4「………」数瞬の殺意、都市
*軽い、性的表現があります。
〜ジャイ(盗賊のリーダー)に性別を間違われ、性行為をしてくれと頼まれるイツキ。
果たして?〜
*イツキ*
「分かった…はなす。ただ…」
「そうか…ん?」
話すことを決めたようだ。
その代わりに…
「死ぬことがなかったら、頼みを聞いてくれ」
「ほう…?」
死ななければ、頼みを聞いてくれないか、と。
「まあ、聞くだけ聞いてやる」
(何を言うつもりか…)
「…そういや、あんたの名前は?」
「いう必要があるのか?」
「うっ…いや、ないかも知れないが、別に問題ないだろ!?」
「断る」
「なんで…」
即答で断るイツキ。
「言うならさっさと言え」
「分かった。…じゃあ、話すぞ」
「あそこは…」
*****
「ということなんだ」
「そうか」
(やはり、呪いは嘘だったか…それとも消えたのか)
ジャイのはなしは終わった。
結局死ぬどころか、何の不具合もない。
話し始めはビクビクしていたが、中盤からは普通に話すようになり、終盤では活き活きと話していた。
話しを聞いてもらいたかったのかもしれない。
盗賊のくせに…
「何事もなかったようだな」
「お、おう!じゃあ、頼み聞いてくれよ!」
(調子に乗って…)
「…言ってみろ」
「じゃ、じゃあ…」
さてさて、何を頼むつもりなのか…
「と、とりあえずさ。フード、降ろしてもらえない?」
「?まぁ、いいだろう」
サッ
「!!」(めちゃくちゃ美人じゃん!)
(何を驚く?)
…フードを降ろしたところで、美人という評価を貰って、男から遠ざかってしまった。
やはり、先入観があると、男にはどうしても見えないようだ。
…例え先入観がなくとも、男には見えないか…。
「で?」
(こいつ、発情してないか?なんで…)
「あ、の…」
「……」
「オレとヤって下さい!)
「…は?」
そして、最悪のカードを、ジャイは切ってしまった…
イツキは…
(やる?何を?発情していることから、性行為だろう。だが、こいつは同性愛者ではなさそうだった)
思考を巡らせる。
ジャイの態度や、ごく短い時間とはいえ目の前で見てきた情報から、性格や性癖を見出す。
(つまり…こいつは…)
そして、
(私を…女と…間違えている、と…)
ジャイの勘違いをすぐさま当てる。
女と間違えられることに慣れていないイツキは、余計な頼み事と合わさって、静かに、怒りを爆発させる…
ドォン!!
そして再び撒き散らされるプレッシャー。
聞こえるはずのない音。
しかし、前回とは比べものにならない圧力。
さらに、今度は物理的な干渉が生じた。
イツキを中心に地面が陥没しているのだ。
周りの木々も風になびかれているかのように、イツキを中心に外側に揺れる。
そしてなにより、前回と最も違うもの、それは…
前回には篭っていなかった、殺す意思──
──殺意
それが篭り圧力として撒き散らされていた。
要は、殺気である。
ただ、物理的な衝撃を生むほどの。
それを、無差別に放つ。
周りの、生きとし生けるもの、全てが逃げ惑う。
そして逃げ遅れたものは死んでゆく…
尋常ではない、感じたことなのない殺気により、ショック死を起こして。
気の小さい小動物だけでなく、血の匂いによって集まり、だがイツキの牽制により近づけなかった二股狼や、鮮やかな緑色をした肉食熊も例外なく、耐えきれないものは死んでいく。
空を飛んでいたのであろう、小鳥が落ちてくる。
地面の中にいた虫やモグラの類の生き物は、2度と目を覚まさない眠りにつく。
イツキからかなり離れ、殺気が薄まった地にいた動物は、急な殺気に怯え何十秒もの間、生命の危機を感じていた。
そんな、死の気配が撒き散らされる中、イツキは──
(こいつ…どうしたものか…)
──すでに落ち着いていた。
いや、女とみられていたことに気づき、怒りが出てくる瞬間には、冷静になっていた。
冷静に殺気を撒き散らしていた。
怒りを吐き出すかの様に。
長く感じた殺気の放出は、実は5秒ほどで収めていた。
殺人的プレッシャーが、動物達の体内時計を狂わせていたらしい。
そして、この原因である、ジャイだが…
「???」
青ざめた顔をしているが、何が起きたか把握出来ず、若干キョトン顔もしている。
何故、この至近距離で生きているのか。
もちろん、耐え切ったわけではない。
ただ『無差別に』『撒き散らして』いた割に、ジャイは避けるように放たれていたのだ。
それでも青ざめている理由は、頼み事を言った途端に黙り込み、先程とは違った威圧感がイツキから漏れ出し、キレたのだと思ったから。
若干キョトン顔なのは、威圧感が出るのと同時に地面が陥没し、木々が揺れだし、近くにいた動物が遠ざかっていく音が聞こえ、何事か?と事態についていけなかったから。
何故、ジャイに殺気をぶつけなかったのか?
