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55「…着いてくるか?」確定、2人の合否

〜予期せぬ逸材を発見したイツキ。本人も気づかぬ間に〜

 過去を聞いたミエリアの反応がイツキの予想を裏切り、精神の強さを見せつけた。

 予想外の逸材の発見に、期待値が高まったイツキ。

 と言っても、自分の期待値が上がっていた、など分かるはずもないミエリアは、浮かべていた悲痛な想いを消し、気を取り直していた。


「ううん、納得です。あの予定を思いつくことも…ですけど、そんな簡単に行くものですか?」

「まあ、問題あるまい。私もそこらの事情は詳しくないのでな、手探りにはなるが。難しい事ではないだろう」


 ミエリア曰く、普通に暮らす者には思いつかない予定をイツキは立てたらしいが、過去の話を聞いた今では納得できたと。

 つまり、イツキは立てた予定が黒い事である可能性は高い…いや、確実だがそれはいずれ。


 しかし、その予定はうまく進む様なものとは捉えにくいらしく、大丈夫なのかと心配するミエリア。

 そしてイツキは、かなり楽観視をした様子で心配はいらないと伝えてはいるが…手探りで始る事を難しい事ではないなどと、よく言えたものである。

 そういう者は大抵、事業を立ち上げて失敗するのだ…と言いたいところではあるが、イツキの場合、何でも屋を始めて順調に進み、そのまま地球でトップに立っている。

 実績はあり、計画自体もしっかり立てているのだから、本当に問題ないのだろう。

 地球での依頼の中には、赤字を黒字に直してほしいというものもあり、経営も問題なく回せるので本当に心配はいらないのだ。

 その依頼ももちろん完了し、高い報酬を受け取っても問題ない程度に立ち直らせている。


 さて、すっかり話が変わっているが、元は力の制御をしてほしいとミエリアが頼もうとしていた。

 それを先にイツキが言うから話が面倒になってしまったのだが。

 とりあえず、昔の事や殺しに躊躇いのない理由、元からミエリアを誘おうとしていた理由も全て答えたので、ミエリアの疑問はある程度解消された事になる。

 強さの秘訣は訓練中に話すので、まあ取り敢えずこれで終わりである。


 なので本題の、ミエリアに力の制御ができる様に訓練するのか、可否の話にやっと入る。

 そうは言っても、イツキは誘うつもりであり、ミエリアは頼むつもりだった…最早分かりきっていることだ。

 それでも、イツキは尋ねる。


「力の制御、についてはこちらから誘うつもりであったが…するか?」


 と。

 そしてミエリアは笑顔で…


「はい!」


 強く頷く。

 ここで否定されても困るが、まず考えられないことであるし、特に反応もなく軽く頷いた。

 しかし、イツキが尋ねる事はこれだけではない。

 ミエリアを誘おうと理由、謎の予定に戦力として連れて行きたいという話だったが。


「では、私の予定に…着いてくるか?」

「…それは──


 イツキの問いに、数瞬間を開けるミエリア。

 イツキの予定について行く事は、院長が許してくれるかはわからないけれど、昔から思っていた事を叶えるチャンスだから…。

 そして今なら分かる事、依頼を受けここに来たのがイツキでなければ、力の制御など頼めなかっただろうし、できても中途半端で終わり夢を追いかけることも不可能だっただろうと、と。

