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51「…表情をよく見ろ」今日中、習得への課題

〜2人へ読心系統の技術を教える事にしたイツキ。予定外のことであるが、どうするのか〜

 予定外の特別授業を始めたイツキだが、時間は大丈夫なのだろうか?

 指南の前準備が早く終わり、余った時間は現在の教師事に使うつもりであった。

 しかし、1時間はあった余裕もシンヤを連れ戻すことに割いたので、半分近く減っている。

 約30分で2人に習得させる…読心という、超能力ともいえる力を。


 シンヤは振り回されているものの、能力と言う下地がある為、まだ習得し易いかもしれないが、サリーは違う。

 何より、読心に重点を置くとはいえ、それに対する防ぎ方も習得させるというのは、少々厳しいだろう。

 つまり余った時間を使いきり、さらに前準備に使うと予定していた時間も使ってしまうのでは、と考えられる。

 イツキがそれを許容するのかが心配なのだ。

 …まあ、2人へ教える事を、今日中に終わらせるという前提の話だが。

 明日以降も孤児達へ教えに孤児院へ訪れるので、その際に教えてしまえばそれで解決する事である。


 する事ではあるのだが…


「今日…私がいるうちに覚えてもらう」

「……?」

「はい?…いえ、失礼しました。それは可能な事なのですか?」


 今日、それもイツキがいる内に覚えさせるという。

 それもイツキの言い様では、今日の前準備に使う時間全てを使って覚えさせるつもりと思われる。

 さらに予定が狂う事になる筈だが、良いのだろうか?

 まあ、出来ない事を出来ると言い張り結局失敗する、イツキはその様な馬鹿ではないので実際に教え終わりはするのだろう。

 しかし、なにをそれ程急ぐ必要があるというのか。


 シンヤも、まさか今日中に終わらせるとは思っていなかったらしく、ポカンという音が似合いそうに口を開いて惚けていた。

 サリーも一瞬(ほう)けるほど予想外だったらしいが、すぐに気を取り直し、抱いた疑問をそのまま口にする。

 さて、イツキは。


「何を想像しているのか知らないが、黒髪はともかく、お前にそれ程高度な術を教えるつもりはない」

「どういう…?」

「こいつは下地がある。しかしお前には無い」

「…だから、何の心得もない人でも直ぐ覚えられるようなもの(読心術)を、教えていただけると」

「ああ」


 相変わらず名前を呼ばず、理由を説く。

 そもそも、かなり時間が必要になる様な高度な術を教えるつもりなど、なかったと。

 下地があるシンヤには割としっかり教えるつもりらしいが、サリーは殆どついでであり、防犯対策程度の軽いものを予定していた。

 だから今日の時間を使い切りはするが、教えることができる、ということなのだ。

 それでも、どれほど軽くても読心自体が高度な技術だと思うが…伊達に何年も仲間達に教える立場にあったわけではない、という事か。


 イツキの言うその理由には納得がいったのか、サリーは小さく頷いて引き下がった…所でシンヤがおずおずと切り出した。


「あの…」

「なんだ」

「ぼくには…?」

「多少は厳しいが…」


 若干和らいでいるとはいえ、人見知りの子供に対するには酷すぎる態度をとるイツキ。

 ただ、多少は慣れたのか、それとも疑問が勝ったのか特に臆する事もなく、最後まで言い切れたシンヤ。

 サリーには(・・)と言う言い方の通り、シンヤはそれなりに高度なものを教えるのだろう。

 その事に気付けたので、先に聞いた様だ。

 最後まで言い切れても言葉が少なすぎる為、伝わり難い…がそこは同類のイツキ、しっかり意味を読み取る。

 自分はどの様なものを教わるのかと言う質問に、難易度的に一般の者からすれば厳しいと答える。

 しかし、一般人からすれば、であり…


「おそらく余裕だろう」

「え?」


 下地があるシンヤには、それ程難しくもないだろう、と。

 だからこそ、今日中に終わるわけである。

 しかし、何故自分は余裕なのか分からなかったのだろう、戸惑いの声を上げる。

 シンヤが教わるのは読心に対する防ぎ方であり、いくら読心ができてもあまり関係ないのでは、と考えているから。

 すっかり忘れているのだ、シンヤは。

 イツキが2人へ教える事にした切っ掛け、読心ができるから防ぎ方も知っていると、証明する為であった事を。


(その為には無意識ではなく、意識して能力を使わせる必要がある。それさえ出来れば…)


