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54「昔の話は今から…」躊躇いのない理由、過去の一端

〜イツキは、人を殺す事への躊躇いの無さの理由を、日常であったからと話した。裏で何でも屋として依頼を受けてきた事だろうが…〜

 殺しに躊躇いが全くない理由を、イツキは日常だったからと語った。

 イツキの場合は何でも屋ではあるが、何でも屋を構える世界は殺し屋や暗殺者などが蔓延る裏の場での話であり、基本的に黒い依頼しかない。

 その為、表裏関係なく『会社』なり『何らかの計画』なりを潰す…その過程で殺したり、もしくは普通に暗殺の依頼だったりで、忙しいと毎日人を消す日々を送っていた。

 何より、元から殺すという行為に一切の忌避感を持ってはおらず、仲間などの一部を除くほぼすべての生命を雑草程度にしか考えていない。


 もちろんのこと、雑草だからと無闇矢鱈むやみやたらに殺して回るわけでもない。

 イツキの価値観がそう見せているが、殺した際について回る面倒ごとは理解している。

 イツキが殺したとバレる様な証拠など残す事はあり得ないが、それでも繰り返せば表でも騒ぎになるだろう。

 そして、騒ぎになる事が好ましくないのはイツキも同じ事。


 例えば、雑草だからと抜いた草が、実は誰かが大切にしていたのかも知れない、実は何か役に立っていたかも知れない。

 つまり、雑草だと高を括り抜いたソレが、他の誰かからすれば雑草ではない為に、予期せぬ大きな騒ぎとなる。

 つまり面倒ごとが起きる、かもしれないので不用意なことはしないでいる。


 因みに、世間一般が抱く、殺人を犯した際に起こる心配事と言えば、逮捕・裁判・社会的名誉だろうが、イツキはその点については何も考えていない。

 何故なら、隠蔽工作など様々な処理をしており、そもそも捕まる心配をしていない為、不用意に殺しをしない理由に含まれないのだ。


 とまあこの事から、見境なしと言うわけではないにしろ、仲間などの一部を除いたすべての生命は、躊躇いなど持たずに殺せるのである。

 さらに余談だが、その命をなんとも思わない様から、神の様な上位存在なのではと言う憶測も流れていた。

 しかし、本人の仲間への否定と、何だかんだで大切にする者は大切にするその在りようから、時を数える間も無く消えた。


 …以上。


「に、日常…ですか」


 そうは言っても、イツキの過去など知らぬミエリアに想像できる事ではなかった。

 ミエリアの頭の中では、毎日理由もなく殺していく不気味な笑みを浮かべた殺人鬼イツキが浮かんでいたが、それは仕方がない、と言う事である。

 だからそこ、過去の話…つまり昔話も一緒に話そうとしているのだ。


「ああ。…他に聞きたいことは。無ければ次に移る」

「なんであんなに強いんですか?それに昔何をしていたのかとか…」

「それは訓練中に教える…やるならの話だが。昔の事は今から話す」


 ミエリアの引き具合と性格から、何を想像しているのか当たりをつけたイツキ。

 殺人鬼と思われているのが不服のようで、間違いを正す為にも過去の事を話そうとするが、その前に。

 他に聞いておきたい事があるか確認しておく。

 あからさまに聞きたそうな目をしているからだったのだが、ミエリアがした質問は全て後で言うつもりのことであった。

 なので後回しにする。


「あ、はい」

「気になればその都度聞け。いいな?」

「分かりました」


 こうして異世界で初めて、イツキの過去が語られる…


「人を殺す事が日常であった理由を主に話していく」


 少しだけ。


 *****


 私は昔、何でも屋をやっていた。


 ──何でも屋…ですか?


 ああ、文字通り何でもやっていた。

 それこそ人を殺すような依頼も。


 ──っ…


 と、いうより、ほとんどの依頼が犯罪となるものばかりだったな。

 稀に、戦闘も何もない、本当にただの依頼が来る。

 それ以外はどうしても戦闘が必要になるか、人を排除する事になる。


 ──だから…


 そう、だから殺す事が日常であった。

 ただ、何年続ける事もなく、何でも屋を始めて直ぐに躊躇いを覚える事は無くなった。


 ──どうしてですか?


 …そうだな。

 それを語るには、もっと前に遡ることになる。


 ──もっと、前…小さい頃ですよね?


 ああ、小さい…産まれたばかりの小さな頃だが。

 その時私は、産まれてすぐに捨てられた。


 ──…なっ


 その後、施設で2年を過ごし、とある2人の老夫婦に引き取られたのだが…まあそれはいいな。

 その後は3年と少しの短い時間ではあったが、その方々に育てらていた。

 そして5歳と半年…何者かに攫われた。


 ──な、んで…


 …それもまた、どこかでな。

 それでまあ、まるで最初から狙っていたかのように襲われ、抵抗する間も無く連れ去られた。

 私を攫う際かなり手際は良かった。元から慣れていたのだろうな。

 そうして着いた先は、あるものを作り上げるための施設だった。


 ──あるもの?武器か何かですか?


 いや…ああ、ある意味そうだな。

 施設の人間にとっては武器扱いだった。

 そこは、小さいうちから訓練させる事で感情を削ぎ落とし、従順な人形を作る、殺人人形キリングドール生産施設だった。


 ──そんなこと、許されるのですかっ!?