 しかし、イツキはここに来て、力の制御と…チャンスを与えてくれた。

 だから、イツキがここに来た奇跡的な巡り合わせに感謝をしつつ、その誘いに…


──もちろんです!夢ですから!」


 全力で応えた。


「そうか。なら、よろしく」

「っ、はい!よろしくお願いします!」


  こうして、イツキの仲間(仮)が1人、できたのであった。


「あのー、ちなみに何をするんですか?」

「先にお前…ミエリアの性能の把握だ」

「うっ…あの、メア……」

「なんだ、文句でも?」

「いえいえっ、何でもないですよ!」


 何をするのか見当もつかないので、とりあえず聞いておこうとしたのだか、まさかの名前呼びに呻くミエリア。

 しかし、どちらかというと愛称で呼ばれる方が好きなミエリアは、訂正しようとするも、フードからこぼれたイツキの紅い威光に慌てて引き下がった。


 ちなみに、この世界で始めてイツキに名前で呼ばれたのがミエリアとなる。

 地球での仲間ほどではなくとも、イツキはミエリアを既に庇護下にあると捉えているので、名前呼びが解禁されたのだ。

 おそらく、イツキがミエリアのことを己の命より大切な仲間だと認めれば、メアと呼ぶのかも知れない…多分…きっと…その筈…。


「そ、それで、何をすればいいんですか!?」

「煩いと、何度言えばわかる」

「うっ…すいません」

「…まあいい。今日は何もしない。これ以上は時間がない。後は依頼の準備だ」


 張り切り過ぎて叫ぶ様に話すミエリア。

 いい加減にしてくれという気持ちが湧いて来たイツキだが、庇護下に入れた為か寛容になっているらしく、それ以上は止め、答える。

 そうして口にした事は、すっかり遠くへ消えていた孤児達への教師事の依頼について。

 そろそろ準備をするとの事だった。


 …そもそも、孤児達に文字や軽い計算を教えに来て、ここまで大幅に逸れることがおかしいのである。

 イツキは所謂、トラブル誘引体質らしく、割とよくあることだったりする…ほぼほぼ自分で手引き寄せているが。

 と、今日の残りの予定を話したところで、ミエリアは何も考えたいなさそうなゆるい笑顔を浮かべて、ぶっちゃける。


「そうですか!まあ、私は考える事は得意じゃないので、お任せしかできないんですけどね!」

「考える事も、できる様になってもらう」

「………え?」


 …考えていなさそう…ではなく、本当に考えていない笑顔だったわけである。

 ミエリアは、普段はあまり頭の回転が早いとは言えず、危機的状況でやっと加速化入る。

 なので、ミエリアの言うことは間違ってはいないのだが…。

 イツキからすれば、今の状態では無理でも、少し訓練をするだけで出来る様になることを、そのままにすることはあり得ない。

 なので、改善させるつもりらしいが、ミエリアはあまり好ましくないらしく、ギギギ…と音が似合う緩慢な動きで、イツキを見る。

 目は辞めてと訴えている様に見えなくもない。


「当たり前だろう。もともと、ここには計算などを教えに来ているのだ。それの延長だ」

「それは、そうかもしれないですけど〜」

「それとも、年長者はその程度…と。なるほど」

「っ!そんなことないですよ!分かりました。やってみせますよ!」


 もはや、イツキの中では確定しているので止めるという選択肢はなく、むしろ依頼の延長だと諦めさせようとしている。

 文字の書き読みや簡単な計算を教えるだけの依頼をどう延長すれば、頭の回転や効率の良い考え方など、頭の使い方の訓練になるのか、不思議ではある。


 それでも渋るミエリアに、孤児院の最年長者とはその程度なのかと挑発する。

 最年長としての自負があるミエリアは簡単に引っ掛かり、力の制御と簡単な計算、それから頭の問題を並行して行っていくという、ハードスケジュールが出来上がるのだった。


 *****


(さて、これでミエリアはもう大丈夫だな。他は…読心は上手くいっているらしいな。暗殺者としての勘か)


