコピンを見舞う…もちろん、手加減をして。
程良い?痛みにとりあえずは落ち着くも、額を抑え涙目でイツキを睨み呻く。
全く怖さを感じない…感じることができない上目遣いのガン飛ばしは、どこか滑稽さを誘った。
「落ち着いたか?」
「はぃ〜」
似たやり取りを繰り返す2人。
やっぱりまだまだ引きずるミエリアに、伝え終わっていない褒めた理由を話す。
「いいか?確かに数年前のことで、かつ一部だけとはいえ…」
「ぐっ…くぅぅ…」
意図せず、さらにミエリアの心にダメージを加えるイツキ。
もはやミエリアの心は崩壊寸前である。
忘れようと思えば思うほどに思い返してしまう、ほんの数分前の痴態に、よくあれだけ調子に乗れたものだと、とにかく後悔していた。
あれだけの勘違いである、ほんの少しでも過去に戻れるなら、あの時踏ん反り返った自分を嘸殴りたいものだろう。
しかし、羞恥心など感じたことの無いイツキには、ミエリアが今抱く感情に理解を寄せることはできない。
だからこそ無意識に傷をえぐり、心にダメージを加えてしまったのだが。
それでもイツキは、話をやめない。
次には羞恥も消えるだろうと予想したから。
「既に私が鍛えていた。それをミエリア、お前は超えたのだ。だから褒めた。私の予想を超えた身体能力を」
「…え?」
褒めた理由を、声のトーンに気を配って話した。
そのお陰か、羞恥に悶えていたのミエリアの頭に、スッと入っていった。
そして、『褒めた理由』に羞恥も忘れ、思わず伏せていた顔を上げた。
するとフードの陰からミエリアを見つめる、紅い目のみを見取り、初めて口元以外を見れたことに、驚きを感じるよりも前に、ただ、綺麗だと思っていた。
側から見れば、フードで口元しか見えていないのに、さらに紅い目だけが見える姿は、ただただ不気味だと思うが、ミエリアにはそうは映らなかったらしい…
余計な話を突っ込んだせいで、最後まで終わらせられませんでした…orz
ただの理由説明にもう1話使う事になり、申し訳ないですが、どうかお付き合いくださいm(_ _)m