この程度の男なら、間違いなく殺せていたのに。
その理由は──
(見逃してくれ、とか、命だけは、なら聞いてやっても良かったのだかな)
「私は、男だ…」
──こいつの間違いを正すため。
そして──
「!?」(嘘だろ!?)
「なかなか、いい話しが聞けた」
「……」(ああ…終わった)
「生かしてやっても、いいと思った」
「え…」(マジ、かよ)
「だが、その必要も無くなった」
「だから…」
死ね
──楽に死なせないため…
ズン!
三度、発せられるプレッシャー。
しかし、2度目程ではなく、物理的圧力も生じない。
それでも、イツキから初めて浴びる殺気にジャイはへたり込む。
辛うじて、粗相はしていないようだ。
だがそれも、ここまで。
イツキは殺気にイメージを持たせた。
それは──
「ヒッ、あぁ…」
──殺すイメージ。
首をかっ切る。腹を裂いて、四肢をもぎ取って、虫をたからせる。ただ火で炙る。全身くまなく刃物で刺す。顔以外を埋めて放置。水に沈めて…電気を流して…毒を飲ませて…
そんな、何百何千通りと思いつく、殺しのシチュエーションのイメージを、殺気に乗せてぶつける。
殺気に強くイメージを乗せることで、相手にその光景を見せる事ができる。
場合によっては殺気を武器としても使う、イツキだからこそできる芸当。
そんな殺気をぶつけられたジャイは、もちろん堪ったものではない。
自分が死ぬシーンを何千通りも見続けるのだから。
見続けるといっても体感の話で、現実ではそんなに経ってはいない。
だからなんだという話しで、殺気が止まった頃には、このまま何をどうしても廃人確定な事になっている。
死ねと言ったわりに殺しはしなかったが、どうせ森の獣に襲われて死ぬだろう、と。
それ故に、イツキはそれを放置した。
それから、商人の金と、必要そうな物を取りに街道の方へ行った。
近くにありそうなら、ついでに盗賊のアジトに行き、金などを取りに行くつもりである。
〜〜〜〜〜
廃人となったジャイ。
イツキが去った後、殺気に恐怖し動けず、しかし死ぬことはなかった数少ない獣たち。
殺気を警戒して半日近づかなかった獣たちが、血の匂いに惹かれ集まってくる。
そして、その獣たちに抵抗する事もなく、喰われる事となる。
こうして、未踏の地を知る、滅びたと思われていた一族は、誰の知らぬまに、完全に滅びた。
〜〜〜〜〜
イツキは今、森の中から都市に向かっている。
どうやら商人が襲われていた街道は都市に向かうものだった。
だというのに何故、森の中にいるのかというと…
盗賊のアジトを探すために木の天辺まで登り(手は一切使わずに)、横穴がありそうな10m程の崖があったのでそちらに向かうと案の定、アジトがあった。
そして、金を取ってきたから、である。
今のイツキの所持金を見てみよう。
元商人の金
銅貨、21枚
銀貨、5枚
銀板、1枚
元盗賊の金
銅貨、30枚
銀貨、30枚
銀板、6枚
金貨、2枚
計
銅貨、51枚
銀貨、35枚
銀板、7枚
金貨、2枚
となる。
襲った商人の持ち金が少ない、とぼやくだけあって、盗賊の金は多かった。
ジャイによると、この地に来る前にちょっと大きい商人を襲い、手に入れたとのこと。