 煩い。

 もちろん非合法に決まっている。

 しかしな、それなりに大規模な組織だったらしく、なかなか捜査の手は入らなかった。

 そうしてそのまま施設で育ち、あいつらの殺人人形になる、筈だったのだが…


 ──イツキさんがここにいるなら…


 そうはならなかった、ということだな。

 それでも、最初に行われる、殺人に忌避感をなくす試練はさせられたから、手遅れであった…と言えなくもないのだろう。

 させられなくとも、時間の問題だったかもしれないが。


 ──……何を、させられたのですか?


 そう難しい事ではない。

 親を殺す、それだけだな。


 ──そっ、それだけって


 私にとってはそれだけだ。

 私の生みの親は私を捨てたのだから、特に悲しくも何もない。


 ──それは…そうかもしれませんが。でも!


 それにな…


 ──…はい?


 私は少し、特殊でな。

 産まれた時の記憶を覚えていた。


 ──え?


 だから、捨てていった顔も覚えていたし、その理由も知っていた。


 ──産まれた時の…記憶?


 ああ。

 そのせいで、むしろそいつらの顔を見た途端殺意が湧いたさ。

 それも、監督のために付いて来た施設の人間を、気絶させる程の殺気を撒き散らして。


 ──殺気って…


 ああ、殺気というのは殺すという強い意思が、重圧となって漏れ出したものの事だ。

 萎縮させる威圧にも使える、割と便利なものだが…それはいい。

 とにかく、その出来事で枷が完全に外れたのだろう。

 それ以降、周りの全てを何も思わず殺せるようになった。


 ──そう、だったんですか…。でもそれって、その出来事が、躊躇しなくなった原因ではないんですか?


 ほぅ…そこまで考えが至るとは思っていなかったか、違うな。

 殺す事に何も思わなくなっただけで、躊躇いがなくなったわけではない。


 ──どういう?


 人を殺した後に罪悪感を感じる事も、手を汚したという嫌悪感を感じる事もない。

 しかし、殺す瞬間にはほんの一瞬でも抵抗は湧いた。

 時間を測っても影響は出ないほど刹那の時でも、躊躇いは躊躇いだ。


 ──でも、何に躊躇っていたんですか?なんとも思わないなら…


 私を引き取った、老夫婦の記憶…か。

『良い人であれ、善き人であれ、胸を張って生きれる立派な人間であれ』と言っていた、その言葉が…鈍らせていたのだろう。

 心の片隅にでも、良心が残っていたのか…私にもわからなかったが。


 ──その言葉も、殺人を繰り返せば薄れて消える…って事ですか?


 そうだな。

 そして、とある理由でその組織は壊滅した。

 それで解放されたわけだが、既に頭の先まで人殺しの仕事に浸かっていた私は、そのまま続ける事にした。

 それで、私は身体能力以外にも体の性能は高く基本何でもできたからな、殺人でもなんでもやる何でも屋を始め、少し経った頃には、もはや躊躇いなどなかった。

 これが全てだ。


 *****


 思っていたより遥かに多く語られたイツキの過去。

 まあ正直、どこまでが本当で嘘は混じっているのか分からないので、鵜呑みにはできないが。


「そう…だったんですね」


 しかし、あまり疑うということをしないミエリアは、素直に受け取り、ただの殺人鬼と考えていた事に申し訳ないと思っていた。

 そして、イツキの過去を聞いた今、ミエリアは自分のいる現状がどれだけ恵まれているのか、全く分かっていなかったと、痛感していた。

 そのミエリアの内心を、さも当たり前の様に読み取ったイツキは…


(全てを話していないとはいえ、ほとんどは事実。ついた嘘も、抜いた真実から矛盾がない様にしたものだけ。この話を聞いて、忌避も恐怖も何も抱かないとは。予想以上の逸材…か)


 外道…と言えば外道だが、割とまともなことを考えていた。

 そして、先ほど話した過去は幾らか話を抜いた様だが、ほぼ事実であったらしい。

 そしてこの話を聞いたミエリアの反応に、予想以上の逸材という評価を下した。


 どういう意味の逸材かと言えば、それは冒険者として、そして裏で生きていく…生き抜く適正である。

 冒険者でも裏でも、生きて行くには沢山のものが必要になるが、『精神』というのは中でもかなり重要である。

 例えばスポーツ選手の精神が弱めであると、相手が格下であっても負ける可能性は大いにある。

 精神が弱いというのは、プレッシャーに弱く、ちょっとした事で動揺してしまい自身の力をフルに発揮しにくい、という事があるだろう。


 これが、一瞬の気の緩みで命を落としかねない冒険者や裏での仕事だと、精神の強さは更に必要なものになってくる。

 もしくは死地で、強い心を持って打開策を練るものと、直ぐに諦めてしまう様な者では、どちらが生き残りやすいかなど分かりきっている事である。


 そしてミエリアは、イツキの過去を聞いて気味悪がったり嘘だろうと流すのではなく、事実として受け止め更に同情までした。

 そして自分の立場が恵まれているとまで考えた。

 この様な思考をできる者が一体どれだけいると言うのだろうか?

 又聞きしたのではなく、本人から凄惨な話を聞いてその一端を目で見て、それでも尚…である。

 これはどちらかというと狂っていると称されるだろうが、方向性はともあれ、精神が強いことは間違いない。


 その精神を、イツキは評価した。

 それも予想外と…

 つまり、地球の仲間を含め、3人目の予想を裏切った逸材の発見であった。

過去を話す場を、会話のみにしてみました。間に何かブツブツ言っても邪魔かな?と思ったのですが。いかがだったでしょうか?

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