 無意識でも読心ができるなら、何となくというあやふやな感覚でも習得はできる。

 なら、意識的に使える様になれば、多少高度なものでも短い時間で習得も可能になる、イツキはそう考えていた。

 ついでに、意識的に使える様になれば、能力に振り回されることも減るとも予想していた。

 なのでシンヤに向き直り…


「能力を意識的に使える様になれ」

「!…そんなの、むりに……」

「可能性、だが。不必要に読み取ることもなくなる」

「!?ほんとっ?」


 未だに乗り気でないシンヤに発破を掛けるつもりで、この予想を教えてやる事にした。

 『無理に決まっている』と諦めているシンヤの言葉を遮り、可能性を伝える。

 まさかの可能性に、珍しくかなり食いつく。

 人見知りになった原因であり、嫌っている力がどうにかなるかもしれない、その可能性に光を見出みいだしたのだ、やる気にもなろう。

 狙い通りやる気を出させる事に成功したイツキは、早速課題を出す。


「まず、いい加減、部屋を出る」

「広間で行うのでしょうか?」

「ああ。長い間ここに居ては不自然だろう。それに、あちらには対象が何人もいる。丁度いい」

「あの子達を?それは…」

「コツを掴むなら、知った顔の方が良い。大きな成果の為の、小さな犠牲だと割り切れ」


 その前に、そろそろ部屋から出るそうだ。

 イツキが部屋に呼ばれてからかなり時間が経っており、流石に不自然に思う者が出でくるかもしれない。

 これから行う依頼に支障をきたす可能性もあると考えると、このままというのはよろしくない。

 マイナスはないに越したことはないのだ。


 それに、他にも理由はあり、読心の練習相手に丁度良かったのだ。

 しかし、イツキの言い方から、孤児達を読心の練習相手にすると分かったサリーは、少し不快感を見せる。

 絶対ではないが必要な事なので、『割り切れ』と諭す。

 不承不承といったていだが納得したサリーを見て、今度こそ課題を出した。


「黒髪、お前は自分の意思で読む事を意識しろ。可能なら一部のみを読み取る、など工夫もしておけ」

「はい!」

「さて、お前は表情をよく見ろ。感情によってどう変化するか……………それだけでも読心はできるものだ」

「だから、知っている顔の方が良かったのですか」


 シンヤにはまず、意識的に能力を使える様にする事。

 できる事なら、考えている事すべてを読み取るのでなく、知りたい一部のことのみを読み取るなど、応用もする。

 それが出来れば、かなり能力も扱えている証拠にもなり、不必要に読み取る事もなくなるだろう、という事だ。


 その指示…というか課題に、元気に返事をするシンヤ。

 孤児仲間に対し能力を使うという行為にも、特に何も感じていないらしい。

 というより、そこまで考えが至っていないのだろう。

 人生について回るレベルの悩みが、解消されるかもしれないのだから、多少興奮していても仕方のない事だ。


 そしてサリーには、感情の変化により表情などがどう変化するか、観察する様に伝える。

 サリーへ教えようとしているのは、地球でも流行っていたメンタリズムに似ている。

 相手をコントロールはしないので、同じわけではないが。

 最後まで必要な説明を聞いたサリーは、知った顔の方がコツを掴みやすいという意味に納得し、漸く割り切ることができた。

 全員…まあ2人だけだが、何をするのか理解できたところで、やっと部屋を出た。


 イツキがドアを開け先に部屋を出るとその音に反応して、年長組と話していたミエリアが超反応で顔を向ける。

 あまりの速さにキースが若干引く程であり、『首を痛めてないのかなぁ』と心配をする程でもあった。


「メ、メアさん?なにが…」

「はい?何のことですかぁ?」

「いや、何でも…」(え、無意識?…まあ、いっか)


 不気味さすら感じる程、有り体にいえば気色悪い何かに憑かれた様な動きで、一体何があったのか…とつい尋ねてしまったニーシャ。

 しかしミエリアは不思議そうに尋ね返す。

 誤魔化すためではなく、純粋に何を聞かれているのか分からなかったからなのだが…

 ニーシャも、ミエリアが誤魔化しているわけではない事には気付き、先程の…『グルンッ』という音が似合う超反応が無意識であった事を悟った。


 釈然としないニーシャだったが、よくよく思い出すとミエリアの奇行…とまでは言わないが、変わった行動はよくある事である。

 別に気にする程の事でもないかと、考える事をやめた。

 孤児院へ戻る途中に、シンヤも心の中では似た様な事を考えていたが、ミエリアの扱いが割と酷いのは共通なのかもしれない。

 …どうでもいいことか。


 さて、不思議そうにニーシャを見ていたミエリアだが、急にハッとなると立ち上がり、イツキの元へ駆け出した。

 この様子を見るに、イツキに用事があるから大袈裟に反応したのだろう。

 急に立ち上がりイツキヘ駆け出したミエリアに、何事かと視線を集める中、さして時間が掛かる訳もなく目の前に立つと、要件を切り出した。


「あの!」

「…」

「お話は!何時聞かせてもらえるのでしょうか!」


 人攫いを蹴り飛ばした件のことだろう…が。

 ビックリマークがたくさんついている事から分かると思うが、それはそれはとても大きな声で伝えた。

 気になり過ぎることを、後に後に回した影響なのだろう、無意識に声を張ってしまっていた。


 そしてその大声は孤児院に響き、近くにいた子はかなりうるさそうに目を瞑って耳を塞いでいた。

 では目の前で大声を浴びた者がどうするかといえば…


「煩い」


 耳を塞ぐなどという可愛らしい反応などあり得ず、イツキはただ文句を言うのみである。

 普通の音量であれば普通に返答しただろうが、目の前で叫ばれれば文句が先行するのは、仕方ないだろう。

 ただし、本人に大声を出したという自覚が無ければ、文句を言われるのは大変不服に思う。

 そしてミエリア、話が気になり過ぎて大声を出した自覚が無い。

 なのでそんな事はないと否定しようとして…


「…っ」

「あれ…?」


 イツキの後ろに立っていたシンヤが涙目で耳を塞ぎ、サリーは平然とするも妙な威圧感を放っていた。

 もしかして…という考えが頭によぎり、即座に周りを見回すと、顔をしかめる面々が視界に飛び込んだ。

 そうなれば、どちらが正しいかなど分かりきっている事であり、ミエリアが取る行動は…


「ごめんなさい!!」


 謝る事、それだけである。

 …ただし、先ほどを超える音量で。


『うるさい!』


 一部を除く大合唱が、孤児院内であったという。


メンタリズムを話の中で出しましたが、詳しい事は知らないので、実際と違う部分があるかもしれないです。出来れば指摘していただけると嬉しいです。

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