その商人は取り逃がしてしまい、その後、依頼を受けた冒険者が取り返しに来た。
戦闘になり、勝つことが出来ず、なんとか幾らかの金を袋に詰め込み、逃げた。
その戦闘と、逃走の際に人数がだいぶ減ってしまった。
比較的安全なこの森なら、少人数でもやっていけると思ったと。
ここでは今回が初めての盗賊行為だとも言っていた。
まあそんな事より、そんなたくさんの金をどうするのか、袋に入れてもかなり嵩張るだろう、と思うが。
実はこの盗賊、見た目以上に物が入る袋、というかポーチを持っていた。
恐らく、これも大きめの商人から奪った物であり、逃げるときもこれに詰めていたのだろう。
何故か、横穴では全て出されていたが。
恐らく、見せびらかすかの様に置いておく癖でもあったのだろう。
そのせいで、冒険者に襲撃された際、全ての金を持っていく事が出来なかったのだろう。
これもどうでもいいか…
という事で、持ち物の問題はない。
後は、都市の門での審査をどうするか。
ギルドカードなど、信用度の高い身分証明となる物があれば楽らしいが。
無理そうなら、勝手に入ればいいと考えていた。
*****
数十分歩き、門へと到着した。
補足しておくと。
時間がかかった様に思うかもしれないが、イツキは歩くのが遅いわけではない。むしろ速い。
ただ、盗賊のアジトが反対方向にあったために、距離が増えてしまったのだ。
一般人なら、1.5〜2倍近く掛かっただろう。
まあ、何はともあれ、城壁に囲まれた都市の前までやって来たイツキ。
門の前には商人や冒険者らしき者が数人並んでいた。
かなり大きい方の都市だと思われたが、並んでいる人数は少なく、商人達や盗賊達の死体がある場で立ち往生しているわけでもなかった。
時間的に少ないだけなのだろうと結論付け、最後尾に並ぶ。
しばらく時間が経ち、イツキの番がきた。
「次、フードを降ろして。身分証明になるものは?」
「ない」サッ
フードを降ろしながら答える。
「…っ、そうか。見ない顔だが初めてか?」
「ああ」
一瞬見惚れてしまった様だが、すぐに正気に戻る。
「無いとなると、銀貨1枚必要になる。それから、この水晶に手を置いてくれ。犯罪歴の有無を調べる。一応聞いておくが、犯罪歴は無いな?」
「盗賊なら殺したが」
「盗賊や重罪人などなら罪には問われない。…知らないのか?」
「そうだったな」
「?まあいい。ではこれに手を乗せてくれ。質問をするから、はい、か、いいえ、で答えてくれ」
「…これが真偽玉か」
「見た事がなかったのか?知っている様だし、別にいいが。ではいくぞ」
***
真偽玉とは、嘘をついた際に体内で発生する、魔力の乱れを感知し、反応(発光)する水晶。
地球でいう、血圧とか心拍数の変化で判断する嘘発見器の様なもの。
魔力コントロールがかなり上手い者には効かない。
(地球では、イツキにこのタイプの嘘発見器の類は効かなかった)
***
「よし、問題は無いな。通っていいぞ。」
質問が終わり、許可が出される。
「ようこそ。都市ジェニバスへ!」
こうして都市入りを果たし、第一歩を踏み出した。
今は数が少ないため、所持金を詳しく書いていますが、後々は書かなくなる予定なので。