 ミエリアが孤児たちの元へ戻っていく姿を見送り、辺りを見回す。

 依頼以外にまだ用事があるとすれば、サリーとシンヤに課した課題である。

 シンヤについてはサリーが早く覚えないと、防ぎ方など試せないので、急いでいるのかもしれない。

 イツキも相手はできるし、シンヤのレベルに合わせることも可能である。

 しかしその効果を2人が感じてもらわなくては意味がないので、行き詰まらない限りは特に入り込むことはしない。


「どうだ」

「っ、イツキさんでしたか。何となく、ですが。分かってきました」

「そうか」


 進捗状況はどうか、尋ねるくらいはするが。

 今日中、それもイツキがいるあと少しの時間で、マスターしてもらうつもりなので、本人がどう感じているかくらいの把握は必要なのだ。

 かなり集中していたらしく、イツキが接近していることにも気づかなかったサリー。

 急に話しかけられ驚いた様子を見せたが、すぐに落ち着き状況を話す。

 イツキの見立て通りコツは掴んできたようで、ただ心の内を推測するのではない、考えを読み取る読心ができ始めていた。

 サリーもこの結果には内心驚いていて、確かにこのペースなら会得は出来そうだと考えている。


 一方、シンヤはというと…


「うーん…」


 目をつぶって、唸っていた。

 何も行き詰まっているわけではなく、心を閉ざすイメージをしている為に目を瞑り、つい唸り声が漏れてしまっていた。

 その様子から、イツキは軽く読心をしてみたところ、見事に防げていた。

 生活の中で自然と使用できなければあまり意味はないのだが、会得自体は完了した、ということになる。

 やはり、元から力があると覚えもいいようだ。

 貴重なデータを取れたことに満足しつつ、サリーとシンヤに伝える。


「2人とも十分だろう。お互いに掛け合ってみろ」


 もう十分だと合格を出したイツキ。

 サリーはこれから防ぎ方を学ばなくてはならないのでは…という事はなく、実はイツキの説明で会得していた。

 シンヤが試したところ防げていたので間違いはない。


 この結果にサリーとシンヤは驚いていたが、イツキは予想通りであった為、一切反応はしなかった。

 割と防ぎ方は説明だけでも会得する者は多い。

 イメージさえしっかりできていれば、割と何とかなるのがイツキの教えた方法であった。

 ただし、その防ぎ方はあまり読心に回しにくく、サリーは読心に少し時間が掛かってしまった。

 それでもヒントにはなっていたのだ。


 そしてシンヤも終わっているので、最後の試験としてお互いに読心し合わせることにした。


「うーん…」

「これ、シンヤ。…それにしても、私ももういいんですか?」

「っは!」

「ああ」


 未だに唸っているシンヤは、イツキにも気づいていなかった。

 呆れを含んだ視線をシンヤに向けつつ、正気に戻させつつ、イツキから合格が出たと、少し考え込んで理解したサリー。

 コツを掴み切ったわけではないので、合格という事が不思議だったが、課題を出した張本人が良いと言うのだから良いのだろうと、納得することにした。

 そして、ようやく正気に戻ったシンヤに、サリーが説明して読心のし合いが始まった。


「………」

「うーん…」

「………」

「ううーん」

「……読み取れないわね」

「うーん…ほんと!?」


 地味である。

 考えを読む為に集中しているサリーと、防ぐ為に必死で唸りながらイメージをしているシンヤ。

 数十秒ほど続け、サリーが白旗を上げた。

 そして次に…


「……」

「…」

「……」

「…みえた!」

「ダメだったわね」


 今度はシンヤが読み取る番で、力を使う際は唸ることもなく、サリーは唸る事はしないのでさらに地味なやり取りが続いた。

 そして割と早い段階でシンヤの力が通り、シンヤの勝利となった…別に勝負をしていたわけではないが。

 しかし、この結果は仕方ないものであった。

 片やかなり強い部類の読心能力であり、片や覚えたてのインスタント読心防御術である。

 どちらに分があるか分かり切ったものだ。

 むしろ、よく耐えたものである。


(ほとんど、出来ているな)


 イツキも認め、こうして、あっという間に世界に読心者が増えたのであった。

やっと、依頼についてはいります。恐らく、これ以降話が逸れる事はない…と思います。多分、きっと…

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